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JBBAボディビル・テキスト46
指導者のためのからだづくりの科学
各論Ⅱ(生理学的事項)  2.運動と身体

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月刊ボディビルディング1977年7月号
掲載日:2018.07.31
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野匡宣

B 血液

 血液は、血漿と呼ばれる液体成分と赤血球、白血球、血小板等の有形成分とに分けられ、血漿は全血液量の55%赤血球は男子で47%、女子で42%程度を占め、白血球と血小板が1%程度となっている。
 人間の血液の全量は体重1kg当り70~100mlである。
 血漿中の固形成分は9%で、91%は水分であり、蛮白質、糖、脂肪および無機成分などが含まれている。
 血漿中のブドウ糖を血糖といい、その濃度は平常で約80~90mg/dlである。食事後は血糖がやや増加するが、血糖が増加するにしたがって、肝臓がこれをグリコーゲンとして貯蔵し、血液中の過度の増加を防いでいる。
一方、身体運動によって、体内の各組織で血糖を多量に消費するに従って、肝臓はグリコーゲンをブドウ糖に分解して血液中に放出している。
 血液中の赤血球の数は血液1mm*3当り成人男子で平均540万、女子では平均480万である。赤血球数は生理的に急速に増加する場合と、徐々に増加する場合とがあるが、前者は激しい運動に際して起こり、
脾臓その他の血液貯蔵所からの供給によるためである。後者は、持続的な酸素欠乏にみられ、骨髄の造血機能の亢進による。
 また、赤血球内には血色素(ヘモグロビン)が多量に含まれており、この色素が酸素および炭酸ガスの運搬をつかさどっている。
したがって、有酸素的能力と総へモグロビン量との間には密接な相関関係がみられる。
 酸素と結合した血色素を酸化ヘモグロビンと呼び、鮮紅色を呈している。また、炭酸ガスと結合した環元へモグロビンは暗赤色を呈し、前者は動脈血を、後者は静脈血の色をそれぞれ示している。
 白血球の機能のうち、特異なものの1つは、体内に侵入した細菌を細胞内に取り入れ、消化酵素で消化する。細菌の力が強い場合には白血球は死滅し膜となる。
また、白血球のうちリンパ球は免疫物質を生成するのに働いている。
 血小板は、血液の凝固に必要で、血管壁の損傷を補修し出血を阻止する。
 血液と組織液(リンパを含めて)は異なる細胞間や組織間の物質移動を行う。血液は組織内分子の同化や異化を行うために、あるいは内部環境をー定に保とうとする機能を有するために必要に応じて動員したりして全身の組織をめぐり、
それぞれの器官から排出される物質を含んでいる。
 そのうち特に不要なものや、有害な物質は、腎臓を通過し、尿の排世によって体外に除去される。この他に、賢臓は身体水分量の調節や、滲透圧、PH等の調節を行い、体液の性状を恒常に保つという重要な役割も果たしている。
血液中の炭酸ガスは、肺臓において酸素と交換され、呼吸を通じて体外に排出されている。赤血球の破壊の結果生じた胆汁色素は、黄褐色を呈し、胆汁の成分として腸内に排出され、これが糞便に着色する。
 以上のように、内部環境を恒常に保つため、細胞をつつむ組織液の性状をー定にする血液循環は、体液分布や適正な水分平衡を維持する上で重要なカギを握っているばかりでなく、物質的な働き以外に、さらに体温調節にも働いており、
体内における酵素作用の活性に対しての適正温度である37度の範囲に保温を保つよう働いている。
 骨格筋が1g1回収縮するのにともなって0.0035カロリーの熱発生がみられるが、このような筋での多量の熱発生による体温上昇を、血液循環によって身体中に平均化している。
 また、血漿と血球との相対量は、血球容積比(ヘマトクリット)として知られているが、これは全血液量に対する細胞成分の割合をいっており、男子のへマトクリットは正常で約47%、女子と子供では正常で約42%である。
 なお、血液量は個人差はあるが、男子で体重1kg当り約75L、女子で約65L、子供で約60Lである。普通、男子では5~60L、女子では4~4.5Lくらいが一般の正常値とされている。
 ベルナードは、組織液を生物体の内部環境と呼び、その諸性状を一定範囲内に維持調節することが、細胞のみならず生体全体の機能を正常に保つ上で重要であると主張したのが1878年であり、
また、生物体は、一般に内部環境だけでなく、その状態を正常に調節する性能をもっているが、これをキャノンはホメオスタシス(恒常性の維持)といった。
 このような重要な内部環境の維持調節にいま1つ重要な役目を果たしているものにホルモンがある。
 ホルモンは内分泌腺によって血液中に分泌され、血液によって運ばれ、特定の標的器官に達し、微量で代謝の速度に影響を与えている。そのほかホルモンは、発育の調整、生殖、骨格等の発達に関与しており、
さらに、自律的機能および本能的行動の調整を行なっている。
 以上、体内水分の分布とその機能の概要を述べたが、体内における水分の重要さが理解できたことと思う。普通健康な人は1日に2~3Lの水分を摂取しており、ほとんど同量の体内水分を体外に排出している。(本誌50年12月号58ページ、テキスト 27“水について”を参照されたし)
 からだの水分は、激しい運動や暑い環境では1時間当り約1Lも失われるから、補給をしなければ脱水症状を起す。脱水症状は循環および体温調節機能に特殊な負担をかけることになり、身体活動をも低下させる。
 たとえば、暖かい日に乾燥した食物だけをとって運動すると、心拍数や体温は正常のときよりも高くなる。故に暑い環境や、大量に汗をかくような運動中では、渇きによって水分を要求している以上、適当に水を飲まなければならない。
ただし、冷たい水を一度にあまり多く飲んではいけない。多量の水を一度に飲むと、皮膚、心臓、大脳あるいは活動筋等に必要な血液が、内臓諸器官の方にいってしまうことを忘れてはならない。
 飲んだ冷水を体温にまで上昇させるのにも相当量の熱量が失われるし、また、発汗させるにも多くの熱量が使われるため、体温調節という面から考えると、15度以下の冷水はさけて、なまぬるい湯か、または熱い湯を飲んだほうがよい。
 なお、水分のバランスと関連していま1つ重要なことは塩分である。汗の中には0.3%の塩分が含まれており。発汗にともなってかなりの塩分が失われる。しかし、血液や組織液の塩分濃度は約0.9%であるから、
発汗によって塩分よりも水分の方が多く失われ、結果的にはからだの塩分含有濃度が増すと考えられるので、水分と同時に余分の塩分をとる必要はあまり考えなくてよい。
 ただし、連日暑いところで激しい身体運動を続けると、相当塩分が失われるので、けいれんを起こすことがあるから注意する必要がある。しかし、温暖な気候で、食事中に比較的塩分が含まれている場合には、
いま述べたような障害にかかることはほとんど考えられないが、場合によっては、水分と塩分を一緒に補給しなければならないこともある。
 人間は脱水に対して馴化することは不可能であるが、暑さになれている人と、そうでない人がある。体液平衡に違いがあるのかどうかは充分にわかっていないが、ただ暑さになれている人の汗の塩分濃度は、なれていない人に比べて低い。
 以上に述べたことから、汗をかくような状態では、水を飲むべきか、飲まない方がよいのか、あまり汗をかかないようにするために、できるだけ水を飲まない方がよいという意見もあるが2~3時間で7~8Lの汗をかくと脱水症状になる。
この場合の汗は血液をはじめいろいろな組織から出てきた水分であり、体重の2%以上水分を失なえば運動能力が低下するため、脱水によって血液の量が不足をきたさないように注意すべきである。
 また、渇きを満足させる量と、からだが必要とする水分の量とは一致しないことを忘れてはならない。

2~3 恒常性と適応

 前節では、内部環境に関して記してきたが、その他に、人体は外部環境にもつつまれている。すなわち、外界に接しており、その外気は温度をもち、気圧をもち、湿度をもっており、しかもこれらはいろいろ変化する。
この外部環境に対して身体の内部の状態をできるだけ一定に保とうとしている。
 すなわち、気温が低くなれば、体力メカニズムが働いて、体熱を下げないようにすると共に、体内での熱の生産を盛んにする。
また、気温が高くなれば、体熱を放散させるようにメカニズムが働いて、体熱を上げないようにすると共に、体内での体熱生産を少なくする。
酸素の少ない高地へ行った場合、体内での酸素必要量には変りがないので稀薄な空気から必要な酸素を取り入れるように体内メカニズムが働く。
 このように外部の環境が変わっても体内の状態をできるだけ一定に保とうとする働きがある。これをホメオスタシス(恒常性)と呼んでいるが、そこで問題になるのは体内の状態とは何かということである。
体内の状態を司さどっているのは血液や組織液で、これを内部環境ということは前節で記したが、このように考えると、恒常性ということは、内部環境の状態を一定に保つ働きであるということがよく理解できると思う。
 これは運動をした場合にも当てはまる。筋運動をしたときには、筋肉から代謝物が組織液に流れこむ。また、筋肉は組織液から必要な物質をとり入れる。そこで内部環境を一定の状態にするためのメカニズムが働く。
このようなメカニズムは血液自身も持っているが、呼吸、循環系が神経系を介して行う。
 単に外部環境に応じて、内部環境を一定に保つことだけでなく、筋運動という身体内部の状態の変化に応じて、内部環境を一定に保つという働きも恒常性であるが、これをくり返していくことによって、
その能力を高めることができる。つまり、恒常性を保つことを容易ならしめるようになる。これは適応と呼ばれる機能で、適応とはいいかえれば「馴れ」であるといえる。この「馴れ」がトレーニングの基本といっていい。
 故に、運動というものを考えるとき単に運動器官についてだけのものでなく、その背景として

①エネルギー源と物質代謝

②運動の型式
 a運動のメカニズム
 bエネルギーの使い方
 c恒常性と適応

③各種器官と運動との関係
 a消化機能との関係
 b内分泌系との関係
 c自律神経系との関係

 等々、運動を支える基礎として考慮しなければならない事項や問題がたくさんある。
 2回にわたって、一応運動を成立させる背景として、身体の動きの原理と内部環境についてその概要をのべた。他の問題に関しては後日にゆずることにしたので各自勉強されたい。
月刊ボディビルディング1977年7月号

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