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なんでもQ&Aお答えします 1977年5月号

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月刊ボディビルディング1977年5月号
掲載日:2018.07.27

背の部分を集中的に鍛えたいが

Q 背の部分を集中的に鍛練したいと考えております。つきましては、広背筋、大円筋、棘下筋など、ワキの下と肩のうしろ側にある筋を的確に刺激できる運動種目をご紹介ください。(東京都 Y・T)
A 広背筋、大円筋、棘下筋は協応した働きをする筋であるといえます。つまり、広背筋のための運動を行えば、大円筋と棘下筋が協応して働き、また、大円筋のための運動を行うときは、広背筋と棘下筋が共に作用するということです。
したがって、おおまかには広背筋、または大円筋のための運動を行えば、それら3種の筋の発達を促すことが可能といえます。
しかし、かなりビルド・アップした人や、コンテストに出場しようとする人達の場合には、それらの筋を1つ1つ鍛練することも必要であろうと思います。
では、それらの筋を強化鍛練するための運動について説明しましょう。

<広背筋の運動>
広背筋の発達を促すには、各種のローイング、チンニング、ラット・マシン・プルダウン等の運動が有効であるのはいうまでもありません。ただし、それらの運動を行うにしても、広背筋を的確に刺激するには動作上のコツというものがあります。ついては、広背筋の運動を系統別に分けて、それらの運動上のポイントを簡単に述べるとしましょう。
①ローイング系統の運動
ベント・オーバー・ローイング、ワン・ハンド・ローイング、バー・ローイング、フロア・プーリー・ローイング、その他。
ローイング系統の運動は、腕を下方(フロア・プーリー・ローイングの場合は前方)へ伸ばした状態から、腕を屈してウェイトを腹部の方へ引きあげる(または引き寄せる)につれて、広背筋の付着部に近い部分(上腕に近い部分)から起始によった部分(背に近い部分)へ強い緊張が及ぶようになります。したがって、広背筋の付着部に近い部分の発達をとくに促すには、腕を十分に伸ばした状態から運動を行うことが大切であり、また、起始に近い部分に十分に効かすには、正確な動作でていねいにウェイトを腹部のあたりへ引きあげることが必要です。起始の下方に近い部分に効かすには、左右の肩甲骨の位置を正常な位置に保って、ウェイトを胸のあたりにではなく腹部のあたりへ引き上げるように行うのがよいようです。
つまり、広背筋は、筋が長く伸びている状態では付着部に近い部分が強く緊張し、そして、収縮して短い状態になるにつれて、その強い緊張が起始の方へ及ぶようになります。このような傾向があるのは、チンニングの場合も、ラット・マシン(またはプーリー)を使用する運動の場合も同じであるから、広背筋の運動は、そのへんの急所をよくのみ込んで行うことが肝心です。

②チンニング系統の運動
チンニング系統の運動も、ローイング系統の運動と同様に、腕を伸ばした状態から、腕を屈してからだを引きあげてゆくにつれ、広背筋の付着部に近い部分から起始によった部分へ強い緊張が及んでゆく傾向があります。したがって、広背筋の付着部に近い部分の発達をより強く促すには、腕とワキを十分に伸ばした状態から、からだを引きあげるようにするのが有効であるといえます。また。起始に近い部分を十分に刺激するには、下半身の力を抜き、上体をのけぞらすようにしてみぞおちのあたりをバーの下へもってゆくように動作を行うのがよいでしょう。いずれにしても、広背筋に効かすには広背筋の起始と付着の位置から考えて、ビハインド・ネックで行うよりはフロント・チンのほうが有効であると思われます。

③プルダウン系統の運動
ラット・マシンを用いて行う広背筋の運動の中で、最も一般的な種目は、ラット・マシン・プルダウンとラット・マシン・プルダウン・ビハインド・ネックの2種目です。これらの運動における要点は、バーを引きおろすのと、バーにからだを近づけるのとの違いはあっても、ほとんどチンニングの場合と同じです。したがってチンニングの項で記述した要点をプルダウンの場合に当てはめて運動を行うようにしてください。

<大円筋の運動>
広背筋が下位の胸椎、腰椎、腸骨稜から起って上腕骨上部に付着しているのに対し、大円筋は肩甲骨から起って上腕骨上部に付着している筋です。したがって、大円筋と広背筋とは協応して働くにしても、多少はその作用の仕方が異なります。よって、トレーニングで大円筋をとくに鍛練するには、その僅かな作用の仕方の違いを上手にとらえて運動を行うことが大切になります。
おおまかにいえば、広背筋の運動によって大円筋の発達が促されるということですが、広背筋の運動の中でも、とりわけ大円筋によく効く運動とそうでないものとがあります。
ローイング系統の運動とチンニング系統の運動の比較では、後者の方が有効度が高いと考えられます。また、ラット・マシンを用いて行うプルダウンもかなり有効です。そして、チンニングにしても、また、プルダウンにしても、左右のグリップの間隔を肩幅の倍以上にとり、上体を垂直の状態にして、からだの引きあげ動作またはバーの引きおろし動作を行うのがよいと考えられます。この場合、留意することは、腕を前後に屈伸させるというよりは、体側の方向で内外に屈伸させるように運動を行うことです。
そのためには、どちらかというと、首の前にバーがくるように動作を行うよりは、首の後ろへバーをもってゆくように動作を行うほうが運動がやり易いかもしれません。なお、グリップの間隔が広すぎても、また狭くなりすぎても、大円筋に対する有効度が減少しますのでその点に留意してください。また、大円筋を体側の方向で内外により大きく伸縮させることのできるグリップの間隔を選んでください。広くしすぎると、かえって動作の範囲が小さくなり、狭すぎるときは、外方向への動きが縮小されます。
〔ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ(ブレスト・ストローク)〕

〔ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ(ブレスト・ストローク)〕

<棘下筋の運動>
棘下筋の主とする作用は上腕の側方への回転(外旋)です。したがってこの筋の発達を促すには、ベント・オーバーの状態(上体を床面と平行になるぐらいに前倒した姿勢)で行うダンベルの運動が有効と考えられます。つまり、ベント・オーバー・ダンベル・フロント・レイズやベント・オーバー・ラテラル・レイズによって発達を促すことが可能と考えられます。その他、特殊な運動としては、ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズにおけるブレスト・ストロークとバック・ストロークの動作が有効と思われます。

①ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ
(ブレスト・ストローク)
両手にそれぞれダンベルを持ち、上体を床面と平行になるまで前倒し、両腕を伸ばしたまま前方にあげ、前から横、さらに後方へ、平泳ぎの感じで左右のダンベルを移行させる。臀部のあたりまで移行させたら、腕を伸ばしたまま、いったん下へおろし、あとはまた同じ順序で動作をくり返えしていく。しかし好みによっては、両腕をおろさずに前→横→後ろ→横→前と動作をくり返えすようにしてもよい。〔写真参照〕
(バック・ストローク)
上体を床面と平行になるまで前倒させ、うつむいた姿勢で、水泳のバック・ストロークと同様な動作を行う。つまり、水泳のバック・ストロークはあお向きであるが、この場合は上体をうつむきにして、腕の動かし方だけをバック・ストロークの感じで行うようにする。
以上が、ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズにおけるブレスト・ストロークとバック・ストロークの運動法ですが、どちらも手の甲を上へ向けた状態で動作を行うことが肝心です。なお、この種の運動、,単に棘下筋に有効というだけではなく、小円筋、および上背部の深部にある菱形筋、肩甲挙筋等の筋にも有効です。また、僧帽筋はいうにおよばず、三肩筋(とくに後部)の運動としても非常に有効な種目であるといえます。

ボディビルと柔軟性の関係は

Q ボディビル歴は4年です。トレーニングを始める前に比べると、多少筋肉がついたのは良いのですが、1年程前から精神修養のために合気道を始めたところ、先生から「君はからだ全体が固くて柔軟性がない」といわれました。
以前、なにかの本で、ボディビルを行うとからだの柔軟性がよくなると書いてあるのを読んだ記憶がありますがどうなのでしょうか。
<体位>
身長 164cm 腹囲 70.5cm 体重 50kg 大腿囲47cm 胸囲 83cm 下腿囲 30cm

<トレーニング・スケジュール>
隔日的、所要時間45~60分
記事画像2
なお、ボディビルと、身体全体の力を抜き人間の裏筋肉を使う合気道との関係についてもご説明ください。
(大阪府 T・T 学生22才)
A からだの柔軟性といっても、2通りあります。いわゆる柔軟体操的な軟らかさと、もう1つは、スポーツなどで動作に対応する際の軟らかさです。この2種類の柔軟性が良好であるためには、いずれの場合も筋そのものが柔軟であることが必要ですが、だからといって、柔軟体操的にからだが軟らかければ、スポーツなどにおける動作も柔軟になるとはいちがいにいえません。

あなたが、合気道の先生にからだが固いといわれたのは、どのような意味でいわれたのでしようか。柔軟体操的な意味でいわれたのでしょうか。それとも、技に対応する際のからだの動きに柔軟性がないといわれたのでしょうか。もし、前者の意味でいわれたのでしたら、柔軟体操を毎日根気よく行うことで解決できると思います。しかし、後者の意味でいわれたのでしたら、それは、柔軟体操的にからだを軟らかくすれば解決するといったものではありません。合気道の技を反復練習する中で、身につけるように心がけていくものであると思います。その場合は不必要にからだを緊張させないようにすることです。からだに不必要な力が入っていると、動作に対する反応が遅くなり、また動きが固くぎこちなくなります。

ボディビルを行うとからだが固くなるのではないかという疑問をお持ちのようですが、そのことについてお答えします。一般的にいって、ボディ・ビルを正しい方法で行えばからだの柔軟性が良くなるといえます。しかし、誤った方法、つまり筋を疲弊させるような方法で行えば柔軟性が悪くなることも考えられます。
からだが柔軟であるためには、まず筋そのものが柔軟でなければならないのはいうまでもありません。筋は適度に使うことによって、その柔軟性と弾性を増します。しかし、余り使わないでいたり、また、逆に使いすぎたりすると萎縮して固くなっていきます。
あなたの場合、動作上の柔軟性は別としても、筋そのものの柔軟性が乏しいのではないかと考えられる点があります。つまり、トレーニングの内容が不適正なために筋が硬化しているのではないかということです。というのはあなたの体位から推察される筋力に対して、運動で使用している重量が、種目によっては重すぎるのではないかと判断されるからです。

極度にチーティングしにくいベンチ・プレスは別として、他の種目は、多かれ少なかれ不当な重量を使用し、チーティングによる動作で無理なトレーニングをしているのではないかと判断されます。
スクワットの使用重量が50kgというのは、大腿部のサイズからして重すぎる感がします。また、スタンディング・プレスの26.5kgもベンチ・プレスの使用重量から考えると重すぎるのではないかとも思われます。上腕囲のサイズが記載されてありませんが、他の部分のサイズから推察する限り腕囲もそう太いとは思われず、したがって、ツー・ヘンズ・スロー・カールの26.5kg使用というのもかなり無理があるのではないかと判断されます。

以上、述べたことはあくまでも推察の域を出ませんが、一応、使用重量の適正について再検討されることをおすすめします。そして、トレーニング終了後の身体の疲労度、および、筋の蓄積疲労についても十分考えてみる必要があるのではないかと思います。

トレーニング終了後に過度な疲労感を覚えたり、また、翌日になっても強い疲労が残っていたりするようなら、ただちにトレーニングの内容を無理のないものに改めることが大切です。まして次のトレーニング日になっても、蓄積疲労のかたちで筋に疲れが残っていくようであれば、それはオーバー・ワークの状態ですから、そのときは単にトレーニングの内容を改めるというだけではなく、速やかに休養をとることが大切になります。筋に疲労が蓄積されていく状態は、筋の肥大および筋力の向上という面でマイナスであるだけではなく、からだの柔軟性を減退させるという点でもマイナスの要素になります。

あなたの手紙には、ボディビルのトレーニング後の疲労感についても、また、合気道の練習後の疲労感についても一切記述されてありませんので、適切なアドバイスは致しかねますが、ボディビルと合気道を別個のものとして考えずに、双方を運動ということで関連して考えた上でボディビルのスケジュールを決める必要があると思います。つまり、合気道の稽古でも体力が消耗するわけですから、そのことも考慮して、無理がないようにボディビルのスケジュールを作ることが大切ということです。したがって、多少なりとも疲労が蓄積されてゆくような兆候があれば、その場合は、単に使用重量について検討するだけではなく、過度なトレーニングを是正するために採用種目の数、およびセット数についても検討してみる必要があると思います。

とにかく、筋を過度に使うことが筋の柔軟性の減退につながるわけですから、そのことをよく自覚した上でボディビルのトレーニングを行うようにしてください。そして、筋の柔軟性というものは、可動範囲を押し拡げる動作によって促進されますから、適宜、柔軟体操を行うようにするとよいでしょう。また、運動の動作に対応するための柔軟性を促進するにしても、まず、筋そのものが柔軟であることが重要な条件になりますから、ボディビルのトレーニングで筋が硬化してしまわないように配慮し、柔軟体操によって、一層、からだの柔軟度が増すように心がけてください。
なお、合気道における力の発揮の仕方については込み入った説明が必要なので、最後の質問に対する詳しい解答は省略させていただきますが、一言で云えば、合気道は力学的に理にかなった力の出し方をするということでしょうが、からだを使う以上は、ボディビルによる体力の強化が無意味になることはありません。

〔解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内威先生〕
月刊ボディビルディング1977年5月号

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