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ボディビルディングの革命理論 ≪その6≫ デニス・デュブライルの理論

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月刊ボディビルディング1979年7月号
掲載日:2018.11.30
国立競技場指導係主任
矢野 雅知

<神 経 カ>

 ご存知のように筋肉の収縮に関しては「全か無の法則」(all or nothing princple) というものがある。これは、筋線維はまったく収縮しないか、あるいは最大の収縮をするかのどちらかであって、中途半端な収縮というものはない、というものである。

 脳からのシグナルは、神経を通じて筋肉に伝わる。運動神経は, 神経支配している多数の筋線維(運動単位)に神経衝撃を与えて活動させるのであるが、その神経と筋線維の接点はエンド・プレート(運動終板)と呼ばれている。これはちょうど壁のソケットみたいなもので、「神経衝撃がエンド・プレートを通過しやすくすることが、トレーニング効果の一つである」(「運動の生理学」ピーター・カルポビッチ著,、ベースボール・マガジン社)とされている。

 ところで, ピアリー・レイダー氏は「筋力」に関与する神経の働きについて、次のような見解を発表している。すなわち---リフターがまったく体重が増えてないのに筋力が高まることがあるが、これは筋力の実質の肥大による絶対筋力の増加ではないのだから、神経がより強いインパルス(衝撃)を出せるようになったから、より強い筋肉の収縮ができるようになったのである。また、 神経が弱いインパルスを出したのなら、それに伴って筋肉の収縮も弱くなる。すなわち、 神経のインパルスの強さが、 筋肉の収縮の強さを左右するのである。筋肉の反応は,、エンド・プレートに依存しているが、トレーニング効果があがれば、インパルスの強度が、そんまま筋肉の収縮力を決定するようになるわけである。

 ピアリー・レイダーは,、これを「神経力」と呼んでいる。

 このことは, 現在のセオリーである「全か無の法則」に、当然反することになる。だが、「全か無の法則」に従って筋肉の収縮が起っているのは事実であろうが、恐らく、すべての筋肉には当てはまらないのであろう。

<神経衝撃の頻度>

 筋肉のすべての筋線維が同時に収縮したとすると、ひじょうに短時間で速く、しかもきわめて強度の大きい収縮となろう。

 しかし、神経のインパルスは、少しずつ異なった筋線維に伝わってゆく。それは、ほんのわずかな時間の差をもって伝わってゆく。つまり, 筋線維は1秒の何分の1かで収縮するが、長くは収縮できないので、次から次えと入れ代わり立ち代わり各筋線維は収縮していく。だが、どのくらいの間隔でもって神経のインパルスが筋肉に到着するのであろうか。その頻度が筋線維の収縮力、すなわち「筋力」を決定する一つのファクターとなるのである。

 つまり、適度の強さの刺激を1回だけ筋肉に与えると、筋肉は一つの攣縮(収縮)が起こる。そしてすぐリラックス(弛緩)する。もし「神経が繰り返して刺激され、最初の攣縮から筋肉リラックスする前に、第2のインパルスが到達すると、筋は再び収縮する。第2の攣縮は、より高い張力水準から出発するから,、二つの刺激によって生じる張力は、同じ強さの単一刺激によって生じるものよりも、かなり大きなものとなろう。インパルスの頻度が高くなれば、筋は次の収縮の前にリラックスする余裕がなくて、筋線維は完全強縮(最も強い収縮)をする。......インパルスの頻度が少ない時には、生じる張力も最大にはならない」(「オストランド運動生理学」大修館書店)ということである。

 たとえば、上腕二頭筋の運動としてバーベル・カールをかなり軽いウェイ トで行なっていれば,、筋肉には1/12秒のスピードで、インパルスが各筋線維に伝わっているかもしれない。ところが、ひじょうに重いカールをやれば、インパルスの頻度は1/50秒にも高まるのである。

 長い間、1/50秒とは最も大きいものであると考えられていた。ところが現在の運動生理学者は、それよりもさらに高い頻度でインパルスが伝わるという高度にトレーニングされた筋肉の例をみている。ということは、神経のインパルスを 1/50秒よりも、さらに高い頻度で送れるのであるならば、筋肉の大きさは同じであっても、さらに強い筋力を発揮できる、ということになる。 このことは、「筋力向上」を主眼とする競技者にとっては、決っして小さな問題ではない。エンド・プレートの機能が向上するように、神経のインパ ルスの頻度が高まるということは、挙上重量に大きな違いをもたらすのである。つまり、筋力の大きさは、単に筋肉のサイズの大きさだけでなく、神経機能の働きにも大きく影響されるのである。

 では、神経機能をより高度に発達させるには、どういったトレーニングが必要なのであろうか?

 それは---すでにこのシリーズで述べてきたように---毎回全力を発揮させるような、きわめて強度の大きいハイ・インテンシティ・ワークによってベストにトレーニングされる。

 このことはまた、「メンタル・リフター(精神力リフター)」へと導いてくれよう。すなわち、筋肉のサイズの割には、ひじょうに重いウェイトを挙上できるリフターのことであり、それは、自分自身を高度にサイク・アップできるということである。
 
 明らかに、彼らは精神の集中力が優れており、その結果、神経システムを向上させられるので、より以上の筋力を発揮することができるのである。

<神経の効率>

 神経システムと筋肉に関して、1回のレピティションで、より多くの筋線維を活動させられる、ということもまた、筋力を向上させる大きな要素となる。

 アーサー・ジョーンズは、「ある特別の人は、一般人よりもさらに効果的な神経をもともと持っているので一度に多くの筋線維を働かせることができる。それゆえ彼らはウェイトリフティングやパワーリフティングのような筋力の世界では強いのである」と、興味深い指摘をしている。

 あなたが最高150kgのベンチ・プレスができるとしよう。あなたのトレーニング・パートナーも150gのベンチ・プレスができるとする。ところが、パートナーは130kgのウェイトなら、ベンチ・プレスを5回できるが、あなたは5回持ち上げるためには、さらに15kgを下げて115kgにしなくてはならない。ともに最高重量は同じなのに、どうしてこれだけの違いが現われるのだろうか。

 それは、1回持ち上げている間に、パートナーの筋線維はあなたよりもっと休んでいるからである。だから、あなたよりも活動していない筋線維の余裕があるので、もっと多く繰り返せることになる。

 しかし、このことであなたは気を落すことはない。表現を代えると、あなたの方が、1回のレピティションでより多くの筋線維を集中させられる。 ということなのである。つまり、あなたの方が、運動神経の効率がよいという意味になる。

 したがって、筋肉のサイズが等しければ、神経の効率がよいほど1回に発揮する筋力は強くなるので、
リフターとしては恵まれていることになる。それでひじょうに優秀なリフターは、常に1回だけ持ち上げられる重量と比較した反復回数というものには、大きな差異があるのである。

 ただ、アーサー・ジョーンズの着眼に同意できない点がある。

 それは、彼はこの神経効率は、生まれながらに決定されているファクターであって、体重の割に強い筋力を発揮できるリフターというものは、もともと強くなる素質があったのであって、神経効率が悪いものは、いくらトレーニングしても生まれつき強いものより強くはなれないのであると信じていることである。

 この見解は、筋肉における赤筋と白筋に似ていないだろうか。すなわち赤筋とは、簡単に言えばスピーディな収縮はできないが、持久力に優れており、白筋はスピーディな収縮をするが長くは活動できない、といった相異があるが、両者は多かれ少なかれ1つの筋肉に存在していても、その比率は各人によって大きく違う。

 たとえば、マラソン・ランナーのカーフの筋肉は、赤筋を多く含んでいる。有名なショーターなどは実に80%もの赤筋を持っていた。これに対して一般人では約50%の比率である。短距離ランナーは逆に白筋を含む割合が多い。だから、赤筋の占める割合が多い人は、スプリントに適性はなくとも、マラソンにはその特性が生かされることになる。

 ということは、筋肉のこういった質の違いは先天的なものであるとされているから、白筋の要素をより多く必要とする競技に、赤筋を多く持っているような人が熱中しても、その競技には適性がないのだから大成できない、ということがいえる。

 さて、アーサー・ジョーンズも、このように神経効率を先天的なものとしてとらえているのだが、これはそれほど簡単に断定できるものではなかろ。なぜなら、トレーニングによって、神経効率が向上したという多くの実例をみているからである。
図:アーム・カールの筋肉に加わる抵抗

図:アーム・カールの筋肉に加わる抵抗

<筋力曲線>

 筋肉に加わる抵抗というものは、関節の角度によって変化する。つまり、運動動作全般にわたって、同一の抵抗が筋肉にかかっているのではない。

 アーム・カールを例にとって説明すると、上図のように各ポジションによっては、50%以上もの開きがある。(図参照)(図は「筋力トレーニング」窪田登著、体協スポーツジャーナル'78 No.13より引用)

 ということは、アーム・カールで最大負荷100kg ができるならば、スタート時点ではさしたる筋力を発揮しなくてもカールはできるが、だんだん強い力が必要となってきて関節角度が90度となるスティッキング・ポイントでは100%の100kgの力が加わるので、このポジションでは最大の筋力を物理的に発揮しなくてはならないことになる。そして、このポジションを通過すれば、再び発揮する筋力は減ってきて、半分以下の45kgほどになってしまう。

 すなわち、動作のはじめとおわりのところでは、筋肉に強い刺激を与えられなくなってしまう。それではと、このポジションで最大負荷に近い抵抗を与えようと重いウェイトを持てば、当然スティッキング・ポイントを通過させられなくなってしまう。

 そこで、可動範囲全般にわたって十分な刺激を及ぼそうという目的のために、ノーチラス・マシーンが開発されたのであり、現在注目を浴びているアイソキネティック・マシーンが誕生したのである。これらのことは、すでに述べてきたことであり、ご存知の方も多いであろう。

 しかし筋肉それ自身の発揮できる強さ(筋力)というものは、筋肉が伸びきったポジションが最も強く、収縮すればするほど弱くなってゆく。つまり完全に収縮したときが、最も筋力が弱い、ということをご存知であろうか。

 なぜそうなるのかというと---常に筋肉というものは、動作の開始ではテコ作用が最も働かないポジションとなるからである。

 上腕屈筋を例にとると、動作のスタート・ポジションでは、上腕と前腕の骨はほとんどまっすぐになっている。しかし、十分に収縮したポジションでは、テコ作用が最も強く働いているので、筋肉それ自身は強い力を出さなくとも、結果として大きな筋力を発揮できることになる。そこで、筋肉は最も伸びきったポジション(スタート・ポジション)では、最も悪いテコ作用の位置に打ちかって筋肉を収縮させられるようになっている。つまり、そのポジションでは最も大きな筋力が必要であり、収縮したポジションではテコ作用がよく働いているので筋力はそれほど必要はない。

 したがって、筋肉そのものは、動作のスタート・ポジションのところで大きなサイズを得ることになるので、ここがトレーニングでは、きわめて重要な部分となるのである。それだけ、多くの筋線維を働かせなくてはならないからである。

 そこで思い出されるのが、レッグ・エクステンション・マシーンである。これを用いて巨大な大腿部をつくりあげた者は、今だかっていないはずである。ところが、ハーフではなく、フル・スクワットをやると、抵抗は大きくなくても、太くてパワフルな大腿部をつくり上げることができる。それはレッグ・エクステンション・マシーンでは、動作のスタート・ポジションは筋肉が十分に伸びきったものではないからである。

 このシリーズにおいて、筋肉が伸展するポジションと、フルに収縮するポジション、及び中間のポジションに効果的なエクササイズをやるべきであると述べてきた。しかし、筋肉が伸展するポジションは、サイズと筋力を獲得するためには最も重要である、ということに気がつかねばならないだろう。

 (つづく)
月刊ボディビルディング1979年7月号

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