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座談会
ミスター日本を囲んで

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月刊ボディビルディング1969年12月号
掲載日:2018.07.25
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◎出席者
吉村 太一(武育センター)
小沢 幸夫(警視庁)
宮本 皜(福岡BBC)
吉田 実(第一BBC)

◎司会
玉利 斉(JBBA理事長)
司会 どうも皆さんご苦労さまでした全ボディビルダーの注目を集めたミスター日本コンテストが、10月10日大盛会のうちに終って、新しいミスター日本として吉村太一選手(1位)、小沢幸夫選手(2位)、宮本皜選手(3位)の3人が登場したわけですけれども、このミスター日本を囲んで、いままでどのような練習をしてきたか、今後の目標はどうか、それからボディビルをどのように伸ばしていったらよいかということを、ざっくばらんに話していただきたいと思います。また、昨年度のミスター日本で、IFBBとNABBAの両方のミスター・ユニバース・コンテストに挑戦した吉田実選手には外国と日本のボディビル界の現状を比較しながら話していただきましょう。まず、吉村選手から…。待望のミスター日本のタイトルを実力で勝ちとったわけだが、どうですか感想は。

吉村 東京にいるときは実感がわかなかったんですが、家に帰ってトロフィーを並べてみたらうれしさがこみあげてきました。

司会 小沢さんはどうですか?

小沢 そうですね。2位になるなどとは夢にも思いませんでした。最初は6位以内に入ることを目標にしていましたから。それだけによけい感激しました。

司会 あなたの場合はお仕事がお仕事だけに、いろいろと不規則な生活になり、練習時間をとるのにたいへんだと思うんですが、それだけに……。

小沢 そうですね。しかし今回はコンテスト前に2週間ばかり練習に専念しました。

司会 宮本さんは今年のミスター九州のチャンピオンですけれども、ミスター日本コンテストは初出場ですね。どうですか?

宮本 意外というか……。

司会 まあミスター日本は1年に1回の大会で、そのためにみなさんほんとうに根をつめた練習をしてきたと思うんですが?

吉村 そうですね。もう必死ですね。すごい人が多いですから、もし負けたらファンの人にも申しわけありませんしね。落ちてとれなかったら、大阪へどうやって帰ったらいいか、そればっかりです。だからコンテストの前にはドキドキしてしまって切なくなりました。

司会 なるほど。それで練習は毎日ですか?

吉村 毎日です。でもコンテストの1週間前にはバーベルを持つ練習はやめて、ポーズの練習ばっかりしました。

司会 じゃあ、1日の運動種目やセット数はたいへんでしょう。どのくらいやりましたか?

吉村 セット数よりも時間でいくんです。練習時間中は休みなしで動いていますね。その方が汗も出るし、ぬくもってきたらまた調子が出るんです。この1年間は私にとってはエラい年でした。

司会 たしか昨年の琵琶湖のときは、吉田選手に惜しいところで敗れたんでしたね。

吉村 吉田さんに敗れたのは、ぼくの持ってないものを吉田さんが持っていたからです。

司会 しかし、逆にそれで発奮?

吉村 はい。あとからよう考えて計画立ててやりました。

司会 小沢さんは?

小沢 ぼくは健康管理を目的としてやっておりますから、そんなに……。

司会 あなたは、健康管理……といいながらいつもいろいろな大会で優勝している。これからは、みんな健康管理でやるべきですな(笑)。

小沢 まあ短い練習時間ですから集中力が大切ですね。根をつめて……。

司会 長くやってもダラダラやってはなんにもならないということですね。

小沢 はい。私の場合原則として週6日、1日約2時間半くらいの練習で、忙しくなると2、3日できないこともあります。それに、今回はちょうどコンディションの調整がむずかしかったんですが、東京勢では私と末光君しかいませんから、責任感が生まれて、コンテストの前2週間一生懸命練習しました。
左から宮本、吉村、小沢の各選手

左から宮本、吉村、小沢の各選手

司会 あなたを前において失礼かもしれませんが、今回は東京勢が例年にくらべて弱いんじゃないか、これでは関西勢にひとたまりもなくやられてしまうんじゃないかという下馬評だったんですが、みごとくつがえして地元東京の名誉を保ったと思うんです。聞くところによると、あなたはいまゲバ学生騒動の折から、出動が多くてこの前の早稲田のときなど一睡もできなかったそうですね。

小沢 エーと、早稲田のときは6月15日でした。あれで体の調子をくずしましてものすごくやせました。1回出動すると、コンディションを自分のベストにもどすのに1週間くらいかかりますね。それでも、前の記録挑戦会のときも、東京勢は私1人でしたから、そのときの精神的な支えで、絶対やってみせるという気持が沸いてきました。

司会 宮本さんはこんど初出場で堂々3位を勝ちとったが、あなたのからだを拝見すると、あなたの先輩の小笹和俊選手によく似てる。脚なんか小笹選手を上まわっているんじゃないかな。これでこのまま大きくなったら、第二の小笹、あるいはそれをしのぐんじゃないかという評判ですけれど、どういう練習をしたんですか?

宮本 私は人よりもよけいに練習する方じゃないんです。

司会 練習量はどのくらい?

宮本 冬の間は3時間くらいで、5月頃からは1時間半から2時間くらいです。

司会 それは毎日ですか?

宮本 いいえ、日曜は除きます。

司会 週6日ですね。食事は?

宮本 食事は、タンパク質を主体にして考えました。

司会 それは魚ですか?

宮本 そうです。

司会 魚はどうやって?

宮本 ナマとか焼物です。

司会 食事には相当気を使われたんですね。ところでみなさん、いざ舞台で60有余の全国の精鋭が集まったとき、ライバルたちのからだを見てどう感じましたか?

吉村 みんなすごくなってるんでびっくりしました。だから自分のからだを見てもあんまりパッとしないと思って、舞台の上で自分のポーズをとるよう精一杯努力しました。1位をとれたのもみんなファンのみなさまのおかげで、ぼくの力などはたかがしれていますよ。

司会 小沢さんはどうでしたか?

小沢 そうですねえ、ことしはもう中央と地方との差というものがなくなってきていますね。

司会 たしかにそうですね。いままでは、大阪や東京の選手が抜きんでていたと思うんですよ、量においても質においても。ところが最近、あまり名前を知られていない選手が台頭してきましたね。たとえば、栃木の木滑選手、北陸の糸崎選手、静岡の大石選手などがいますが、なかなか立派ですね。

小沢 ですから私達もぼんやりしていられないですよ。コンテストでも、バルクとデフィニションだけではだめで個性が必要ですね。自分の一番良いところをいかにして表現するかということですね。ぼくの場合は、胸と僧帽と脚です。

司会 全員でならんだときには、すごいなと思っても、ポーズをとるとたいしたことない人、またその逆の人もいますけど。だから、表現力というのが大切なんですね。もっとも、持ってるものが貧弱ではしょうがないでしょうけど。ところで、吉田さん、外国のコンテストは表現力が非常に大きな比重をしめているときいてますが、その点はいかがでしたか?

吉田 表現力のことですが、NABBAのコンテストでそれにぴったりの例がありました。アマチュアのミスター・ユニバースになったボイヤー・コウですが、彼はリラックスしているときはほとんど目立ちません。逆にロイ・キャレンダーはみんなとならんでいるとズバ抜けている。ところが、ボイヤー・コウは、ひとたびポーズをとるとものすごく変化し、ロイの場合はあまり伸びがないんです。ボイヤー・コウは自分の長所を100パーセント発揮し、悪いところは絶対見せません。しかしそれでいてNABBAのベスト・ポーザーのタイトルをとっているんですからね。正面から腕を開いて見せるポーズは抜群ですよ。

司会 そのポーズはバルクがなければサマにならないでしょうね。

吉田 ボイヤー・コウにしても、このポーズをちょっと変えるだけで同じようなポーズで押していくんです。同じポーズを持時間の間に3つくらい入れたりしますね。セルジオ・オリバも80パーセントは腕のポーズ。シュワルツェネガーは徹底的にバックでせめて、その間に得意の腕をチョコチョコ入れるが、7割から8割はバックです。

司会 もっとも強調すべきところを知っているんですね。

吉田 そうです。世界の一流のビルダーのポーズは、たいていそんなふうですね。

司会 日本のコンテストでやる規定ポーズのようなものはないわけですね?

吉田 まったくありません。

司会 ということは、審査員の目が相当肥えていないとできないですね。

吉田 そうです。だから、ボディビルの経験がなく、審査の経験もない人がやったら、とてもできませんね。けっきょく選手は自分の得意なところを見せ、それで審査員が優劣をつけるわけです。

司会 なるほど。個性がなければ勝てないということですね。

吉田 その通りです。世界のトップ・ビルダーが集まるミスター・ユニバース・コンテストですから、何かひとつ人より勝れているところがなければタイトルはとれないということでしょうね。

司会 その点、中央のボディビル界であまり知られていない宮本さんが3位にくい込めたのは、脚のみごとさと、筋肉の切れ味のよさをうまく強調して表現したからなんでしょうね。

吉田 宮本さんの脚は、ミスター・ユニバースに出ても、ベスト・レッグがとれるんじゃないですか。

司会 今回からミスター日本でも部門賞が設けられて、脚の部は武本蒼岳選手がとりましたが、繊細な切れ味と迫力は宮本さんの方が上かもしれませんね。

吉田 外国の選手は上半身はズバ抜けて大きいが、下半身が弱いですね。太さはあるんですがテフィニションに欠けるようです。セルジオ・オリバなんかもなにかポワーンとしたような感じで、デフィニションはあまりありませんね。われわれみたいなのが、世界最高峰のビルダーを批評するのはどうかと思うんですが。

司会 宮本さんは、コンテストのとき自分の個性を強く表わそうと考えましたか?

宮本 いいえ、そういうことはなかったですね。

司会 では、どういうふうに戦ってやろうと思いましたか?

宮本 前夜祭の時には、みなさんのスケールの大きさに圧倒されてしまってぜんぜん食欲がわきませんでしたが、当日、はだかになってみて、これならデフィニションでいけるんじゃないかな、という気がしました。

司会 なるほど、それでデフィニショを強調したんですね。さて吉村さん、いよいよ来年は全日本のビルダーの代表として世界に挑戦するわけですが、それに対する心構えや練習は?

吉村 まだ下半身が弱いですから、10センチくらい太くするのが目標です。そして、1年間に全体的に二まわりくらい大きくなりたいと思っています。

司会 ともかく、外国ビルダーはバルクにおいては圧倒的ですから、あなたもバルク不足にならないよう、1年間精進してください。

吉田 吉村さんは175.5センチですからIFBBでもNABBAでもトールマン・クラスになると思います。ショートマン・クラスですと日本の一流ビルダーは十分通用するんですが……ショートマン・クラスは167センチまでだったと思いますから、宮本さん、末光さん、小林さんなどは6位以内入賞が可能だと思いますよ。小沢さんはミディアム・クラスで入賞できそうですね。でも、トールマン・クラスになるとそうはいきませんね。外国ビルダーはものすごく大きいですからねえ。
吉村 太一選手

吉村 太一選手

司会 ということは、日本ではボクシングでもレスリングでも小さい方のクラスの人が強いが、やはりどんなスポーツでもその国の平均体位あたりのクラスが一番強いということですね。

小沢 しかし、重量あげでこのあいだライト・ヘビー級の大内選手が入賞しましたね。ヘビーと名のつくクラスで初めて世界で入賞したんですから、これからはボディビルでも十分通用するんじゃないでしょうか。

吉田 ただし重量あげの場合は昔から強かったけれども、強くなるまでにかなりの年数を要していますね。ボディビルが日本に本格的に入ってきてからまだ15年ですからねえ……。

小沢 でも、盛んになったのは重量あげとだいたい似通っていますよ。

司会 まあ、大型ビルダーがたくさん育ってきて欲しいものですね。それからこれはおもしろい現象だと思うんですが、ここにいらっしゃるみなさんにしても、ミスター日本になろうと思ってボディビルを始めたんじゃないと思うんです。人よりやせているとか、体力がないとか、の理由でやり始めたんですね。それが、グングン発達してきて自信がわいてくる。それではひとつコンテストにでも出てみようか、というように、むしろ素質に恵まれない人が多いんじゃないですか。そうすると健康優良児みたいな人がやったら、相当なところまでいけると思いますが。

小沢 しかし、もともと体の弱かった人が鍛え込んで強くなった方が、逆境にたったとき精神的に強いと思いますね、ボクシングのばあいと同じで。ボクシングはハングリー・スポーツといわれるほど精神的な苦痛が大きいので〝ヨーシやってやろう〟という根性がすごいですね。

吉田 それとやっぱり、審査の場合の重点の置きどころですが、ショートマン・クラスは大きさよりもデフィニションのほうが重視されていますね。それがだんだんトールに近づくにつれて、デフィニションよりもバルクということになっています。

司会 というのは、トールマンの場合は、繊細な感じよりスケールの大きさが要求されるんですね。

吉田 第1の条件ですよ。

小沢 なんといっても最終的には迫力ですね。

司会 小沢さんのこれからの目標は?

小沢 そうですね、筋肉的には肩、いわゆる三角筋と腕を中心にやっていきたいです。また、もう少しバルク・アップして、統一のとれた迫力を出すようにもっていきたいですね。

司会 きれいさの中に迫力があるということですね。宮本さんは3位になったので、今後の目標は優勝だと思いますが?

宮本 いまの場合は、やはりバルク・アップです。
宮本 皜選手

宮本 皜選手

小沢 幸夫選手

小沢 幸夫選手

司会 ボディビルは何年やってるんですか?

宮本 4年です。

司会 体重はどのくらい増えました?

宮本 15キロです。

司会 そんなに増えてますか! 何歳ぐらいのとき一番増えましたか?

宮本 20歳くらいです。

司会 そうすると、ある程度骨格が固まったころですね。

宮本 そうです。

司会 しかし、あなたの場合は、すぐ身近に小笹選手という大先輩がいますから練習に励みがでますね。さて、みなさんに目標なり練習方法なりをうかがったんですが、コンテストの前などの短期間の練習はむずかしいでしょうねえ。

吉田 やはり、その人に合った練習法ですね。教科書的なものはあくまでも初心者用で、コンテストをねらおうという人は、もう形式にとらわれる必要はないと思います。ですから、重いものを使用してデフィニションがすばらしい人もいますし、軽いものでもバルクの大きい人もいます。

司会 なるほど。要はウェイトを用いるということですね。

吉田 はい。ある程度のレベルまでいくと、模範のトレーニング法はないですね。だから、現在のトップ・クラスの選手は、いままでだれもやったことのないものに挑戦してるんですよ。

司会 ということは、自分の道を歩むほかないということですね。

吉田 そうです。すべて自分で考えなければならない。頂上までいった人が教えてくれるというものじゃあないですよ。

司会 他人の練習法は参考にはなるけれども、自分なりに体質、生活環境などに応じて開拓していかなければならないということですね。

吉田 そうです。一流のビルダーの練習方法は、100人いれば100人全部違う。はたからみるとずいぶん奇抜な練習のようだが、それぞれ確固たる信念を持ってやっております。1本の芯になるものがあるんですよ。だから、あの人の練習をまねて、この人の練習もまねるということはないと思います。

小沢 世界的にスポーツの流れが、持ち味や個性を出す方向になっていますね。だから教科書的な練習をしていると、コンテストに出ても弱々しく感じますね。

司会 基本を身につけて、それをどのように応用していくかということですね。

小沢 そうです。しかし、それはその人の能力にかかっているんじゃないですか。やっぱり、意志の強さですね。

司会 みなさんも初めは健康管理から出発した。しかし、そのあたりに目標をおいていたんでは、とてもここまでレベル・アップできなかったでしょうやはり、健康管理のみでやっている人と、コンテストをねらっている人とはおのずから異なったものがあって当然だと思うんです。だから、ボディビルをやる人はそのへんのことをよく理解しなくてはいけない。しかし、コンテストは自分の限界に対する挑戦ですからそれなりの研究というものがあってしかるべきで、胸をはってやってもらいたいと思います。ではこのへんで話題を変えて、みなさんがた選手の立場からコンテストの審査方法についてのご意見をきかせてください。

小沢 そうですねえ、今回のコンテストの予選で、筋肉だけを見て選んだというのは成功していると思います。そして決勝で筋肉、ポーズ、プロポーションをみる。これでいいんじゃないすか。

吉田 そうですね。よかったですよ。

吉村 決勝の15人は文句なくすごいですね。

司会 ところで宮本選手は、あのようなハープをバックにポーズするというのは初めてだと思いますが?

宮本 入場式のとき、紅白歌合戦を見ているようでびっくりしました。

小沢 やっぱりハープの演奏はいいですね。コンテストのときはアガッているが、あれを聞いていると落ちつきますね。

司会 みなさん意識的かどうかしりまさせんが、決勝に残った人たちのポージングをみていると、自然にハープのリズムや音に合わせていたようでしたね。

小沢 要するに、音楽に合わせた徒手体操と同じで、これからはリズムに合わせたポージングが必要になってくるでしょうね。

司会 やはり、鍛えあげたからだのもつ厳粛さというものを表現するには、ハープが最適なんですね。その他の舞台装置についてはどうですか?

吉村 ポーズをとる台がひとまわりまわりましたが、あれはよかったですねまわっている間に、観衆に自分のすべてをみられているようで、最高にファイトが沸いてきました。

司会 なるほど、観衆と通じ合うものがあるんですね。だから、コンテストは、観衆が見やすいように、審査員が審査しやすいように、選手がポーズをとりやすいように、と三者がそれぞれ満足できるようにしていかなければならないでしょうね。

小沢 ことしのコンテストは、すごくシンプルな感じの装飾で、それでいて華やかさがありましたね。若さを表現したんですね。

司会 あれは太陽の光を表現したものらしいですよ。

小沢 なんだか、日本の誕生を象徴するようでいいですね。

司会 日本の神話からとったもので、天照大神が岩戸の中から出てきたときのようすを表わしたものらしいですね

小沢 簡潔でいいデザインですよ。

司会 吉田さん、外国のコンテストはどうなんですか?

吉田 毎年見ているわけではないからはっきりとはわかりませんが、ことしは非常に簡素な舞台装置でした。

司会 審査方法などはどうですか?

吉田 舞台ではなく、楽屋の方で審査する〝裏審査〟というのがありますから、日本の場合とは違いますけど、実によく見てますね。

司会 今度のコンテストでは、選手がみんなツブぞろいでしたが、来年はさらにレベル・アップすると思うんです。そこで、これから伸びてくるだろうと思われる選手をあげてみてください。

小沢 やっぱりとなりにいる宮本選手ですね。来年はこわいですよ。それから5位になった杉田茂選手も強敵ですね。

吉村 杉田選手は大阪大会のときも2位になりましたが、よかっですね。急に伸びてきたんですね。

小沢 ポーズもうまいですよ。流れるようで。

司会 栃木の小林選手もよかったように思いますけど。

吉田 私も予選のポーズと決勝のポーズを見まして、もうちょっと上位にはいってもよかったんじゃないかという気がしました。少なくとも6位以内にははいれる選手だったと思います。来年はこわいんじゃないですか。

司会 相当な実力を持っていても、その時の調子で意外な成績に終わるということもあるんですね。

小沢 それが勝負のおもしろさですよ

司会 それから、1昨年のミスター日本コンテストで小笹選手と優勝を争った武本選手ですが、いつも優勝候補にあげられるんですが2位にとどまっていましたね。それで、ことしあたりはやるんじゃないかと思っていたら7位に落ちてしまいましたが、勝負の厳しさですね。
吉田 実選手

吉田 実選手

吉田 モースト・マスキュラー・マンのタイトルをとっていますから、予選では1位で通ってるんです。

司会 武本選手もポーズをとったときの見せ場を作るのがうまいですね。

吉田 やっぱりベテラン選手ですね。

小沢 静岡の大石秀夫選手もいいですね。デフィニションがすばらしいですよ。

司会 それから、4位の中尾選手。この選手は先天的なプロポーションのよさがずいぶん有利でしょうね。

吉田 そうですね。からだの線がきれいです。練習によってできたんではなくて、彼の場合はもって生まれたものなんですね。あれでもう二まわりくらいバルク・アップしたらスティーブ・リーブスのようになりますけど。

司会 これからが楽しみな選手ですねそれから8位の末光選手ですが、アッという間にスターダムにのし上がったですね。逆三角形にまとまった体型とデフィニションの適確さはすばらしいと思いますが、どうですか?

小沢 私は一諸にトレーニングをしていますが、足のデフィニションをもう少し出してもらいたかったですね。今回はデフィニション型の選手はツブがそろっていましたからね。よほど勝れていないと目立たないんです。それから腕もやってもらいたいですね。

司会 足の弱さは感じましたね。

小沢 それと、広背を意識して体をつっぱってしまって。もう少しリラックスしたらもっとよかったんじゃないですか。

司会 しかし、ポーズはなかなかの評判ですね。

吉村 そうですね。ポーズによってずいぶん違ってきますからね。自分独特のポーズで味を出さなければなりませんし……。

司会 ポージングにも流行があるんですね。1965年頃はゆっくりからだを動かしていってグッと決めるのが全盛だったようですが。

小沢 そうです。小笠原選手などが…

司会 現在では、その頃とはだいぶ違ってきているようですが。

吉田 そうですね。だいぶ進歩していると思います。ポージング全体における流れの優美さなどは、欧米を上まわっているんじゃないですか。

司会 そうすると、日本人は筋量においてはまだまだだが、選手の均整とかポージング、大会の運営などは相当のレベルにきているんですね。それではこれからはひとつバルクをつけて、世界の舞台でみなさんにがんばっていただきたいものですね。そのためにも、もっと多くの人たちにボディビルを知ってもらい、ボディビル人口を増やしていかなければなりませんね。

小沢 そうです。今度の大会で身体障害者のトレーニングの実演をやりましたが、社会に役立つボディビルということで一般国民の認識が深まったんじゃないでしょうか。

司会 どうですか宮本さん、福岡は東京や大阪とちょっと離れていますが、ボディビルに対する一般の人の感心はありますか?

宮本 きのう1日ジムにいたんですが九州各県から電話がかかってくるんです。コンテストの結果を教えてくれというんです。それが、ぜんぜん知らない人ばかりで、一般の人たちの間にもボディビルが浸透しはじめたなと思いました。

司会 そうですか。どんなスポーツにおいても底辺の人口を広げるということが大事ですね。ボディビルもやはり根を張った太い幹に咲く花でなければなりませんし、そのためには、みなさんがたトップ・ビルダーの影響が大きいと思いますが、吉田さんは日本代表として世界をまわってこられたが、その感想をきかせてください。

吉田 日本は非常に豊かで国力のある国だということを再認識しました。ボディビルについては、筋肉的なレベルは高いが、それ以外は期待していたほどじゃなかった。

司会 それでは、身障者が人生を明るくするためにやっているというような面はみられないということですか?

吉田 よく〝体道〟ということばを使いますが、そういうような感覚はぜんぜんないんです。日本人は剣道、柔道といったものを単なる人殺しの道具、あるいは身を守るためのものであるという考え方を一歩進めて、人間形成の哲学にまでもっていきますね。ですから欧米で生まれ育ったボディビルですが、もう日本流のボディビルに育っていい時期がきてるんじゃないかと思いますが。

司会 なるほど。たしかに日本という国は、東洋古来のものに西洋の科学技術を取り入れた文化をもっていますねそこで、われわれも世界のボディビル界に対してより価値のある存在にならなければいけないんですね。

吉田 そうです。肉体と精神をうまくミックスさせるのが日本のボディビルだと思います。

司会 それでは、ますますわれわれ一同自信をもって、アジアのボディビル界はもちろん、世界のボディビル界をもリードする誇りに満ちて歩んでいこうではありませんか。
月刊ボディビルディング1969年12月号

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