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熱意と環境が生んだミスター日本
吉村選手の型破りトレーニング法

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月刊ボディビルディング1969年12月号
掲載日:2018.07.26
吉田 実
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 去る10月10日の体育の日に、東京・神田の共立講堂で行なわれた1969年度ミスター日本コンテストで、みごとミスター日本の栄冠を頭上に輝かせた吉村太一選手のコンテスト歴を本人にきいてみると、想像したほどはなばなしいものではなかった。初めに出場したのが、東西ボディビル協会合併前のミスター全日本コンテスト。

――いまにして考えると、あの体でよく出たなアー、と思うほどのひどいものでした。ボディビル開始後1年目で肉がまったくついていないカリカリのやせで、当然のことながら予選落ちです。

 以後かずかずのコンテストに出場したが、地方コンテストで入賞した程度のもの。その吉村選手が中央のボディビル界で認められるようになったのが、2年前の1967年度ミスター日本コンテストで第11位に入賞したとき。

 それから半年後のミスター・アジア日本代表選抜コンテストでは、大躍進して堂々の2位。そのときの彼のすばらしいデフィニションにはおどろかされたものだ。そのまた3ヵ月後に行なわれた1968年度ミスター日本コンテストでも、やはり不肖私に次いで2位。

 そのときから本年度ミスター日本への最短距離にいて、本命と目されてはいたが、実際に勝ちとるまでには、余人には想像もつかないほどの努力を重ねてきた。

――コンテスト前の気持は?

――何がなんでも優勝しようと思っていたが、それができるかどうかたまらなく不安でした。とくにコンテスト当日、出場選手全員がズラリとビルダー・パンツで並んだときには、なおさらその気持がたかまりました。1年であれほど他の選手のレベルが上がるとは思いませんでした。

――コンテスト当日の心境は?

――ただ夢中で、頭の中には何もはいってなかったです。

――表彰台でかずかずのトロフィーを手にしたときは?
1/ワンハンド・ダンベル・トライセップス・エクステンション 上腕三頭筋のこの運動を自宅のタタミの上で行なう。

1/ワンハンド・ダンベル・トライセップス・エクステンション 上腕三頭筋のこの運動を自宅のタタミの上で行なう。

2/レッグ・エクステンション 大腿部のキレはこの種目でつくる。

2/レッグ・エクステンション 大腿部のキレはこの種目でつくる。

3/バック・プレス 1回目は首スジまで、2回目は深く、3回目はまた首スジまでと交互にくりかえす。

3/バック・プレス 1回目は首スジまで、2回目は深く、3回目はまた首スジまでと交互にくりかえす。

4/インクライン・カール さすがは腕の部分賞。太く力強い上腕。

4/インクライン・カール さすがは腕の部分賞。太く力強い上腕。

――ミスター日本になれて、なんともいえずよい感じでした。あの表彰式の音楽をきいていると、胸がジーンときました。

 その新ミスター日本の練習方法を、あますところなく読者にお伝えしよう。

食事の回数と同じ練習頻度

 吉村選手のトレーニング方法は、他に例を見ないほど型破りなものである。まず、起床後食事をせずに、胸と肩を合わせて2時間トレーニングする。1時間の睡眠をとったあと、昼に広背と下腿を1時間半。また1時間の睡眠。夜は上腿1時間と腕1時間半の練習。それで日曜を除く毎日127セットずつ消化していく。練習と睡眠で日が暮れるかんじょうだ。

――いつ仕事をするのですか?

――いまは兄に生活の面倒をみてもらって、ボディビル1本に打ち込んでいます。両親も、それほどまでにやりたいのなら、しばらくの間ボディビルに専念してみろ、と応援してくれています。

 その恵まれた環境を無視することはできないが、よい環境をあたえられただけで優勝できるほど、ミスター日本コンテストは甘いものではない。

――昨年のミスター日本コンテストから1年間に、何度トレーニング・スケジュールを変えましたか?

――ほとんど変えずにだいたい同じものを続けてきましたしかし、スケジュールは組んでも、その順序はいつも変えます。たとえば胸の運動でも、ベンチ・プレス→ベント・アーム・ラタラル→ベント・アーム・プルオーバーと毎日同じ順序ではなく、日によって変えていきます。

――それはなぜ?

――それにより、筋肉につねに新しい刺激があたえられるので、筋肉が運動になれることなく、よく発達します
5/ベント・アーム・ラタラル ベンチの端を使って大きく胸を開く。

5/ベント・アーム・ラタラル ベンチの端を使って大きく胸を開く。

6/チン・ビハインド・ネック 非常に広い握り幅で、背筋から肩にかけて鍛える。

6/チン・ビハインド・ネック 非常に広い握り幅で、背筋から肩にかけて鍛える。

7/ドンキー・カーフ・レイズ パートナーを1人のせて毎日16セット。

7/ドンキー・カーフ・レイズ パートナーを1人のせて毎日16セット。

8/ダンベル・プルオーバー・オン・クロスベンチ この種目もしばしば愛用するという。

8/ダンベル・プルオーバー・オン・クロスベンチ この種目もしばしば愛用するという。

――スプリット・システムではなく、毎日全身をトレーニングするのですか?

――そうです。自分は筋肉をあまり休めるとダメになる休質です。1度練習すると、その部分の筋肉を1日休める人が多いですが、私の場合は1日おかなくても筋肉の疲労は十分に回復します。練習後すぐに眠るからでしょう。

 そらおそろしいことをいうものだ。疲労がないとすれば練習量に比例して効果が増大するリクツである。

――いつごろからそのシステムでやっていますか?

――2年前の'67ミスター日本コンテストの直後からですそれから急速に発達してきました。

 なるほど、それがもとで、昨年はびっくりするほどの体の変化を見せて、関係者の目を見はらせたのか。

――自分の体に合った練習方法を早く見つけ出すことが大切です。他人と同じ方法では、なかなか効果はあがりにくいものだと思います。

サルまねはするな

 週に6日、同一の筋群を休ませずにトレーニングする吉村選手のこの練習方法を批評する生理学者およびボディビル関係者は、筆者を含めて相当数いるものと思う。

 しかし、先月号で紹介した宮本皜選手も同じ練習方法であった。本年度ミスター日本コンテスト1位と3位の選手が、そのシステムで顕著な効果をあらわしたとなると、このトレーニング法はいままでのように、〝練習過剰〟の一言ではかんたんに片づけられない重大な要素を含むものと考えてもよいのではなかろうか。たとえ、そこまでいわずとも、深く考えてみる必要がある問題であろう。

 練習した翌日はかならず休養をとらなければならない、とは数年前までのボディビル界の定説であった。ところが最近では、人間の体を全体のものとして考えずに、部分部分の筋群単位にみて、〝練習した翌日はその筋群を休ませなければならない〟と変わってきた。
9/オルターニット・ダンベル・プレス 吉村選手はあまり重いものを使用しない。

9/オルターニット・ダンベル・プレス 吉村選手はあまり重いものを使用しない。

11/レッグ・プレス 軽量を用いて40~50回くりかえす。

11/レッグ・プレス 軽量を用いて40~50回くりかえす。

10/トライセップス・エクササイズ 脚を台にのせずに、この姿勢で50~60回つづける。

10/トライセップス・エクササイズ 脚を台にのせずに、この姿勢で50~60回つづける。

13/スロー・カール35kgで12回を正確に行なう。

13/スロー・カール35kgで12回を正確に行なう。

  この考え方にもとづいて発案されたスプリット・システムといったらよいのか、あるいは逆に、練習方法が先にできて、あとから理論づけがなされたものかはさだかではないが、このスプリット・システムが世に知られはじめたときにも、やはり反論する人が多くいた。しかし、いまでは専門的にボディビルにとりくむビルダーの間では、このシステムが主流の練習方法となっている。

 本年度ミスター日本のタイトル・ホルダーと準ミスター日本が実践するトレーニング法であってみれば、コンテストを狙うビルダーならずとも、まねしてみたくなるのが人情ではあるが、ここでぜひ読者の皆さんに注意しておきたいことがある。

 このトレーニング法の是非はともかくとして、これを行なえるものは、あくまでも専門的にボディビルを志し、しかもその過激な練習に十分に耐えうる強じんな体力をもつ者に限られるということだ。健康管理、あるいは体力増強を目的としてトレーニングする一般の練習者にとっては、むしろ〝百害あって一利なし〟といっても過言ではなかろう。また、あわよくばミスター日本を、と考えるビルダーにしても、自分の体力を考えずにサルまねをしたら、オーバーワークの逆効果どころか、思わぬ病気を誘発して、とりかえしのつかないことになるかもしれないから、ご用心

吉村選手は自宅練習

――練習の直後に睡眠をとってまた練習するのには、ボディビル・センターにベッドが必要となるが……

――私は現在ほとんど自宅で練習しています。

――お宅に練習場があるとは、うらやましい限りですね。

――いやとんでもない。ほんの2畳か3畳のタタミの上で練習しています。
12-112/吉村流ローイング・モーション 1の位置から少し勢いをつけて3の位置まで振って、逆の順で元の位置にもどす。広背筋の運動。

12-112/吉村流ローイング・モーション 1の位置から少し勢いをつけて3の位置まで振って、逆の順で元の位置にもどす。広背筋の運動。

12-2

12-2

12-3

12-3

14/ベント・ロー 背を丸めずにバーベルを胃のあたりにひきつける。

14/ベント・ロー 背を丸めずにバーベルを胃のあたりにひきつける。

15/フレンチ・プレス おろした反動を使って速く20回つづける。

15/フレンチ・プレス おろした反動を使って速く20回つづける。

――練習器具は?

――ベンチとスクワット台があるだけで、バーベルが100kgとダンベルが片手で20kgまでのオソマツなものです

 吉村選手はこれだけの練習器具でトレーニングしてミスター日本のタイトルをその手に握ったのだから、設備の悪さをなげくビルダーは、不平不満をいわずに、まずおのれの努力不足を反省してみることだ。

――重いバーベルがないので軽量練習を?

――いや、武育センターでやっていたときにも、総体的に軽いものを使っていました。しかし、いまでも1週間に2日くらいは重いものを用いています。

――軽量練習をする理由は?

――軽いもので回数を多くすると、よくパンプ・アップするからです。

――バルクにはロー・レピティション、デフィニションにはハイ・レピティション――といわれるが……?

――重量で練習するとバルクがつくことは認めます。だがそれだけだと、ポワンと太くなるだけでしまってこない。ロー・レピティションで行なった直後にハイ・レピティションで筋肉をしめると、バルクと同時にデフィニションが獲得できます。

 バルクとデフィニションを同時に獲得できるとは、たいへん便利な方法である。吉村選手はさらにつづけて、

――バルクだけを先につけて、あとでデフィニションを出そうとしても、なかなかうまくいかないが、このやり方だと、そのへんのバランスがとりやすいです。

――これは、1~2カ月間を重量で練習して、次のスケジュールで軽量を使うということではないのですね。

――はい、日をおかずに両方をやります。重いもので5セットくらいやって、次に軽いもので3~4セットするのです。
16/ラット・マシーン この種目で広背筋全般にわたって鍛える。

16/ラット・マシーン この種目で広背筋全般にわたって鍛える。

17/アイソレーテッド・カール バーベル・カールはこのスタンドを使うこともある。

17/アイソレーテッド・カール バーベル・カールはこのスタンドを使うこともある。

19/フレンチ・プレス・ライイング この種目は寝たり、立ったり、すわったり、いろいろと変化をつける。

19/フレンチ・プレス・ライイング この種目は寝たり、立ったり、すわったり、いろいろと変化をつける。

18/ベンチ・プレス 広い握り幅だけでなく、せまい幅でも行なう。

18/ベンチ・プレス 広い握り幅だけでなく、せまい幅でも行なう。

20/オルターニット・ダンベル・カール 上腕二頭筋への着眼に注意。

20/オルターニット・ダンベル・カール 上腕二頭筋への着眼に注意。

 なるほど、それで吉村選手の上半身はバルクとデフィニションがよく調和しているわけか。(23ページにつづく)
吉村選手の体位

吉村選手の体位

吉村選手のトレーニング・スケジュール

吉村選手のトレーニング・スケジュール

最大のパンプ・アップ状態でやめる

――セット間のインターバルは?

――ウェイトのつけはずし以外はまったく休みません。ただ、ドンキー・カーフ・レイズだけは、4セットつづけて10分間休み、また4セットつづけて10分間の休憩をとります。

――ハイ・レピティションでインターバルが短かいと、筋肉はよく張るでしょう。

――はい、よく張りますが、やりすぎないように気をつけないといけないと思います。最大限のパンプ・アップをしたところでやめるのが一番効果的です。筋肉も風船と同じことで、フクラミすぎて割れてはいけない。割れる直前でやめる。このへんがむずかしいのです。

――ということは、最大のパンピング以上に練習すると、かえってマイナスになるということですか?

――そうです。普通の人はその効果的なところでやめずに少しやりすぎていると思います。

――スケジュール表の中に腹部の運動がひとつも見あたらないが……

――以前はやっていましたが、最近の約3年間はぜんぜんやりません。

――それはまたなぜですか?

――少し傾斜をつけると、まったく起き上がれないのでやりません。ベンチ・プレスやスクワットなどでも十分に腹筋は鍛えられます。

 ボディビルダーの体は見せかけだけのもの、などの悪口をたたくヤカラの多い昨今であるから、ミスター日本の名にかけても、今後は腹筋運動にはげんで力強くたくましい腹筋をつくってもらいたい。それを望むのは筆者ばかりではないはずだ。

肉のかわりに大豆を

 読者の皆さんがトレーニング法の次に興味をもつ新ミスター日本の食事の献立は

 朝食――牛乳1本、卵2個、バナナ2本、リンゴ1個、煮た大豆をたくさん。これをすべてミキサーの中に混入して作ったミックス・ジュースを、ミキサーの上部グラスで1杯(コップに1杯とはちがいますゾ。)チーズ半ポンド箱を1箱全部。フランスパン1個

 昼食――煮た大豆をドンブリ2杯

 タ食――セロリ、キャベツはナマで、大根は煮る。野菜のみで他はとらない。

――肉や魚はぜんぜん食べないのですか?

――煮た大豆が肉の代わりです。魚はきらいなのでまったく食べません。

――米飯を食べない理由は?

――特別に考えているわけではありません。

――デンプン質を多くとるとデフィニションが落ちることを心配して?

――いや、それはまったく関係ありません。

――牛乳はジュースに入れる以外は?

――一夏場は汗が多く出るので、水分を補給するために、水の代わりによく飲むが、冬はまったく飲みません。

――牛乳はただ水分の補給だけに?

――そうです。栄養的なことではなく、ただ水分を補給する意味からです。日本の牛乳はうすめてあるので栄養価が低いですから。

将来はジムを持ちたい

 さすが、今年度日本一に選ばれただけあって、読者にお伝えしたいことは、まだまだ山ほどあるが、紙面の都合があるので次の機会にゆずるとして

――念願のミスター日本のタイトルをとったが、ボディビルダーとしての今後の目標は?

――あと3年くらいは今のようにボディビル1本に打ち込んでみたい。3年後には、小さくてもよいから自分のジムを持ってみたい。

――将来の目標は?

――ボディビル普及のために、それを知らない人たちに教えることが、私がボディビル界にできるただひとつの孝行です。大いにボディビル普及のためにつくしたい。ただそれだけです。

 昨年のミスター・アジア日本代表選抜コンテスト以来文通をつづけている友人として、また日本ボディビル協会ーの一員として、心から励ましの言葉を贈ろう。(筆者は第一ボディビル・センター・コーチ)
月刊ボディビルディング1969年12月号

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