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“肉体疲労と神経疲労”

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月刊ボディビルディング1981年6月号
掲載日:2020.05.27
≪野沢 秀雄≫
 疲労には種類ある。スポーツや運動、肉体労働のあとで感じる疲労と、重要な人と会ったり、試験勉強や会議のあとなどで感じる疲労である。後者は神経疲労ともいわれ、ノイローゼや自律神経にもつながる重要な症状で、最近の社会生活で、とみに増えているものだ。
 スポーツやトレーニングのあとで感じる疲労は、シャワーを浴びて汗でも流せば、サッパリして爽快な気分になる。たとえ全身の筋肉がはれあがって痛みのために歩けないような場合でも原因がわかっているのだから、一晩か二晩ぐっすり眠り、人によってマッサージしたり、栄養のある食事をとりさえすればすっかり回復してしまう。
 これに対して、難題をかかえたり、トラブルに巻きこまれたとき感じる神経疲労は、いつまでも回復しない。
「あまり動かないで手先だけでするような作業は、エネルギーを使わないから疲れない。体をよく動かす作業はエネルギーを使うから疲れやすい」と思いがちであるが、実際に工場で見てみると、一定の姿勢で部品の組立をしている人や、コントロールパネルで監視作業をしている人のほうが、作業場をかけまわって運搬したり、修繕にあたっている人よりもずっと疲れたような顔をしている。
 1日に必要なカロリーを計算するときに、まず、各動作ごとにエネルギー消費量を算出して、その動作が基礎代謝量(20度Cで安静に寝ているときに要するカロリー)の何倍にあたるかを計算する。これをエネルギー代謝率といい、その総合計が1日の必要総カロリーということになる。
 たとえば、新聞・雑誌を呼ぶ=0.2、家計簿をつける=0.3、食事=0.4、散歩=1.5、ラジオ体操=3.0、野球のピッチング=5.1、水泳=39.6、全力疾走=205というように・・・。
 だがこの考え方には大きなあやまちがある。その第一は、140億を超える脳細胞を動員して、神経の集中・思考などを行なったときに消耗するエネルギーが考慮されていないことだ。
 これは「受験勉強」でモーレツに腹がへったり、重要会議のあとで空腹を感じる、といった実感からも、神経の集中・思考などに並々ならぬエネルギーが必要なことがわかると思う。
 もう1つは、神経の緊張は、同時に筋肉の緊張を伴なうことだ。力を抜いたつもりでも、筋肉は常に一定の神経支配が行なわれていて、ごく軽度に収縮した状態にある。
 睡眠や全身麻酔のときは、この働きが低下してぐったりした状態になる。反対に、神経が緊張しているときは筋肉も固く収縮している。
「試験場であがってコチコチになってしまった」「彼女と始めてダンスしたときは、思うように体が動かず、ギコチなかった」といった経験は誰にも思い当ることだろう。
 このような場合に消耗されるエネルギー量は、先ほど説明したエネルギー代謝率には含まれていない。
 疲労が十分に回復しないまま、翌日に同じような精神的に負担の多い仕事をした場合には、いっそう筋肉の緊張が増し、肩こり・頭痛・しびれなどを起こす原因となる。
「その日の疲労は、その日のうちにとれ」といわれるのはこのためであるが、要は、疲れているからといって、ただゴロゴロしていても仲々なおらない。適度なスポーツやトレーニング、それにサウナなどでマッサージを受けることが、想像以上に疲労を回復してくれる。
月刊ボディビルディング1981年6月号

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