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なんでもQ&Aお答えします 1978年12月号

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月刊ボディビルディング1978年12月号
掲載日:2018.07.22

大胸筋の中央部をもっと発達させたい


 ボディビル歴は3年2ヵ月です。私の大胸筋は外側の部分に比べて中央の部分が少し薄いようです。そのようなわけで今後しばらくの間は、この部分の発達に重点をおいたトレーニングをしたいと考えています。
 そこでお伺いします。大胸筋の中央の部分の発達を促すにはどのような運動種目が有効でしょうか。また、ベンチ・プレスでもってその部分に効かす場合には、どのような点に留意して行えばよいでしょうか。
 なお、自宅でトレーニングしており私が現在所有している器具は、バーベル、ダンベル、フラット・ベンチ(ラック付)、それにスクワット・スタンドだけです。それら所有器具のことを考慮して、先の質問にお答えいただきたいと思います。
(名古屋市 青木洋一 学生 21歳)

 あなたが今まで行なってきた大胸筋のためのトレーニング法がわからないので、個別的な解答は避け、一般的な理論に基づいてお答えすることにします。
 大胸筋は、胸骨と鎖骨の中央部から起こり、上腕骨の大結節に付着する筋で、前胸部を覆う広い筋です。そしてこの大胸筋は、大胸筋そのものの運動時において、筋の緊張の仕方にひとつの傾向を有しています。
 つまり、大胸筋には、その運動時において、筋が伸張された状態(上腕が外転したときの状態)から短縮(上腕が内転)していくにつれて、強度な緊張が付着部に近い部分(ワキに近い部分)から起始部(胸骨と鎖骨に寄った部分)の方へ及んでいくという傾向があります。
 このことをベンチ・プレスの場合に当てはめていえば、バーベルを胸もとに十分におろした状態から、上方へ挙上していくにつれて、強度な緊張が付着部の方から起始部の方へ及んでいくということがいえます。したがって、大胸筋の発達のアンバランスを矯正するには、この性質をよくとらえてトレーニングを行うのがよいということになります。
 あなたの場合、中央の部分の発達を強化したいということなので、その部分の補強運動について説明することにしましょう。

◎ベンチ・プレスについて

①グリップの間隔
 ベンチ・プレスは、握り幅の広狭によって大胸筋に与える効果にいくぶん違いが生じます。そして、中央部の発達を促すには、どちらかといえば握り幅をいくぶん狭くした方がよいようです。
 ベンチに仰臥し、両腕を真横に水平に伸ばし、上腕はそのままにして肘を直角にまげたときの間隔がだいたいスタンダード・グリップですから、それよりも1~2こぶし狭くするとよいでしょう。といっても、あまり狭くしすぎると、大胸筋の内側部と上腕三頭筋に効果がかたよるきらいがあります。したがって、適切なグリップ間隔については、実際に自分で試してみた上で決めるのがよいでしょう。

②運動のやり方
 握り幅をスタンダード・グリップよりもいくぶん狭くした場合、ベンチ・プレスの動作の途中、バーベルを下へおろすときに肘がつかえるような感じになって、スムーズに動作ができなくなることがあります。そのときは、意識的に両肘をいくぶん横へ拡げるようにしてバーベルを胸元までおろすようにすればよい。
 両肘がつかえるような感じのまま重い重量で運動をくり返していると肩を痛めるおそれがあるので注意。なお、今さら改めていうまでもなく動作はていねいに行うこと、ことに中途から上半分の動作をいいかげんに行わないように留意すること。

 以上が大胸筋の中央の部分に比較的効果があると考えられるベンチ・プレスです。その他の運動種目では、ダンベル・ベンチ・プレスが有効と考えられます。また、人によってはナロウ・グリップによるベント・アーム・プルオーバーが効く場合もあります。とくに、胸郭が丸くて厚い感じの人はその傾向が強いようです。
 なお、ダンベル・ベンチ・プレスの場合は、普通の方法でも別段かまいませんが、筋をより的確に刺激できるという点ではバック・ライイングによる方法の方がどちらかといえば有効のようです。

◎バック・ライイングについて

 バック・ライイングとは、腰から下の部分をベンチに乗せずに、背だけでベンチに仰臥した姿勢をいいます。このような姿勢で行えば、反動が使いにくくなるので、動作が正確になり有効度が増すといえます。
 バック・ライイングの仰臥姿勢には2つの方法があります。
 その1つは、ベンチに横方向から背を乗せて仰限する方法です。もう1つは、ベンチの一方の端からタテに背を入れるようにして仰臥する方法です(写真参照)。前の方法は、スティッフ・アーム・プルオーバーのようなタテの動きを有する運動に適しており、後の方法は、ラタラル・レイズ・ライイングやダンベル・ベンチ・プレスに適しているといえます。ただ、ダンベル・ベンチ・プレスの場合はラタラル・レイズ・ライイングに比べて使用重量が重くなるので、慣れないうちは仰臥するのに困難がともなうことがあります。
 なお、仰臥するときに、ベンチが背で押されて動くと危険なので、あらかじめベンチの他方の端を壁などに押しつけておくなどして、ベンチが動かないようにしておく必要があります。
バック・ライイング・ダンベル・ベンチ・プレス

バック・ライイング・ダンベル・ベンチ・プレス

◎ベント・アーム・プルオーバーについて(写真参照)

 プルオーバーは、広背筋、上腕三頭筋、大胸筋等に有効な運動ですが重点を大胸筋に置く場合は、スティッフ・アームよりもベント・アームで行う方がよいようです。そして、この場合、ベンチをデクラインぎみ(板などをベンチの脚の下に敷いて下半身の方を少し高くする)にして運動を行うと効果が多少増加されるようです。
 運動のやり方は、頭をベンチの端から下へおとし、運動中は、両肘をできるだけつぼめた状態(左右の上腕がほぼ並行をなす状態)で動作を行うほうがよいといえます。そのためには、肩の関節の硬い人は、バーベルの握り幅を狭くすれば動作がやりやすくなります。運動中に両肘が開きすぎると、大胸筋よりも広背筋に運動としての重点がかかってしまいます。
ベント・アーム・プルオーバー

ベント・アーム・プルオーバー

大腿四頭筋をもっと発達させたい


 ボディビル歴は5年3ヵ月です。以前はジムで練習していましたが、現在は自宅で行なっています。からだの発達ぐあいのほどは、上体はかなり自信がありますが下半身、とくに大腿四頭筋の発達がいまひとつもの足りません。
 そこで質問しますが、大腿四頭筋のうち、大腿直筋と中間広筋の発達を重点的に促すにはどのような運動を行えばよいでしょうか。また、大腿四頭筋の膝のあたりの発達を促すには、どんな運動が有効でしょうか。なお、脚を鍛練するための特殊な器具は所有しておりませんので、バーベルかダンベルを用いて行える運動種目に限定してお答えしていただきたいと思います。申し遅れましたがスクワット・ラックは所有しております。
(福島県 大原利男 会社員 23歳)

 大腿四頭筋のうち、大腿直筋と中間広筋を促すのにも、また、膝のあたりの発達を促すのにも、一応、スクワットが有効であるといえます。ただし、それらの部分に重点的に効かすには、それなりのスクワットのやり方があります。
 では、それらの部分に有効と思われるスクワットのやり方について説明しましょう。まず、大腿直筋と中間広筋に比較的有効と考えられるパラレル・スクワットと、膝のあたりに有効なハーフ・スクワットの2つの運動について説明します。

◎パラレル・スクワット

<かまえ>
バーベルを両肩にかつぎ、両足の間隔を肩隔よりも少し狭くして立つ。この場合、両脚の爪先は前方へまっすぐに向けるか、もしくはいくぶん内側へ向けるようにして立つ。また、次に説明する動作をやりやすくするために、踵の下に適当な厚さの木片を敷く。

<動作>
左右の大腿部が常に平行を保つように留意して、脚の屈伸(スクワット運動)を行う。しゃがむときも、立ちあがるときも、膝をまっすぐ前方へ向けた状態で動作を行うようにする。

<注意事項>
背と腰が正しいフォームを保てる範囲で、できるだけ深くしゃがむ。無理に深くしゃがむと、背と腰が湾曲して危険であるが、だからといって、浅すぎても運動の効果が半減するので、前述したように、木片などを敷いて、正しいフォームで、できるだけ深く腰がおろせるように配慮する。
 また、立ちあがるときに、上体を前傾しすぎると効果が大幅に減少するので注意する。そのためには、爪先の方に重心をかけすぎないようにして、むしろ、バランスをそこなわない範囲で、意識的に踵の方へ重心をかけるようにする。いくぶん余裕のある重量を用いて正確に行うのが効果的であるといえる。

◎ハーフ・スクワット

 大腿四頭筋の膝のあたりの発達を促すには、ハーフ・スクワットが適していると考えられます。とくに両足の間隔をあまり広くしないで、また、脚を屈伸するときに膝の向きをあまり外側へ向けないようにして行うハーフ・スクワットが有効のようです。
 したがって、先に説明したパラレル・スクワットのスタイルで行うのがよいと考えられます。

<かまえ>
パラレル・スクワットと同じ。ただし、腫の下に木片を敷く必要はない。ただし、脚を屈したときの腰の高さを一定させるために、立った位置の後方にあらかじめベンチ等を据えておく。

<動作>
パラレル・スクワットと同じ要領でしゃがんでいき、あらかじめ後方に据えておいたベンチに臀部が触れたら立ちあがる。動作中は、上体を必要以上に前傾させないように留意する。1セットあたりの反復回数は15回くらいとする。

<注意事項>
この運動は、バランスを失なうことがあるのでくれぐれも慎重に行うこと。また、脚を屈したときに、ベンチに完全に座ってしまうとバランスがとりにくくなるので、臀部が軽く触れる程度がよい。

器具なしで出来る背筋の運動


 ボディビルを始めてから10ヵ月になります。ただただ体をよくしたい一心でボディビルを始めたのですが、今ではトレーニングが楽しくてしかたがありません。しかし、残念なことには、最近、仕事の都合で毎月、平均10日くらいずつ出張があり、トレーニングが思うにまかせません。
 出張したときは、出張先の宿舎で一応下記のような「器具なしトレーニング」を実行しています。ただ背(広背筋)の運動だけはやり方がわかりませんのでやっていません。今後はこの部分の運動も行なっていきたいと思いますので、器具を使わずに(あるいはエキスパンダー等の簡単な器具、またはあり合わせの物を使って)行える広背筋のための運動法がありましたらご紹介ください。また、現在の方法に不備な点がありましたらアドバイスしていただきたいと思います。

◎現在行なっている器具なしトレーニング
①シット・アップ――腹
②ヒンズー・スクワット――脚
③プッシュ・アップ――胸
④鴨居押しあげ――肩
 (アイソメトリックス)
⑤カール――腕
 (エキスパンダーを使用)
⑥ハイパー・バック・イクステンション――腰

(大分県 香山優 会社員 24歳)

 ボディビルに対する意欲がありながら、思うようなトレーニングができないというのはつらいことだと思います。しかし、ボディビルは、自分の環境の中で社会人としての責任を全うしながら行うところに真価があるともいえます。あなたも今の意気込みで頑張ってほしいと思います。
 では質問にお答えします。
 バーベルやダンベル、および鉄棒などの器具を使用しないで行う、いわゆる「器具なしトレーニング」の場合、広背筋は他の身体部分に比べて運動の負荷が十分に与えにくい部分であるといえます。しかし、広背筋はビルダーにとって重要な身体部分ですので、トレーニングしないというわけにはいきません。次に比較的有効と思われる運動を4つほど紹介します。

◎マニュアル・レジスタンス・ラット・ワーク(写真参照)

<かまえ>
まず両手を体の前で上下に組み合わせる。この場合、下になった手の側へ少しずらして構えるのがよい。

<動作>
上になった方の手を前方へ押しやるようにし、下になった方の手は手前に引くようにして、組み合わせた手を互いに前後に引き合うように力を入れる。次に力を入れたままの状態で、下になった方の腕を後方へ引く。後方へ十分に引いたら、カを抜かずに元の状態に戻す。動作はゆっくりていねいに行う。
 腕を後方へ引きながら息を吸い、前方へ伸ばしながら吐くようにすると運動がやりやすい。
 1セットの反復回数は10回前後でよい。そして、1セットごとに組み手を変えて、左右交互に行う。
マニュアル・レジスタンス・ラット・ワーク

マニュアル・レジスタンス・ラット・ワーク

◎ラット・セレイト・ストレッチング

<かまえ>
柱(または窓枠など)の根元に両足を置き、両手で肩よりも低い位置につかまり、腰を後方へ引き両腕を伸ばして広背筋に負荷をかける。広背筋に負荷をかけたまま(意識的に負荷をかけるようにして)腕を屈して体を柱に引き寄せる。この場合、できるだけ腕に力を入れないようにして、肘で体を引き寄せる感じで行うようにするのがよい。終始広背筋の伸縮を意識しながら、ゆっくりとした動作でていねいに行う。
 なお、場合によっては片手で行うようにしてもよい。その場合、足の位置を、使用する手の反対側へ少しずらすと運動がやりやすい。

アイソメトリックスによるシーティッド・プル

<かまえ>
まず1.5m~2mぐらいの丈夫なヒモを用意する。床に座り、上体を起こしたまま、両脚をそろえて前方へ伸ばす。ヒモの中間あたりを両足のウラに引っかけ、ヒモの両端をそれぞれの手で握る。

<動作>
かまえの姿勢を崩さないようにして、両手でヒモを引っぱり、徐々に力を強めていく。十分に力が入ったところで、力を抜かないようにしてそのままの状態を6~12秒間持続する。

<呼吸法>
力を強めていきながら息を吸い、力が十分に入った状態を6~12秒間持続するときに吐く。ただし実際のところは、吐くというよりは唇からもらすといった感じで、少しずつ息を吐く。そのようにしないと途中で息苦しくなってしまう。
 なお、この運動は、腕の屈曲度を変えて数通りのフォームで運動を行うようにするのが効果的といえる。

◎エキスパンダー・ダウンワード・プル(写真参照)

<かまえ>
両腕を上方へ伸ばしてエキスパンダーを頭上にかまえる。

<動作>
両腕を伸ばしたまま、エキスパンダーを引き伸ばす。このとき、エキスパンダーを背の方ではなく胸の方へ引きおろす場合は、かまえの姿勢で、手のひらを中側へ向けてエキスパンダーを握るようにする。

<注意事項>
エキスパンダーの運動はバネの強度をいくぶん余裕の感じられる強さにおさえて、できるだけていねいな動作で行うことが肝心である。さらに、左右均等に力が入るように留意して行うこと。


 以上、質問の趣旨に添って広背筋の運動について述べました。現在行なっているトレーニングの内容についてはとりたてて云うほどの不備な点は見あたりません。あとつけ加えるとすれば肩の運動として「倒立して腕の屈伸」脚の運動として「片脚スクワット」などを採用してみるのもよいかと思います。
エキスパンダー・ダウンワード・プル

エキスパンダー・ダウンワード・プル

解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生
月刊ボディビルディング1978年12月号

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