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正しい栄養シリーズ
不老長寿の健康増進食品 キノコ・海草類

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月刊ボディビルディング1978年12月号
掲載日:2018.07.22
国立競技場トレーニングセンター
木村 リミ
 キノコと海草は、他の食品と比べて栄養的な価値はあまりなく、エネルギー源としてもほとんど効果がない。にもかかわらず、昔から、不老長寿の食物といわれ、ガンや高血圧等の成人病を予防する働きがあるとして、近年とくに注目されている。
 両者とも、蛋白質、脂肪、糖質が含まれているが、非常に消化が悪く、ほとんど吸収されない。有効成分として利用されるのは、主にビタミン類とミネラルで、その他、栄養学的に未知の物質もいろいろと含まれており、それらが体質をアルカリ性に保ち、体調を整え、肌を美しくするのに一役かっているようである。
 現代の人々、とくに若くて健康な人たちは、肉や卵などの栄養価の高いものをたくさん摂っていればよいとする傾向が強く、キノコや海草といった健康食品に関心を持っている人は少ないようであるが、ねばりのある体力をつくり、老化現象を予防するために、少量ずつでも常食したいものである。栄養学的には、さしたる成分が認められないとはいえ、実際に、健康な長寿者を調べると、海草を常食している人が多く、また、高血圧、心臓病、ガン等を、これらの食品で治したという例があるのも事実である。とくに、カロリーがほとんどないので、減量のためのダイエット・フードとしては最適のものである。

☆キノコの成分と効能☆

 キノコはカビと同類の植物で、その種類は数千に及ぶが、ふだん我々が食べるのは、マツタケ、シイタケ、エノキダケ、シメジ、ナメコ、キクラゲ、マッシュルームなどである。
 「香りマツタケ、味シメジ」といわれるように、それぞれ特有の香りや味があり、食事を楽しくしてくれる。とくにマツタケは独特の芳香が秋の味覚を満喫させてくれるが、最近では生産量が減り、とても高価になったのが残念である。
 エノキダケやナメコ、シメジ等は汁物や鍋物によく使われ、キクラゲ、マッシュルームは中華料理にふんだんに使われている。一般の和風料理やダシに最もよく使われるのがシイタケで、生産量も多く、乾物として保存できるので便利である。
 キノコの成分は、90%が水分で、蛋白質、脂肪等はほんのわずかで、糖質が少しあるが、消化が悪く、吸収されない。しかし、マツタケごはんやキノコ料理を食べすぎても消化不良をおこすこということは少なく、これは、キノコに含まれているトリプシン、エレプシン、アミラーゼ等の消化酵素のためである。
 ビタミンは、A、Cは少なく、B類がかなりある。また、ビタミンDの母体であるエルゴステリンがたくさん含まれていて、日光に当るとビタミンDとして作用する。この点で、生シイタケよりも干シイタケの方が栄養的にはすぐれているわけである。
 要するに、キノコはビタミンBとDの源として有効といえる。また、ミネラルも多く、鉄や銅、マンガンなどの特殊成分が多いことは注目に値する。その他、キノコには未知の成分も多くそれらがガンを防いだり、血管障害を治したり、いろいろの薬効を発揮するものと思われる。シイタケやサルノコシカケがガンを治すとさわがれるのをご存じの方も多いであろう。
 キノコの中には、ムスカリンやアマニタトキシン等の毒成分をもつものがあり、中毒すると下痢、腹痛、嘔吐、目まい等の症状を起こし、ひどいときは死亡することもある。笑いタケのように中枢神経をおかして、笑ったり踊り出したり、作用が弱い場合は、無口の人が急におしゃべりになったりするなど、症状はさまざまである。
 南米のある国では“魔性のキノコ”と呼ばれる麻薬のような作用のあるものがあり、食べたとたんに気分がよくなり、えもいわれぬ陶酔感にひたれるという。このように、キノコには精神に作用する働きもあり、その成分や効果には、計り知れないものがある。
 毒キノコで有名なのはテングダケ、ツキヨタケ、ドクベニタケ、アセタケ等で、一般にケバケバしい色をして、ネバネバした液を出すものには毒があるといわれるが、中にはそうでないものもあり、判別はむづかしい。市販のものは安心であるが、自分でキノコ狩りなどするときはよほど注意しなければいけない。食用キノコでも腐敗すると、有毒アミノ酸を生じて中毒することがあるから要注意。
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☆海草の健康増進効果☆

 我が国は海でかこまれているので、海草の種類も多く、昔からいろいろな形で食べられている。
 ふつう家庭で食べるのは、コンブ、ワカメ、ヒジキ、ノリ等であるが、それぞれ味や風味はちがっても,成分はだいたい似たりよったりで、蛋白質や脂肪は少なく、栄養的に注目されるのはビタミン類とヨードである。とくにビタミンはかなり多く含まれている。
 海草類はキノコ同様に低カロリーで消化が悪い。このため、有効な成分を吸収するためには、やわらかく調理することが大切である。肥満対策のダイエット・フードによく使われるが、かたいものをたくさん食べると消化不良をおこすので注意したい。
 海草が健康によいというのは常識になっており、昔から常食すると髪が黒くなるとか、高血圧を予防するとかいわれている。これは、ふんだんに含まれているミネラルやビタミンが酸性体質になるのを防ぎ、新陳代謝をよくして、健康な身体をつくり、白髪や動脈硬化等の老化現象を防ぐためといわれている。
 とくにコンブは、めでたいもの、よろこばしいものとされ、古く万葉時代から神前のそなえものや、慶事に用いられる習慣があるが、これは、実際に健康増進、若がえりに効果があるのを昔の人が経験的によく知っていたからであろう。
 コンブは、ヨード、カルシウム等のミネラルが多く、理想的なアルカリ性食品で、肉食などの酸性食品をたくさん摂っている人でも、コンブを常食すれば、体液をアルカリ性に保ち、ガンや高血圧、糖尿病などにかかりにくくなる。ヨードは甲状腺に働き、ホルモンの分泌をよくして、新陳代謝、体温調節の働きがあり、不足すると冷え症になり、カゼをひきやすくなる。また血中コレステロールを低下させる作用があるため、高血圧に効果がある。
 ヒジキは、黒くて細かい海草で、ビタミンCはないが、AとBがあり安価なアルカリ食品であり、また便通にたいへん効果がある。乾燥したものを売っているので、水につけて、やわらかくもどしてから、油で炒めたり、油あげや豆類、豚肉の細切り等と一緒に煮て、しょうゆと砂糖で味付けすれば捨てがたい味になる。
 ワカメは、比較的調理が簡単な海草なので、独身男性の自炊レパートリーにぜひ入れていただきたい。ミネラルとともにビタミンCが多く、生ワカメも乾ワカメも、塩を洗って、しばらく水にひたしてやわらかくすると、適度の塩味があって、そのままでもおいしく食べられる。
 ただ、何度も言うように、消化がよくないので、よく水にもどし、細かくきざんで食べるようにしたい。しかし味覚の点では、少し歯ざわりのあるくらいの方がおいしく、ドロドロにとけてしまいそうなのはいただけない。これは料理法というよりも、品質や鮮度によることが多く、質の良いものを選ぶことが肝要である。
 ワカメはふつう酢のものにしたり、みそ汁に入れたりして食べることが多いが、もどして、きざんだワカメに、レモン汁をふりかけ、しょうゆを少したらすと、手っとり早い料理になる。スープにするのも一法で、たっぷりの水で鳥肉のブツ切りを煮て、その中にもどしたワカメを入れて、塩味をつけそれに卵を割りこんだり、エノキダケでも入れると、高タンパク、高ミネラルの栄養料理ができ上がる。
 ノリは、ノリまきや味つけノリ等で日頃おなじみであるが、はじめて日本に来た外人が、日本人は黒い紙を食べていると驚いたという話がある。
 アオノリにもビタミンが多いが、アサクサノリにはとくにA、Cがたっぷりある。しかし、ノリのツクダニには少ないようで、栄養的には乾ノリの方がすぐれている。
 海草食品の特別のものとして、トコロテン、寒天がある。これらは、テングサ、イギス等を煮出した粘液を乾燥させて作ったものである。これを水にとかして熱したのち、冷却するとゼリー状になる。これを利用してヨーカンやゼリーがつくられるが、酢じょうゆで食べるトコロテンや、甘味をおさえた牛乳カン、フルーツ寒などは、低カロリーで満腹感が得られ、消化不良をおこすこともないので、すばらしい減量食品である。
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月刊ボディビルディング1978年12月号

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