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危ない健康常識

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月刊ボディビルディング1978年7月号
掲載日:2018.08.24

サウナで汗をかいてもやせられない

◇体内の水分はつねに一定

 相撲の弟子入りの条件に「体重75kg以上」という制限があるために、この制限体重ギリギリの入門希望者は、計量の前にガブガブ水を飲んで、少しでも体重を増やそうとする。反対に、ボクシングや重量あげの選手は、制限体重を超えないようにサウナで汗をしぼり出し、計量にパスしようとする。むろん水は1滴も飲まない。
 どちらの場合も、体重の増減に”水”が使われているが、体重が重いことと肥満していることとは全く別の問題である。これを混同すると思わぬ失敗をする。
 人間の体は65~70%が水分なので、誰でもサウナで汗をかけば、一時的には体重が減る。しかし、体内の水分はつねに一定の濃度を要求する。食塩濃度約3%を「生理的食塩水」というように、これより濃すぎても薄すぎても都合が悪いのだ。サウナから出るとビールやコーラが欲しくなる。スポーツで汗を流したあとも同様だ。つまり、これは食塩濃度を正常に保つために、体が自然に要求しているのだ。飲まずに我慢していると脱水症状になり、心臓や腎臓に負担をかけ体調が狂ってくる。

◇水には太る効果もやせる効果もない

 皮下組織に水分が貯まる現象を「浮腫」と呼ぶ。つまりむくみである。顔面がむくみ、朝起きたときにひどいのが糸球体腎炎やネフローゼなどの腎臓病。下肢がむくみ、夕方ひどくなるのが心臓病や高血圧といったように、病気の徴候として鑑別診断に使われる。
 これに対して「肥満」は脂肪が蓄積される現象である。「むくみ」の場合は、指先で押すとペコンとへこみ、跡が残るが、肥満している人の皮膚には弾力性があり、指先で押しても跡は残らない。このような肥満者がサウナで水分を排出しても本格的な肥満解消には関係ないわけだ。
 肥満は副腎皮質ホルモンや脳下垂体前葉ホルモンの機能異常に由来することもあるが、大多数の場合は過食と運動不足が原因だ。20才までの成長期は、細胞分裂をくり返して体が発達するが、皮下や腸間膜、筋肉間の脂肪組織もまた例外ではない。肥満児の傾向があらわれる前に治療すると正常に戻りやすいが、この時期を逸して成人をむかえると、細胞数の減少は非常に困難で、数倍の努力が必要となる。
 肥満した体を維持し、歩行や運動をするのにも余計なカロリーを必要とすることは明らかである。「食べるな」と命じることほど残酷なことはない。たんぱく質を中心とした食事メニューで体質を変えていくことが結局は早道である。
 肥満防止に「水にはカロリーがないから」といって水を飲ませるのは間違っているし、「水分をとればやせられる」とサウナで汗を流すのも間違っている。水には太る効果も、やせる効果もないのだ。

植物油でも過剰にとると害になる

◇コレステロールと油脂

「同じ食べるなら、健康状態がよくなり、長生きできるものを食べたい」と誰でも望むが、料理に使用する油の種類次第で、血の中のコレステロールが増加したり、低下したりすることが知られている。
 これは国立栄養研究所の鈴木慎次郎博士らが精力的に研究されたもので、まとめると次のようになる。
①バター、豚脂、牛脂などの動物性油脂は、概してコレステロールを増加させる。
②反対に、米ぬか油(ライスオイル)小麦胚芽油、べに花油(サフラワーオイル)、とうもろこしなどの植物油は、概してコレステロールを低減させる。
③ただし、ゴマ油、大豆油、綿実油、落花生油のように、一般家庭で天ぷら油やサラダ油としてよく使われる油には、コレステロールを上げる作用も、下げる作用もない。
④コレステロールを低下させる油脂には、多過不飽和脂肪酸のリノール酸が多い。ただし、単に多いだけでは効果が少なく、「不けん化物」といわれるステロール類が同時に存在すると効果が高い。

◇植物油も食べすぎると脳軟化症に

 この鈴木博士らの報告は国内、国外の反響を呼び、それ以来、調合こめ油(こめ油70%とべに花油30%を混合した製品)が発売されたり、バターをやめてマーガリンを使用する家庭がふえたりしている。
 だが「好事魔多し」とはよくいったもの。植物油ばかり多量にとっていると、体内にリノール酸がふえすぎて、「過酸化物」をつくり、その毒性のために脳軟化症、筋萎縮症、貧血、生殖不能などがおこるのではないかと指摘する研究が発表されたのだ。
 いまのところ、ヒヨコや豚の実験だけであるが、日本人の悪いクセで「いいものは食べれば食べるほど効果があるだろう」と、つい多量に食べがちである。この悪い習慣を警告するものとして貴重な意見である。
 天ぷら油を何度も使ったあとで、油が汗くさいような臭いになるが、このときできるのが「過酸化物」である。このような油を使った料理や、古いインスタントラーメンやかりんとうを食べると、嘔吐や下痢をおこすことがあるのは、この「過酸化物」のためである。また、リノール酸、リノーレイン酸などの不飽和脂肪酸の多い植物油ほど危険の多いことも覚えておきたい。
[健康体力研究所・野沢秀雄]
月刊ボディビルディング1978年7月号

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