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JBBAボディビル・テキスト49
指導者のためのからだづくりの科学

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月刊ボディビルディング1977年10月号
掲載日:2018.07.27
各論Ⅲ(生理学的事項)3. 筋
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野 匡宣

3−2 筋収縮

いかなる身体運動においても、筋そのものの働き方が最も重要であることは論をまたない。
 そこで、人体における運動を発現させる機能としてみた筋について考えてみたい。
 すなわち、解剖学や生理学の書物には、筋について詳細な説明がなされているが、
ここでは、骨格筋の活動単位について、エネルギー生成、そのエネルギーがいかにして
機械的仕事に変換されるかという問題に焦点を合わせながら、
筋収縮のメカニズムの概要を筋の機構をとおしてのべていく。

3−2−1 筋のタイプと性質

 筋は一般には横紋筋、平滑筋、心筋の3種に大別されている。
 横紋筋は光学的に明暗の縞模様が認められるためにその名があり、
骨格筋と心筋がこれに属している。
骨格筋は両端が骨格に附着していて、関節運動に関与している。
心筋は、心臓壁を構成し、心拍動を営んでいる。
 平滑筋は心臓以外の胃・腸・血管壁などの内臓器官の壁を形成している。
 神経支配の面からみると、骨格筋は意志によって活動させることができるため、
随意筋と呼ばれ、平滑筋は自律神経の支配下にあり、
意志によるコントロールができないため、不随意筋と呼ばれる。

 骨格筋はまた、どのような関節運動に関与するかによって、
屈筋と伸筋、内転筋と外転筋、回内筋と回外筋などにわけられている。
あるいはまた、下肢の伸筋群は重力に抗するため、抗重力筋と総称されたり、
脊柱を起立させる筋群を体幹起立筋と総称することがある。
なお、1個の筋が単独で作用することはほとんどなく、
いくつかの筋が共同して働くことが多い。

 たとえば、上腕三頭筋と上腕筋のように、肘を屈するという同じ目的に働く筋を共同筋と呼び、
また、上腕二頭筋と上腕三頭筋のように、相反した方向の関節運動に関与する筋を拮抗筋と呼んでいる。

 その他に、附着部位により、表在筋とか、深部筋、
単関節筋、多関節筋などに分けられることもある。
 大胸筋や殿筋は単関節筋であり、上腕二頭筋や縫工筋は2つの関節に、
手や足の筋は4〜5個の関節をはさむ多関節である。
複雑な関節運動をひき起こすことができるのは、もちろん多関節筋のほうである。
 以上のように、作用の役割が異なる筋や、または性質の異なるもの
(白い筋肉、赤い筋肉とか、敏速筋と遅速筋というようによばれるものなどについては別の項で述べる)もある。
 このように、いろいろと分けられ、名付けられているが、
これらはいずれも長い歴史の中で、それぞれの特徴にもとずいて命名されている。
(1974年5月〜10月号までの本誌、解剖学的事項の筋系および運動と運動器官参照)

3−2−2 骨格筋の構造

 1つの骨格筋は、一般には太さ0.01〜0.1mm、長さ数mm〜30cmの筋線維が束になったもので、
外側には筋膜におおわれており、腱を介して骨に附着している。
 筋線維は、筋線維鞘という筋形質膜でつつまれ、
内部に線維に沿って筋原線維が平行に走り、この筋原繊維の間に水溶性蛋白質や代謝産物を含む筋形質や、
エネルギーの化学工場であるミトコンドリア等が満たされている。
また筋収縮の発火剤となる筋小胞体もある。(参考図A)
[参考図A]筋肉及び筋線維

[参考図A]筋肉及び筋線維

 運動神経が骨格筋に接するところは終板と呼ばれ、この運動神経の終末部には顆粒やミトコンドリアがある。
(参考図B)
[参考図B]神経と筋の接合部(ガードナー1963)

[参考図B]神経と筋の接合部(ガードナー1963)

 1本の筋線維は1個の筋細胞であり、筋繊維というより、筋細胞といった方がよいが、
その形が、とくに細長く糸のようなところから筋線維と呼ばれている。
また、運動終板は筋線維の中央部にあり、筋線維鞘とは筋線維と呼ばれる筋細胞の細胞膜である。
 筋線維内の筋原線維は、さらに細いフィラメントの束で出来ており、
そのフィラメントには太いフィラメントと細いフィラメントの2種類がある。
 すなわち、筋線維は筋原線維の束であり、筋原線維はまた多数のフィラメントの集合体である。
これが光学的には縞模様の明暗のある横紋構造をもっており、明るい部分をI帯、
暗い部分をA帯、A帯の中央部のやや明るいところをH帯と呼んでいる。
I帯の中央部にZ膜(中間膜)があり、このZ膜により明暗のひと区切りの分野を作っている。(参考図C)
[参考図C]骨格筋の微細構造膜式図(H.E.ハックスレ)

[参考図C]骨格筋の微細構造膜式図(H.E.ハックスレ)

 これらの筋の微細構造は、電子顕微鏡の発達により明らかにされたもので、
この微細構造の解明により筋収縮に関する詳しい分析がA・Fハックスレらによってなされ、
フィラメントの配列とその変化から、収縮のメカニズムとして滑走説が提唱され、
現在これが通説となっている。
 筋線維の長さが変化して、短縮したり伸長したりする場合に、
A帯は一定のままであるが、I帯の長さが変化するというもので、
これは細いフィラメントが太いフィラメントの間にすべり込むことによって起こる。
 人の場合、1つの筋の筋線維の数は、胎児が4〜5ヶ月に達した頃に最終的に
決まってしまうものであるが、筋線維の太さはいろいろと変化する。
 たとえば、出産時の筋線維の太さは胎生児4〜5ヶ月目の約2倍であるが、
成人の太さと比べると、わずか1/5である。

 なお、人を含めた哺乳動物の筋は、異なった筋線維(白筋と赤筋)からなっているため、
その性質によっても太さに違いがあり、同種の筋線維でも、その所在部位や使用度等により異なるが、
筋に対する訓練いかんにより太くすることができる。
月刊ボディビルディング1977年10月号

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