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なんでもQ&Aお答えします 1978年1月号

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月刊ボディビルディング1978年1月号
掲載日:2018.07.22

ベンチ・プレスのバリエーション

Q ボディビル歴は3年です。以前は区営の体育館に通っていたのですが、現在は勤務先で同好会をつくって、そこでトレーニングを行っています。同好会のメンバーは10名たらずですが、経験の最も長いということで私がリーダーになってやっています。まだまだ人にコーチできるほどの実力はありませんが、安全第一をモットーにして和気あいあいとトレーニングに励んでいます。
 そこで質問いたします。ベンチ・プレスのバリエーションと、その効果についてご教示ください。
(東京都 佐々木広久 25歳)
A 安全第一をモットーとしてトレーニングを行なっているというのは大変よいことです。ボディビルのトレーニングも、社会性を重んじ、保健体育という見地からすればそうあるべきです。今後も無理なことを慎しみ地道に努力を続けてください。
 では、質問のベンチ・プレスのバリエーションについてお答えします。
 ベンチ・プレスを使用器具の面から分類すると、バーベルによる種目とダンベルによる種目に大別できます。この他にも、レッグ・プレス・マシーンを用いる特殊な方法もありますが、それについては省略します。

◎バーベルによるベンチ・プレスのバリエーション
 バーベルを用いて行うベンチ・プレスの正確な名称は、ベンチ・プレス・ウイズ・バーベル、またはバーベル・ベンチ・プレスです。しかし、通常的にはバーベルの語を略して、たんにベンチ・プレスの名で呼んでいます。

〈1〉最も一般的なベンチ・プレス(ベンチ・プレス・ウイズ・スタンダード・グリップ)
 ベンチ・プレスにおける最も一般的なグリップの間隔(スタンダード・グリップ)は、両腕を左右横へ水平に広げた状態での、両肘の幅(±5~6cm)くらいである。そして、このようなスタンダード・グリップによるベンチ・プレスは、この種目における最も基本的、かつ基礎的な運動法といえる。
 したがって、初・中級者はもちろんのこと、上級者にあっても、胸部を鍛練するための運動種目として重要視される。

〈効果〉練習者の骨格(主に胸郭の形状)と大胸筋自体の先天的な形状によって、発達の仕方に差異はあるが大胸筋全体の筋量を増すのに有効。

〈2〉ワイド・グリップによるベンチ・プレス(ワイド・グリップ・ベンチ・プレス、ベンチ・プレス・ウイズ・ワイド・グリップ)
 スタンダード・グリップよりも広い間隔にシャフトを握って行うベンチ・プレスのこと。[写真参照]
〈効果〉大胸筋。とくにワキに近い部分に効く。ワイド・グリップによるベンチ・プレスは、慣れれば重い重量を挙上するのには有利になるが、動作の可動範囲が狭くなるので、それだけに効果が狭い範囲にかたよるきらいもある。
[ワイド・グリップによるベンチ・プレス]

[ワイド・グリップによるベンチ・プレス]

〈3〉ナロウ・グリップによるベンチ・プレス(ベンチ・プレス・ウイズ・ナロウ・グリップ、ナロウ・グリップ・ベンチ・プレス)
 スタンダード・グリップよりも狭い間隔のシャフトを握って行うベンチ・プレスのこと。なお、ナロウという語の替りにクローズという語を用いることもある。[写真参照]

〈効果〉大胸筋(比較的内側に効く)上腕三頭筋。
 ナロウ・グリップによるベンチ・プレスは、グリップの間隔を狭くするほどに、傾向として大胸筋の内側の部分に効くようになり、また、それと同時に上腕三頭筋(おもに外側頭)に効くようになる。

〈注意事項〉グリップの間隔が肩幅よりも狭くなってくると手首を疲めるおそれが生じてくる。このような場合には、サムレス・グリップ(通常は親指と他の四指を逆方向から握るが、これは四指に親指を並べて五指そろえた方法)による握り方でシャフトを握るとよい。
[ナロー・グリップによるベンチ・プレス]

[ナロー・グリップによるベンチ・プレス]

〈4〉ロゥア・ツー・ザ・アッパー・ペクツの方法によるベンチ・プレス(ベンチ・プレス・ロゥア・ツー・ザ・アッパー・ペクツ)
 スタンダード・グリップでバーベルを持ち、胸の上部(鎖骨のすぐ下のあたり)にシャフトがくるようにバーベルをおろすベンチ・プレス。[写真参照]

〈効果〉大胸筋、とくに上部に有効。

〈注意事項〉無理な重量を用いて行うと肩を痛めるおそれがあるので、余裕のある重量で慎重に行うようにする。また、運動中に背を反らしすぎると効果が半減するので、ベンチに両足をのせて膝を立て、背をベンチに密着させて行うとよい。
[ロゥア・ツー・ザ・アッパー・ペクツ]

[ロゥア・ツー・ザ・アッパー・ペクツ]

〈5〉ロゥア・ツー・ザ・リッブの方法によるベンチ・プレス(ベンチ・プレス・ロゥア・ツー・ザ・リッブ)
 スタンダード・グリップよりもいくぶん狭い間隔にバーベルを持ち、シャフトが大胸筋の下端、肋骨(リッブ)のあたりにくるようにバーベルをおろすベンチ・プレス。[写真参照]

〈効果〉大胸筋。比較的下部に効く。

〈注意事項〉背をできるだけ反らさないように留意して行う。そのためには、ロゥア・ツー・ザ・アッパー・ペクツの場合と同様に、両足をベンチの上にのせ、膝を立てて行うとよい。また、バーベルを挙上するとき両肩を首の方へすくめないように注意し、ワキをしめるような感じで行う。ワキが甘くなると、効果が半減する。バーベルは差し上げるというよりは、押し上げるといった感じで行うのがよい。
[ロゥア・ツー・ザ・リッブ]

[ロゥア・ツー・ザ・リッブ]

◎ダンベルによるベンチ・プレスのバリエーション
 この運動は一般にダンベル・ベンチ・プレス、またはベンチ・プレス・ウイズ・ダンベルと呼んでいるもののバリエーションです。

〈1〉普通の方法におけるダンベル・ベンチ・プレス
 運動の方法については説明するまでもないと思いますので省略しますが、ダンベルをおろしたときには両肘を十分に下にさげるように留意する。また、動作の途中でダンベルの向きが変わってもかまわない。[写真参照]

〈効果〉大胸筋。非常に広範囲にわたって効く。
[普通の方法によるダンベル・ベンチ・プレス]

[普通の方法によるダンベル・ベンチ・プレス]

〈2〉パラレル・グリップの方法によるダンベル・ベンチ・プレス(ダンベル・ベンチ・プレス・ウイズ・パラレル・グリップ、パラレル・グリップ・ダンベル・ベンチ・プレス)
 左右のダンベルを並行に付け合せたまま行うダンベル・ベンチ・プレス。

〈効果〉大胸筋の内側と、いくぶん下部に効く。また、上腕三頭筋(おもに外側頭)に有効。

〈注意事項〉ダンベルをおろしたとき両肩を首の方へすくめないように留意する。

〈3〉バック・ライイングの方法によるダンベル・ベンチ・プレス(バック・ライイング・ダンベル・ベンチ・プレス)
 ベンチの一端に背から上だけをのせて仰臥し、その体制で行うダンベル・ベンチ・プレス。[写真参照]
バック・ライイングとは、背から上だけをベンチにのせて仰臥することであって、反動の利用が抑制されるので、大胸筋をより的確に刺激することが可能となる。

〈効果〉大胸筋全体のバルクを増す。
[バック・ライイングの方法によるダンベル・ベンチ・プレス]

[バック・ライイングの方法によるダンベル・ベンチ・プレス]

 以上がベンチ・プレスのバリエーションとして比較的愛好されている運動種目です。この他では、リバース・グリップ(またはアンダー・グリップともいう)によるベンチ・プレスもありますが、この運動はどちらかというと大胸筋よりも肩に運動の比重がかかる種目なので、あえて省略しました。
 また、ダンベルによるベンチ・プレスの場合は、運動時におけるダンベルの向きと、ダンベルを下へおろしたときの肘の向きをいろいろと変化させることによって、その効果も微妙に変化しますが、誌面の関係でこれまた省略しました。

せっかく増えた体重を維持したいが

Q ボディビル歴は8ヶ月です。現在、ボディビルと並行して空手の練習をしています。ボディビルのトレーニングは隔日的に週3日ですが、空手の練習は毎日で、それも2時間くらい行っています。
 ところが最近、会社の都合でボディビルを1週間、空手を2週間休みましたが、その間に体重が2kg近くも増えました。これはからだを楽させたからだと思いますが、従来どおりにボディビルと空手のトレーニングを始めたらせっかく増えた体重も減少してしまうでしょうか。また、体重が減少するおそれがあるなら、それをくい止める方法はないものでしょうか。
 現在の私の体位、食事法、トレーニング・スケジュールは次のとおりです。
<体位>

<体位>

<食事法>
蛋白源として肉類、豆類(および豆製品)、牛乳(および乳製品)をつとめてとるようにしています。主食としては、朝と夜にごはんを1.5~2杯、昼食にパン半斤。もちろん、野菜や果物も適当に食べています。
<トレーニング・スケジュール>

<トレーニング・スケジュール>

なお、トレーニング後の疲労感はこころよいものです。
(千葉県 高木三男 会社員 19才)
A せっかく増えた体重が、従来どおりのトレーニングを開始することによって減少してしまわないだろうか、というご質問ですが、それについて簡単にお答えすることはできません。
 トレーニングを休む前は、現在より体重が2kg少なかったとはいえ、それなりに体重が安定していたのであれば従来のようにトレーニングを行なっても、そうそう体重が減少していくようなことはないと思います。もちろん、この場合、食事、睡眠、労働等の諸条件が従前と内容的に同じであることを前提としてのことです。
 しかし、上述の場合とちがって、以前に、体重が減少していく傾向にあったのであれば、その場合は、従来どおりのトレーニングを始めれば、体重が再び減少していくと考えられます。
 一般的に体重の増減は、摂取カロリーと消費カロリーの関係においてなされます。端的にいえば、食物として摂取するカロリーが、スポーツや労働によって消費されるカロリーを上回る場合は、その余剰となったカロリーは、体脂肪というかたちで体内に蓄積されその分だけ体重が増加します。
 その反対に、食物として摂るカロリーが、スポーツや労働によって消費されるカロリーに満たない場合、つまり供給が需要を下回るときは、足りない分を体脂肪がエネルギー源として代替するので、その分だけ体脂肪が少なくなって体重が減少します。しかし、実際には、生体の機構というものは、そのように単純なものではないので、極端な体重増量法や減量法は慎しむ必要があります。
 以上に述べたことがらによって、あなたも体重が増減することについて、おおよその察しがついたと思います。
 あなたの場合、ボディビルと空手のトレーニングを休んでいる間に体重が2kgも増えたのは、消費カロリーが減ったために、さきに述べたように体脂肪となって体内に蓄積されたからでしょう。
 したがって、今後、従来どおりにボディビルと空手のトレーニングを再開した場合、体重が減少するか否かについては、食生活を抜きにして考えることはできません。再開後に、もしも体重が減少していくようであれば、それは摂取カロリーの不足と考えられるので、主食や油脂の多い食物を、胃にあまり負担をかけないように工夫して食べることが必要になります。
 もちろん他の栄養素についても留意することが必要ですが、あなたの場合トレーニング後の疲労感から判断される体調も正常と思われるので、現在のところはさして問題とするにはおよばないかも知れません。しかし、留意するにこしたことはありません。
 では最後に、老婆心ながら、あなたがこれからトレーニングを続けていく上で注意しなければならないことがらを箇条書にして述べておきます。体重が減少しない場合でもオーバー・ワークになることがありますので、その点についてはとくに留意してください。

◇オーバー・ワークについての注意
①生気がなく、体調が悪くないか。
②トレーニングをするのに負担を感じないか。
③運動と体力(ボディビルの場合は運動負荷と筋力)に調和が見られなくなり、所定のスケジュールを消化するのに極度の義務感を必要としないか。
④トレーニング日ごとに運動の能力が低下し、トレーニングの効果に希望がもてなくなってはいないか。
⑤運動の能力(ボディビルの場合は、使用重量に対する筋力)が低下していなくても、気分的にツラサが高まってきてはいないか。
⑥トレーニング後の疲れが激しく、倦怠感を覚えはしないか。また、かなりの疲労が翌日にまで残り、日常生活における気力が減退してはいないか。
 以上のような兆候が見られたら、速やかに休養をとり、場合によっては、再開時に思いきってトレーニング量を減らすとか、週間頻度を少なくするとかの処置をとるようにしてください。

〈追記〉トレーニング・スケジュールをみて気になることがあります。それは、ベント・オーバー・ローイングの使用重量が、他の運動種目の使用重量に比して重すぎるような感じがすることです。一応、運動のフォームと動作が正確であるか否かについて自分なりに検討してみてください。[写真参照]
[ベント・オーバー・ローイング]

[ベント・オーバー・ローイング]

歪んだ脊柱をトレーニングで治したい

Q 私の脊柱は図に示したように歪んでいます。日常の習慣や姿勢の悪さが原因でこうなったのではないかと思っています。このことに気づいたのは半年ほど前で、その後、いろいろな本などを見て矯正運動なども熱心にしてみたのですが、一向によくなりません。それどころか、以前よりかえって悪くなったような気がします。近頃では曲るというより脊柱がずれてくるといった感じさえします。
 ボディビルが好きなので、このままトレーニングを続けていきたいと思っているのですが、運動のフォームも悪くなっていることでもあり、どうしたものかと考えあぐねています。
 病院にはなるべく行きたくありません。歪んだ脊柱を自宅でなんとか矯正する方法はないものでしょうか。
(大阪市 H生 16才)
A あなたのように脊柱が曲っているのを側彎といいます。そして胸椎の部分が左方へ凸形に彎曲しているものを左彎と呼んでいます。このような彎曲の矯正は、脊柱が前後に彎曲している凹背や円背の矯正よりむずかしいと考えられます。
 側彎の原因としては、日常生活において、からだの左右どちら側か一方により頻繁に負荷がかかる場合とか、または習慣化された悪い姿勢などが考えられます。脊椎カリエスのような直接骨に関した病気が原因になることもあります。
 カリエスによる場合は別として、日常的な左右不均衡な負荷が原因の場合も、また、姿勢や生活上の悪い習慣が原因の場合も、ひと度、側彎になるとなかなか矯正することは困難です。
 側彎も始めのうちであれば、意志を強固にもって姿勢を正しく保ち、それによって治すことも可能ですが、年月がたつにしたがって、矯正が困難になってきます。その上、側彎はおおかたの場合、胸椎の部分と腰椎の部分が反対方向に彎曲しているので、先に述べたように凹背や円背と比べて矯正が一層困難となります。
 以上のようなわけで、素人療法で簡単に治せるというものではなく、生半可な知識で矯正運動を行うと、かえって悪くするおそれがあります。なるべく病院へ行きたくないといっておられますが、手紙の文面からすると、かなり年月もたっており、すでに素人療法では治らない状態になっていると考えられます。脊椎カリエスということもないでしょうが、一応、そのことの診察もかねて専門医にみてもらうことをおすすめします。もちろん、ボディビルのトレーニングは即座に中止することです。あせることなく、からだが完全に治ってから、再びトレーニングを開始すべきです。
[脊柱を背後から見た図]

[脊柱を背後から見た図]

[解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生]
月刊ボディビルディング1978年1月号

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