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強いラグビー選手になるために

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月刊ボディビルディング1978年4月号
掲載日:2018.08.01
〈JBBA技術委員 健康体カ研究所 野沢秀雄〉

1 ラグビー人気の秘密

(別表)日本代表の体力表

(別表)日本代表の体力表

「早稲田」「明治」「慶応」「日体大」一白熱する勝負展開の全国大学選手権大会,「トヨタ」「新日鉄釜石」「近鉄」「東京三洋」など互角の好勝負を見せる全国社会人大会,「目黒高校」「花園高校」「大阪工大高」「秋田工高」など若さあふれるプレイの全国高校大会。これらの試合には数万の人びとが集まり,TVで全国中継される。「○○さあーん!」と若い女性ファンの黄色い声援がとびかうモテモテぶりだ。なぜラグビーにこうも人気が集まるのか?......
 ラグビーの魅力を解剖すれば数多くの要素があげられるが、とりわけ身長180cm近く,体重も80kg以上ある大型選手が体力の限界ギリギリまでチーム一丸となってぶつかりあう「格闘技」の性格を持っているからではなかろうか?つまり体力・持久力のもっともすぐれた人間の「肉弾戦」に面白さのポイントがあるようだ。
 私が卒業した高校でも,体格と体力に恵まれ,運動能力のある者は,ラグビー部か野球部か柔道部のいずれかに入部しており,その他の運動部の選手と格段の差がついていた。とくにラグビー部の選手は強じんな体と体力を持つ者の集団であり,現在も伝統が続いている。

2 一流ラガーの体格・体力調査

 長野県の菅平高原といえば,全国のラグビーチームが強化合宿に集まるメッカである。村をあげてラグビー選手を歓迎し,グラウンドの数・規模・設備などすばらしいものである。
 日本ラグビーフットボール協会(本部は渋谷の体協内)は毎夏トップクラスの選手を選抜して,菅平で合宿訓練をおこなっている。この合宿中、全日本,および高校それぞれ65名の選手について,体格・体力測定をおこなった結果を私は分析し,「ラグビーマガジン」誌に連載したが,ひじょうに興味深い内容を含んでいる。
「あれっ?意外だなあ」と感じるくらいである。

①平均身長は175cm,平均体重は75kg(FWだけの場合はさらに大きい)と,一般人にくらべてずっと大きいが,胸囲はあまり大きくない。とくに高校選手の平均は87cmで,一般の高校生と同水準である。

②背筋力が200kgを超える選手は全日本で9名,高校生で1名。平均は全日本170.4kg,高校選抜選手132.1kgである。高校選手はふつうの高校生とあまり変らない。なかには95~100kgしか数字のあがらない者がいるが「腰痛」でもなければこんな低い数字は考えられない。

③鉄棒で「懸垂回数」を測定した結果は全日本11.1回,高校9.7回で,一般人よりややすぐれている程度。15~20回連続できる選手がいる反面,4回~5回しかできない選手が何人かいる。

④腕立伏せは全日本平均44.8回,高校生39.7回と好成績である。一般人の平均は29回だから,2倍近くのスタミナを持っている。(ただし腕立伏せの回数は筋力の目安というより,持久力の問題であることに留意されたい)

⑤腹筋回数(シットアップ)をみると全日本選手は48回,高校選手は51回と良好な結果である。一般人は23回なので,各チームとも腹筋運動には力を入れていることがわかる。

⑥50m走については、全日本7.09秒,高校選手7.24秒であり,一般人平均7.30秒より,かなりダッシュ力を持っている。

以上から判断されることは,毎日の猛練習で,ラグビー専門のトレーニングとランニング,腕立伏せ、腹筋運動くらいまでは実行されているが,本当の筋力増加と直結するウェイト・トレーニングはあまり採用されていないことである。
 これでは海外の強豪チームに惨敗し勝ち抜けないのも当然であろう。せっかくのファンもガッカリしてしまう。

3 全日本代表の体力

 昨年10月山梨大学で開催された第28回体育学会の席上,日体大の堀居昭教授は,ラグビーの全日本候補選手とスコットランド・チームとの体力比較について発表。これが10月27日付サンケイスポーツ紙上に大きく報道されている。(別表参照)
 これによると,握力は日本選手平均55.7kgVS英国選手100kg,背筋力は日本選手183kgVS英国選手277kgと大差がある。背筋力を体重で割算し,体重1kg当りの背筋力を計算すると,日本選手2.20kgに対し英国選手は2.89kgある。
「FWの平均体重86kg!」と日本のラグビー界が誇っても,見かけだけの体重の数字では戦力にならない。
 堀居教授は「体格はオリンピック日本代表選手と比較して最上位であるが、体力の点では,すべてが見かけだおしだ。立派な体に見合う体力はからっきしなし」「背筋力の場合,なにかの間違いでないかと,もう一度計算しなおしたほど」と語っている。
結局この原因は「日常の練習に筋力トレーニングがひとつもないため」と協会も気付き、候補選手に対して次のようなプログラムが課せられている。

★パワーダッシュ(全員)

①ダンプ用タイヤを足首につけて引き50mダッシュ6回
②傾斜面での50mダッシュ6回

★コンタクト能力(全員)

①押し相撲の採用
②1対1でのボール奪いあい

★脚力養成(BK)

野球用ネットを利用した連続キック左右各30回

★各種ウェイトトレーニング(全員)

ベンチ・プレス,スクワットなど

★持久カ(全員)

毎日8kmロード(FWは50分以内。BKは40分以内で走る)

★反応力(全員)

各種姿勢から素早く立ちあがり10~20mダッシュ8回

★跳躍力(FW)

ゴールポストにボールをゴムひもでつるして,連続ジャンプ10回
写真 ベースボール・マガジン社提供

写真 ベースボール・マガジン社提供

4 腹囲と皮下脂肪が決め手

「いくら体重があっても脂肪が多くてはスポーツの戦力にならない」と筆者はかねてから主張してきた。これを証明するために,レスリング・重量挙・ボクシングなどの一流選手を対照にデータを積み重ねている。ラグビー協会に「ベストラグビー」等で知られる大西鉄之祐氏を尋ね,最高の技術権威である同氏と次のような話をした。有用な示唆として,これからの課題としてゆきたい。

①ラグビー選手として皮下脂肪が多すぎることは明白である。
②しかし皮下脂肪が薄すぎる場合,スタミナ等戦力の点で問題がある。ちょうど適度があるのでは?
③全日本選手についてはデータがそろっている。外国選手のデータはない
④腹囲のデータはない
 このような意見を互いにかわせたことはすばらしい。ラグビー界において今後ウェイト・トレーニングがさかんになると思うが、体づくりをしてゆく上で,ぜひ腹囲と皮下脂肪は各自でチェックしていただきたい。

 腹囲と皮下脂肪をはかるメリットは
A  脂肪でブクブク太るのを制限できる
B 背筋力測定のような装置が不要
C 無理して腰など痛めることもない
D 自分たちで簡単に自己管理できる
 などである。
 具体的にはメジャー1本あればよく皮下脂肪はへその横1~2cmのところを両指ではさんで、厚みを測定すればよい。ラグビー選手なら,腹囲76cm以下,皮下脂肪10ミリ以下を一応の目標にするとよい。

5 食事のとり方も重要である

 ウェイト・トレーニングの効果的な方法は,全国各地のトレーニング・センターや各大学のクラブで指導を受けるのが有効である。バーベルやダンベルの練習にともなって,食事法を「たんぱく質中心」に切りかえることが効果をあげる第二のポイントである。
 ウェイト・トレーニングと食事は,ちょうど車の両輪であり,共に適度の水準に持ってゆくことが大切だ。アメリカでも「食事の比重が80%」(IRONMAN誌)とまでいわれている。
 ところが現在の各チームの食事内容は「ひどすぎる!」と感じる場合が多い。今までに法大・慶大・学習院大学などのラグビー部合宿所を訪れて、食事の大切さについてアドバイスしてきた。毎日毎日倒れるほど激しい練習をしているのに,夕食のメニューは「どんぶりめし1杯・みそ汁・さけのフライ1切れ・トマト1切れ・キャベツ少々・ぶどう少々」たったこれきりだ。運動を何もしない学生たちと変らない食事内容だ。
 「これでは勝てっこないよ!」と思わず口にしたくらいだ。食べることは体力づくりの基本である。いくら練習しても,筋肉や血液をつくる材料である「たんぱく質」が不足していては体は大きくならない。体力もつかない。
なにも高価なステーキやトンカツ・サシミなどばかりでなくてよい。サバやサケの缶詰・チーズ・ソーセージ・卵・納豆・とうふ・プロティン・牛乳・おから・スキムミルク・レバーなど安価に良質のたんぱく質がとれる食品はいくらでもある。
 逆に「のどが乾いた」「腹がへった」といって,コーラや炭酸飲料をやたら飲んだり,ラーメン・中華まんじゅう・菓子パン・どんぶり飯など,糖分の多い食品を食べすぎることは,肥満体質をつくり,バテやすく,かえって有害である。これらの食品はカロリーはあっても微量で重要なビタミンやミネラルがほとんど含まれず,そのために体調をくずす原因になる。
 自分がどんな物を食べているか,いま一度よく検討することが大切だ。
月刊ボディビルディング1978年4月号

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