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★内外一流選手の食事作戦⑨★

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月刊ボディビルディング1979年10月号
掲載日:2019.06.17

78ミスター日本、'79NABBAユニバース選抜コンテスト優勝
知名定勝選手の食事法

健康体力研究所・野沢秀雄
 好評の本シリーズは,スタート以来海外の有名選手ばかりを連続して紹介してきた。私の手元には、ビル・グラント、リッキー・ウェインなどまだ何人かの一流選手の食事内容がファイルされているが、今月からしばらく日本の一流選手の食事療法を紹介していきたいと思う。外国選手とちがって、食事習慣が同じ身近な選手ばかりなので、参考になる点も多々あると思う。

 日本の一流選手には、昨年4月にアンケートを依頼し、多忙の中、くわしいデータを送っていただいた。本誌上をお借りして厚く御礼申上げます。

 まずはトップ・バッターとして知名定勝選手に登場ねがうことにしよう。

1.知名選手の経歴

 ご存知のように、知名選手は昭和15年5月27日生まれの39才。ジャイアンツの王選手と同じタツ年生れだ。

 この年令で、激しさにおいて野球にまさるとも劣らないウェイト・トレーニングの鍛錬を若い人と同じように、いや若い人よりずっと激しくおこなって、昨年はついにミスター日本コンテストに優勝。そして去る7月22日、沖縄市で開催されたNABBユニバース選抜コンテストでは、朝生選手、長宗選手、宮畑選手を凌駕して第1位を獲得。現在日本でもっともすぐれた筋肉の持主と認められている。

 知名選手の経歴を示すと、2人兄弟の長男として生まれ、血液型はA型。バーベル練習を始めたのは15才のときというから、なんと24年のキャリアとなるわけだ。

 どうしてバーベルやダンベルでの鍛錬を開始したかというと、そのころ柔道をやっていたのだが、体が小さく、体力も弱かったので、どうしても体の大きい人にかなわない。そこで、体をもっと大きくし、かつ体力をつければ柔道もきっと強くなるにちがいないと考えたのが動機だったという。当時の身長が148cmで体重が40kgという記録が残っている。

 ちなみに現在は、身長162cm、体重73kg、胸囲120cm、上腕囲44cm、大腿囲61cmである。

 開始した頃のバーベルの重さは、ベンチプレス30kg、スクワット40kg、プレス30kg、カール10kgがやっとだったというから、まさに「千里の道も一歩から」である。

2.筋肉質の中胚葉型体質

 「小さい頃からいたって健康。スポーツが大好きだった」という知名選手は、体質が筋肉質で中肉中背のいわゆる中胚葉体質であったことが幸いして、ぐんぐん体が発達してきた。

 もちろん、バーベルやダンベルの使用重量が飛躍的に伸びてきたことはいうまでもない。ミスター日本コンテストの優勝を目指した昨年の春には、ベンチ・プレス140kg、スクワット200kg、カール60kgという自己最高記録を出している。(ふだんの練習では、これより10~20kg軽い重量でトレーニングしている)

 地名選手は沖縄中部の嘉手納町にある花城ボディビル福祉センター(会長花城可順氏)で週に5~6日、1日2時間のトレーニングを欠かさない。また、コーチも兼任しているので、他の練習生の指導もしている。

 「最近、トレーニングがきつい、と感じることがあるのは事実です。体にこたえ、疲労の回復も以前より遅くなり、しんどいです。しかし、私は、スポーツとしてのボディビルを選んできたし、好きなので、これからもまだまだがんばります。」と、彼はかねてから私に語っていた。

 とくに今回のユニバース選抜コンテストは、「地元沖縄の期待」ということもあるし、また「この道の先輩として立派にやらなければならない」という使命感もあったにちがいない。
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3.感動の舞台裏

 昨年の10月1日、大阪高島屋のローズシアターで開催された第24回ミスター日本コンテストに私も臨んでいた。すでに決勝審査も終り舞台裏では出場選手たちが、入賞者の順位発表をいまや遅しと待っていた。

 「第1位、知名選手!」と発表されたとき、期せずして「おめでとう!」「知名さん、おめでとう!」といっせいに祝福の声があがり、つに全員で「胴あげ」――ワッショイ、ワッショイと知名選手を暖かくほうりあげ、知名選手が喜びのあまり涙を流したあの光景を、私はつい昨日のことのように思い浮かべることができる。

 あの日、あのとき、知名選手が思わずこぼした涙こそ美しく、かつ、それまでの苦労が並々ならぬものであったことを物語っていた。

 それから約9ヶ月後の7月22日、地元沖縄でユニバース選抜大会が開かれたが、この日まで全県民、いや全国のボディビル・ファンの期待を背にした知名選手の肉体的および精神的な苦労はたいへんだったにちがいない。彼が人一倍まじめな人柄だけに、よりいっそう負担になったことだろう。

 日本ボディビル協会のツアーで私たちが沖縄に着いたのが7月21日、大会の前日というのに、コンテストの会場設営のためにかけつけた知名選手の姿をひと目みて「ギリギリ限界までがんばった。あとは結果を待つのみ」という印象が強くにじみ出ており、まわりの人たちを圧倒していた。

 「ユニバース選抜第1位は、知名選手のいまの実力からいって当然だ」といわれているが、私もそう思う。またもう一人、日本代表に選ばれた朝生選手をはじめ、長宗選手、宮畑選手も、さすがに日本のトップ・ビルダーだけあって、その迫力はすごかった。各選手とも、このコンテストに備えて激しいトレーニングをつんできたことがうかがえた。

 大会当日、早く目をさました私が、ホテルの屋上に行ってみると、すでに出場選手全員が日光浴で肌を焼いているではないか。やはり、一流といわれる人たちは、素質に恵まれているだけではなく、人一倍の努力をしているんだなあと敬服した次第である。
(1978年度ミスター日本コンテストに優勝したときの知名選手のポージング)

(1978年度ミスター日本コンテストに優勝したときの知名選手のポージング)

4.知名選手の食事法

 さて、本論の知名選手の食事法について述べていこう。

 海外の選手に依頼したアンケートの形式とちがって、日本選手の場合は、「ふだんのとき」「コンテスト直前」のそれぞれの時期に、何をどのくらい食べるか尋ねることが主目的となっている。

 したがって「1日に何カロリーとっているか」とか「たんぱく質は体重1kg当たり何kgになっているか」という正確な計算はできないが、逆に「何をどのくらい食べているか」という総合的なことがよくわかり、かえって役に立つ面が多いとも考えられる。
★知名選手が一日に食べている主要食品の種類および量

★知名選手が一日に食べている主要食品の種類および量

 上表をもとに考察を加えてみると、

 ①毎日のエネルギー供給源として、ごはんやパンをカットすることなく、ある程度食べていることは体調を維持するうえで大変好ましい。

 ②コンテスト直前になれば、これら炭水化物の量をひかえることは当然のことである。

 ③肉類・チーズ・牛乳・プロティンパウダーなどのたんぱく源は十分にとられている。

 ④野菜類はふだん。コンテスト前とも欠かさずとっていることはいい。

 ⑤大まかに計算すると、カロリーが約3500たんぱく質は普段のときが約120g、コンテスト前が200gくらいになっている。知名選手の体格と練習量からみて適当といえる。

 ⑥コンテスト前に知名選手は「2~3キロ減量する」と述べているが、これは少ないほうに属する。知名選手はふだんから余分な脂肪がつかない筋肉質の体型を維持するように努力していることがわかる。

 ――以上のように、知名選手が食事のとり方について、深い知識をもっていることが理解されよう。

5.炭水化物を見直そう

 地名選手は日本人の主食である「ごはん」を大切にしている。ごはんや麺類・パンなどは、ともすればビルダーたちが「脂肪がつく」と敬遠しがちだが、これらは過剰にとりすぎたときのみが問題である。運動をおこなってエネルギー消費量にみあうくらいに、適度に食べることは、体にとってはプラスである。
 
 その理由を述べよう。

 栄養素のうち、たんぱく質は本来、身体の構成材料となるもので、これをカロリーとして燃焼させるには余計な負担を肝臓や腎臓にかけることになる。たんぱく質そのものが消化・吸収されるときに、たんぱく質が持っているカロリーの30%が、熱として消費されてしまう。脂肪や炭水化物が数%であるのと比べて、ムダが多い栄養素であえる。

 そのうえに「たんぱく質が燃焼するには、炭水化物が同量くらい存在しているとき、最大の効率を示す」という法則がある。つまり、適度に炭水化物と共にたんぱく質をとるときに、体に負担にならず、スムーズに消化・吸収・利用されるわけだ。

 ごはんは水分約65%で、味がよく、カロリーが変わりやすい(胃腸での消化時間が2時間分・消化率100%)

 したがってアメリカでは「ライスこそ健康食品だ」とモテモテだ。パンならバターやマーガリン、ハムやベーコンが必要だが、ライスなら「梅干一つでもOK」という便利さだ。「ごはんを食べないと力が出ない」と外国遠征したスポーツマンがよく体験を話すのをみなさんも知っているだろう。この「ごはん」を軽視しない態度はたいへん好ましい。

 次に、たんぱく質のとり方だが、沖縄には、豚・マトン・魚・牛肉といった動物性たんぱく源が比較的安く、豊富にある。それにもかかわらず、知名選手はプロティンパウダーにかなり重点を置いている。それというのは、①効率がいい(目的のたんぱく質だけをとれる) ②消化吸収率がすぐれている ③コレステロールの心配がない ④アルカリ性で疲労の原因にならない ⑤ビタミンやミネラルも各種含まれている、等の理由のためである。

 最後に、生野菜や果物もよくとっているが、これがビタミンやミネラルの供給源であると同時に、「酵素」を含み、体調をととのえるのに役立っていることはいうまでもない。

 「ビールやタバコもなるべく制限しています」と彼は語っているが、ここまで徹することは並大抵の努力ではできないことだ。

6.体力と年齢は関係しない

 「オレも年だからなあ」という声を耳にすることが多い。たしかに、30才をすぎたあたりから、1年ごとにトレーニングがきつく感じられることは事実である。

 体力の年令別標準値をみると、一般的に25才~26才くらいがピークで、次第に下降線をたどる。だがこれは、あくまでも規則的なトレーニングをおこなっていない一般人が対象である。

 知名選手のように、バーベルやダンベルで鍛えつづければ、35才でも50才でも体力のピークが維持されて、いつまでも若々しい肉体と精神を保つ可能性のあることがわかるだろう。

 このユニバース選抜コンテストと同時開催されたミスター沖縄コンテストには宮代さんという58才のビルダーが特別参加されて、身長165cm、体重67kg、胸囲101cm、上腕囲36cmという鍛えた体を披露してくれた。「トレーニング歴7年」というから、なんと51才のときにボディビルを開始したことになる。

 何才からスタートしても、その人の体力に応じた適切なトレーニングをつづけるならば、必ずそれなりの効果があがることを宮代さんは示してくれたのである。ボディビルの良さは、肉体的な若さだけでなく、精神的な若さまで得られることだ。知名選手の場合もレセプションの席上や、個人的に話すとき「とても39才にはみえない」と誰でも感じるにちがいない。

 先輩諸氏の言葉に対して、いちいち「ハイ、ハイ」と答える知名選手の姿は、まさに20代の青年である。どうかこの若さ、純粋さ、素直さを失なわず今後もボディビル界の発展のためにがんばっていただきたい。
月刊ボディビルディング1979年10月号

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