フィジーク・オンライン

ステロイドホルモン剤を“告発する” ―第4回健康体力研究会より―

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1978年8月号
掲載日:2018.07.19
健康体力研究所 野沢秀雄

12 ステロイドホルモンの検出法

 「ホルモン剤を飲んでも、チェックにひっかからないから平気だよ」と、欧米のスポーツ選手は以前から広範囲に使用していることは前にお話しましたが、たしかに試合に出場する一週間前まで、連日ホルモン注射を打ち、もりもり筋肉をつけた後バッタリ止めてしまうと、今までは測定してもわからないのが実状でした。

 ところが、悪いことをする人と追いかける人はいつも激しい競争であり、世界の化学者・薬学者・電子技術者は懸命に、超微量のホルモン剤やドーピングを検出する努力を日夜おこなっています。

 ホルモン剤を分析するには、尿を採取して調べる、血液をとって調べる、の2方法があります。あまり専門的になりますので省略しますが、その測定に使われる単位に、pg、ngなど見られない記号がでてきます。1gの1000分の1がmg、その1mgの1000分の1のさらに1000分の1がng(ナノグラム)、1ngの1000分の1がpg(ピコグラム)といいます。つまり小数点以下12桁くらいの超微量のホルモンが、精巧な分析機械でわかる時代になっています。

 だから選手の耳たぶから、ほんの少量の血液をとるだけで、じゅうぶんに判明するのです。

 現時点では、分析するのに膨大な費用と手数と時間を要しますが、いつか近いうちに必ずチェック体制ができます。ひょっとしたら明日にでも、分析学者はさらに進んだ検出法を発表するかもしれません。

 「わからないからいいだろう」という考えはスポーツマンシップにもっとも反するものでしょう。そう思いませんか?

13 結論

 以上、ホルモン剤について最新の話題を述べてきましたが、結論として次の3項目にまとめられます。

①不明な部分がたくさんある

 ホルモン剤は不明なことがまだまだ多すぎて、危険性が大きい。つまり化学的に合成された物質は、人体にとって異物であり、いつ発がん性と結びつくかわかりません。片方で食品添加物をうるさく制限し、色素や保存料をきびしく避けている人が、ホルモン剤に安易に飛びつくことはおかしなことです。

 「安全な使用法が確立されないかぎり使わない」という態度が正しいといえましょう。

②使用すれば必ずわかる

 「薬の使用」は結局、選手たち自身を苦痛においこむことになります。きびしくチェックするために、3カ月前、1ヵ月前、1週間前と、かなり頻繁に出場選手全員を監視し、血液をぬきとったりしなくてはなりません。「不正な使用者を必ず発見する」ためには、たいへんな苦労が全員に伴なうことになります。

③スポーツマンシップに反する行為

 こっそり薬を使って男らしくなろうなどという考え自体、男らしくありません。女々しいといえます。「勝つために手段を選ばない」というのはスポーツではありません。スポーツはルールにのっとり、正々堂々と力の限り戦い合うものです。以上、肉体を損なうような危険な賭けをして、いいことはひとつもありません。マッスルビルダー誌78年3月号には、大きなトロフィーを得たが、結局飾る場所は「自分の墓の前だった」という皮肉なマンガがのっています。

 たった一つしかないあなたの体を、好奇心やあせりの気持で台無しにしても、誰も責任をとってくれません。被害をうけるのは自分です。

 余談になりますが、ホルモン剤を使わなくても、プロティンなどの栄養を考えるだけで成果はグンとあがることが証明されています。プロティンは薬ではなく、一般に使われる食品です。さきのマッスルビルダー誌にもエジプトのモハメッド・マッカウェイ選手が短期間にトレーニングと栄養食品で約4~5キロ体重をふやしたことが紹介されています。私たち健康体力研究所でも東京農大の体育会と協力して、体操・バレーボール・相撲・ボクシングなど8つのクラブの選手に、体重増加の効果を試験し、確認しています。

 明るい話題として、去る3月4日、5日アメリカのラスベガスで、チェット・ヨートン(元ミスターUSA)主催のナチュラル・ボディビルダーズ・アソシェーションが、「ホルモン剤を使用しない選手」を集めたコンテストを開催しました。このような風潮が高まることは非常に喜ばしいことです。

 私の講演は以上です。みなさんのほうからご質問やご意見がありましたらお受けしたいと思います。

14 質疑応答

質問―体内に男性ホルモンがひとりでに多くなればいいわけですが、多くすることはできるのでしょうか?

回答―同じ人でもホルモンは微妙に増えたり減ったりします。まず、精神を男らしく堂々とすること。クヨクヨしないこと。背すじをピンと伸ばし、姿勢を正しくし、首に力を入れること。激しい肉体運動をすること。とくに、スポーツは闘争心をかきたて、筋肉を使うのでよいことです。

 また、日光に当ること、肌を外気にさらすことなど、要するに原始時代の男性がそうであったような生活をすればするほどよいわけです。ボディビルのトレーニングで筋肉を懸命に鍛えることが、よりいっそう男性ホルモンを活発にするといえるのです。

質問―<表6>(前号掲載)のたんぱく同化効力比較表をみると、製薬メーカーによって、その効力や副作用がまちまちですが、実際にこのような数字になるのでしょうか。

回答―概念として数値をあげていますが、各社効力を比較して発表しています。要するに、有害な作用は最少限におさえ、期待される効果が大きく現われるように、製薬メーカーが研究し、生産しているわけです。あくまでも病気などの治療が目的であって、ボディビルダーが筋肉発達のために使ったり、スポーツ選手が競技力向上のために使うのは邪道です。

質問―私は獣医をしており、その専門ですが、筋肉が大きくなるかどうかは、筋肉の筋線維にクレアチンがどの程度とりこまれているかがポイントになるわけです。ホルモン剤を使用して筋肉を大きくすることよりも、バーベルやダンベルでウェイトを高めた練習をしていけば、必ず筋肉は大きくなると思います。

回答―まさにそのとおりでしょう。クレアチンは細胞内の代謝で、筋肉細胞の形成に大きな役割を果たすものです。今までは、成人したあとでいくらトレーニングしても筋肉細胞は増えず、ただ太くなるだけだといわれていました。ところが、筋原線維のレベルでみると、トレーニングをおこなうと数の方も増えるという意見も出されています。これらについての研究も日進月歩ですすんでいる途中です。元全日本学生チャンピオンで、現在、東大大学院で生理学の研究をしている石井直方氏とも、ときどき筋肉のメカニズムの話をしますが、むづかしいものですね。未知なことが多く、これからの課題です。

質問―日本のビルダーで、どのくらいの人数の選手がホルモン剤を使っているのでしょうか?

回答―はっきりしたことはわかりませんが、好奇心で1回か2回使用したという人をふくめるとかなりいるかも知れません。ただ、外国選手のように、コンテストのたびごとに必ず使用するというような選手はそんなにいないと思います。

質問―さっき見本にみせてもらいましたが、このようなステロイドホルモンは日本でも簡単に手に入るのでしょうか?

回答―思ったより簡単です。ここに並んでいるサンプルは、私の親せきや友人の医師がとりよせたものですが、薬局でも注文すれば買えます。だが、決して安易に使っては困りますよ。自分のためになりません。
月刊ボディビルディング1978年8月号

Recommend