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★自分でつくる栄養料理シリーズ★⑦
“うまいステーキの作り方”

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月刊ボディビルディング1978年6月号
掲載日:2018.08.21
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1.男子厨房に入ろう会

「ごきぶり亭主」という言葉が流行したことがある。男のくせにコソコソと台所に立って料理する姿を、ちょっと皮肉ってうまれた言葉だ。
 だが本当の健康な体づくりを目的とする者にとって、現代女性たちの栄養知識の無さや食事に対する軽視の風潮をがまんできない。
 実際に筆者らは「山野愛子美容と健康の会」に強力して、10代から60代までオール女性の食生活をつぶさに調査したが、粗末なこと、粗末なこと・・・・・「こんな母親が家族の料理をつくるのだから、成長期の若者はたいへんだなあ」「家の食事では腹がもたないから安易に街で買えるコーラやカップラーメン、菓子パンばかり食べることになり、栄養失調をおこすんだなあ」とつくづく感じたものである。
 おりもおり、実業団ボディビル連盟で活躍されていた黒木重正さん(彼は実業団コンテストに何回も出場。弟さんは田端ボディビルアカデミーでトレーニング)から、「男子厨房に入ろう会を主宰してがんばっています」とくわしいニュースが送られてきた。
 厨房とは昔の言葉で台所のこと。NHKテレビはじめマスコミで、この会の活躍が話題になったので覚えている人も多いだろう。黒木さんらの趣旨にまったく同感。「もはや女性に台所をまかしては不安だ」という気持につきる。アメリカの雑誌「マッスルビルダー」をみると、「ボディビルダーのための料理法」といった本の宣伝広告が大きくのっている。海の向うでも「栄養ある食事は自分でつくろう!」という傾向のようだ。

2.高いものには栄養がある?

 さて「スタミナと栄養の王者」と定評あるステーキの話題を今月はお届けしよう。
 一流選手の食事法をみると「ステーキ300g」とか「ステーキ400g」という数字がよく出てくる。海外のビルダーの場合「ステーキ500g」「ステーキ1kg」という例がめずらしくない。
 私たちは「肉こそ栄養効果がいちばん大きい」と信じやすいが、本当だろうか?検討してみることにしよう。
①たしかに動物性たんぱくは、植物性たんぱくより「プロティン・スコア」(必須アミノ酸のバランス)がすぐれている。だから体に利用される効率が良いといえる。たとえば牛肉は80だが、大豆たんぱくは56、小麦たんぱく48、とうもらこし16というように・・・・。
②しかしながら、牛肉と牛肉以外の肉や魚をくらべると、牛肉80に対して、とり肉87、豚肉90、卵100、あじ89、いわし91、さんま96・・・・・という数字からもわかるように、必ずしも牛肉が効率がいいとは限らない。
③大豆たんぱく等でも、不足している必須アミノ酸「メチオニン」を加えると、プロティンスコアが56から95に高まって、人体利用効率がよくなる。
④さらに食事の組合せで、パンと牛乳・チーズ、ごはんに納豆・とうふという食事内容にすると、相互に不足する必須アミノ酸をカバーしあって、全体の利用効率が高まる。
⑤逆にいえば、ステーキだけを主食がわりにパクパク食べても、全体のバランスからみると、かえって不適切。
---というわけで、牛肉を食べなくても、安い肉・魚・プロティン製品などを食べれば、筋肉の発達に対して効果のあがることがわかるだろう。
 ご存知のようにアメリカ等では、牛肉が豊富で価格が安い。むしろ魚や貝などを食べるより経済的である。「わらじのようなステーキを毎日食べている」という表現がよくされるように、大衆のメニューなのだ。
 われわれはとかく「高価だから栄養が高い」と単純に信じやすいが、これはまちがいだ。

3.ステーキは肉の買い方から

「肉を悪くいうのは、ろくに買えないヒガミではありませんかコロコロリン」と叱られそうだが、ステーキがたいへんおいしく、また、おいしいと感じて食べれば栄養効果が高いことは私も認める。だから少しでもうまくつくれて自慢料理に加えることができれば何よりだ。
 ステーキは街のレストランやホテルで食べると、何千円もとられるが、材料を自分で購入し、うまく料理すれば800~900円で同じボリュウムの肉が食べられる。
 まず、うまくて安い肉屋を発掘するところからスタートだ。この点、外国人は徹底的に歩きまわって、お気に入りの店を探しだす。
 以前、本誌で窪田登先生が紹介されたホセラモン君。肉をよく食べるので、とうとう専門業者が出入りする品川食肉市場へ訪れるようになった。ここで働いているボディビルダー長渕さん(大森ボディビル・センター所属)と逢い「やあ、お互いにバーベルで練習しているんですね」と意気投合し、以来よい友人になれたというエピソードがある。
 肉の種類や品質は買う店によって大きな差があるから、何軒もまわって、肉が柔かく脂肪があまりない良質の肉をわけてくれる店と懇意になるのがよい。
 ミスター・ユニバースになった須藤孝三選手が、ファンである肉屋さんから、しばしば最高級の牛肉を数キロずつ贈られたという話をきいたことがあるが、いかにもすばらしく、また羨ましい。同選手の暖かくて親切な人柄によるのだろう。

4.うまいステーキの焼き方

 では具体的な料理法を伝授しよう。肉は高価なサーロインやヒレ肉でなくてもよい。100g400~450円のランプ肉が厚くてたんぱく質に富んでいる。
 肉の厚さ1~2cm、重さ200gくらいを注文し、硬いすじは除き、トントンとよく肉きり(せんいをほぐす)をしてもらう。
 自宅に帰って次の手順で焼く。
①料理の直前に、塩とこしょうをパラパラまぶす。(両面)
②フライパンにバターをとかし、強火で暖めてから、肉をのせる。
③最初は中火で、肉の裏側だけを約5分間まんべんなく焼く。
④焼き色がついてきたら、ひっくりかえして、約2分間強い火で焼く。
⑤仕上げにぶどう酒または日本酒をサッとふりかけて、フライパンから皿にうつす。
---ただこれだけで約10分あればOKだ。ポイントは焼き方である。よく中まで焼いた肉が好きな人は、フライパンにふたをして、時間を長くおけばよい。ただし焼きすぎると、肉から水分や油がぬけてバサバサとゴムをかんだような味になってしまうのでご用心。
 牛肉は豚肉とちがって、寄生虫(ジストマ)の心配がないので、内部が生ま焼けで血がにじんている場合でもおいしく食べられる。生ま焼けは風味がよいので外国人も「レアー」とか「ミディアム」とコックに注文することが多い。卵でいえば半熟だろう。
 ただし一時、ビルダーの人が実行した「生肉をさしみのようにしてパクパク食べる」という方法はすすめられない。冷凍肉を戻して販売したり、自宅に運ぶときなど、空気中の雑菌にふれているので、少なくとも肉の表面だけは強火にかけて、ジュウジュウ焼きこんでいただきたい。
 野菜とちがうのだから「生で食べるほうが栄養価が高い」と考えるのは迷信もいいところだ。

5.上手なステーキの食べ方

「肉は酸性食品だから、同時にアルカリ性食品であるポテト、にんじん、グリーンピース、マッシュルーム、クレソンなどを食べるのがよい」と一般にいわれている。クレソンは西洋野菜の一種で、苦味のある不思議なおいしさを持っている。こんなに凝らなくても、生野菜サラダを一皿つけるだけで栄養のバランスはずっと向上する。
 ステーキにパイナップルを一切れ添えることがあるが、パイナップルにパパインおよびブロメラインと呼ばれる「たんぱく質分解酵素」が含まれるためだ。つまり食べた肉の消化分解を促す効果を期待しているわけである。パイナップルのさわやかな酸味は胃酸を助けて、消化を高めてくれる効果もある。
 最後にステーキにかける調味料についてふれておこう。
 
①簡単に市販ソースや「からし」をつける。
②マヨネーズやケチャップをつける。
③バターをつける。
④ステーキを焼いたあと、パセリや玉ねぎを細かくきざんで、バターでいためて、これをステーキの上にのせる。
⑤あっさりとレモンをふりかけて食べる。
⑥生クリームや卵を組みあわせてユニークなソースをつくる。
 以上のようにバラエティある食べ方を楽しむことができる。肉にあうアルコールはもちろん赤ワイン。今夜はデラックスディナーとしよう。客に誰を招待してもはずかしくないだろう。
月刊ボディビルディング1978年6月号

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