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ボディビルディングの革命理論<その4>
デニス・デュブライルの理論

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月刊ボディビルディング1979年5月号
掲載日:2018.11.20
国立競技場指導係主任 矢野雅知

くさらにハードに>

 トレーニングを続けてきて、あるレベルまで到達したあと、さらにそれ以上に筋肉を発達させるには、ハードなトレーニングが必要である。
この点に関しては、いかなる専門家も異論はないはずである。言い換えれば、よりハードなトレーニングなくしては、より大きく強い筋肉は獲得できないということになる。
 従って、コンテスト・ビルダーのように、より以上の筋肉の発達を目指すには、鼻歌まじりで、トレーニングをやっているようでは、とても目的を達成できるものではない。
額からも鼻先からも、ボタボタと汗がしたたり落ちるぐらい、懸命になってバーベルを持ち上げるように、しっかりとトレーニングに取り組むことが大切である。

<ハード・トレーニングとは>

 ところで、我々はハード・トレーニングとかハード・ワークと気軽に言っているが、このハード・トレーニングとは具体的にどういうことなのであろうか。
まずこの点を明確にしておかなくてはなるまい。それは———

①セット間の休息、あるいは種目間の休息もほとんどとらず、次々とトレーニングを進めていくというもの。
きわめてキツイので、当然ウェイトはそんなに重いものは扱えないことになる。

②ある筋肉に対して、これでもかこれでもかと、何セットも何セットもやるという多セットのトレーニング。

③筋肉に強い刺激を与えるために、1セット当りのレピティションは少なくなるが、きわめて重いウェイトを用いるもの。
 このようにハード・トレーニングとは大体3つに分類されるが、ここでは③の意味、つまりある回数を繰り返すのに、できうる限り重いウェイトを用いるというハード・トレーニングについて述べてゆくことにする。
 さて本論に入ろう。

<カベを打ち破るハード・トレーニング>

 筋肉を鍛えていくと、筋力が向上したり、あるいはサイズが増えてバルク・アップしてくるが、あるポイントを過ぎると発達が停滞してしまう。
これは必ずといってよいほど、誰もがブチ当るカベである。このカベを打ち破るために各人各様に、あらゆる手段をこうじてトレーニングを進めてゆくのだが、最後に到達する結論が、「筋肉をさらにハードに働かせろ!」ということである。
間違わないでほしい。「もっと長時間トレーニングをやれ!」というのではなく、「筋肉をより強く刺激せよ!」ということなのである。
 この目的を達成する最も効果的な方法が、すなわち、ある回数を行なうたびに、できるだけ重いウェイトを持ち上げるということである。
 これにマッチするメソッドなら、どれも筋肉のより大きな発達を刺激することができる、といえるだろう。

<さらにもっとハードに>

 ピアリー・レイダー氏は次にように述べている。
「たしかに1セットごとに、もはやこれ以上持ち上がらない、というオール・アウトまで追い込むということはトレーニングでの正しい方向づけを与えたものであるけれども、これだけでは、まだ十分ではないハズだ!」
 そう、もはやウェイトを持ち上げられなくなるまで追い込むのが、筋肉を最もハードに鍛えるすべてではない。
 それ以上に筋肉をハードに働かせる方法がある。それこそ、最大の効果を生む方法なのである。

<最後の1回が大きな意味を持つ>

 すでにこのシリーズにおいて、低重量・高回数制も高重量・低回数制のどちらも、バルク・アップを狙うボディビルディングとしてはベストの結果を与えない、ということを述べた。
もちろん、両者ともそれぞれ大きな効果は期待されるが、収縮筋も筋形質も同時に大きくさせて、最大のバルク・アップをはかるためには、アーサー・ジョーンズなどが主張するように、1セットにつき8~12回というのが最適であることになろう。
 そこで通常1セットにつき10回やるものとすると、10回目を持ち上げたらもはや正確なフォームでは、11回目は持ち上げられなくなってしまう。
つまり、そこでオール・アウトとなるわけだが、実はこの10回目の最も苦しいレピティションが、最も筋肉の発達を強くうながすものなのである。
 すなわち、どんなに頑張っても、10回までしか持ち上げることのできないウェイトを使ってトレーニングする場合、筋肉を最も働かせる最大能力へと1回ごとに近づいているわけであり、最後の10回目が最もそこに接近しうることになる。
 なぜ、最後の1回が最も筋肉を刺激するのであろうか?
 ここで、次のことをもう一度、整理しておこう。

<最大負荷=最後の1回>

 ウェイトリフターやパワーリフターのように、「筋力」だけを至上の目的とするのであるならば、通常使用する重量というものは、10回も繰り返せるものではなく、1回からせいぜい3回ぐらいの、最大重量もしくはそれに近いものとなる。
 というのは、最大筋力を発揮するような場合には、神経が大きく関与するからで、きわめて重いウェイトを持ち上げるには、大きな筋線維を動員するための条件反射活動が活発でなくてはならず、中枢神経機構が十分に機能しなくてはならない。
ところが、10回も繰り返すような運動をやれば、たちまちにして疲労してしまい、条件反射の形成ができなくなってしまう。
すなわち、リフター達の求める「筋力」の獲得が難しくなってしまうというわけである。
 しかしながら、最大重量を用いるような高重量・低回数制は、神経機能の作用する集中力は高まっても、エネルギー消費量は大きくないので、筋肉の肥大をもたらすという効果は大きくない。
従って、体重制のあるリフターには好都合ということになる。
 そこで、ボディビルダーのように、最大限まで筋肉を大きくしようというためには、エネルギー消費量を大きくして、しかも筋肉に強い刺激を与えて、代謝を高めることが重要となってくる。
それは同時に、筋肉を太くすることになるので、絶対筋力を大きくすることにつながってくる。
 故猪飼道夫教授等が、超音波を使って、単位あたりの筋力を測定したところ、6kgという数値をはじき出した。
これは筋肉が太ければ太いほど筋力は大きくなる、ということを示すものであり、筋肉の太さを求めるボディビルダーは、結果的には絶対筋力の工場を目指しているということになる。
 ただ、中枢神経機構との条件反射の形成を高めようとしないので、ボディビルダーはリフターのように、見かけ上は重いバーベルを持ち上げれないということになるわけである。
 さて、最後の10回目が、なぜ大切かというと———
 1回しか持ち上らない重量を使って最大筋力を発揮するためには、当然、筋線維の多くが動員されるが、それ以下の負荷を用いれば、それより少ない筋線維が動員されるが、1回持ち上げるたびに休んでいる筋線維も動員されてくる。
そして、最後の10回目には、その数は最大になる。
 これについて、ソ連のザチオルスキーは「スポーツマンと体力」(ベースボール・マガジン社)で、「最初は簡単に持ち上げられた重さも、だんだん持ち上げるのが困難になってきて、生理的に大きな負荷を持ち上げるのと同じようになる。ついには最大筋力を発揮した場合ときわめて似たような生理現象となる」
 という意味のことを述べている。
 つまり、リフターのように最大筋力もしくはそれに近いものでトレーニングするのと、10回できる重さのウェイトであっても、オール・アウトまでトレーニングをやれば、最終段階には生理学的に同じように筋肉に強い刺激を与えられるのである、ということになる。
 だ、か、ら、最後の全力を傾けてやる「あと1回」が、きわめて重要なものとなるのである。

<これこそ最大のハード・トレーニング>

 今、5回で持ち上がらなくなるウェイトを用いて、5回を懸命になって持ち上げた。つまり、5回目で最も強い刺激がきたところで、さらに重量を減らして、あと5回を再び持ち上げられなくなるとことまでやったとしよう。
 これは、現在よく我々が用いるポピュラーなメソッドの一つである。
これだと、5回目でオール・アウトして、筋肉を強く刺激したあと、再びもう一度オール・アウトするので、もっと強い刺激を与えられる。
しかも合計10回のレピティションなので、代謝も十分に促進されることになる。
 しかし、なぜそこまでしか考えないのだろうか。
なぜ、それ以上に筋肉をハードに働かせようという理論的な考えに到達しないのであろうか。
 つまり、なぜ1セットごとに全力をつくすのではなくて、1回1回に全力を発揮しようとしないのであろうか。
 1回ごとに全力を発揮する———これこそ、筋肉を最もハードに働かせるトレーニング方法なのである。

<ウルトラ・トレーニング方式>

 10回目でオール・アウトするならば8回目、9回目あたりから苦しくなってきて、全力発揮を強いられることになるが、はじめの1~5回ぐらいなどは、本人は頑張っているつもりでも、1回ごとに全力を出しきっていないといえる。
それを1回ごとに全力を発揮できれば、さらによいのだが、これを可能にするには、実際上、バーベル、ダンベルなどでは難しい。
デュブライル氏は、ウルトラ・マシーンを開発して、1回ごとに全力を発揮できるような、イーチラス・マシーンに類似した器械で話をすすめているが、我々にはピンとこないので、詳しいことはこのシリーズでは延べない。
 だが、ウルトラ・マシーンをかつぎ出さずとも、大きな効果を示す方法があるので、その種のトレーニング法を紹介しよう。
 それは、次のようなものである。
(1)調節式レジスタンス、すなわちアイソキネティック・マシーンを用いてトレーニングすることができる。
(2)トレーニーがウェイトを完全に持ち上げられなくなったら、パートナーがアシストして、ウェイトを持ち上げるようにする。
(3)トレーニーに加わる負荷は、全力を発揮できるようにすべてパートナーが与える。
(4)ウェイトを持ち上げたあと、ただちに重量を減らしてゆく。これを何回も繰り返して1セットをやるようにする。

 だいたい以上のようなものであるがこれらはよく知られいるメソッドである。
だが、(1)はともかくとして、他のメソッドで、1回ごとに全力を傾注して行なっているトレーニーは、はたして何人いるであろうか。
自分では頑張っているつもりでも、はじめから終わりまで最大に力を発揮して行なっているものは、きわめて少ないといってよかろう。
 さて、これらについて、もう少し詳しくみてゆこう。
(1)———アイソキネティックスについては、今さら多言を要するまでもなく、現在最も注目を集めているトレーニング形態である。
水泳界などでは、マーク・スピッツ選手が数多くのゴールド・メダルを獲得したのは、アイソキネティックスを用いていたからである、といわれてから、ますますその傾向が著しい。
 そして、トレーニングについての研究が進んでゆくにつれ、ますますそれは脚光を浴びるようになってきた。
というのは、アイソキネティックはアイソトーニックス、あるいはアイソメトリックスよりも、筋肉により以上強く刺激を与えるという報告が多くなされているからである。
 また、アメリカのアポロ計画においても、乗組員の訓練にこの方式を採用したことなども、ブームを作るきっかけとなったであろう。
 その大きな利点は、バーベルやダンベルを用いてやるのと違って、運動のスピードは一定にされるので、スティッキング・ポイントだけに最大負荷が加わるのではなく、運動中はどの関節角度においても最大筋力を発揮しうるということである。
 しかし、このアイソキネティックスでは、「引っぱる」「押し上げる」などのポジティブ・ムーブメントはできても、ネガティブの要素は欠除している。
だが、こんなことはなんらハンディキャップとはならないほど、これは優れたトレーニング形態であるとの報告が多くなされている。
 が、しかし、それらのデータでは、対比するアイソトーニックスは、ここで論じているような高度なメソッドを用いているわけでない。
ところが、実際に経験を積んでるトレーニーたちは、アイソトーニックスを用いていても、あらゆるテクニック、メソッドを駆使して、より高レベルの筋肉の発達を目指しているのであるから、実験報告だけで、単純にアイソキネティックスがアイソトーニックスに優ると判断できるものでは決してない。
 よくその種のデータの対象者は効果を示しやすい非鍛錬者が多く、彼らに大きな効果を示したトレーニング形態というものが、即そのまま鍛錬者に適するものでもないし、逆に鍛錬者が行なっている練習方法を、そのまま非鍛錬者に合わせたら、逆効果になる場合すらあることは、我々の多くが見聞きするところであろう。
 ま、それにしても、アイソキネティックスは、1回1回に全力を発揮できるのであるから、器具さえそろっているのであるなら、多いに活用すげきものである。

(2)———これは知ってのとおり、フォースド・レプスといわれるメソッドである。
 ふつう6~8回ほどのバーベルを持ち上げて、もはやそれ以上持ち上がらなくなってきたら、パートナーがバーベルを持ち上げられるように、中央部に手を添えてやる。
とくにスティッキング・ポイントのところでバーベルが止まってしまって、持ち上がらなくなったようなときは、ほんのわずかな力を貸してやるだけでよく、補助は最小限度にして、できるだけトレーニーが最大の努力をするようにしむける。
 これが一般にとられるフォースド・レプスのやり方であるが、ここでは「できるだけハードに」というのがポイントであるから、はじめから最大負荷に近い重量を用いて行なう。
 すなわち、1回もしくはどんなに頑張っても2回しか出来ないというウェイトでスタートする。
それをパートナーが6~10回繰り返すように補助をして行なうのである。
言うまでもなく、これはひじょうにキツイ。1セットやっただけでグッタリしてしまうほど疲れるし、それだけ筋肉に強烈な刺激が加わることになり、当然、効果も大きい。
なぜなら、ふつうのやり方で10回やるのと違って、最初の2~3回目ほどで、多大の筋線維が動員されるからである。
 このシステムでは、初めから最大負荷に近いものを用いるので、最初の1~2回目でオール・アウトに近い状態に追い込まれてしまう。
それを補助の力を借りながら、1回ごとに全力を発揮するのだが、毎回ウェイトを下ろしてくるとき、つまりネガティブ・ムーブメントでは、補助がないのでそのウェイトはすでに最大負荷以上のものとなっている。
それで、前回詳しく述べたようなネガティブ(オーバー・ロード・トレーニング)の効果をも、同時に持つことになる。
だからといって、このようなネガティブが主体なのではなく、ウェイトを持ち上げるポジティブが重要な意味を持っているのであるが、ネガティブのときにも全力を発揮して行なうようにすれば、さらにハードになりうる強烈な方法である。


(3)———上記(2)の考えをそのまま当てはめればよい。
 すなわち、プリーチャー・ベンチ・カールを例にとると、パートナーがバーベルの中央部を押えて、持ち上げる時にもまた下ろすときにも、つねに全力を出しきるように、力を適度に加えてやるようにする。
 また、バーべルの重量は垂直方向に加わっているので、円運動を描くベンチ・カールなどでは、ある角度を過ぎるとかなり楽になってしまうことになるが、パートナーが抵抗を与えてやれば、力の加わる方向も最適なものとなりうるので、より大きな効果が期待できる。
 もちろん、このシステムならアイソキネティックスのように一定のスピードで運動させることも可能だし、しかもネガティブでも行なえる、という利点もある。

(4)———これは、マルティ・パウンデッジと呼ばれるものである。
通常、6回ほど繰り返したら、ただちにパートナーが重量を減らして、再びこれを数回持ち上げる。
それも持ち上げられなくなったら、再び重量を減らしてゆくのだが、ベンチ・プレスなどを行なう場合、パートナー2人が両サイドについて、重量を下げるためにプレートをはずしてゆく。
 これも一回ごとに全力を発揮させるということがら、最大負荷に近いウェイトでスタートする。
それで、1回もしくは2回持ち上げるごとに、次々とプレートをはずして10回ほど行なうようにする。
これもひじょうにキツイが効果的なメソッドである。
 もし、プレートをす早くはずしてゆけるようならば、パートナーなしで一人で行なっても、十分なトレーニング効果を上げることができるだろう。
 ところで、この方法には一つのアドバンテージがある。ベンチ・プレスを行なう場合、プレートをはずしてゆくためには、バーベルをラックに一度もどしてから行うので、静止したバーベルを再びラックから持ち上げるためには、そうとう強い力を入れなければならない。
つまり100kgのバーベルをラックからはずして持ち上げるためには、100kgの力を入れただけではバーベルは持ち上がらない。
それ以上の力を発揮して、はじめてバーベルは浮上するのである。
 ということは、プレートをはずしてラックから持ち上げるたびに、そのバーベルの重量以上の力を発揮しなくてはならないことになるので、自分では1回ごとに全力をだしているつもりであっても、実際にはどこかしら気力が弱まって気を抜いていることが多々あるので、これならラックからはずすたびに、少なくとも全力を傾けざるをえないのである。
 以上のようなウルトラ・トレーニング方式を採用するにあたっては、少し注意しておかなければならないことがある。
 それは、すべてのトレーニングがこのシステムを用いることができる、というわけではない。
なぜなら、これは筋肉を極度に緊張させるので、関節を痛めるといったような、思わぬことが起こるかもしれないからである。
 したがって、トレーニング経験の浅い者がこれらの方式を採用するには、あらかじめ軽いウェイトでウォーム・アップをしておき、十分に休息をとったのちに行うようにする。
 また、たとえ1セットだけでも、これらは筋肉にきわめて強い刺激を与えるのであるから、多くのセットを行なうとオーバー・ワークの危険性が十分にあるので、必要以上に行わないことである。
 さて、本当にこのウルトラ・トレーニング方式は、卓抜した効果があるのだろうか——————ある!
何度も繰り返すようだが、この信じられないほどのハード・ワークは、ビックリ驚天するほどの発達を示すはずだ。
 十数年にわたってトレーニングを続けた結果、自ら「世界で最も発達の悪い奴」と名乗らざるをえなかった男がこのトレーニング方式によって、急カーブの発達をみせはじめたのである。
彼は2ヵ月で実に40%もの体重増加に成功し、しかも筋肉のサイズのみならず、筋力も一段と向上したのである。
彼はいう。
「・・・それはウルトラ・トレーニング方式をやったからである。ふつうのゲイナーなら、素晴らしい発達をみるものと確信する。もし私のように、1回ごとに全力でやったとしたら・・・だが、私の経験では、本当の意味でハードにやっているのは、きわめて、きわめて少ないのだ!」
月刊ボディビルディング1979年5月号

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