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新ボディビル講座 ボディビルディングの理論と実際〈3〉
第2章 トレーニングの解剖生理

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月刊ボディビルディング1981年5月号
掲載日:2020.05.21
名城大学助教授 鈴木正之

〈4〉筋の解剖生理

 すべての体育スポーツ活動においては、それぞれの目的にもって筋を強化するが、筋の活動は、筋力を発揮する目的だけにとどまらず、筋特有の性質すなわち、鍛えることによって筋は肥大し、さらに強い筋力を発揮し、筋の収縮速度をあげ、筋持久力をも向上させることができ、しかも、生命力にも大きな影響を与える重要な使命を持っている。
 中でも活動力の最先端となるのが横紋筋である。とくに骨格に付着している骨格筋は、収縮と弛緩によって身体運動時に主として活動する。その他に骨格筋は、靭帯と共に骨格を保持し、身体の姿勢を正しく維持したり、内臓諸器官を規整し、人体の日常生活の基礎をつくり、生命を維持するのに重要な役目をしている。

1.筋の分類

 筋を生理学的に分類すれば、随意に働く横紋筋組織と、不随意に働く心筋組織、平滑筋組織の3つに大別することができる。筋学上、および身体運動においてろんじられる筋は、横紋筋組織であって、これはその着く部位から見て、骨格筋・関節筋・皮筋の3種類に分類される。本項では、身体運動時に最も重要な骨格筋を中心として述べていくが、一応、筋をわかりやすく分類すると次のようになる。
[註]人体には434の随意筋があり、全体重の40~60%を占めている。

[註]人体には434の随意筋があり、全体重の40~60%を占めている。

2.骨格筋の構造と形態

 筋運動はその収縮作用によって行なわれ、収縮するとき移動する方を着く所(停止)といい、固定している方を起る所(起始)という。
 筋の形状にはさまざまな形があるが普通見られる形は8種類程度である。この中で骨格筋の典型的な形は、紡錘形をなし、中央部の太い部分を筋腹と呼び、両端は細くなって強靭な腱(起始腱・停止腱)に移行している。[図8、9参照]
 筋肉の表面は筋膜と呼ばれる、他の筋や組織と隔てる線維性の膜があり、これには多くの神経や血管が分布している。筋膜の下には筋線維と呼ばれる長軸に走る無数の線維が束になって走っている。筋線維は筋の最小単位である筋原線維が集まったものである。
 筋の形態には、紡錘筋の他に、羽状筋、半羽状筋、二頭筋、三頭筋、四頭筋、二腹筋、鋸筋などがある。
[図8]筋の形態

[図8]筋の形態

[図9]横紋筋の模式図(H.Eハックスリー、1958)

[図9]横紋筋の模式図(H.Eハックスリー、1958)

3.筋の運動学的呼称

a筋腹・腱・筋膜・腱膜・起始・停止
 さきに筋の構造と形態で述べたように、筋腹とは筋の中央部のことで腱とは骨に付着するところのことである。その筋や腱を覆っているのが筋膜と腱膜である。
 起始および停止とは、四肢の場合でいうと、軀幹部に近い方が起始で遠い方が停止である。大腿四頭筋でいえば、骨盤側が起始で、ひざ下の脛骨についている方が停止である。その他の軀幹部で遠位・近位が明確でない場合は、筋運動で動きにくい方を起始、動きやすく大きく可動する方を停止と呼ぶ。これらのことは、筋トレーニングにおいて、どの筋をどのように使えば、どのような関節運動になるかということを知る上で重要な要素となる。


b屈筋・伸筋
 屈筋・伸筋は、四肢の関節を動かす作用の仕方、性質を表わす呼び名で、生理学的には軀幹より遠ざける関節の働きをする筋を伸筋といい、軀幹に近づける働きをする筋を屈筋と呼ぶ。
 解剖学的には、関節角度を180度に近づける筋を伸筋、0度に近づける筋を屈筋と呼んでいるが、人体の複雑な関節構造からみて、すべての伸筋・屈筋が全く同一運動をしているわけではないので、一概に規定できない場合もある。たとえば、足関節の場合は、180度方向に働く筋が屈筋となる。そのため、関節と筋の性質を理解し、正確な名称の使い方を勉強しなければならない。
 
代表的な例
屈筋・・・上腕二頭筋
伸筋・・・上腕三頭筋
 まぎらわしい例
屈筋・・・腓腹筋
伸筋・・・前脛骨筋


c外転筋・内転筋
 外転・内転とは、上肢に例をとれば、両腕を横に水平に拳上し、外側に開く動作を外転、内側に閉じる動作を内転という。すなわち、体の軸から遠ざける方向へ動かす筋が外転筋で、体の軸の方へ近づける働きをするのが内転筋である。
 下肢の場合、脚を外側に開く作用をするのが外転筋、脚を閉じる方向に作用するのが内転筋である。
 
上体の例
外転筋・・・広背筋
内転筋・・・大胸筋

下体の例
外転筋 大腿筋膜張筋
    中・小殿筋
内転筋 長・短内転筋
    大内転筋


d回転筋(回内筋・回外筋)
 回転運動を上肢に例をとれば、腕の中心線を軸として、内側にねじる運動を回内といい、外側にねじる運動を回外という。この回内、回外の運動を合わせて回転といい、これに関与する筋を回転筋という。
 
上肢前腕の例
回内筋・・・円回内筋
回外筋・・・回外筋
回転筋・・・腕橈骨骨筋


e拮抗筋・協同筋
 拮抗筋とは、たとえば肘を曲げようとした場合、上腕二頭筋は収縮するが、そのとき、上腕三頭筋が同じように収縮したと仮定したら、肘関節は硬直状態となり曲げることはできない。そこで上腕三頭筋は、上腕二頭筋が収縮したとき、緊張をゆるめて上腕二頭筋が作用しやすいようにする。このように相互に反対作用をする筋を拮抗筋という。
 協同筋とは、協同して関節を曲げる働きをするもので、前述の上腕二頭筋が働いて肘関節を曲げようとするとき上腕筋もこれに協同して働くので、これを協同筋という。
 
上肢拮抗筋の例
 上腕二頭筋
 上腕三頭筋

上肢協同筋の例
 上腕二頭筋
 上腕筋

下肢拮抗筋の例
 大腿四頭筋
 大腿二頭筋

下肢協同筋の例
 大腿二頭筋
 半腱様筋
 半膜様筋

4.筋の名称と作用

 全身の筋群を①頭部の筋、②頸部の筋、③背部の筋、④胸部の筋、⑤腹部の筋、⑥上肢の筋(上肢帯筋、上腕筋、前腕筋、手筋)、⑦下肢の筋(下肢帯筋、大腿筋、下腿の筋)の7筋群に分類して表にして説明しよう。
(1)頭部の筋

(1)頭部の筋

(2)頸部の筋

(2)頸部の筋

(3)背部の筋(浅背筋―1層、2層)

(3)背部の筋(浅背筋―1層、2層)

(4)胸部の筋(浅胸筋)

(4)胸部の筋(浅胸筋)

(5)腹部の筋

(5)腹部の筋

(6)―1 上肢帯筋

(6)―1 上肢帯筋

(6)―2 上腕筋

(6)―2 上腕筋

(6)―3 前腕筋

(6)―3 前腕筋

(6)―4 手筋・・・11種類あり

(7)―1 下肢帯筋

(7)―1 下肢帯筋

(7)-2 大腿筋

(7)-2 大腿筋

(7)―3 下腿の筋

(7)―3 下腿の筋

5.筋線維の種類

 筋線維は速筋線維(肥大しやすい白筋線維)と遅筋線維(肥大しにくい赤筋繊維)とに分類される。この白筋・赤筋は形態的、機能的に対照的な性質を持っており、ほとんどの筋に混在している。またこのほかに、白筋と赤筋の中間筋の存在も多くの学者によって確かめられている。
 このような筋の性質の知見が得られたことは、筋トレーニングを行う上で重要な意味を持つことになる。
 大筋群が数分間も活動する運動や、長距離スポーツでは、長時間にわたって筋収縮を持続させなければならない。そして、その運動能力は、収縮する筋組織が収縮エネルギーを生み出すための、酸素を取り入れる有機的能力によって決定される。そのため、自給的運動種目を実施している競技者は、筋線維の配合率からみると、肥大しにくい赤筋(遅筋線維)が多く、しかもよく発達している。
 一方、パワーリフティングや陸上競技の短距離走、及び投てき競技者は、ごく短時間に最大筋収縮を行うため、筋収縮活動は、酸素を取り入れない無気的なものとなる。その結果、肥大しやすい白筋(速筋線維)が発達する傾向にある。だから、白筋を発達させるためには、筋収縮速度の速い運動をするか、もしくは筋に対する負荷のかけ方に充分注意しなければならないことを意味する。そのために筋線維に関する権威者であるサルチンと菊地邦雄らの学者は次のように述べている。
まずサルチンは、筋線維の収縮特性をもとにして赤筋と白筋に分けるべきだと提唱している。また菊地は赤筋線維の一部として取り扱われている中間線維を、組織化学的に独立した一群としてとらえて、白筋、中間筋、赤筋の3群に区別し、それぞれのトレーニング効果について発表している。

6.筋力

 物理的な行動体力としての力の要素は、力の軸としての筋力、時間の軸としての筋持久力、速度としての筋収縮速度(スピード)の3要素からなるがここでいう筋力は、最大筋収縮(絶対筋力)を意味し、その筋出力の値を知ろうとするものである。
 筋力はトレーニング条件によって、発揮する筋力に差が出てくると考えられるが、高名なヘッティンガーや猪飼道夫らの学者の研究によれば、
①人間の単位横断面積あたりの最大筋力(1㎠当り4kg)は、性別・年齢に関係なく一定であるとし、筋力増加の要因はトレーニングによる筋肥大が原因である。
②トレーニングを継続すると、単位面積当りの最大筋力の値が上昇する。
③トレーニングを継続することにより中枢神経が改良され、神経筋の適応性変化が示唆される。
 以上の学説のように、筋力は、筋肉の量や横断面積、あるいは筋肉の太さと深い相関関係をもっていること、それに中枢神経系の改良が関係してくることがわかる。
 これらの学説の中で、超音波測定による単位横断面積(1㎠)当りの筋出力は、身体各部の筋においてすべて平等ではなく、実験によれば、腓腹筋5.9kg、上腕三頭筋8.1kg、咬筋10kgの筋力を有しているが、これらの筋力もまだ20~30%の力を出しきっていないことがわかった。つまり、その人の持っている最大筋力(生理的限界)を100とした場合、上述の筋力(心理的限界)はその70~80%しか発揮していないということである。[図10参照]
 この生理的限界と心理的限界に関する実験によれば、(矢野京之助:人体筋力、古林書院、1977年ほか)、母指内転筋において、随意収縮による最大筋力(心理的限界)が12.2kg、電気刺激による値(生理的限界)が15.9kgであった。つまり心理的限界を100とすると、生理的限界は131%となり、最大努力で発揮した随意収縮による最大筋力では、まだ31%の余力が残されていることになる。そして、この差を「予備能力」あるいは「筋力予備」と名付けた。
 以上のことから、トレーニングにより、いかにして心理的限界を生理的限界に近づけるかということが大きな課題となる。そこでもう一度、筋力および予備能力について要約してみよう。
①日常生活程度の作業強度では、全能力の20~30%程度である。(第一次予備能力)
②筋力を発揮するレクリエーション的なスポーツで、全能力の20~70%である。(第二次予備能力)
③白熱したスポーツ試合や、体力トレーニングで発揮すると思われる最大筋力は、全能力の70~90%である。(第三次予備能力)
④意志の支配を超えた全能力の90%以上の筋最大出力が生理的最大筋収縮である。
 その他、最大筋力を発揮するにあたり「掛け声」を出した方がよいか、出さない方がよいかについては、掛け声を出した方が最大筋力が増加したという研究発表もあるが、ただ1回の最大筋力によって勝負を決めようとするスポーツの試合をみると、柔道では投げるときによく声を出し、相撲では声を出さず、また、陸上の投てきや、重量挙げなどの場合は、声を出す選手と出さない選手があり、一概には結論が出せない。
[図10]筋力の生理的限界と心理的限界(猪飼)

[図10]筋力の生理的限界と心理的限界(猪飼)

月刊ボディビルディング1981年5月号

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