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★内外一流選手の食事作戦⑩★ 本年度の躍進がいちじるしい 朝生照雄選手の食事法

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月刊ボディビルディング1979年11月号
掲載日:2018.09.18
健康体力研究所・野沢秀雄

1.今年はあたり年

 昨年ミスター日本第6位、実業団コンテスト第1位のタイトルをとり、トップグループ入りを果し、その勢いで去る7月22日沖縄市で開かれたミスターユニバース選抜大会で、ベテランの長宗五十夫選手、宮畑豊選手を抜いて準優勝。そして8月4日のミスター東日本コンテストにおいても、圧倒的な強さで優勝し、このところ乗りに乗っているビルダー、朝生照雄選手の食事法を今月は解明していこう。

 今年の朝生選手にはうれしい出来事がいっぱいあったにちがいない。

 一つは窪田登先先生の新著「ウェイトトレーニング」(講談社)の写真モデルになり、全国書店に並んでいることだ。そして本誌にも川股宏さんにより伝記がのせられたり、9月号の表紙になったりしている。

 沖縄のコンテストに招待されたのをはじめ、山梨・新潟・徳島・浜松……とゲストポーズの依頼もひっきりなしだ。そのたびに各地のビルダーを親しくなれて、たいへん楽しい体験をつんだことであろう。

 そして生まれてはじめての海外旅行、それもロンドンのNABBAの大会に参加できたことは、たいへんラッキーである。今から数年前、宇土信一選手がこの大会に参加したときは、ひとりで着いても右往左往、たいへんな苦労だったときいている。今年は杉田選手・榎本選手・知名選手と選手だけでも4名、それに栗山さん、温井さん、山際さん、佐野さんはじめ、役員や応援団のメンバーが揃っていた。

 本誌が発行される頃にはすでにミスターユニバースの結果も判明しているし、ミスターアポロ(大阪)も終了しているにちがいない。

 「ついている」とか、「ついていない」という言葉は、スポーツとしてのボディビルの場合にも存在するけれど「つき」をもたらすものは、本人の努力や人柄によるところが大きい。

 スポーツ万能で、骨格の太さと運動神経に恵まれていたとはいえ、朝生選手のボディビル歴はすでに11年。この間の努力や、誰にでも親切で暖かい人柄があってこそ、今日の栄冠が得られたにちがいない。

2.朝生選手の食事法

 本誌54年3月号にグラビア8ページにわたり、朝生選手のトレーニング法と食事法が紹介されているので、まずその内容について食事分析をおこない、講評を加えることにしよう。
<表1>朝生選手の食事内容

<表1>朝生選手の食事内容

記事画像2
<講評>

①総カロリーは3541、たんぱく質体重1kg当り約3.9g、脂肪139.2g、全体に占める炭水化物の割合41%となっており、相当によく食べている内容である。

②1日3食だけでは、とうていこの内容はこなせないので、間食を3回とって、1日6食にしている点は好ましい。

③たんぱく源として、肉ばかりでなく魚・卵・納豆・プロティン・牛乳と変化に富んでいる。ビルダーの場合ともすれば、ある特定の食品に偏食する傾向があるが、朝生選手の内容は各食品のバランスがたいへん良い。

④ごはんを毎食必ず食べていることも体づくりにはプラスになっていることがわかる。

 「コンテスト前にはカットしなければならない」と頭から決めこんでいる選手がいるが、皮下脂肪が5~10ミリならば限界をこえた無理な食事制御は不要である。

⑤朝生選手の場合、野菜や果物の量が不足なので、肉・魚をへらしてもいいから、そのぶん、新鮮な生野菜を食べるともっと良い。

3.この点がポイントになる

 朝生選手は、日ごろ食事法のアンケートによく回答してくれたり、健康体力研究所の研究会に参加し、体験を述べてくれている。

 その中で、私の印象に残っている点をいくつか紹介しよう。

A 体を大きくしたい人へ

 懸命にトレーニングを実行すると同時に、食事法をきびしく守ってゆくことが大切である。重量挙の三宅選手は減量の必要があって、野菜をボールに1杯、毎日涙を流しながら食べる生活だったという。朝生選手自身、毎日サバの缶詰を1缶、昼食のあと食べることを1年間実行してきた。ひとことで1年といっても長い。また、あきてしまう。まずくても体にいいとなれば食べ続けること、これが重要である。

B コンテストに出場する人へ

 ごはんの量は減らすが、1日1杯くらいは必ず食べる。むしろチーズは脂肪が多いので、ふつう40gくらい食べていたのを、コンテストが近づくとゼロにする。

C やせたい人へ

 減量をする人は、夕食や夜食を軽くすること。眠るだけなので、カロリーが消費されない。おいしいケーキは夜はがまんして、翌朝に食べるといい。女性のなかには、ごはんを控えているのに、ケーキを毎晩食べている人がいる。これはナンセンスである。

D ビールが好きな人へ

 「ビルダーはビールを飲んではいけない」といわれることがあるが、好きな人にとってこれほどつらいことはないと思う。自分は誘われたりして、ときどきビールをおいしく飲む。そしてカロリーが多すぎたと思ったら、翌朝はランニングをして、気分をサッパリさせる。こうすれば気楽にビールもOKではなかろうか?

E カーフを発達させたい人へ

 「朝生さんのカーフはすごいですね。どうしてサイズとカットを得たのですか?」とよく質問される。小さい頃から野原をかけまわったり、自転車に乗っていたので、先天的に大腿囲や下腿囲が大きかったのが良かったと思う。
 
 またラグビーや柔道の練習をおこなったので、これもプラスになっていると思う。今でも自転車を愛用し、日本全国をまわることがあるが、これがカーフ発達に効果が大きい。

F スランプ気味の人へ

 どんなすぐれた人でも気分が乗らない時がある。身体の発達はトレーニングをして3年目くらいまでは直線的にのびるが、3年目以後は、わずかな発達にも苦労が大きくなる。

 そんなとき自分を発奮させるために他のジムを見学させてもらう。選手たちが新しい方法でトレーニングをするのを見たり、共に話をしているうちに「よーし、やろう!」と再び勇気がわいてくる。

 ボディビルは精神的なことが大きい種目である。自分の気持を高揚させることが大切である。

 以上は、昨年夏の第5回研究会にゲストとして朝生選手が話をしてくれた一部分である。一同たいへん役に立ったことはいうまでもない。
[トレーニング中の朝生選手]

[トレーニング中の朝生選手]

4.栄養補強剤のとり方

 知名選手と同じ形式でアンケートに答えてくれた結果を、下表にまとめてみよう。
※朝生選手が1日に食べている主要食品の種類および量

※朝生選手が1日に食べている主要食品の種類および量

 コンテスト前に体重を約5kg減量して出場することが多い。

 食事のとり方は前月号で紹介した知名選手の例とたいへん似ている。

 チーズの量をコンテスト前に減らすことと、プロティンパウダーではなく、プロティンタブレットを主として食べていることが特徴である。どちらを用いても効果としては差はないが、自宅や下宿などでは粉末の方が多量にとれるので便利である。いっぽう学校や職場に持ってゆき、間食として食べたいなら、タブレットのほうが便利で合理的といえる。目的に応じて両方採用するビルダーもふえている。

 サプルメントフードとしては、ビタミンE補給のためにジャームオイル、ビタミンB群をとるためにエピオスやビタミン剤をときどき採用しているという。「飲んだらトレーニングをするときの持続力や疲れ方がやはりちがうように感じられる」と朝生選手は語っている。

 朝生選手の食事内容は、栄養的には水準以上なので、微量栄養素(ビタミンやミネラル)も十分である。したがってあまり高価なサプルメントをそれほど多くとらなくても現状の体位と体調は必ず維持できるが、コンテストに出場する以上はベストを尽くす、という精神から、サプルメントが採用されているのだろう。

 いずれにしろ、アメリカの選手たちほど多量ではないし、まして「ホルモン剤使用が当然になっている」というような風潮は日本選手の場合、あまり多くは見られないので、この点は喜ばしいことである。

 近着のアイアンマン誌79年9月号に「ドラッグモンスターになるな」というチェット・ヨートン(元ミスターUSA)の警告記事が出ている。一時の気まぐれで、ホルモン剤に手を出して、あとでとりかえしがつかなくなっては人生滅茶苦茶である。これが「スポーツマンシップに反する行為だ」と述べられているが、まさに同感。高価な薬づけになり、金額を多くかけられる人が入賞する事態にでもなったら、純粋のスポーツ性も台無しになってしまう。

 一人一人の選手やコーチなどの自覚が大切である。幸いなことに朝生選手のこの立派な体は、ホルモン剤などとはいっさい無関係に、ひたすら努力と精進によって築きあげられたものである。日本人の誇りとしてこれからも頑張ってほしい。

5.今後の活躍に期待

 朝生選手は体がすばらしいのと同時に、精神的にもまたすばらしいものを持っている。「健全な肉体に健全な精神が宿る」とオリンピック創始者のクーベルタン氏が述べたと語られているが、実際にはスポーツ選手といいながら、悪事に走り、新聞にのったりするような人がいる。そこまでいかなくとも、興奮剤やホルモン剤に手を染めたり、体力が強いことを利用して、一般の人を威かくしたり、品性のない会話でマユをひそめさせたり、とかく問題になりがちである。

 その点について、朝生選手は実に謙虚で人びとに親切である。そのうえ私が感動したことは、「私がボディビルダーとしてここまで来られたのは、私のまわりのみなさんの力によることが大きいと心から思います。選手として力いっぱいベストを尽くし、そのあとは私のこれまでの経験を生かして、ボディビルの正しい普及のためにがんばってゆきたい」と、沖縄のコンテストの際に話していたことである。

 現役のビルダーでありながら、将来のことまでよく考え、「自分が人びとにしてもらって良かったことを、これからの若い人にわけてあげたい」と彼は希望にもえている。日本のボディビルはまだまだ他のスポーツに比べると普及度が低くて、一般の人々の間に浸透していない。

 さらに活発なものにするために、朝生選手のような実績があり、かつ意欲のある人が推進役として加わってくれることが、どんなにプラスになるか、はかりしれない。

 これからの公私にわたる活躍を期待したい。

 なお補足的に朝生選手から寄せられているアンケートの一部を参考のために紹介して、本文の結びとしよう。

<生年月日>昭和25年6月18日 <星座>ふたご座 <血液型>O型 3人兄妹の2番目(次男) スポーツ歴は、小中学校からずっと、陸上・水泳をやり、それ以後、柔道やラグビー、卓球・体操(後方宙返り回転など、運動神経も並々ならない)などを行っており、また、ちょっと休暇がとれればサイクリングで旅行などをする。

<ベンチプレス>最大175~180kg 
<スクワット>  〃215~220kg
<プレス>(ミリタリー) 70kg
<カール>(チーティング)80kg
身長165cm・体重75kg~80kg・胸囲121cm・上腕囲43cm・大腿囲61cm
月刊ボディビルディング1979年11月号

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