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★スタミナ栄養シリース特集版★
「ボディビルは背を低くする」はウソかホントウか

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月刊ボディビルディング1977年8月号
掲載日:2018.08.05
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1.学校の先生もまちがう

「重いバーベルをかついでトレーニングすると背が伸びないぞ」と一般にいわれている。なるほど肩にバーベルをかついで立ったり、しゃがんだりすると、
いかにも骨の先端を圧迫するようで、なんとなく背を低くする印象を与える。
 体育の先生でさえ「ボディビルは身長の発育によくないからやめたほうが安全だ」と生徒に教える。これではせっかく若い人たちが「やる気」をおこしても何にもならない。
今月はこんな迷信を打ち破り、正しい事実をお知らせしよう。

2.オリンピックチームのデータ

 全国のみなさんの協力により、300名以上の人びとに体格調査をおこない、「何才のときに一番身長がのびたか」「何才で身長がとまったか」「SEXと関係があるかどうか」
などについて貴重な結果を得ている。
 それによると、大略は文部省が毎年発表している学童・生徒の体格表と一致しており、12才~14才の間にもっとも背が高くなり(約15~20cmも伸びる)17~18才で伸びはストップする。
20才を越えてからはほとんど伸びないのが実状だ。
 ただし個人差があって、ある人は15才くらいで完全にストップしてしまったり、ある人は17~18才でもなお伸び続けたりする。(その理由は後述)
 そしてボディビルをしたかどうかはあまり関係がなく、トレーニングを若いときから始めて、175~180cmになった人もたくさんいるのだ。
 この裏づけとして、東京オリンピック重量挙チームのトレーニング・ドクターをした小野三嗣氏は次のように述べている。
「私はウェイトリフティングの選手たちについて、10代の人、20代の人と、いろいろ資料をとっています。100kg以上あるバーベルを毎日毎日持ちあげている選手の身長や下肢長が、
一般の人たちに比べて伸びがおさえられているという事実はまったくありません」
「バーベルの練習といっても、1回ごとにあげる時間は短かいので、骨の伸びには関係がありません」(同氏著「健健をもとめて」青年期より)

3.食事内容と関係が深い

 重いバーベルを持つことよりも、毎日の食事が充実しているかどうかが大きなポイントになる。
 昭和30年に14才男子は151.7cm、17才男子は163.4cm。それが昭和50年には、14才男子162.2cm(10.5cmの伸び)、17才男子168.8cm(5.4cmの伸び)と、
いちじるしく身長が伸びている。食事内容を比較すると、昭和30年が2,096カロリー、たんぱく質68gなのに対し、昭和50年は2,188カロリー、たんぱく80gで、たんぱく質の増加とよく一致していることがわかる。
 最後に示した図は世界各国の8才の少年の身長と毎日の食事中のたんぱく質量をグラフに描いたものである。これを発表した国立栄養研究所の長嶺晋吉部長によると、「身長とたんぱく質は密接な関係がある。
この調子で栄養が改善されつづけると、25年後には日本人青年の平均身長は175cmになり、欧米人とくらべて恥ずかしくないほどになる」という見通しだ。
 したがって、20才をすぎた成人はともかくとして、10代のヤングの人たちは毎日の食事に「たんぱく質」を充分食べていただきたい。

4.大切な生活習慣

 学問的に述べると、身長の伸びは脳下垂体前葉から分秘される「成長ホルモン」の作用によるところが大きい。
ところが興味深いことにこう丸や精巣・卵巣などの性腺から分秘される性ホルモンが作用を開始すると、成長ホルモンは活動を止めてしまい、骨の先端にある成長腺が発育しなくなる。
ちょうどリレー競走のバトンタッチのように男性では射精を、女性では初潮を経験するようになって、しばらくすると、身長の伸びにブレーキがかかり、かわりに男は男らしく、女は女らしくなってゆく。

 男性ホルモンの作用として、
①ひげなどの毛を濃く深くする
②筋肉をたくましく発達させる
③脂肪をとり去り、ひきしまった体つきにする
④声帯を太くして低音にする
⑤メラニン色素を沈着させて色を黒くする
⑥性器の発達を促進する
 などがあげられる。逆に女性ホルモンの作用として、
①脂肪をたくわえて、まろやかな体をつくる
②乳房をふくらませ、豊かなバストをつくる
③月経がおこり「あのねのね」が毎月おこる
④メラニン色素が沈着せず、色の白い肌をつくる
⑤声帯を高くし、高音の声にする
⑥性器の発達を促進する
 などである。

 以上のことから「大人になる」のが早い人は「身長はもうこれっきり、これっきり」ということでストップしてしまう。だからSEXに早熟すぎ、自慰にしろ、性行為にしろ、
早くからふけりすぎることは、背を高くする点ではマイナスといえるのだ。
 私の調査でも、射精を早くから経験し、その後の頻度が高い人は、身長が早くストップしている傾向にある。

5.サクセス、サクセス!

 生活習慣として大切な要素は「たたみにすわりすぎない」という点だ。ハワイに移住した日系二世の身長が高いのは、
栄養状況が良いこととテーブルと椅子の生活にあるといわれている。
 さきほどの小野教授によれば、「正座をすることはバーベルをあげることより悪い。正座をすれば足の長骨が左右から圧迫を受け、骨の成長に悪影響を与える」といわれ、
お茶・花道など日本古来の風習は好ましくないことがわかる。たたみに座ることはあまりしないほうがいいのだ。
 逆に背を高くするのに良い方法は、背骨やくびすじをまっすぐ伸ばすトレーニングや姿勢がよい。つまり、チンニング(懸垂)やディップスなどは好ましい種目である。
 また幼児や学童・生徒なら、自転車に乗ったり、陸上競技のようにとんだり走ったりする運動が身長を伸ばすのに有効である。
 最後に全国から寄せられた成功例をいくつか紹介しよう。
「ボクが高校に入学したとき身長が155cmで友だちより低くて気にしていたんですが、指導を受けて食事内容を変えてみたら、半年間で8cmも伸びて163cmになり、
友だちと同じくらいになりました。この調子で継続して、友だちを追いぬいてやろうと思います」  (和歌山県・中平忠雄さん・16才)
「5カ月前のボクはまるっきり食欲がなくスタミナが無いため、クラブ活動してもすぐバテてしまう状態でした。そんなとき指導を受けてトレーニングをおこないました。
その結果、身長が9cm、体重9キロ、胸囲が7.5cmもふえ、大喜びしています」  (千葉県八千代市・加藤一郎さん)
「39才になってからボディビルを始めた者です。始めてから現在までに身長が1~2cm伸びたのです。運動で骨と骨の間隔が長く伸びたのではないかと思います」 (北海道砂川市・山下卓治さん)
 このようにボディビルをしながら身長をどんどん伸ばしている人が多い。気にしないで力いっぱいトレーニングするのがよい。若さはパワー。1日でも早いほうが骨格は大きくなりやすいのだから……。
各国の少年(8才)の身長(平均)とたんぱく質摂取量

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月刊ボディビルディング1977年8月号

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