フィジーク・オンライン

肉の栄養成分と調理法 正しい栄養シリーズ
肉類

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1978年6月号
掲載日:2018.07.29
国立競技場トレーニングセンター
木村利美

☆蛋白質の豊庫☆

 ボディビルダーにとって、"蛋白質"という言葉は"バーベル"と同じくらい大切なものであり、いつも頭の中にある重要な関心事であろう。いくらはげしいトレーニングをしても、充分な蛋白質を摂っていなければ、筋肉の肥大は望めず、また疲労の回復も遅い。
 多くの食品中で良質の蛋白質の豊庫といえば、何といっても肉類である。ひと口に肉類といっても、いろいろな動物の肉があり、またその加工品があるわけであるが、種類により成分がかなりちがう。
 とくに注意する点は脂肪の含有量である。脂肪の熱量(カロリー)は1gあたり約9カロリーであり、蛋白質、炭水化物の4カロリーに比べると2倍以上の値で、脂肪を多く含む肉は、それだけ高カロリーとなり、減量時等には問題となるだろう。
 また、動物性の脂肪はコレステロールが多く、とりすぎると動脈硬化を起こすといわれている。血液を酸性化して,疲労のもとになり,皮下脂肪を増して,肥満の原因になるといった欠点もある。「ブタ肉の脂身が好き」などと言う人がいたら、その人の体形・体質が容易に想像できるというものである。
 一般的にいって、なるべく脂身の少ない肉を選んで食べた方が無難である。
 蛋白質は脂肪の少ない赤身に多く含まれており、上等のしもふり肉等は、カロリーが高いばかりで、蛋白質はぐっと少ない。
 牛肉を例に取れば、もも肉100gに含まれる蛋白質は21gに対して、しもふり肉は12.4gで半分近くである。そしてカロリーは何と3倍近くの424カロリーもあるのである。ただし、赤身の肉は脂肪が少ないかわりに、結締織(スジ)が多く硬いのが難点。

  肉類の蛋白質は、リジン、スレオニン等の必須アミノ酸に富み、アミノ酸組成が栄養上ほぼ完全である(良質の蛋白質というのは、必須アミノ酸の組成が良いという意味である)。そして、大部分が筋肉タンパクで、少量の結締織(スジ)や、血管、血液等もはいっている。
 結締織が多いと、肉の質が固くなり消化が悪くなるが、水で長く煮れば、コラーゲンがゼラチン化してやわらかくなり、消化が良くなる。例えば、スネ肉のシチュー等がやわらかいのがその例である。
 しかし、肉の消化率は全体的に見て非常に良く、95%くらいである。調理によって消化率が変化する事は少ないが、少し熱を加えた方がやや消化が良くなる。しかし過熱すると逆に少し消化が悪くなるから、ステーキなら、さしずめウエルダンよりミディアムの方が良いということになる。

 ビタミン類は一般に牛肉よりも豚肉に多く、特にB₁B₂が多い。また、内臓、特に肝臓には各種のビタミンが非常に多く、ビタミンA・B類等は緑黄野菜をしのぐ程である。鶏の肝臓にはビタミンAが1~3万単位と多く、味も良く優れている。ビタミンCは、肝臓を除いては、まったく含まれていない。

☆肉類食品の熱量と蛋白質☆

 各種の肉類のカロリーと蛋白質の含有量を表にしてみた。
 すべて肉100g中に含まれる値である。
 同じ動物の肉でもその部分や加工のしかたによって、こんなにも違っていることを知っておいていただきたい。
記事画像1

☆簡単で美味なメニュー☆

〈ブタ肉の生姜焼き〉

 ブタ肉は牛肉とちがって、生では食べられず、充分に火を通さなければいけない。条虫(サナダ虫)等の寄生虫卵がついている可能性があるからである。
 ブタ肉はうす切りでも、少し厚めに切ったものでもよい。まず生姜を適当量すりおろし、しょう油とまぜ、ブタ肉をこのタレの中にひたす。タレの量は、ブタ肉にまんべんにからませる程度で充分。肉がタレの中で泳いている程にはいらない。ひたす時間は数分でよく、後はタップリ油を熱したフライパンで両面焼いて出来上がりである。
 誰にでも簡単にできるスタミナ料理である。
 からくて刺激的な味が好きな人は、生姜を多めにすりおろし、ニンニクをいれ、少し長めにつけておくとよい。前もってつけこんで冷蔵庫に入れておいてもよいが、肉がしまってかたくなり、塩分の浸透圧の作用で肉汁が外に出てしまうということがある。甘口が好きな人は、タレの中に少し砂糖をいれると、風味が増しておいしく食べられる。
 レタス、トマト等の生野菜をつけあわせると、見た目にもきれいで、栄養的にも申し分ない。
 ブタ肉のスジで大きいのがあれば包丁の先で切り目をいれておくと、肉がちぢまず、やわらかく食べられる。

〈牛のスネ肉、タン、テール等のシチュー〉

 牛のスネ肉やタン(舌)、テール(尾)等は結締織が多く、筋肉がかたいため、そのままでは余程アゴの強い人でもなかなかかみこなせない。前記したように、水で長時間煮ないと、普通の人の胃袋がうけつけるようにはならない。しかし。蛋白質が多く、値段も安いので、料理好きな人はぜひレパートリーに加えていただきたい。
 スネ肉は、ふつうシチュー用として3~4cmの角切りにして売られている。タンやテールは扱っていない店もあるが、デパート等ではたいてい売っている。タンはよく煮こむと、細かい筋線維がとろけるようにやわらかくなり、味も格別である。テールは骨がほとんどだが、ゼラチン質が溶け出して、おいしいスープができる。
 作り方は3つとも同じでよいが、タンは適当にスライスしてあるものを使うとよい。
 まず、フライパンで油を熱し、肉をいれて熱火で表面をキツネ色にいためる。こうすると、表面がかたまり、肉汁が外に流れ出るのを防ぎ、肉自体の味がそこなわれない。次にナベにいためた肉を移し、水をかぶる位に加えてコトコトと2時間位煮ればやわらかくなる。火はグッと小さくして表面にさざ波が立つ位でよい。
 野菜をいれる場合は、にんじん、たまねぎ、じゃがいもなどを大きめに切り、肉をいためた後のフライパンで少しいためておいて、肉がほとんどやわらかくなった時、ナベにいっしょにいれてしばらく煮ると煮くずれしない。
 味つけは最後で、好みで市販の固形のものをいれるとよいだろう。クリーム・シチャー、ブラウン・シチュー、あるいはカレーの素をいれてもよく、あっさり食べたい場合は、固形スープをいれるだけでもよい。これで本格的なシチューが出来上がる。
 時間はかかるが、作り方はいたって簡単、めんどうくさがり屋の人は、フライパンでいためるのを省略して、とにかく長く煮れば出来上がるのだ。圧力ナベがあれば、20~30分でやわらかくなる。まとめてたくさん作っておき、冷凍にしておくと便利である。

〈レバーのソテー〉

 レバーは低カロリー、高タンパク、ビタミンも多く、申し分のない栄養食品であるが、くさみが強いのが難点である。このくさみを取るのが、おいしいレバー料理を作るポイントになる。
 まず適当な大きさに切ったら、水によくさらして血ぬきする。牛乳につけておくとさらにくさみが消える。水気を切って塩、こしょうをふりかけ、タップリの油で両面をそっとこんがりいためる。この時、小麦粉をまぶしてからいためると、こうばしく旨味が増す。最後に酒をふりかけるのも、くさみをなくし美味しくするコツである。日本酒でも洋酒でもワインでも何でもよい、昨夜の飲み残しをちょいとふりかけてやればよい。
 牛、豚、鶏、いずれのレバーも同じ扱いでよいが、一番くせがなく、味がよいのは鶏のレバーで、豚はもっともくさみが強い。

〈鶏肉のナベ物風〉

 トリ肉はナベ物に入れる場合、手羽よりも、もも肉の方がうま味が出る。骨つきのものも、食べる時はめんどうだが、おいしいスープになるのでナベ物にはうってつけだ。
 もも肉をブツ切りにしてタップリの水にいれ、火にかける。煮たってきたら、白菜、ネギ、ニラ、春菊、えのきだけ等の野菜をいれて、火が通ったら味をととのえる。簡単に塩味にしてもよし、固形スープや味噌を入れてもよい。
 最初にコンブやカツオブシでダシを取っておくと本格派だが、それが面倒な人はトリ肉を多めに入れれば充分おいしくできる。
 一品料理にしたい時は、これに、うどんやきしめんをいれたり、残り物の冷やご飯等入れると、おいしい雑炊ができる。

〈カリカリ・ベーコンのスクランブル・エッグ添え〉

 ベーコンは豚のあばら肉をくん製にしたもので、脂肪が多く、高カロリーで、しかも独特の風味があり、料理の味をひき立てる。生でも食べられるが火を通した方が味がよく、また、やわらかくもなる。
 ベーコンは単独で食べるよりも、何かの料理のひき立て役に使われる事が多いが、ここでは簡単なアメリカ風の朝食を一つご紹介しょう。
 ベーコンを、こまかく切ってフライパンでよくいためる。油を充分しいて、褐色になるまで気長にいためると、ベーコンの脂が溶け出して、小さくちぢみ、カリカリとせんべいのようになる。これを取り出して皿に盛っておき、フライパンの中に残ったベーコンの油で、今度はいり卵を作る。
 いり卵は、ほぐした卵をフライパンの中で、よくかきまぜながら火を通せば簡単に出来上がりである。卵の塩味はベーコンの塩分が強いのでひかえ目にする。
 カリカリ・ベーコンの横にいり卵を盛りつけて、出来上がり。ベーコンの味が卵にしみて食欲を増す。

〈ロースハムのハワイアン風〉

 豚肉には甘酸っぱい味がよく合う。例えば、リンゴソースやパイナップル等であるが、簡単なものとして、ハムとパイナップルの取り合わせをおすすめする。
 ハムは上等のものを1cm位の厚さに切る。パイナップルは生のものでもかん詰めでもよい。
 ハムのまわりに包丁で切り目をいれ丸まらないようにしておき、両面こがね色にいためる。次にパイナップルを軽くいためて取り出し、ハムの上にのせる。フライパンに残った油に、パイナップルの汁を加えて少し煮つめてソースを作り、ハムとパイナップルの上にかける。甘党の人は、ソースに少しハチミツか砂糖を入れてもよい。
 ハムもパイナップルも生で食べられるが、メニューに変化をつけたい時に試していただきたい。

☆生野菜を忘れずに☆

 肉料理は栄養タップリであるが、最初に言ったように、そればかり食べすぎると酸性体質になり、ビタミン不足になる。また、肉食にかたよると、便秘がちになり、有害物質が発生して、内蔵をいためる。肉を食べる時は、ビタミン、センイの多い野菜をタップリ食べる事を心がけよう。
月刊ボディビルディング1978年6月号

Recommend