ボディビル・コンテストにおける選手の体位・体質について 1978年5月号
月刊ボディビルディング1978年5月号
掲載日:2018.07.03
日本ボディビル協会技術委員会委員長
名城大学助教授 鈴木 正之
名城大学助教授 鈴木 正之
Ⅰ はじめに
ボディビルディングは、その名の示すとおり、からだをつくり上げることであり、コンテストは競争することである。現代ボディビルと呼ばれるウェイト・トレーニングの手段は、文明という人間社会が身体活動を不要にした人間に、活動力を与え、生命力を助長させる目的と、もう1つは、かのギリシャ彫刻のような男性美に対するあこがれからくる筋肉美の造形とにあると思う。
ボディビルが現代社会において、今後発展するためには、前者、すなわち社会体育の増健運動の一翼として幅広く活動させることと、後者のように、目的を持った激しいトレーニングと食事方法の実施によって、語源を超越して、ボディビルを競技化したスポーツとして発展させなければならない。
この語源と認識の問題についての理論は、次の機会にゆずるとして、現代の多くの人が理解しているボディビルは、トレーニングにより逞しく、そして美しく鍛えあげられた肉体を、ポージングという演技をとおして見せるコンテストであり、競技化し、スポーツ化したボディビルであるといえる。
そして、このように競技化したボディビル・コンテストの優劣を決める重要なポイントは、筋肉の発達状態、身体の均斉、ポージング、知性、マナー等であるが、中でも勝負の極め手となる採点の基準で最も重要視されるのは筋肉の発達状態である。そのために、選手は筋肉の発達を最大の目標としてトレーニングを行うが、筋肉の発達に伴ない体重も増してくる。いわゆるバルクがついてくるということになる。しかし、最近のコンテストの傾向としては、たんにバルクをアップさせただけではコンテストを勝ち抜くことは困難である。
それは、バルク・アップと共に付いてきた体脂肪がじゃまをして、筋肉の発達状態を明瞭に表わすことができないからである。いいかえれば、筋肉のカット、つまりデフィニションが出ないためである。もちろん、バルクをアップさせ、体脂肪を取り除き、デフィニションをつけたからだが理想とされるわけであるが、最近のコンテストの採点の傾向としては、優先順位がバルクよりデフィニションにあるように思われる。
これがため、各種コンテストに出場する選手たちは、オフ・シーズンにバルク・アップをねらったトレーニングと栄養の摂取を行い、シーズンに入ると、バルク・アップと共に付いてきた皮下脂肪を減らす食事法とデフィニション・トレーニングに切りかえ、体質の改善をはかっている。この傾向は、一流選手になればなるほどあきらかにあらわれてくる。
この体質という問題について考えるとき、先天的体質という問題があると思うが、まずは、その実態を各地方コンテスト、およびミスター日本コンテストの出場選手の体位・体質の現状および変動状態を各コンテストをとおして、調査研究してみた。
今後コンテスト・ビルダーを目指す諸君はこの資料を参考にして、オフ・シーズンにおけるバルク・アップと、シーズンに入ってからのデフィニションの付け方を、自分の体質に合わせて研究し、ベスト・コンディションでコンテストにのぞんでほしい。
なお、この資料をとるために、地方コンテスト(中部日本コンテスト、愛知コンテスト、大阪コンテスト)出場選手と、ミスター・アポロ、ミスター日本出場選手にご協力をいただいた。また、計測に際しては健康体力研究所の野沢秀雄氏をはじめ、役員の方々にご協力をいただき感謝している次第です。誌上をおかりして厚くお礼申しあげます。
技術委員会としてはこれからも、ボディビル向上のために、選手諸君の参考となる資料をどしどし発表していきたいと考えています。
ボディビルが現代社会において、今後発展するためには、前者、すなわち社会体育の増健運動の一翼として幅広く活動させることと、後者のように、目的を持った激しいトレーニングと食事方法の実施によって、語源を超越して、ボディビルを競技化したスポーツとして発展させなければならない。
この語源と認識の問題についての理論は、次の機会にゆずるとして、現代の多くの人が理解しているボディビルは、トレーニングにより逞しく、そして美しく鍛えあげられた肉体を、ポージングという演技をとおして見せるコンテストであり、競技化し、スポーツ化したボディビルであるといえる。
そして、このように競技化したボディビル・コンテストの優劣を決める重要なポイントは、筋肉の発達状態、身体の均斉、ポージング、知性、マナー等であるが、中でも勝負の極め手となる採点の基準で最も重要視されるのは筋肉の発達状態である。そのために、選手は筋肉の発達を最大の目標としてトレーニングを行うが、筋肉の発達に伴ない体重も増してくる。いわゆるバルクがついてくるということになる。しかし、最近のコンテストの傾向としては、たんにバルクをアップさせただけではコンテストを勝ち抜くことは困難である。
それは、バルク・アップと共に付いてきた体脂肪がじゃまをして、筋肉の発達状態を明瞭に表わすことができないからである。いいかえれば、筋肉のカット、つまりデフィニションが出ないためである。もちろん、バルクをアップさせ、体脂肪を取り除き、デフィニションをつけたからだが理想とされるわけであるが、最近のコンテストの採点の傾向としては、優先順位がバルクよりデフィニションにあるように思われる。
これがため、各種コンテストに出場する選手たちは、オフ・シーズンにバルク・アップをねらったトレーニングと栄養の摂取を行い、シーズンに入ると、バルク・アップと共に付いてきた皮下脂肪を減らす食事法とデフィニション・トレーニングに切りかえ、体質の改善をはかっている。この傾向は、一流選手になればなるほどあきらかにあらわれてくる。
この体質という問題について考えるとき、先天的体質という問題があると思うが、まずは、その実態を各地方コンテスト、およびミスター日本コンテストの出場選手の体位・体質の現状および変動状態を各コンテストをとおして、調査研究してみた。
今後コンテスト・ビルダーを目指す諸君はこの資料を参考にして、オフ・シーズンにおけるバルク・アップと、シーズンに入ってからのデフィニションの付け方を、自分の体質に合わせて研究し、ベスト・コンディションでコンテストにのぞんでほしい。
なお、この資料をとるために、地方コンテスト(中部日本コンテスト、愛知コンテスト、大阪コンテスト)出場選手と、ミスター・アポロ、ミスター日本出場選手にご協力をいただいた。また、計測に際しては健康体力研究所の野沢秀雄氏をはじめ、役員の方々にご協力をいただき感謝している次第です。誌上をおかりして厚くお礼申しあげます。
技術委員会としてはこれからも、ボディビル向上のために、選手諸君の参考となる資料をどしどし発表していきたいと考えています。
Ⅱ コンテスト出場者の体位
さきにあげた1977年度の各コンテストのプログラムに掲載された資料を次のようにⒶⒷⒸの3つのグループに分類して考察してみた。
Ⓐ ミスター日本出場者46名(当日出場者42名)
Ⓑ ミスター・アポロ出場者44名(当日出場者より22名)
Ⓒ 地方コンテスト出場者134名(当日出場者より83名)
以上の3グループに分けて、年令、身長、体重、胸囲、腕囲、腿囲の順でその体位数値を比較検討してみた。なお、ミスター日本出場選手の大会当日の実測値は、第2次予選終了直後、舞台裏で測ったものである。
〈年 齢〉(図1参照)
Ⓐ ミスター日本出場者46名(当日出場者42名)
Ⓑ ミスター・アポロ出場者44名(当日出場者より22名)
Ⓒ 地方コンテスト出場者134名(当日出場者より83名)
以上の3グループに分けて、年令、身長、体重、胸囲、腕囲、腿囲の順でその体位数値を比較検討してみた。なお、ミスター日本出場選手の大会当日の実測値は、第2次予選終了直後、舞台裏で測ったものである。
〈年 齢〉(図1参照)
〈図1 年齢〉
年令については(図1)を見るとあきらかなように、3グループ間に特徴はなく、地方コンテスト出場者の平均年令が29.8才とやや高く、しかも年令層が18才〜45才と幅広い点が注目される。
また、全体的に平均年令が他のスポーツより高い傾向にあるようにみられボディビルの目的に合って若年者も中高年者も参加できる競技であることが証明されている。また、27才〜30才まではボディビルダーとしては平均的な選手であるということができ、30才代ではまだまだ花盛りであり、外国選手の40才代のチャンピオンや日本の知名定勝、宮畑豊両選手の活躍などがその例であろう。
〈身 長〉(図2参照)
また、全体的に平均年令が他のスポーツより高い傾向にあるようにみられボディビルの目的に合って若年者も中高年者も参加できる競技であることが証明されている。また、27才〜30才まではボディビルダーとしては平均的な選手であるということができ、30才代ではまだまだ花盛りであり、外国選手の40才代のチャンピオンや日本の知名定勝、宮畑豊両選手の活躍などがその例であろう。
〈身 長〉(図2参照)
〈図2 身長〉
3グループの平均身長166.4cm、標準偏差±5.3cmは、年令28〜29才の日本人平均身長166.6cm、標準偏差±5.4cmとほぼ同じ傾向にあり、ボディビルが背の高い者、低い者を問わず、幅広く行われていることが示されている。(※標準偏差とは、標準値に対するプラス(+)数値、マイナス(−)数値のバラツキ状態、すなわち、分散を知るもので、脱逸度を示す値として最も信頼できるのが標準偏差である)
また、各グループ間にもあまり差はなく、わずかにアポロと地方コンテストの間に1.2cmの差があったが、これは年令が若ければ身長が高くなる傾向があるので、ややアポロに若い選手が集まっていることを示している程度である。
〈体 重〉(図3参照)
また、各グループ間にもあまり差はなく、わずかにアポロと地方コンテストの間に1.2cmの差があったが、これは年令が若ければ身長が高くなる傾向があるので、ややアポロに若い選手が集まっていることを示している程度である。
〈体 重〉(図3参照)
〈図3 体重〉
体重の項になると、ⒶⒷⒸのグループ間にはっきり差が出てくる。もちろん、Ⓐグループ(ミスター日本出場選手)が他のグループより2〜3kg程度上回っている。
この数値の問題については後で述べるが、プログラムに記載された数値と大会当日の実測値と比較すると(表1参照)、そこには相当の違いがある。これは、数値の過大申込みや、減量による誤差が生じていることが認められる。この誤差は、体重のみならず、他の部位についてもいえることなので、ミスター日本出場選手をサンプルに、申込み時と大会当日の誤差については項を変えて述べることにする。(表2参照)
この数値の問題については後で述べるが、プログラムに記載された数値と大会当日の実測値と比較すると(表1参照)、そこには相当の違いがある。これは、数値の過大申込みや、減量による誤差が生じていることが認められる。この誤差は、体重のみならず、他の部位についてもいえることなので、ミスター日本出場選手をサンプルに、申込み時と大会当日の誤差については項を変えて述べることにする。(表2参照)
〈表−1〉各種コンテスト出場者の体位比較値
〈表−2〉ミスター日本コンテスト出場者の申込時と大会当日の実測値の平均誤差を基準にした各種コンテストのプログラムに掲載された体位修正値
体重にみられる特徴は、(図3)であきらかなように、ミスター日本出場選手は、さすがに各地の予選を勝ち抜いてきただけに、体重のバランスがとれた選手が多い。つまり、平均体重が72.7kg、標準偏差±4.3kgと、高い平均的数値で、しかもバラツキが小さいということが証明されている。
これに対して、地方コンテスト出場選手は、低い平均値(69.1kg)で、しかもバラツキ(±6.4kg)が大きく(図3)のラインが横ばいにのびていることは、体重の少ない者から多い者までバラバラに出場していることがよくわかる。
以上のことから、ミスター日本出場のための体重の目安は、大会当日の平均体重から偏差値を引いた体重、すなわち70.8−4.1=66.7kg以上ということになる。一般的な出場目標は70kgとしたい。
〈胸 囲〉(図4参照)
これに対して、地方コンテスト出場選手は、低い平均値(69.1kg)で、しかもバラツキ(±6.4kg)が大きく(図3)のラインが横ばいにのびていることは、体重の少ない者から多い者までバラバラに出場していることがよくわかる。
以上のことから、ミスター日本出場のための体重の目安は、大会当日の平均体重から偏差値を引いた体重、すなわち70.8−4.1=66.7kg以上ということになる。一般的な出場目標は70kgとしたい。
〈胸 囲〉(図4参照)
〈図4 胸囲〉
胸囲になると、体重よりも一層はっきりと各グループ間の差が出てくる。(表1)よりミスター日本出場選手とミスター・アポロ出場選手との差は、116.5−131.3=3.4cm、地方コンテスト出場選手との差は116.5−110.6=5.9cmの差があり。しかも地方コンテスト出場選手は体重の場合と同様にプラスマイナスの偏差値、すなわちバラツキ が大きい。この点、さすがにミスター日本出場選手は平均値が高く、しかも偏差値が±3.9cmと、地方コンテストの±5.9cmを大きく下まわっている。この傾向は(図4)に示されているように、地方コンテストを勝ち抜いた優秀な選手が多く集まっていることを如実に示している。
胸囲においてのミスター日本出場者の目安は、大会当日の平均値マイナス偏差値で算出すると111.6−4.9=106.7cm以上である。一般的目標は110cm以上としたい。
なお、胸囲の実測は、最大に胸囲を大きくしたときに測ったものである。
〈腕 囲〉(図5参照)
胸囲においてのミスター日本出場者の目安は、大会当日の平均値マイナス偏差値で算出すると111.6−4.9=106.7cm以上である。一般的目標は110cm以上としたい。
なお、胸囲の実測は、最大に胸囲を大きくしたときに測ったものである。
〈腕 囲〉(図5参照)
〈図5 腕囲〉
腕囲についても各コンテストにおける差は、(表1)(図5)にはっきりと示されているように、大きな大会になるにしたがって腕囲も大きくなっていることが分る。腕囲の数値はビルダーにとって大変に関心の深いところであろう。そこで、ミスター日本出場の目安を算出してみると、目標サイズは大会当日の平均値40.2−偏差値1.9%=38.3cmである。一般的な目標は40cmとしたい。もちろん、この腕囲は屈曲して測ったものである。
〈腿 囲〉(図6参照)
〈腿 囲〉(図6参照)
〈図6 腿囲〉
腿囲も他の項目と同様に、大会が大きくなるにしたがってサイズが大きくなっている。(図6)により指摘される傾向は、ミスター日本出場選手は59〜62cmのところに圧倒的に集まって、バラツキが±1.7と少ないのに対して、地方コンテストとアポロは±2.8〜±3.2とバラツキが大きく、鍛えあげたバランスのとれた脚が少ないといえる。ミスター日本出場のための目標サイズは大会当日の平均値57.5−偏差値2.2=55.3cmである。一般的な目標は57cmにしたい。
また、脚は、次の腹と共にサイズだけの問題ではなく、筋のキレ、すなわちデフィニションが大事である。カーフを含めてデフィニションをつけるように注意したい。
〈腹 囲〉
腹囲はミスター日本出場選手の大会当日に実測した資料のみであるが、この資料よりミスター日本出場の目安を求めれば、平均値74.3cm、偏差値±3.2cmであるので、74.3−3.2=71.1cm以上、および 74.3+3.2=77.5cm以下となる。一般的目標は74cmとしたい。なお、腹は前述したように、サイズよりデフィニションが問題であるから、トレーニングにあたってはこの点にとくに留意されたい。 (つづく)
また、脚は、次の腹と共にサイズだけの問題ではなく、筋のキレ、すなわちデフィニションが大事である。カーフを含めてデフィニションをつけるように注意したい。
〈腹 囲〉
腹囲はミスター日本出場選手の大会当日に実測した資料のみであるが、この資料よりミスター日本出場の目安を求めれば、平均値74.3cm、偏差値±3.2cmであるので、74.3−3.2=71.1cm以上、および 74.3+3.2=77.5cm以下となる。一般的目標は74cmとしたい。なお、腹は前述したように、サイズよりデフィニションが問題であるから、トレーニングにあたってはこの点にとくに留意されたい。 (つづく)
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