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★★★★★アメリカだより★★★★★ 
渡米後わずか6週間で夢の“体重三ケタ”にもう一歩

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月刊ボディビルディング1978年10月号
掲載日:2018.03.29
1975年度全日本学生チャンピオン 吉見正美

スケールのちがい

 先日、夏休みのバケーションを日本で過ごした友人がアメリカに戻って来た。里心がついたという訳ではないが、あれこれ日本の様子を尋ねてみたくなるのが人情だ。

 「いやぁ、それが日本についたとたん、女の子を恐らせてしまってね。ガールフレンドに会ったんで、随分スマートになったねって言ったら、まあひどい、最近体重が増えてきたので気にしていたのに。意地悪ッ、プイ!なんだ。俺には確かに痩せて見えたんだがなあ」と、しきりに首をかしげている。

 アメリカはスケールの大きいところである。これは全てについて言える。デブもまた例外ではない。私のいるアイオワ州というところが、これまた穀倉地帯で田舎。アメリカでも一番のブタの産地というせいでもないだろうが、大きな女性が多い。

 私も日本にいたときは、かなり大きい部類に入るだろうと思っていたが、こちらで街を歩いていると、私の220ポンド(100kg)を凌ぐと思われる女性に出くわすことは全然難しくないのだ。

 アメリカに来た当時は、その偉大な体躯にいちいちアングリと口をあけて目をみはったものだが、最近はそんな風景にもだいぶ慣れてきた。アメリカに長くいる人なら、それがあたりまえになってしまっているに違いない。

 どうやら、友人は、時差は修正しても、アメリカ的尺度を日本的尺度にきり換えることを忘れて、彼女を怒らせてしまったらしい。

 それにしても、どうしてそんなに大きく太くなるのだろうか。プールやビーチへ行って観察しているとよく判ることだが、中・高校生ぐらいの女の子は、一様にスラッとしていてプロポーションもよく、日本人のトップ・モデル・クラスのボディの持主はワンサといる。

 ちょっと声をかければ、おめめパチクリ。若いながらも女の子らしいしなを作って、イッセーやケンゾーのショーをいくらでも盛り上げてくれそうな美しさで、目を楽しませてくれる。

 ところが、ブロンド娘は20歳を越えたあたりから、突然、脂肪がのって太り出し、そのスラリッとしたシェイプのよいからだに、横のひろがりが見られるようになる。

 そういえば、東欧やソ連の女子体操の小さな妖精たちが、20歳を越えるとハタッと出てこなくなってしまうのは「成人になると、彼女たちは急に太り出してしまうからだ」と何かで読んだことがあるが、なるほどと、アメリカに来てはじめてその実態がわかった。

 これは人種的な体質の違いからくるものだろうか。確かに大部分の女性は20歳をすぎると太ってくるが、そうでない人達、美しいからだのシェイプを維持し、年齢よりもだいぶ若く見える人達もたくさんいる。

 ヘルス・スパーで一生懸命汗を流してトレーニングしていた美しい中年の婦人が次のようにいっていた。

 「こんなに汗を流して運動するのは確かに辛い。しかし、あとはとても気持ちがいいし健康にもよい。でも食べたいだけ食べて何もしないアメリカ人がたくさんいる。そんなことをしているとしまいにはブタになってしまう」と。

 アメリカは豊かな国である。食べ物は日本に比べて安い。エンゲル系数が、低くてすむので、ちょっと働けば食うことにはこと欠かない。おまけに週5日制で、他にも長いバケーションがとれるという時間的にゆとりのある労働システムである。食べるだけ食べて、エネルギーを消費しなければ太るのはあたりまえだ。

 そこで、運動、スポーツ、娯楽、レジャーと、とにかくからだを動かすことに対する関心は大変なものである。学生や中年のおじさんが、公園などでジョギングしている風景をよく見かけるし、かなりの老夫婦がオートバイに乗ってツーリングに出かけても何の不思議もない。全米各地にあるYMCAにはたくさんのスポーツ・グループがあって、家族ぐるみでエネルギーの発散にやってくる。
[ビル・パールの経営するパサディナ・ヘルス・クラブの前で]

[ビル・パールの経営するパサディナ・ヘルス・クラブの前で]

 小学生ぐらいから柔道や空手の道場にやって運動を身につけさせる。美容のためか、スポーツに対する女性の関心は驚くほど高く、私の行っているへルス・スパーなど、女性の会員の方が男性を上まわっている。それに反して何もしない人たちはアメリカ的スケールで醜く太ってしまうのだ。

 それに比べれば、日本のデブなど可愛いいものである。日本にいるころ、女の子がふた言めには「もっと痩せたい」というのを耳にして、どうしてこれで太っているのか、こんなに痩せているのに、どうしてこれ以上に痩せなければならないのか、と不思議に思ったものだが、こちらでは様子が全然違ってくる。こんなに太っているのに、どうして痩せようと思わないのか、なぜ痩せる工夫をしないのか、と思うほどだ。とにかく驚くべきデブがゴロゴロしている。

 ある日、私はとあるカーニバルで体重856ポンド(約397kg)という黒人の青年に会った。彼は椅子に座って終始にこやかに微笑んでいた。彼のヘソのトンネルの奥深さ、笑う時に波打つ肉塊のさまは何とも想像を絶するもので、とても私の文章ではこれを的確に表現することなど不可能だ。デブだとか、醜いだとかを通りこして、人間とはこれほどまでになるものかと、ただあきれかえったものである。
[体重397kg、高見山の約2倍はある黒人青年]

[体重397kg、高見山の約2倍はある黒人青年]

 そして今回、私自身が、アメリカの食料の豊かさ、食事内容がボディをこの上なく大きくするということを自ら体験する機会を得ることになった。

ここはアメリカなんだ

 はじめてアメリカを訪れた人は、まずその玄関、ロスアンゼルスの空港に到着して、その広大さに驚くに違いない。もちろん、私もその例外ではなかった。

 いきなり空港に放り出された私は、いったいどっちへ行ったらいいのか、どこまでが空港なのか、と、刺すようなカリフォルニアの太陽にねむけ眼をショボショボさせながら、ピックアップしてくれるべきホテルのバスを待っていた。空港の建物の前をひっきりなしに送り迎えの車やバスが通り過ぎていく。しかし、私を拾ってくれるはずのホテルのバスはどうしたわけか待てども待てども来ない。

 まだ寒かった日本からタートルネックのセーターなどを着込んで来た私は、カリフォルニアの真夏のような陽ざしに目がくらみ、汗がとめどなくしたたり落ちる。

 どっちに行ったらいいかと周りを見渡せど見渡せど、空港とその関連ビルばかりで気が遠くなるほど広い。仕方なく重い荷物を傍にしばらく待つことにした。

 なにしろ、飛行機を降りたとたん、移民局でも英語、税関でも英語。バゲッジクレイムでは女の係員につかまってベラベラしゃべりまくられ、受話器からは早口の英語が飛び出すし、道を聞けば返ってくるのは英語。短い間にこんなに英語を浴びせかけられたのは初めてだ。

 あたりまえだ。ここはアメリカなんだと、頭の中のスクリーンに思い出す限りの英語を写し出してみる。しかし、パラパラといくつかの言葉が出てくるだけ。こりゃ先が思いやられる。もっと勉強しておくんだったと悔んでみても、もう、遅い。

 と、その時、うしろから「吉見さんですね」と、まさしく正確な日本語。

 驚いたのなんの。これからはもう日本語は使えないんだと、たったいま英語と闘う悲壮な覚悟を決めたばかりなのに……。

 ふりかえると、黒いパンタロンに黒くキラキラ輝くシャツ、マフラーをヒラヒラとゆらめかせて、素晴らしいプロポーションの女性が立っているではないか。ハテ、アメリカにもキツネがいたか、それともショックで頭が狂ってきたかと、おしりをつねってみたが確かに痛い。

 「多和ですが、主人が急用で来られませんので、私が代りに迎えに来ました」という彼女は、クールでドライでナウなセンスに溢れてカリフォルニアの太陽のようだ。さすが先輩は女性を見る目が高い。

 多和氏は、慶応義塾大学3年の時にミスター日本(昭和40年度、第11代)を獲得。同商学部を卒業後渡米。ロングビーチのカレッジに留学してビジネスのマスターコースを勉強。のち、ロスアンゼルスにジャパン・ヘルス・クラブを開設して6年になる。現在は、ロスアンゼルスから車で2時間ほど離れた高級リゾート地、パームスプリングスのホテル内にもヘルス・スパーを所有。その他、ロスアンゼルスに友人と共同でリカーストアも持っている。カルフォルニアの太陽を浴びて、いつも浅黒く陽焼けした、今だに47cmの腕を誇る多忙な実業家である。
[多和氏の経営するジャパン・ヘルス・クラブ“スパー”]

[多和氏の経営するジャパン・ヘルス・クラブ“スパー”]

夢の体重三ケタにもう一歩

 私がアメリカに着いたこの日はちょうどイースター(復活祭)だった。パーティーがあるというので、その足でお伴をする。訪ねた家の主人がポリスというアメリカの中流家庭。

 コーラやビールを飲みながら、テーブルに料理をセットしていくのだが、この飲みものがまた安い。缶コーラが25セント(50円)ぐらいで、ビールはそのぐらいかもっと安い。ちょっと飲みにいくにも車を使って出かけなければならないせいか、こちらのビールはいくら飲んでも悪酔いはしない。

 七面鳥を丸焼きにしたような大きいハムを、チェーンソーを小型にしたような電動ノコギリで切り身にして、山のように盛りつける。種々の野菜をふんだんに入れたサラダ、お肉の皿、くだものの皿、様々な料理がずらりと並べられて、さて会食。

 食べものを見ると、生来のいやしさが出てきて興奮してくる。このときばかりは時差ボケなど、どこかへすっとんでしまうから不思議だ。あれこれ、ひととおり皿に盛り込んで喰うこと喰うこと。「では、デザートを!」などと言われる頃には、おなかはすでにパチンパチン。そのままひっくりかえりたい気持だ。

 こんないいものばかり食べているのだから、アメリカ人が大きいのは当然だ。このパーティーに同席した大阪出身の錨山氏はもうこちらに来てから数年、杉田選手がビル・パールの経営するパサディナ・ヘルス・クラブでトレーニングしていたとき、一緒にやったという人で、身長は160cmちょっとぐらいだが、さすがにゴツい。肩のあたりはまさにいかって見える。盛り上がってゴリゴリである。錨山氏は現在、多和氏のところに勤めながらトレーニングを続けており、ベンチ360ポンド(約163kg)はあげるという。ビル・パールをはじめ周りの人たちから〝トシ〟という名で親しまれている。
 このパーティーを皮切りに、私の食べ尽しが始まった。朝からバイキング料理、ドーナツ店で無料のビーフ・スープのおかわりを何度もしたり、またすぐ昼がきてごちそうをつめ込む。夜は夜でディナー。

 だいたいこちらのレストランは量が多く、しかも肉だから、カニだからといって全然ケチらない。凄いところは2ポンド(約1kg)ぐらいのステーキがデーンとテーブルに運ばれてくる。いくら食いしんぼうの私でも、とても食べきれたものではない。それも肉だけではない、フルコースなのだ。

 味のよくしみ込んだ口の中でとろけそうな、こってりしたスペアリブを腹いっぱいつめ込む。1ポンド以上もあるカニをむさぼり食う。

 こうして、多和氏のところに滞在する間、食いに食いまくった。途中、3週間ほどアイオワの方へ行ってブランクがあったが、またカリフォルニアに戻ってよく食べた。その結果、アメリカへ来てから初めの6週間で203ポンド(92kg)から218ポンド(99kg)までに増えた。その間、多和氏のガレージにあるホーム・ジムでボチボチ、トレーニングをしていた。

 日本にいた頃はと言えば、まっ赤になって顔をゆがめ、滝のように汗を流して必死にバーベルにしがみつき、パンプ・アップで血管がふくれ上がり、腕がはりさけそうになって動かなくなるまでトレーニングしていた。それほどまでしても、1年に上腕囲を1cm、いや0.5cm太くすることさえ難しかったのに。それが、渡米時に45cmだった腕が、わずか6週間のチンタラ・トレーニングでコールド46cmになっているのである。そして、夢の3ケタの体重がまさにそこまで来ているのである。

豊富で安いアメリカの食料品

 アメリカに来て感じたことはいろいろあるが、なんといっても車の多いのに驚く。それに、ボディビルダーにとって関心の強い食料品の豊富さと安さだ。

 なんといってもアメリカは広い。さて、食事をしよう、と思っても、歩いていたのではアッという間に1日が過ぎてしまう。だいたい道路を歩いている人などあまり見かけないのだ。面積が広くて、人口密度が低い。電車もない。何をするにも、いきおい車に頼ることになる。車ばかりがやたらに多い。

 ここまできて、あの円高の原因―アメリカが海外から石油を買いすぎるということ―が実感として判ってきた。石油がなくては彼等の車は動かない。アメリカの社会は全く機能出来なくなってしまうのだ。

 アメリカには石油などいくらでも埋蔵されているのに、なぜ外国から買うのか?確かにそうだ。しかし、いまや石油は世界的に急速に消費されつつある。数十年後には枯渇するのでは……と、その時を見越してか、いま彼らは自分たちの石油を掘るよりも、海外から買うことに躍起になっている。

 それだけに石油を大切に使う。昔は大型のいわゆるアメ車でガソリンをばらまいて走っていたものだが、いまは低燃費の小型車が大変な人気だ。大型車は中古になるとガクッと安くなる。1000ドルも出せば、十分機能する大型車が手に入るが、小型車はそれほど安くならない。

 日本車はあちこちで見かける。カローラは3800ドルぐらいで、シベットが4100ドルだから、その差は300ドル。セリカクーペSTは5000ドルで、ムスタングが6100ドルだからその差は1100ドル。これぐらいの差ならシベットかムスタングを欲しいと日本人は思うだろうが、こちらでは必ずしもそうではない。カローラやセリカの経済性やメカの性能が高く評価されているからである。

 ホンダシビックやアコードに至っては、中西部では、入荷しにくいせいもあるのか大変な人気。供給が間に合わないほどでディーラーは強気、中古でも値があまり下がらない。

 ちょっと余談が長くなってしまったが、話を元に戻そう。これほど車の経済性に神経質になるほどアメリカの経済は苦しくなってきているのだろうか。

 スーパーをちょっと見渡すと、肉・卵・牛乳・プロティン・オレンジ・グレープフルーツ・ジュースなど、ボディビルダーならノドから手の出そうな食料品が豊富で、しかも安い。

 肉なら1ポンド(454g)2ドル、(1ドル200円として、400円)も出せば、まずまずの牛肉が手に入る。ディーブ・ジョーンズが朝食に12個の卵と、1.9ℓのミルクetc……を摂ると言われ、さぞかしとんでもないお金がかかるだろう。給料のほとんどが食費で消えてしまうのではないかと日本的レベルでは考えてしまう。

 しかし計算してみると、卵のラージ・サイズが1ダース70セント(約140円)、ミルク1.9ℓ(半ガロン。たいてい半ガロンとか1ガロンとか大きなカートン、ポリ容器などに入れて売られている)75セント(約150円)で、これだけなら290円くらいしかかからないのだ。日本でこれだけ摂るには、おそらく700円か800円くらいかかるに違いない。

 プロティンは、液体、パウダー、タブレットと製品の種類もたくさんあり、プロティンパーセンテージ、プロティンスコア、風味などもバラエティーに富んでいる。それらが日本で入手するねだんの1/3から物によっては1/4くらいで手に入る。ビタミン剤、各種ミネラル、レバータブレットなどについてもだいたい同じことが言える。

 どうしてそんなに安いのか、と聞くと、「安い? とんでもない。この2~3年とくに物価高がひどくて、ひどくて」というのがおおかたの返答である。しかし、日本的水準でみる限り、食料品、とくにボディビルダーが必要とするような食料品については、とくかく安い。

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 日本にいた頃は、仕事、仕事で満足にトレーニングできなかったが、こちらに来てだいぶ慣れ、自分のペースが出来つつあります。現在はジュニア・カレッジに通っており、比較的時間もとれるので、できるだけこちらのボディビルに関する情報等を送りたいと思っています。

 今回は、手はじめに食糧事情、経済事情を書きましたが、次は、ゴールドジムを訪問したときの様子などをお送りしたいと思っています。また、最近テレビでシュワルツェネガー主演のパンピング・アイアンが放映され、画面をカラースライドで撮影しました。それらも一緒にお送りします。
月刊ボディビルディング1978年10月号

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