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★内外一流選手の食事作戦⑫★

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月刊ボディビルディング1980年1月号
掲載日:2018.09.28
日本人ではじめてミスター・ユニバースになった末光健一選手の食事法
健康体力研究所・野沢 秀雄

1.ボディビルの超能力者

 日本のボディビル界にとって、末光健一選手が出現したことが、どれだけ大きく影響を与えたか、はかりしれないものがある。たとえば、現在第一線で活躍しているビルダーたちの中に、「ミスター・ユニバースになった末光選手の新聞に載った写真や記事でガーンという衝撃を受けて、よーしオレも始めよう!」と、ボディビルを開始した人が何人もいる。

 末光選手の力があまりにも信じられないレベルなので、今でも伝説化され神話となり、事実を見ることができない人が多い。幸いにも私は、彼がミスター・ユニバースになる以前から、親友として知見を得ていることが多く、また何回か「健康体力研究会」の講師を依頼して、貴重な体験談を話してもらっているので、今月はとくに彼の知られない一面を本誌に公開することにしよう。

2.4年で日本一、5年で世界一

 従来のボディビルの常識をいくつも破り、たいへん不思議な存在となっている末光選手であるが、まとめると、

①21才という年令でボディビルを開始して大成したこと。ふつう大選手は須藤選手や長宗選手はじめ、たいてい10代の後半からスタートして、筋肉と同時に骨格を発達させつつ、体を完成させているケースが多い。

②開始後わずか8ヵ月でミスター東京5位、1年でミスター日本13位、1年半でミスター東京優勝、4年でミスター日本優勝、5年でミスター・ユニバース優勝と、異例のスピードで短期間に進歩をみせたこと。

③ミスター日本になって以来8年間になるが、常にベスト・コンディションを維持し、いつでもどこでもポージングを見せられる体であること。これはふつうのビルダーではなかなかできないところである。

④さらにパワーの面でもすぐれており、トレーニングにおける使用重量は極めて重い。

 ---このような点から、彼を知らない人は「うそだろう」と信じないし、現実に各地の研究会や訪問したジムで彼のトレーニングを見た人は、「うわさは本当だった」とびっくりし、「ぜひトレーニングの秘密や食事法を知りたい」と強い関心を示すようになる。

 現在彼は国立競技場トレーニング・センターで練習しているが、「ベンチ・プレスをやるのかと思っていたバーベルでカールを始めたり、スクワットをやるようなバーベルで、ひょいひょいバック・プレスを反復する」という光景が目の前で展開するので、皆いちように驚いている。

 彼のトレーニング法については後述することにし、早速、本論の食事法を紹介しよう。

3.はじめは試行錯誤の食事法

 彼がコンテストにはじめて出場したころは、食事法の知識は今に比べてほとんど無いに等しく、ビルダーが個人個人で見よう見まねで、思いつきの食事をとっていたにすぎなかった。

 「末光選手は牛肉を生のまま1日に1キロも食べる」「大豆を生のままでミキサーにかけて食べる」などと伝えられ、実際に彼がこんな方法をとっていたのも事実である。本誌71年10月号に末光選手の食事法がのせられており、私が食事診断をおこなったのだが、「1日に卵16個、牛乳12本、肉または魚500g、とうふ3丁、納豆2個、レモン6個、プロティン錠20錠、消化剤200錠・・・・・」という内容で、計算すると6677カロリー、たんぱく質534.2gとなり、これではいくらなんでも多すぎた。

 その後、末光選手は食事と栄養についてたいへん熱心に勉強して、今では食事法の講義を聞いて、私自身ひじょうに安心できる内容になっている。

 「当時の食事法は無茶だったと私も思います。プロティンなどのサプルメントが今のようになく、知識も少なかったのです。現在の私の食事法は格段によくなっており、胸を張って人びとにすすめられます」と彼は健康体力研究会で話をしている。

4.末光選手自身の食事法

 では彼自身、どんな食事を毎日とって現在の体を保っているのか、また、全国のビルダーにどんな方法をすすめているか、述べることにしよう。
<末光健一選手の現在の食事法>

<末光健一選手の現在の食事法>

[この写真は、最近アメリカの8ミリ製作会社の依頼で映画を撮影したときのもので、末光選手から提供されたものです。(野沢)]

[この写真は、最近アメリカの8ミリ製作会社の依頼で映画を撮影したときのもので、末光選手から提供されたものです。(野沢)]

[健康体力研究会で体験を語る末光健一選手]

[健康体力研究会で体験を語る末光健一選手]

<講評>

①総カロリー4905、たんぱく質体重1kg当り4.5g、脂肪157.9g、全体に占める炭水化物の割合47%となり、この内容はビルダーの中でも摂取量はとくに多い。

②1日に食べる量を品目ごとにみると卵8個、牛乳3ℓ、牛肉類400g、プロティン・パウダー200gとなり、かなり多い。これは彼ほどのトップ・ビルダーが連日はげしい練習をおこなう場合のケースと解釈したい。

③1日6食に分けて、たんぱく質・ビタミン主体の食事をとっていることは好ましい。

④プロティン・パウダーはプロ用1kg缶を1ヵ月に6缶(6kg)使う計算になり、牛乳・ジュース・カルピス・ヨーグルトと共に混合して毎日飲んでいる。肉・卵はともに半分~2/3くらいまで減らしても充分体は維持できよう。プロティンはあくまでもサプリメント・フード(栄養補助食品)であり、主食ではないことを理解されたい。

⑤そのほか、クロレラとビタミンCを毎日食べて体調の維持につとめている。費用が相当かかるが、プロとして体を維持するのに必要な投資と、彼は考えている。


 一般のビルダーに対するアドバイスとして、彼は次のように述べている。

①コンテスト前は、たんぱく質とビタミンE(ジャーム・オイル)の使用を2倍くらいにふやすとよい。

②カロリー過剰で脂肪がのらないように計算して食べること。

③太ることを用心し、炭水化物はあまりとらないこと。

 ---以上の注意をのべている。

5.ホルモン剤使用は自殺行為

 ロビー・ロビンソンらの食事量が意外に少ないのに対比して、末光選手の食事量は、相当に多くなっている。アメリカの選手は「10代・20代の筋肉発達時にはバリバリ食べることが必要だが、30才をこしたら節度を保つ食事法が大切」と考えるようになっている。

 末光選手は30代に達しているが、彼の体はますます筋肉のバルクを増して、すごみを見せている。トレーニングも週5回のヘビー・ウェイト・トレーニング(限界ぎりぎりのトレーニングをみっちり休まず1時間20分続ける)と、週末2日のランニング、それにアクション・トレーニングをおこなっているためだ。

 「こんな激しいトレーニングはみたことがない」と人びとが驚く内容である。

 彼のエピソードで興味深いことを一つだけ紹介しよう。今から4年前、彼は大学病院に約2週間入院し、全身くまなく精密検査をしてもらったことがある。「体を毎日毎日バーベルで酷使したうえ、たんぱく質が多い食事をとりすぎていたので、体に異常がおこってないか心配になったから」と彼は当時私に語っていた。

 なるほど、連日筋肉がけいれんし、ジムから自宅に帰る路上で倒れて車で運ばれることが何度かあるくらい、毎日極限まで徹して鍛えぬいていた頃のことである。血液・尿・内臓に故障がおこっていないかどうか、一度チェックしたいと思ったのも無理からぬことである。

 結果は「まったく問題なし。コレステロールも血圧も正常。あなたほど完璧な内臓はない」と晴れて宣言されたのである。単に外見だけでなく、体の内部のすみずみまで、完全な体であることが証明され、ウェイト・トレーニングが健康づくりにおおいにプラスになることを確信し、私もたいへんうれしかった。

 「実はホルモン薬もほんの好奇心で使っており、心配だった」と彼はいうが、使用期間はわずか2週間、それも今から数年前の古いことである。

 「ホルモン薬は効かない。あれを飲んでも、トレーニングをがんがんやりプロティンをしっかり多くとらないと意味がないし、使用後の感じも悪かった。もちろんそれ以来、きっぱりとやめている。私の体は努力で築きあげたものだ」と末光選手は明言している。

 ホルモン薬の害は後になっていつ出てくるかわからない。「弱い人間のする愚かな行為」と内外で言われるのは当然である。

 「ホルモン薬を使い、40才で肝臓ガンで死亡した」といわれるトム・サンソンの2代目には誰もなりたくないだろう。誘惑に負けないでほしい。

6.プロ・ボディビルダーの道

 「日本ではボディビルをやっても生活できない」「プロが裕福に生活できるスポーツが人気が高く盛んになり、そのスポーツの競技人口が広がる」とよく言われる。

 プロ野球・ゴルフ・すもう・自転車・テニス・ボクシングなどは、素質に恵まれ、努力した者にプロの華やかな生活がひらかれている。それがほんの一握りの少数の者であれ、人びとに夢と希望を与えているのは事実である。

 ボディビル界でも以前、遠藤光男さんが吉村太一選手ら4人で「プロボディビル協会」をつくり、映画・TV・CM関係に開拓の努力をしたが、一般的な需要が少なく、報われることが少ないまま活動中止状態になっている。

 和歌山県の坂口賢三選手がTVにレギュラー出演したり、テイチクからレコードを全国発売したり、やる気のあるビルダーが出てきているのは何よりである。

 現在、末光選手はこの最も困難なプロ・ビルダーの地位確立のためにパイオニアとして道をきりひらいている。

 風間健さんのアクション・クラブに所属したり、独立プロの映画に俳優の一人としてキャストに加わったりしている。モデルとしてCM撮影やカレンダー製作に加わったりもしている。

 せっかく健康美にあふれた健全な身体をつくりあげた以上、これを活かす職業や職場がもっとあってほしいと私も以前から強く念願している一人である。ところが、実状は必ずしも理想と一致せず、アメリカでも、ビルダーが主役として登場する映画が製作されるようになったのはついここ1~2年のことである。

 日本は肉体よりも精神がまず問われる国である。苦労は並大抵のものでなく、充分な収入をビルダーの多くの人があげるようになるには、もう少し年月がかかりそうである。

 80年代はウェイト・トレーニングがいっそう脚光をあびる年だといわれ、関連する業界の規模も大きくなってこよう。そうしたときに始めてプロのビルダーが生計を立てられる余裕も出てくるのではないだろうか?

 「自分はこんな才能を持ち、人びとにどんなことを責任もってしてあげられるか」ということを常に意識して毎日の生活をおくっていただきたい。
月刊ボディビルディング1980年1月号

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