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★スタミナ栄養シリーズ特集版★⑥
筋力と筋持久力について

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月刊ボディビルディング1977年7月号
掲載日:2018.07.27
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1.ヘラクレスからスーパーマンまで

 力の強い人間にあこがれるのは、子供時代から誰でも共通に持っている本能的なものである。人間は裸一貫でうまれ、荒々しい自然の中で、
あるときは野獣と戦い、あるときは人間同志争い、体力のある者が勝ち、体力のない者は敗れていった。
 体力の強い者が即「王者」であった時代が長い間続いたが、やがて武器が発明され、技術や頭脳の戦いになり、
今では文明の名のもとに、肉体的なパワーは軽視されつつあり、わずかにスポーツの分野に残されているにすぎない。
 だがへラクレスやターザン、スーパーマン、日本では金太郎や桃太郎、弁慶など、スーパースターが活躍する物語はいつまでも人気を持ちつづけるだろう。
いや自然への郷愁やロマンとして、あるいは過酷なストレス社会を乗りきる原動力として、強い肉体やパワーに対する評価はますます高まってくるのではなかろうか?

2.カ持ちの尺度

 学校や職場で「すごいなあ」と感嘆の声があがるのは、体力テストを行なって「握力」「背筋力」「けんすい」「腕立伏せ」「腹筋回数」などの新記録が出たときだ。
 私が過去に経験したことをあげると高校時代、クラスメイトで「バカ力がある」と評判の男が背筋力200キロ、握力85キロを出したこと。
横浜のあるトレーニングセンターで、平行棒に両足をかけて、シットアップを宙で20~30回もおこなう若者がいたこと。
大阪読売テレビで「チャレンジショウ」があり(この番組に畳持ち上げ競争があって杉田茂選手が優勝して東南アジア旅行の賞を得たことがある)、
「腕立伏せチャンピオン大会をする」というので、私自身「60回くらいはやれる」と申込んだところ、予選で200回もやる選手がいたこと。あるいはテレビでみただけだが、
全日空の伊円空港に自分一人の力で飛行機をひっぱって動かす南さんという人がいたり、反対方向に進もうとする2台のジープを自分の力で引きとめる福田さんというビルダーがいたりなど、
広い社会には驚くべき力を持った人がいるものだ。
 ボディビルのトレーニングをしている人は、自分の体がたくましく変化するのと同時に、パワーがついてくることを経験しているが、
実際に「握力」「背筋力」「腕立伏せ」など数字で測定することはあまりないようだ。
 そこで今月号は、体力の判定方法や最近のトピックス、あるいは強化方法について知見を述べてみよう。

3.パワーリフティングの記録は?

 まず、整理しておきたいことは「筋力」と「筋持久力」のちがいである。
 「筋力」は英語でmuscular strengthといわれ、筋肉の一時的な緊張により、1回でもいいから最高の重量を持ちあげたり、ひっぱったりできることをいい、
体力測定項目でいえば「握力」「背筋力」「屈腕力」などが相当する。スポーツ種目ならば重量挙やパワーリフティング競技が代表的なものである。
 去る5月15日JPA神奈川大会が開催され、選手のみなさんの活躍を見せてもらったが、ベンチプレスにしろ。スクワットやデッドリフトにしろ、ひとつの筋肉だけにとどまらず、
全身の筋肉が総合されて、記録がつぎつぎ作られるすばらしさをたんのうした。
 これに対して「筋持久力」は英語でmuscular enduranceといい、筋肉の反復運動が何回できるかをみるものである。体力測定の項目をあげると「腕立伏せ」「けんすい」「腹筋回数」などが相当する。
 またスポーツに関係の深い筋肉の瞬発力はmuscular powerと呼ばれ、測定項目として「垂直跳」「立幅跳」「短距離走」(50m、100m)「ハンドボール投げ」等が相当する。

4.おもしろいニュース

 さて先日、浜松東部トレーニング・センターの吉田会長から次のような便りをいただいた。
「毎年私のジムでは東部トレーニング祭をしており、その中にマラソン大会があります。といっても走るマラソンでなく、ベンチプレス50キロの部、スクワット70キロの部、
チンニングの部、シットアップの部の4種目を、それぞれ何回正確におこなえるか総合得点でみるものです。体重に関係なく全員が楽しく参加でき、もう4年目になります。
もちろん初心者や年令的に無理な人もいますので、得意な種目だけに出場してもいいし、種目ごとの賞品もあります。前年度の目標があるために、毎年新記録が出て、選手も応援する人もおおいに燃えて、
最後のスクワットの種目では全員が「ワッセ!ワッセ!」と掛声をかけ、舞台裏ではマットを敷いてマッサージの用意をして見守っていました。「ワーッ!」といちだんと大きな歓声があがって今回も新記録が出ました。
チンニングの部で工藤敏蔵選手(27才・56kg)が35回。スクワットの部で榑林良和選手(25才、75kg)が92回のフルスクワットをおこなったのです」
そのときの写真を届けてもらったので両選手を紹介しよう。工藤選手はベンチプレス115kg、スクワット150kgの記録を持ち、県パワー大会バンタム級の優勝者でもある。
正確に35回のチンニングを行った工藤敏蔵さん(27)

正確に35回のチンニングを行った工藤敏蔵さん(27)

70kgで92回 フル・スクワットを行なった榑林良和さん(25)

70kgで92回 フル・スクワットを行なった榑林良和さん(25)

5、スポーツマンに要求されること

 このマラソン大会が「筋持久力」を判定する大会であることはいうまでもない。かつ同時に「筋力」や「心肺機能」とも関連する点で私は大変興味ぶかいと思う。
 レスリング・柔道・空手・ボート・ラクビー・水泳など、スポーツ種目の多くは、一時的な「筋力」もさることながら、筋持久力や筋肉の瞬発性、あるいは敏捷性、心肺機能など、総合した体力が要求される。
一つの項目にすぐれていても、アンバランスな弱点があると大選手にまで大成できないのが事実である。
「赤い筋肉VS白い筋肉」の問題に関して、東京練馬区のラガーマン高松勝さんや、ミスター宮崎第1位優勝、陸上競技部経験の柏木伸二さんから、「バーベル・トレーニングは体力向上にきわめて有効であるが、
そのほかに専門的なトレーニングがもちろん必要である」と、適切な体験例をよせていただいている。常識的なことかもしれないが、体力と技術の双方を養成して、はじめて一人前のスポーツ選手になれるが、
筋力や筋肉だけにしか眼がむかない人はもう少し視野をひろげ、プロ指導者として自分を磨けばいいし、逆に「バーベルは筋肉肥大をさせる道具だ」と考えている一般スポーツマンや社会人は、
筋力と筋持久力増加の効用を認識してほしいものだ。これにより、瞬発力などが高まり、体力に余裕が出てくるというものだ。
 最後に「スポーツ栄養学」の立場でアドバイスをすれば、筋肉を大きくするための材料として「たんぱく質」に価値があるほか、筋肉が疲労せずに反復運動するためには、食事中に適切な量の糖質やでんぶん質を欠かしてはならない。
なぜなら筋肉が働くとき、燃焼して使われるのはぶどう糖だ。この燃焼がうまくスムーズに働くにはビタミンB1をはじめとするビタミン類、クエン酸をはじめとする酸類などが総合して作用する。
「ごはんや甘いものをぬいて、たんぱく質ばかり食べる」という考えはまちがっている。適度にバランスよく食べることが成功をもたらすのだ。がんばろう。
月刊ボディビルディング1977年7月号

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