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★自分でつくる栄養料理シリーズ★⑬
“なべ物料理A・B・C”

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月刊ボディビルディング1978年12月号
掲載日:2018.07.20
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1.10000ボルトもびっくり

 風がピューピュー吹きはじめる冬の季節にぴったり合う料理は、なんといってもなべ物料理。そして熱いシチューやグラタン料理、あるいは身近な食事ではラーメンやおでんもぐっとおいしく感じられるから不思議だ。
 つまり寒さに対抗して、グツグツ煮えたぎる熱い料理からカロリーを得ようと、自然に体が欲求するのである。冷たい料理より、温かい料理のほうが調理のときに熱を加えているぶんだけカロリーが高いといえる。日光浴をすると体にカロリーが与えられるのと同じ原理である。
 とりわけ家庭で、あるいは料理店で種類が豊富で誰にも好まれるのは、なべ物料理といえる。ひと口になべ物料理といっても、「ちゃんこなべ」「石狩なべ」に始まり、「おでん」「すきやき」に至るまで約100種類もある。そしてなべ物料理は、10000ボルトの瞳ちゃんもびっくりするくらい栄養効果が高いのだ。

2.材料の豊富さ、味の豊富さ

 なべ物料理がなぜいいのかを次に個条書に並べてみよう。
①料理法が簡単で誰にでも作れる。
②材料を何種類も同時に料理して食べるため、栄養のバランスがよい。つまり、体の成分となるたんぱく質は肉・魚・貝・とうふなどから、体調をよくするビタミンやミネラルは野菜やきのこ類などから、というように総合的な栄養がとれる。
③しょうゆ・酢・みそ・大根おろしなど、いろいろの味つけで、好みに応じて食べることができる。
④新鮮な野菜を食べたいときは、サッと早目にあげて食べ、よく煮こんだのが食べたいときはグツグツ煮てから食べる、というように変化のある味を楽しめる。
⑤材料を煮たあとの汁にうまい成分が出ており、このスープをおいしく食べることができる。
⑥うどん・もち・ごはんなど、主食に相当する食品まで鍋に入れて同時に食べることができる。
⑦熱くして食べるのでカロリーが高く体がポカポカ暖まる。
⑧多く作りすぎて余ったときも、翌日また煮て食べることができ経済的である。
⑨熱湯に材料を通すので、衛生的にも安心で、食中毒などの心配がない。
⑩同じ一つの鍋をつっつきあうから、みんなの親近感がわく。
というようにザッと挙げただけでもこんなにある。「カップライスや菓子パンなど加工食品ばかり食べていると、微妙な栄養バランスが欠けて栄養失調になる」とよく言われるが、その点、なべ物料理なら、材料の種類が多く、自然の栄養素をたっぷりとれるので安心である。
 私が知っている有名選手は下宿に大きな鍋を買ってきて、冬になると毎日のようになべ物料理をつくって体力づくりにはげんでいる。「毎日毎日あきないかなあ」と思うが、当人は変化があって、たんぱく質も多くとれ、おまけに不足しがちな野菜まで食べられるので、一石二鳥だと語っている。なるほど肉でも魚でも好みに応じてどんどんなべに入れて食べるといいわけだ。

3.うまいなべ物料理の作り方

 いよいよおいしいなべ物料理の作り方のポイントを述べてみよう。
 まず新鮮な材料を買求め、下ごしらえをする。肉なら適当な食べやすい大きさに切る。魚は頭や骨をとることもあるが、なるべくなら大胆にブツ切りにして、頭や骨のついたまま煮こむほうがよい。そうすれば味や栄養成分が汁に出ておいしく、体の栄養になる。
 貝やえびもなるべく設や皮がついたまま、グツグツ煮込むとなべ物料理全体の味がよくなる。
 野菜類は水で洗って適当に切っておく。ザクザクと大き目に刻んでおくほうが味がよい。野菜の中で、とくに白菜とネギは味がとけて、なべ物料理をおいしくするので、必ず加えるようにしたい。

Ⓐ寄せ鍋

 なべ物料理の代表的なもの。材料を7種類以上とりあわせ、あらかじめ塩やしょうゆ、酒などできちんと味をつけただし汁でグツグツ煮て食べるものをいう。よく似たものに〝水たき〟があるが、これはまったく味をつけないで煮て、食べるとき調味料(タレ)をつけて食べるものである。
 寄せ鍋にも「魚介類」「かに」「えび」「肉類」「肉だんご」など、いろいろ種類があるが、ここでは豚肉を使った白菜鍋を紹介しよう。
<材料>(2人前)
 豚薄切り肉200g・白菜1/3株・ゆでたけのこ30g・にんじん30g・生しいたけ4個・春菊50g・しらたき1玉・とうふ1丁・だし汁約500cc・日本酒少々。
<作り方>
①まず、鍋にこんぶとかつをぶしを入れてグラグラ煮出して、だし汁をつくっておく。めんどうな人はインスタントの固形スープを使ってもいいが、やはり自分でつくったほうがコクがあっておいしい。
②にんじん・しらたきは湯に通して食べやすくしておく。
③しいたけは煮えやすいように、包丁で切れ目を入れておく。
④以上の準備が終ったところで本番にとりかかる。だし汁を別の容器に移し、なべの中央に、約4~5cmの大きさに切った白菜を入れそのまわりに豚肉・たけのこ・にんじん・しらたき・春菊・しいたけ・とうふをならべる。
⑤だし汁に塩スプーン1/2・しょうゆ大さじ2杯・日本酒大さじ3杯を加えてよくかきまぜ、たっぷりなべにそそぎ、火にかける。このとき、だし汁を少し残しておき、煮つまってたとき追加するようにする。
⑥グラグラ煮たってくると、アクが出るので、スプーンなどでとり除く。
 これで出来あがり。なべ物に共通して云えることは熱いうちにどんどん食べることだ。残った汁は味もよく、栄養も豊富に含まれているので、うどんやもちなどを入れて食べてもいい。

Ⓑちゃんこみそ鍋

 相撲でおなじみだが、自分で作るときは、大胆になんでも好きな材料をなべに入れてつくればよい。私がよくやる、みそ味のちゃんこ鍋をひとつ紹介しよう。
<材料>(2人前)
 豚肉100g・さけ200~300g・かき100g・こんにゃく1/2枚・さといも2個・にんじん1/4本・春菊50g・ねぎ1本・とうふ1/2丁・みそ大さじ4杯・みりん大さじ2杯・油揚げ1/2枚・だし汁。
<作り方>
①寄せ鍋と同様に、だし汁をつくってこの中にあらかじめみそとみりんを溶かしておく。
②豚肉・さけは適当な大きさに切り、かきはサッと水洗いをしておく。
③さといも・にんじんは皮をむいて、輪切りにして湯に通しておく。
④以上の準備が終ったところで本番にに入る。まず、なべに入れただし汁を火にかけ、ぐらぐら煮る。
⑤煮たってきたら、はじめに豚肉・さけ・かきの順に入れ、そして野菜はにんじん・さといもをまず加え、煮えてきたら、ねぎ・春菊・こんにゃく・とうふの順に加えていく。
⑥煮ているうちに、野菜やこんにゃくなどから水分が出るので、食べながら味を調整する。
――料理のやり方や、材料を加える順序によって微妙に味が変化するので、いろいろ工夫して自分の好みに合ったものをつくればいい。ここに掲げた順序は標準的なものなので、必ずしもこれにこだわらなくてもいい。

4.なべ物料理の栄養価

 どんな材料を、どのくらい食べるかによって、カロリー・たんぱく質など当然異なってくるが、基準としては、カロリー約200~300、たんぱく質15~20gがなべ物料理一人前の平均値。スポーツマンで体力づくりにはげむ人なら、肉・魚の量をふやしていけば、当然、栄養価は高まるわけだ。
 この場合、注意したいことは、なべ物料理がせっかく肉・魚類と野菜類のバランスがとれているので、片方の肉や魚ばかりふやして偏食になると、血液バランスが酸性に傾くので、同時に野菜類、とくに各栄養成分の密度が濃い春菊やニンジンを多く食べるように心掛けることである。
 なべ物料理の大きな特徴は、スープに溶けている栄養成分である。肉や魚からアミノ酸のうち水溶性のものが溶け出しているから、スープのまま飲んだり、ごはんを入れて雑炊などをつくって食べるとよい。
 今回紹介したなべ物料理は、そのまま味が浸みこんでいるが、水たきや湯どうふなど、味をつけずに煮る場合は大根おろし・レモン(またはポン酢、凝った人ならユズなど)・しょうゆ等で好みに応じてタレをつくって、つけて食べればよい。すりゴマやにんじんおろし、あるいは細かくきざんだネギなどの薬味を加えれば、さらに味を引き立ててくれる。
 最後に、蔵前国技館で栃東関の引退興行が行われたが、そのときに紹介された親方の言葉を披露して結びにしよう。
 「地方から上京してくる若者たちは10代の成長期なので、練習中に体がメキメキ大きくなるが、その中にも大きな個人差がみられる。食事をよく食べ熱心に稽古する者は体も大きくなり、相撲も強くなるが、食事量の少ない者や好き嫌いの多い者は当然ながら体もあまりのびず、技量もついてこない。
 結局、熱心に練習し、よく食べる者ほど強くなるといえます」
 つまり、食事法が1つの大きなバロメーターといえるのだ。みなさんもよく研究して、体に良いものをえらんで食べていただきたい。
月刊ボディビルディング1978年12月号

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