フィジーク・オンライン

健康と体力、そして筋肉発達のための 食事に関する基礎知識

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1979年10月号
掲載日:2019.06.18
健康体力研究所・野沢秀雄

もっと食事に強くなろう

 「はらがへったなあ。ラーメンでも食べよう」「中華まんじゅうがうまいぜ」――スポーツ練習を終えたヤングたちが、こんな会話をしながら歩いていくのによくでくわす。

 そして、近くのパン屋で菓子パンを食べたり、ときにはおでんや焼き鳥、コロッケなどを立ち喰いしたりで、健康な食欲を満たしているのはいいが、同じ食べるならもう少しだけ知恵を働かせると、栄養の効果が2倍にも3倍にもなる

<1カロリーは426m/kg>

 私たちは毎日の食事を当然のように口に入れている。だが、スプーンに半杯のごはんが約1カロリーで、これをエネルギーになおすと、426m/kg、すなわち、1kgの物体を426mの高さに持ち上げる力に相当することはあまり知られていない。東京タワーの高さが330mくらいだから、たいした数字である。
 
 ごはん1杯が約160カロリー、私たちが毎日食べる食事が2000~3000カロリーだから、すごい量の運動を人間の体はおこなっていることになる。

<カロリーのとりすぎは?>

 ごはんやパンを食べすぎると、カロリーが過剰になり、肥満になることは誰でも知っている。

 ごはんやパンをかんでいると、口の中がだんだん甘くなってくるのは、でんぷんが分解して麦芽糖やぶどう糖になるためである。よくまちがいやすいが、私たちの食べた物は胃で吸収されるわけではない。「胃が重苦しい」とか「胃の消化が悪い」などとよくいうが、実は食事の90%以上は小腸で吸収されるのだ。

 また「水は胃から吸収される」と思っている人が多いが、水も実は大腸から吸収されるのだ。だからスポーツのあとは夏の暑いときに、いくら水を飲んでもあまり効果がなく、かえってダブダブと重い感じになりバテやすい。

 それは、胃から吸収されるのは何かというと、アルコールや炭酸ソーダである。ビヤホールでちょっと飲んだり、コーラやファンタを飲んだとき、のどのかわきがスカッとするのはこのためである。

 話がそれたが、でんぷんはぶどう糖となってはじめて小腸から体内に吸収され、エネルギーに変化する。すなわち、筋肉が動くたびにぶどう糖が燃焼されて、炭酸ガスと水に分解する。このときに生ずるエネルギーが私たちの活動の原動力となる。

 食べた食事のカロリーと、生活や運動で消費するカロリーとが、バランスよく一致するときはよいが、食べたカロリーが多いときは、体内に蓄積される。これがさまざなトラブルを引き起こし、「動きが悪くなる」「頭が悪くなる」といったことにもなる。
記事画像1

<体の中に貯蔵庫がある>

 小腸から毛細血管に入ったぶどう糖は、血液の流れに乗って肝臓にもいく。肝臓には、ぶどう糖を集合されてグリコーゲンに変える作用があり、いつも約250gのグリコーゲンを貯蔵する能力がある。いざというときに、再びぶどう糖にもどし、体のいろいろな場所に送り込むためである。

 貯蔵能力の250g以上にぶどう糖があるときいは、血液に乗せて体の組織に送り込む。ほとんどの場合、筋肉に到着し、筋肉グリコーゲンとして貯蔵される。運動するときに燃焼するのはこの筋肉グリコーゲンから生ずるぶどう糖なのだ。

 よく病院の入院患者にぶどう糖注射をするのは、体の弱っている人の血液に直接エネルギー源を与えるためで、食欲のない人、胃や小腸の働きが悪い人などにふさわしい方法といえよう。

<カロリーを計算して食べよう>

 このような仕組みによって、腹のまわりや首にブクブクと脂肪がつきやすいが、恐ろしいのは筋肉と筋肉の間や血管の中にまで脂肪が蓄積することである。

 筋肉のキレの良い体は、ムダがなくスムーズな動きがとれるのに対して、脂肪が付着するにつれ、単位面積あたりのパワーが減少する。また、血管壁に付着した類脂肪物質(いわゆるコレステロール)は高血圧の原因になり、心筋梗塞、脳卒中などの成人病をひきおこすことになる。

 重要なことは、食事のとり方では良くも悪くもなること、および若いときからの食習慣で将来大きな差が出ることである。どの料理は1食あたりどのくらいのカロリーがあるかを次に示しておくので、頭に入れておけば役に立つだろう。

 ラーメン488、カレーライス633、にぎりずし592、チャーハン799、カツドン784、サンドイッチ527、きつねうどん359、野菜サラダ236

 「世の中みんな計算さ」」とテレビでおなじみの電卓コマーシャルだが、食事についてもなれてくると見当がつくものだ。子供や少年は成長がはげしく、その割に胃腸が小さいので、間食はとくに重要だ。大人がおつきあいすると、たちまち太ってくる。このあたりにもご用心。

食事はゆっくり楽くし

 昔の武士たちは、いつ、背後から敵に襲われるかもしれず、また、いつ非常召集がかかっても、すぐ飛び出せるように食事はできるだけ早く食べるのが良いとされた。この伝統が軍隊に引きつがれ、現在も日本人はどちらかというと、あわただしく食事をすませる民族だといわれている。

 海外旅行をした人なら誰でも経験するが、外人たちの悠長なことはまさに驚くばかりである。客の注文を聞いてから最初の料理が出るまでに15分。食べ終わって次の料理が出るまでにまた15分。こんな調子で、最後にゆっくりコーヒーを飲む。だから昼食時間に2時間かけるのは珍しくない。

<おいしく食べた方が効果的>

 世の中の変化は、あまりにもあわただしく、ついペースに乗せられてしまうが、せめて食事時間くらいはゆっくりしたいものだ。たっぷり時間をかけて、おいしく食事をすることがどうして大切か、その理由は2つある。

 1つは、よくかむことにより、食べたものが細かくなり消化されやすくなることだ。たとえば、ビールのおつまみに愛用される枝豆やピーナッツ。ろくにかまないと、胃でも腸でも硬い組織はいっこうに消化されないで、便になって出てしまう。反対によくかむと良質なタンパク質がどんどん腸から吸収され、血となり肉となる。それだけで栄養的な効果は2倍にもなるのだ。

 もう1つの理由は、時間をかけておいしく食べると、唾液中のアミラーゼをはじめ、酵素がよく働き、いっそう消化を促進する。

 酵素がどんなに大きな作用を持っているか、次の例によってもわかるだろう。

 甘酒は、もち米を蒸して「こうじ」と混ぜあわせ、約50°Cで一晩ねかすことによってつくられる。あるとき、つきたてのもちに「こうじ」から抽出した純粋の酵素(アミラーゼ)をふりかけてみた。すると、ねばて固かったもちが、みるみるうちに柔らかくなり、3分から5分で、ドロドロした状態になってしまった。こんな短い時間で、もち米のでんぷんが麦芽糖という糖に変化したのだ。

 また、セルラーゼという酵素は、わかめなどの海草やニンジン、大根などの組織を分解する。私たちが食べた栄養物も、実は体内に分泌されて出てくるいろいろの酵素によち分解されて消化・吸収され、活動のエネルギーになったり、筋肉や血液などをつくったりする。
記事画像2

<過ぎたるは及ばざるが如し>

 あまりかまないで食べると、胃や腸にそれだけ負担をかけて、いろいろなトラブルをおこしやすい。空腹でたまらないときは、酵素の働きが高まっているのでまだ救われるが、習慣だけで早のみこみする人は注意した方がよい。またこのような人は、つい食べる量が多くなる。食事にゆっくり時間をかけて食べる人の方が、早食いする人より食事の量としては少ない場合が多い。
 
 前項で食べすぎると体のあちこちに脂肪が付着してくると書いた。筋肉グリコーゲンとして蓄積しても、まだ余るほどのぶどう糖が存在するときは、肝臓でグリセリンや脂肪酸に変化して血液に乗って体内を循環する。そして臓器を保護する必要のある腹部にまっさきに皮下脂肪が蓄積されるわけだ。

 タンパク質の場合は、体内に蓄積することができず、ほとんどの場合、炭酸ガス、水、アンモニア、イオウ等に分解される。また一部分は糖をへて、脂肪になったりする。

 PCBや農薬などの有機物質は脂肪を溶解して体内に蓄積されやすい。カネミ油症の患者をなおすのには、絶食療法をおこない、体脂肪を落とせば効果が高いといわれている。

 私が知っているインド人は、ヨガの方法により体をいつもスマートに保っているが「食料の少ないインドではわずかの食物をよくかんで、体にすっかり利用させる運動をしているんですよ」と語っていたが、食べ過ぎて皮下脂肪を蓄積するよりも、シェイプ・アップのためにも効率よく栄養をとることが大切である。

タンパク質について

 私たちの体は、頭のてっぺんから足のつま先までタンパク質でできており、筋肉を強大にしようと思えばタンパク質を無視することはできない。

 人間の体をつくっているタンパク質と、肉類やタマゴ・納豆・牛乳・魚などの食品中に含まれるタンパク質とは共通したアミノ酸という分子が鎖状につながってできたものである。

 アミノ酸の種類は現在わかっているものが22。それらがちょうどアルファベットのAからZまでの26文字を組み合わせて複雑な英単語ができるように、22種類のアミノ酸がさまざまに結合して、もっともふさわしいタンパク質をつくりあげる。その数は、卵などのグロプリンが数万個、人間の赤血球が数十万個というように高分子をなしている。

 牛の肉ばかり食べても、人間の体が牛のようにならないのは。私たちの体内で消化されるときに、食べたタンパク質がいったんアミノ酸までバラバラに分解され、血液に乗って体の必要な場所に運ばれ、そこでもっともふさわしいアミノ酸配列に組みなおされるためである。

<タンパク質の良否の決め方>

 このようにタンパク質であれば、本来、肉でも魚でも納豆でも、あまり差がないはずである。

 ところが、世間一般には「牛肉や豚肉のタンパク質が良質で、サバやイワシなどの魚は栄養価がおちる」と考えられやすい。しかし値段が高いからといって、必ずしも良質というわけではない。ビーフステーキやヒレカツと比べて魚のタンパク質含有量やアミノ酸構成にはなんら遜色はない。
 
 また、納豆・とうふ・ゴマ・落花生などなどの植物性のタンパク質は、どちらかというとあまり重要視されていないように思う。なぜこんな偏見が生まれたのだろうか。

 原因の1つは「タンパク・スコア」という評価方法にあると思われる。「タンパク・スコア」とは、ある食品のタンパク質を分析して、どんなアミノ酸から構成されているか調べる。そして、理想的な構成に比較して一番少ないアミノ酸を「制限アミノ酸」と名付け、この「制限アミノ酸」が理想のときを100として、それぞれの食品がいくつになるかを算出する。

 こうして計算してみると、卵100、豚肉90、アジ89、牛肉80、牛乳74、大豆56、ジャガイモ48という数字になりこれがすなわち「タンパク・スコア」である。そして100に近いほど、よいバランスを持つと考えるわけだ。
 
 もう1つの原因は、22種類のアミノ酸のうち、次の8種類のアミノ酸は人体で合成することができない。したがってこれらを「必須アミノ酸」と呼ぶが、一般的に植物性食品より動物性食品の方が「必須アミノ酸」が多いので食品として良質だと考えられていることである。

 (必須アミノ)リジン、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン
記事画像3

<上手なタンパク質の摂取法>

 「プロティン・スコア」が高いほど食品として良質だという考え方を否定するつもりはまったくないが、われわれの食事は、献立や調理によって、いろいろの食品を組合せてつくられる。だから「制限アミノ酸」もそれらをトータルして考えればいいので、米やパンを主食にしたときは、チーズや納豆などを組合せれば不足しがちなリジンを強化することができる。また、レバーや卵はどんな料理にもふさわしい食品といえよう。

 アミノ酸の質にこだわるよりも、先ず第一にタンパク質の量をたっぷりとることをおすすめしたい。そのためには、比較的安価で、しかもおいしい食品を探すことだ。

 私の調査では、サバ缶詰、小魚類、納豆、とうふなどが第1ランク。次いで、卵、チーズ、鳥のモツ、にしん缶詰、さんま缶詰などが第2ランク。牛乳、牛豚肉、コンビーフなどは、このような観点からすればかなり順位が落ちる。

脂肪について

 脂肪のついた体は、たんにスタイルが悪いだけでなく、動作をにぶくしたり、手術の際にメスが届きにくく、十分な手当ができないという、生命にかかる問題をふくんでいる。

 事実、プロレスラーの力道山が17才の少年に刺されて病院に運ばれたあと腹膜炎をおこしたが、皮下脂肪が厚すぎたため手術が難行し、ついには死亡したといわれている。皮ふをつまんで5ミリ以上ある人は努力して皮下脂肪を落とすようにした方が賢明である。

<脂肪の役割は>

 脂肪がなぜ体につくかは合理的な説明がなされている。

 1つは外傷などのショックから身をまもること。および寒さ暑さから内臓諸器官をまもるためである。とくに女性は男性よりも皮下脂肪が厚く、それがため、なめらかな丸味のある体つきになる。

 もう1つ重要なことは、われわれ人類の祖先は野山に生える草や木の実、あるいは野生動物を食料としており、いつ天候の変化により飢餓にみまわれるかわからない状況にあった。したがって、常にある程度の備蓄を身体の内部に用意しておく必要があった。実際秋になると太りだす猫や犬、冬眠に入るクマなどを見ていると自然の知恵がよくわかる。

 脂肪は1g当り9カロリーあるからほかのタンパク質や糖質を体内や皮下に貯蔵するよりも、少量でハイカロリーが出せるので脂肪を貯蔵しておく方が、はるかに合理的であることがわかるだろう。

<脂肪はホルモンの原料にも>

 そのほかに脂肪は、ビタミンA、D、E、Kを溶かして体内の必要な場所に運搬する役割をする。また、ストレスから身をまもる副腎皮質ホルモンや性差をつくる性ホルモンの原料としても重要である。

 「脂肪を食べると太ったり、コレステロールがふえたりするので脂肪は悪人だ」と誤解している人が多いが、太るにはむしろ糖質のためだし。逆に腹もちをよくして空腹感をストップさせるので、かえって肥満防止によいといわれているくらいだ。

 コレステロールにしても、バターやラードのような動物性脂肪は確実に血中コレステロール値を増やすが、ゴマ油、大豆油はふやしも低下もさせず、米ぬか油、サフラワー油、小麦胚芽油、ひまわり油は逆にコレステロールを低下させる効果が判明している。

<バターよりもマーガリン>

 マーガリンは、今から100年も前の1875年のパリ万国博覧会のとき、全世界の科学者に懸賞金をつけて、画期的な発明を募集したときに特賞採用となったものである。

 サージュというフランスの科学者が魚油、鯨油、大豆油、なたね油等を調合して、バターに似た製品をつくったのだ。臭いが強かったので敬遠する人が多かったが、近年、油脂の精製技術が進歩し、無臭の品質のよい商品が作れるようになった。

 そのうえ、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸にコレステロール沈着を防止する効果が認められて以来続々と愛用者がふえ、いまや代用品のイメージはほとんど消えてしまった。

 日本人の油脂摂取量は1日当り約30gで、欧米諸国に比べると約半分くらいだという統計がある。チャーハン、野菜いため、ぎょうざなど、油を使った料理がスポーツマンの体力をささえる原動力の1つだと私は考えている。


―――――――――

★★★★★★第8回ミスター姫路コンテスト★★★★★★

優勝・小川信男 準優勝・東川秀史

 姫路市のアメリカン・ヘルス・クラブ(西川稔会長)では、去る7月29日、姫路市文化センター・ホールで第8回ミスター姫路コンテストを開催した。その結果、身長186センチで抜群のプロポーションを誇る小川信男選手が優勝。2位には37歳で最年長の東川秀史選手が入った。

 上位6位までの入賞者は次のとおり。
記事画像4
(第8回ミスター姫路コンテスト入賞者)

(第8回ミスター姫路コンテスト入賞者)

(舞台にならんだ39名の出場選手)

(舞台にならんだ39名の出場選手)

(チビッ子のポージング合戦)

(チビッ子のポージング合戦)

月刊ボディビルディング1979年10月号

Recommend