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ビルダーなら誰にでもできる力技のいろいろ

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月刊ボディビルディング1977年11月号
掲載日:2018.07.29
国立競技場指導主任 矢野雅知
 今月から「スーパー・アスレイト」を著したデービット・ウィロビー氏の「フィート・オブ・ストレングス(力技)」をもとにして、種々の力技について述べてゆこうと思う。
 ふつう「力持ち」といえば、重たいバーベルを持ち上げたりするが、米俵をかつぎ上げたり、クロトンのミロのように牛をかついで歩いたり、あるいは満員のバスを引っぱって歩くなどという力技もある。そういった数多い力技の中から、ハデさこそないが手や指や前腕などを用いる力技を中心にして稿を進めてゆきたい。

あなたの握力は?

 手・指・前腕の力、すなわち握力はバーベルを握るウェイト・トレーニーにとって、なくてはならない力のひとつである。
 この握力を測定するには、ふつう握力計を用いるが、握力計にもいろいろのタイプがあって、均等に強さを比較することは難しい。だが、一般的に男性の握力の平均は45kg前後、女性は30kg前後であろう。
 この握力も強くなってくるとたいへんなもので、プロレスラーの中にはこれを売りものにしているものもめずらしくない。例えば、バロン・フォン・ラシクや、大きな手で相手の頭をスッポリと包み込んでしまうアンドレ・ザ・ジャイアント、あるいは、引退してしまったが、フリッツ・フォン・エリックなどは、相手レスラーの胃袋をつかんだままで持ち上げてしまうほどのパワーを持っていた。彼の握力は、実に150kgといわれているが、最大瞬間握力は200kg近くあったともいう。
 そんなことはともかく、握力で70kg以上ある人は、一般人のあいだでは数少ない。それだけで自慢になる。おそらくスポーツマンのなかでも強いといえるだろう。
 では、記録に残るストロングマンの握力とはどのくらいなのだろうか。19世紀に怪力でその名をはせた〝アポロン〟ことルイス・ユニは、1902年に153kgの握力を記録している。このとき彼は40才であったので、全盛時のパワーはさらに凄いものであったと想像される。かの有名なハーマン・ガナーは、59才の頃、正確にいうと1949年12月に、右手で169kgを記録している。もし彼が20~30代の全盛期に測定していれば、とてつもない力を示していたであろう。
 ところで、近代ボディビルディングの元祖ともいうべきユーゼン・サンドウの握力は、どれほどだったのか?これは記録が残っている。ハーバード大学のタドレイ・A・サージェント博士のテストによると、なんと彼の握力は75kgしかなかったという。もっとも75kgといえば一般人の中に入れば目立つ存在であろうし、腕角力などやれば、グイと強く握りしめられただけで相手は手がしびれてしまって、十分な力を発揮することもなく捻じふせられてしまうだろう。
 では、読者の握力はどれほどの強さであるのか測定してみよう。とは言っても、なかなか握力計を手にすることはできないが、握力のテストをするのに最も利用価値のある便利なものは、バスルームに置いてあるスケール(体重計)である。
 [図1]のように、両手でスケールの両サイドを持って圧力をかけてみる。このとき、スケールをからだに触れてはならない。
 この方法によって得られたものは、ふつうの握力計で計る記録よりも弱く出るはずである。だいたい90kg以上の力が出れば、たいしたものである。110kg以上なら凄いものである。135kg以上なら、これは驚くべき力である。さらに150kgを越えたなら、記録的な力である。
 このテストにおいては、測定者の体重というものは、必ずしも重要な要素ではない。これから先、もの凄い手と指の力をもった力技者を紹介してゆくわけであるが、そういった記録も、すべてが体重の重い男性によってなされたものばかりではない。しかも彼らの前腕の太さは、並みはずれて大きいものではない、ということを明記しておこう。
[図1]体重計を使った握カテスト

[図1]体重計を使った握カテスト

電話帳破りとカード破り

 指力(フィンガー・ストレングス)が強いといろいろなものを引き破ることができる。新聞紙をまるめたものを引きちぎったり、牛乳パックを折りたたんだものを引き裂いたり、タオルを引きちぎったりすることもできよう。この種のもので、見た目にカッコよくて、比較的カンタンにできるのが電話帳破りであろう[写真2]。これなどは、コツさえのみこめば容易に行なえる。それがだめな人は、漫画週刊誌を読みおわって、駅のゴミ箱などにポイと投げ入れる前に、2つに引き破ってみる、というように、たえず鍛練していれば、いずれは電話帳も可能になるはずだ。
 こうなれば、宴会などに電話帳をぶら下げてゆき、余興にビリビリと引き破ってみせれば、大喝采を受けること必定である。
 このフィンガー・ストレングスを鍛える最も効果的な方法のひとつに、アドリアン・ピーター・シュミットがとった方法がある。彼は19世紀のニューヨークの有名なフィジカル・インストラクターで、体重はわずか56kgしかなかったが、驚くべき指力(握力)をもっていたといわれている。まず、両手にそれぞれ新聞紙のハシを握る。そして、指の力を使って手の中に新聞紙をまるめ込んでくる。こうして、ついには新聞紙は手のヒラの中で、パンパンになったまるいボール紙になってしまう。さらにグリップが疲れきるまでこれをカタく、小さくしてゆくのである。
 この方法は誰れにでも簡単に出来るし、手の指すべてを鍛えることができる。とくに手のヒラの側の筋肉を鍛えることになる。これでトレーニングを積んでゆけば、重たいものでもつまみあげることもできるようになろう。例えば、余興に2本の指で一升ビンをつまみあげて、人を驚ろかすこともできようし、いづれ紹介してゆくピンチ・グリップなども強くなろう。
 そのために、新聞を読みおえたら、テレビの横にうず高く積み上げておいてトイレットペーパー1個と引き換えるより、小さなボール紙にしてクズカゴに捨てた方が、よっぽどタメになるから、毎日新聞紙でトレーニングをしてみたらいかがであろうか。
 ところで、海の向うではフィンガー・ストレングスの力技として、昔からトランプのカード破りがボードビルの舞台などで行なわれている。
 ユーゼン・サンドウは、3組のカード(1組は52枚)を半分に引き破ったという(1893~1902年頃)。サンドウの講演のアシスタントを1年ほどやっていたトレロア(ロスアンジェルスのインストラクター)は、「彼(サンドウ)は、いつも16~18秒ほどで引き破った」と述べている。ボディビルの元祖は、その肉体美だけでなく、その指力でもたいしたものだったのだろう。
 さて、そのトレロアであるが、彼もまた、3組のカードを引き破ることができた。それが出来るようになるまで、あちらこちらのボードビルで、カード破りのテクニックを勉強して、自らも工夫したということである。
 トレロアのテクニックとは、左手でカードをヒザの上でオーバー・グリップで握り、右手でカードを上から持つ。そして、カードをS字状に折り曲げるようにして力を加えてゆき、切れ目が入ったところを引き破るのである[写真3]。彼は3組のカードを、およそ20秒ほどでやったそうだが、これを観た1915年〜1920年のウェイトリフティングのチャンピオン、ノーア・ヤングは、強い感動を受けた。彼は発奮して鍛練した結果、3組のカードを引き破ることができるようになったという。
 また、ユーゼン・サンドウと同時代に活躍した力技者のG・W・ロランドラは、3組のカードにさらに6枚追加して、つまり162枚のカードを引き破ることができたという。
 記録に残っているかぎり、いまだに4組のカードを引き破ったというものはいないようだ。ライオネル・ストロングフォードは、舞台で5組のカードをまとめて引き破ったと主張したがそのカードは、あらかじめ火にあぶって、もろくしておいたのだといわれている。
 ポール・フォン・ボエックマンは、1900年頃のストロングマンであるが、彼は親指と人差指だけで、1組のカードのハシをつまんで、ちぎり取ることができた[写真4]。この種の力技は、カード破りのなかでもひじょうに難しいものである。ケタはずれの指力がなくては出来るものではない。
 もう1人、もの凄いストロングマンがいる。それはアメリカのカード破りのハーマン・ブッシュである。彼もまたボエックマンと同じように、カードの一片をちぎり取ることができた。彼はすでに16才のときに、1組のカードを8つにひき破ったといわれている(のちに、この力技は10秒とかからずに行なうことができた)。また、20分もかからずに、
1組のカードを、なんとズタズタに40片もに引きちぎったという。驚くべきフィンガー・パワーである。彼は「最も難しいのは、ケースに入ったままのカードを引き破ることである」(1948年)と語っている。
 ところで、イギリスのストロングマン、ジョン・バレンテーは、カードケースから出さずに、2組のカードを半分に引き破ることができた、と述べている(1950年)。
 まったく世の中、凄い人がいればいるものである。
[写真2]電話帳破り。部厚い電話帳を簡単に破ってみせる遠藤光男氏

[写真2]電話帳破り。部厚い電話帳を簡単に破ってみせる遠藤光男氏

[写真3]カード破り

[写真3]カード破り

[写真4]親指と人差指でのカード破り

[写真4]親指と人差指でのカード破り

月刊ボディビルディング1977年11月号

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