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どこまでホント? 危ない健康常識〈2〉

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月刊ボディビルディング1980年6月号
掲載日:2019.10.21
 現代は情報があまりにも多すぎて、「あれがいい」、「これはいけない」と、未整理のまま諸説がとびかい、善良な市民はとまどうばかりである。そこでもう一度、あなたの信じていることは正しいかどうか、再チェックしてみよう。

――一野沢 秀雄――

食生活のかちがった知識

<砂糖を食べるとムシ歯になる>

「甘い砂糖が歯のエナメル質を溶かしムシ歯をつくる」と信じているお母さんがほとんどであろう。ムシ歯の本当の原因は、歯と歯の間にたまったカスが酸酵して生じる酸のためである。これを防ぐには、こまめに歯をみがいたり、口をゆすいだりすること以外にないのである。

 つまり、砂糖や甘い菓子そのものが悪いのではなく、食べたあとの習慣づけをきっちりしないことがいけないのである。しつけの問題をいいかげんにして、責任を食品になすりつけるのは本末転倒である。

く牛肉は栄養価が高い>

「豚肉やとり肉よりも、値段が高いだけ牛肉のほうが栄養があり、スタミナがつく」と信じて、無駄な出費をしている家庭が多い。とかく日本人は、「価格の高いもの=栄養がある」とまちがった概念を抱きやすい。
 
 これらの肉を実際に分析してみるとたんぱく質はほとんど変らないうえ、たんぱく質を構成するアミノ酸の組成をみると、80に対して、豚肉90、とり肉87で、栄養的にはむしろ豚肉やとり肉の方がすぐれていることがわかる。
〔栄養価の高い牛肉にたくさん栄養があるとは限らない〕

〔栄養価の高い牛肉にたくさん栄養があるとは限らない〕

<化学調味料は有害>

「グルタミン酸ソーダ(味の素などの化学調味料の原料)は発ガン性がある。と聞いたので、最近は使わない」という主婦がふえている。アメリカの動物実験で、体重1kg当り数十グラムの量を食べさせた結果、発ガン性のあることが判明したものだが、こんなに多量に与えると砂糖でも塩でも発ガン性を示すことになろう。

 化学調味料は、とかく多量に用いすぎており、この風潮をいましめるのは良いけれど、そうかといって、危険物視はゆきすぎである。必要最少限度の使用なら、なんら影響はない。

<酸性食品は血液を汚す>

「アルカリ食品は血液をきれいにする」といって、クロレラやコンフリー葉緑素などの効果が大々的に宣伝されて売出されている。確かに野菜や海藻などはカリウム、ナトリウムなどのミネラルに富み、血液中でアルカリ性物質になりやすいが、そうかといって、血液状態が酸性やアルカリ性に簡単にクルクル変化するものではない。

 血液にはバッファー・アクションといって、つねにPH(ペーハー)を7.4前後に保つ作用がある。肉・魚・卵・白米など、酸性食品といわれるものを食べたからといって、急に血液が酸性になり、病気になるということは考えられない。長い間の食生活のかたよりをいましめる神話と考えたい。要は適切なバランスの問題である。

<野菜サラダは美容によい>

 若い女性たちがプロポーションづくりのために、昼食は野菜サラダだけですますという涙ぐましい光景をよく目にする。確かにカロリーは少なく、満腹感もそれなりに得られるのは良いが体を維持するためのたんぱく質まで制限してしまうのはどうだろう。

 こんな食生活を続けていると、「貧血」「立ちくらみ」「生理不順」「冷え症」など、健康管理上、ゆゆしい問題が現われてくる。われわれの体は新陳代謝といって、古い細胞がこわれ、新しい細胞ができるという状態を常にくりかえしている。その新しい細胞の材料となるのがたんぱく質であり、美しい肌や髪、筋肉のもとなのである。だから生野菜だけでは健康な美しい体は絶対につくれない。

<海藻を食べると毛が黒くなる>

 頭がはげてきたり、白髪が見立ってくると「ワカメやノリをもっと食べなくては」と急にあわて出す人が多い。しかし、髪と海藻の間にはそのような関係はまったくない。
 民族的にみて、日本人や東洋人は髪や目が黒く、それがたまたまよく海藻を食べる民族だったことから、こんな迷信が生まれたのであろう。

 西洋人は髪が茶色で、比較的海藻を食べない民族だが、そうかといって急に海藻をたくさん食べたからといって、黒々とした髪になるといったもではない。民族的な遺伝であり、食生活を変えたところでどうなるものでもない。

くヌルヌルした食品は精力がつく>

 納豆・とろろ芋・おくら・生卵・なめこなどのように、ヌルヌルした食べ物には強精効果がある、と昔から一般に信じられている。
 
 これらのヌルヌルはムコ多糖体といって、確かに細胞内賦活作用を持ってはいるが、これが即、精子の数をふやしたり、精子活動を活発にしたり、という効果はまったくない。むしろ、ヌルヌルしたイメージが性行為の感触を連想させるので、こんな迷信が生まれたのだろう。それに「強くなる」とで思わないと、こんなヌルヌルした食品は食べる気になれるものではない。人間の欲望とは恐ろしいものである。

くアルコールは健康に悪い>

 酒やビールを飲むときに、おつまみや肴をいっさい食べず、もっぱらアルコールだけを飲んでいた私の友人が、ついに肝臓をやられて長い入院生活を余儀なくされている。
 しかし、これは、アルコールそのものが悪かったからではなく、飲み方、食べ方の不適切だと推察される。適当においしく肴を食べながらアルコールを飲めば、肝臓がアルコールを分解す能力が増してくる。食前に軽く飲むことは、食欲を高めるのに大へん効果がある。
〔おいしいおつまみや肴を食べながら適量飲めば、酒はまさに百薬の長である〕

〔おいしいおつまみや肴を食べながら適量飲めば、酒はまさに百薬の長である〕

○○健康法のまちがった知識

くぶら下がり健康器で腰痛がなおる>

 今や全国の家庭や職場に鉄棒を入りこませた“ぶら下がり健康器”の功績は大きく、運動不足の解消や仕事疲れをいやすのに大へん便利であるが、まちがった使用法で、かえって症状を悪くしたという例もある。
 私の知っているある主婦は、「腰痛とよい」ときき、早速これを購入してぶら下がってみた。その途端、ギクッと痛みが走り、うずくまってしまい、救急病院へ。そして今は皮肉なことに、この“ぶら下がり健康器”のPRにのっているM先生の治療を受けているというのだ。

 ふだん運動をしていない人がぶら下がるときは、急に体重をかけるのではなく、最初は高さを低くして、足がつく状態で体を伸ばし、徐々に高さをあげてぶら下がるようにすべきだったのだ。使い方をまちがえるとかえって悪くなるという例である。くれぐれも無理をしないで慎重にしていただきたい

<ルームランナーでランニングの代用ができる>

 室内にいながらパンツ1枚で走れる」となると、ウーム、ひとつやってみようという人が大勢あらわれ、ここ2年ばかりたいへんなブームになった室内走行器。買ってみると意外に重い装置で(だからこそ数万円という価格がつけられているのだろうが)、いざ室内で走ってみると、騒音がやかましく、マンションの階下の部屋まで響くありさま。そのうえ、カウンターの数字がすすむためには、ももをじゅうぶん上げて、ドンドンと強く上下運動をさせる走り方が要求される。

もちろん、これはこれでエネルギー消費効果はあるが、実際の戸外の走法(後方にけって進む)とは異なるし、また、次々と移りかわるまわりの景色をみながら、新鮮な空気を胸いっぱい吸う魅力に欠けるのも難点である。

<漢方薬には副作用がない>

 最近、医薬品の過剰投与が問題になり、その反動から、漢方薬がブームになっている。「漢方薬には副作用や薬害がないから安心だ」といわれているが、漢方薬でも使い方が不適切だと効果がないだけでなく、逆に病状を悪くすることさえある。

 漢方の処方をマスターするには、きびしい修業が要求される。たとえば風邪ひとつとってみても、熱があるとき無いとき、のどが痛むとき痛まないとき、鼻水が出るとき出ないとき、とそれぞれの症状に応じて、微妙に配合をかえなければならない。

 ところが一般のひとは、街の薬局で「これは漢方の自然草を使った薬なので……」などといわれ、高価な費用を払っていることが多い。
 漢方の中にも、朝鮮人蔘や附子(ブシ)などのように「日本薬局方」に登録され、正式に医薬品扱いになっているものが多い。このことは、使用法次第で薬にも毒にもなることを示しているわけで単に「漢方薬だから」というだけで安心してはいけない。

<磁気で肩こりがとれ、安眠できる>

 マグネット・ネックレスで肩こりがとれるとか、磁気の入った枕や布団でや着寝ると不眠症がなおる……などと、まことに結構なPRが耳に入ってくる。宗教まがいのこんな効果が本当にあるのだろうか?
 朝日新聞科学技術班の調査では、日本だけが磁気の効果を承認しており、欧米では磁気の効果については全く認めていないという。

「肩こり」や「不眠」という徴候はいるずれも心因的な要素が大きいもので暗示に左右されやすい。効くといえばその気になり、実際に体の調子もよくなるわけで、一種のまじないのようなものだ。
 満足している人に水をさすつもりはないが、内臓疾患などの場合は、このような療法は避けて、ちゃんと専門医に診察してもらうことだ。

<サウナは血圧によい>

「サウナで汗を流すことは、体内の有害物質である水銀、カドミウムなどを排出することになり、たいへん良い健康法である。
 けれども、血圧の高い人がいきなり暑い部屋に入ったり、逆に、サウナから出てきて急に冷水をかぶったりすることは、心臓に大へん負担をかけ、時にはショック死することさえある。
 40才を過ぎた中高年の人は、温⇔冷のくりかえしを急激にしないほうがよい。
〔サウナは中高年者には要注意〕

〔サウナは中高年者には要注意〕

月刊ボディビルディング1980年6月号

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