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私のトレーニング法と食事法

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月刊ボディビルディング1981年4月号
掲載日:2020.05.11
1980ミスター実業団壮年の部優勝
1980ミスター日本クラスⅡ第6位
山崎 義夫

≪略歴≫

年齢 36歳
職業 トヨタ自動車工場KK勤務
所属 トヨタ自動車ボディビル部(選手兼監督)
トレーニング歴 8年半
≪体位の変化≫―昭和55年

≪体位の変化≫―昭和55年

≪パワーの記録≫

ベンチ・プレス 110kg
スクワット 170kg
デッド・リフト 160kg
スタンディング・プレス 60kg
カール 40kg
チンニング 30回

≪トレーニング内容≫

 A、B、Cの3コースを循環し、週に5~6回実施する。1回当りの所要時間は約2時間。トレーニング時間は午後7時から9時の間。その他、昼休みに毎日3kmのランニングをする。また、カーフの運動は、コースに関係なく1日おきにカーフ・レイズ(バーベル100kg)を15回×5セット実施する。
―Aコース―

―Aコース―

―Bコース―

―Bコース―

―Cコース―

―Cコース―

―ふだんの食事内容―

<朝食>6:50~7:15
トースト(食パン1枚、マーガリンとハチミツ)、ハム・エッグ(卵2個とハム2枚)、野菜(キャベツかレタスを中皿1杯)果物(トマトかミカン2個)プロテイン・ジュース(プロテイン大さじ3杯、牛乳300cc)ピーナッツ(少々)

<間食>10:00
スキムミルク200cc(時々飲む)

<昼食>12:40~13:00
写真食堂の定番にサバ缶(1缶250g)と目玉焼(卵1個、野菜少々)を追加する

<間食>17:00
牛乳200cc、チーズ(1個、28g)

<夕食>焼肉200g(鳥が豚、たまに牛肉)オカラ茶わん1杯(ニンジン、鳥肉入り)野菜(キャベツかレタス中皿1杯)酢の物少々(キュウリ、ワカメ、イカ)ごはん1杯(気が向いた時だけ)その他日によって焼魚、豆腐、みそ汁等を食べる。

<間食>22:20
プロテイン・ジュース(プロテイン大さじ3杯、牛乳300㏄)トマトかミカン

―減量時の食事内容―

<朝食>6:50~7:15
ふだんの食事内容からトーストを抜きあとは同じ

<間食>10:00
スキムミルク200㏄(時々飲む)

<昼食>12:40~12:00
弁当持参。鳥のから揚げか焼肉(豚肉150~200g)ゆで玉子か玉子焼き(1~2個)ハム2枚、カマボコ4切、野菜(キャベツかレタス中皿1杯程度)果物(トマトかミカン大1個)

<間食>17:00
牛乳200cc、チーズ28g

<夕食>21:30~21:50
ふだんの食事からごはんを抜き、あとは同じ

<間食>22:20
プロテイン・ジュース(プロテイン大さじ3杯、牛乳300cc)

[註]これは昨年4月1日からミスター日本コンテスト(9月28日)までの減量期間中に実施した標準的な食事内容である。そのほか栄養補強材としてジャーム・オイルを7日カプセル(ふだんも減量時も)と夏バテ防止としてビタミンB1液、ビタミンC粉末を用いている。
私の原料作戦(体重増減表)

私の原料作戦(体重増減表)

記事画像6

山崎選手の食事診断

野沢秀雄
 山崎選手の食事を分析してみると、普通時の場合、1日当りの総カロリー3307、たんぱく質216.8g(体重1kg当り2.91g―体重74.5kgとして)、脂肪180.1g、糖質206.9g(炭水化物の比率は34.3%)。
 減量時の場合、1日当りの総カロリー2795、たんぱく質222.8g(体重1kg当3.33g―体重67kgとして)、糖質110.2g(炭水化物の比率22.6%)。「努力の人」という言葉がまさにピッタリのビルダーが山崎選手である。
 本来は細い体だったと思われるが、トレーニングにつぐトレーニングで、現在のように「ミスター実業団」に選ばれるまでに変身した。この過程は並大抵の努力では出来なかったにちがいない。彼の筋肉の質はフランク・ゼーン・タイプでバルクがつきにくい。このタイプは本当にコツコツとした努力以外に報われる道はない。
 そのかわり鋼鉄のように鍛えあげた筋肉はビシッと引締まり、無駄な脂肪がほとんどない。「脚がすばらしい」と評価されているが、その脚はまさに筋肉のみで構成されている強い脚である。
 山崎選手の性格がよく現れて、実に精密で、たんねんな体重の変化や食事法を記録にとっており、その貴重な資料を送ってくれた。今月は山崎選手の食事法を研究しよう。

1.ふつう時の食事法

 代表的な1日だけの食事内容なのでこれだけをもって全てを評価するわけではないが、結論として、たいへん上手な良い食事法をしていることがわかる。そのポイントをあげてみよう。
㋑朝・昼・夜の3回の食事のほかに午前10時・午後5時・夜10時20分と間食を3回とって、1日に6食にわけて食べている。これは胃腸のメカニズムからみても、たいへん好ましいことである。とくにトレーニングをおこなうときに、血液中に一定レベルのたんぱく質やぶどう糖・ビタミンやミネラルが揃って存在することが好ましいわけだ。
㋺カロリー3300、たんぱく質が220g(体重1kg当り約2.9g)、脂肪180g、炭水化物が206.9gで全体の34%という構成になっている。1日2時間、週5~6回の練習をコンスタントに実行しているので、このカロリーについては決して多くない。
㋩たんぱく質については、朝食で約60g、昼食で75g、夕食で53g、間食でそれぞれ27gという計算になる。
 1回の食事で利用されるたんぱく質は約50gなので、主食の場合はちょっと多い。さば缶詰1缶や焼肉200gといった食品を食べているので、これだけ大きな数字になっているわけだ。これらは半分くらいに減らしてもかまわない。
㊁結局、たんぱく質のとり方がポイントになるが、体重1kg当り2.9gという数字自体がやや過剰である。体が発達するために必要な最小限は2g前後である。アメリカの研究でも最大限度2.7gと発表されている。この点からみても、たんぱく質はややオーバーである。
㋭「たんぱく質を落とすと筋肉のバルクが失なわれるのではないか?」と心配するビルダーが多いが、体重1kg当り2.0~2.5gとっていれば決して心配ない。山崎選手のメニューのうち、やはり朝食・昼食・夕食でとっている「動物性たんぱく」(卵・ハム・サバ缶・焼肉・・・)を半分くらいにしてはどうだろうか?
 これら動物性食品には、リン・塩素・イオウなど、体液を酸性にする元素が多く含まれ、疲労しやすい状態にする。アミノ酸バランスが良いので、ふつうは動物性食品が愛好されるが、植物たんぱくでもアミノ酸を調整してある製品(プロテインなど)は、動物性食品と同じ効果を持つ。しかもアルカリ性食品なので、バテる原因にはならない。
㋬脂肪量の180gという数字もやや多いが、動物性食品を半分くらいに減らせばちょうど良いバランスになる。
㋣炭水化物が34%と少ないのは、「食べすぎると脂肪に変化し、デフィニションが失なわれる」と心配するあまりのことであろう。山崎選手の場合、朝食にトースト1枚、昼食に会社の定食、夕食にごはん1杯というように、ある程度はとっているようだ。
 動物性食品の量を半分くらいに減らすと、結果的には炭水化物の%もふえて50%近くになる。
㋠野菜・果物類をこまめにとっているのは好ましい。ビタミン、ミネラル、酵素をとるのに適している。
―以上を総合的にみて、食べる量をやや減らしたほうが、内臓に負担をかけず有利である。筋肉の発達にも充分栄養量は満たされる。

2.減量時の食事法

 山崎選手の記録表によると、4月1日を期して、すでに減量作戦が開始されている。体重75kgから65kgへと10kgの脂肪を4~5ヵ月間で除いて、コンディションを調整しているわけだ。
 減量時の食事法を検討してみよう。
㋑平均カロリー2800、たんぱく質223g(体重1kg当り3.4g)、脂肪150g、炭水化物110g(重量比で23%)という分析結果になる。
㋺減量法として、まずトーストやごはんなど炭水化物の摂取量を減らす手段がとられている。また牛乳の量も2/3程度にへらし、脂肪も少なくなるように配慮している。
㋩ふつう時と比較して、カロリーが約500、脂肪が30g、炭水化物が約半分と少なくなっていて、トレーニングは同じか、それ以上(8月~9月にはランニングを加えている)きびしくおこなっているので、グラフのように体重(脂肪)が順調に低下してきている。
㊁山崎選手の努力がよく現れているのは、体重がこんなに減っているにもかかわらず、胸囲・上腕囲・大腿囲・下腿囲など、体のサイズはそれほど変らずに維持されている転だ。
 しばしば、減量すると筋肉のバルクまで失なわれて、ひ弱いイメージになりがちだが、連日のハードトレーニングで筋肉の維持・発達がはかられていることになる。
㋭注目することに、腹囲78cmから69cmへと9cm、皮下脂肪9mmから3.5mmと低下しており、体重が低下したのはもっぱら脂肪によるところが大きいわけである。まさに理想的な減量法といえよう。
㋬食事法からみた成功の理由は、たんぱく質を落さないようにしっかりと食べていることだ。体重1kg当りの数字はふつう時よりもふえている。それだけ筋肉の消耗を防いで、あれだけのバルクが維持されたことになる。
㋣そのほかビタミンB₁、ビタミンC、ジャームオイル(ビタミンE)などの補助食品をとっている。減量時には、必要な栄養素が不足して、その結果体調が悪くなる場合が多い。たんぱく質だけでなく、ビタミンやミネラルがとれるようによく配慮しないと失敗することになる。
 山崎選手の場合、これら食品や補助食品の選び方もよく研究しており、申しぶんがない。
㋠急激な減量よりも、長期間にわたってコンディションを整えることはなかなか大変なことであるが、日ごろの節制により成功している良い例である・
「皮下脂肪3.5ミリ」という水準は、厚生省で定めている基準では「栄養失調」「栄養不良」と判定されるくらいで、本来は人間の生理からいうと無理なくらいである。スポーツマンの場合、5~9ミリくらいなら合格とされている。ふだんはもう少し多くてもかまわないことはいうまでもない。
―以上、一流選手がベストコンディションを作り、大会などで披露するには、並々ならぬ苦労と努力が伴うことが理解されよう。強い意志と情熱・ファイトある者のみが、栄光ある表彰台に立つことができるわけである。
月刊ボディビルディング1981年4月号

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