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私か実行したパワーリフティング練習法のすべて

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月刊ボディビルディング1981年9月号
掲載日:2020.06.26
パワーリフティングに強くなる秘訣、それは〝パワーリフティングを心底から愛する"ことに始まる

高松トレーニングセンター会長
82.5kg日本記録保持者
中尾達文

■スクワットのトレーニング法

≪正しいフォームの習得≫
 私は,パワーリフティングの公式競技のあるシーズンと,競技会のないオフ・シーズンとに関係なく,若干の変化はあっても,おおむね1年中,ボディビル的なトレーニング方法と,パワーリフティングの専門のトレーニング方法をミックスして実施している。これは,あくまでもパワーリフティングの記録向上につながらせるための筋肥大と補助種目の意味で行なっているものである。

 今回は,スクワット種目の私の練習法について述べてみたいと思います。まず,パワーリフティングの華,スクワットの正しいフォームを創り上げる上で重要なポイントを列挙してみましょう。

①バーベルをかつぐ時,背骨をまっすぐに伸ばした状態で,臀部をうしろに突き出すような気持でしゃがむこと。

②ひざは,できる限り前後に動かさないで,しゃがむ時には,両ひざを外側に開くようにしてしゃがむ。

③しゃがんだ時の両ひざと大腿部との角度は,できるだけ直角(90度)に近い角度を保つようにする。

④完全な腹式呼吸をマスターし「ヘソ下丹田」に力を入れ,腹腔圧を高めるようにすること。

 私は今まで10数年,スクワットに強い多くの先輩たちに教え乞い,またその先輩たちのフォームを見て勉強してきた。その結果,多少の違いこそあれスクワットでバーベルをかつぐのは,腰(背筋を含む)と尻でかつぐものであり,決してひざを使ってかつぐものではない,ということを感じた。

 すなわち,スクワットのしやがんだ時のフォームは,相撲の仕切りの時の姿勢と足のくばり,そして両ひざの角度がほぼ同じ要領である。そこで私はスクワットの補強種目として,両ひざや股関節の柔軟強化を目的として,両脚の前後開脚,左右開脚,それに相撲流の四股や股割り等を,スクワット練習の前後に実施している。また,背筋部位を柔軟にするために,レスラー・ブリッジをクールダウン時に実施している。

≪呼吸方法≫
 次に呼吸方法であるが,息を吸い込む時には,大きく囗から吸い込んで,その吸い込んだ息を,ちょうどツバをのみ込む要領でのみ込んで,腹部(正確にはヘソ下丹田)にしっかりと息をためて,腹腔圧を充分に高めるようにする。つまり,腹式呼吸である。

 ここでも分るように,スクワットの呼吸方法や息のため方は,空手やその他の武道に共通する而が多分にあると私は信じている。そういう意味からも先月号で述べたように,パワーリフティング競技は「力技道」といってもいい側面を多分に持っていると私はとらえている。

 話が横道にそれてしまったが,私の場合には,この版式呼吸は,バーベルをラックからかついではずす前に,一度大きく口から息を吸い込んだら,試技を完了するまで一切呼吸をしない,いわゆるノーブレッシング方式を採用しているが,最近の私の方法は,それに少しアレンジを加えたものに切り換えている。

 それは,ラックからバーベルをはずす前に,口から一度大きく吸い込んだ息を,そのまま囗にためたままで後ろにさがり,スクワットのポジションをしっかりとって,主審のスクワットの合図の直前に,口にためてあった息をのみ込んで,腹腔にしっかりとためる方法である。これまでの経験から,どうもこの方法が私には一番集中力が発揮できるように思う。

 私のパワーリフティング競技3種目の練習方法は,先にも述べたように1年をとおして原則的にはほぼ同じであるが,全日本選手権等のあるシーズンと,競技会のないオフ・シーズンとでは,使用重量,およびセット数に多少の変化がある。

 スクワットにっいていえば,週間スケジュールはほぼ同じで,月・水・金の週3日の練習と火・木の週2日の練習を1週問ごとに交互にくり返している。そして,オフ・シーズンの現在は,とくに正しいフォームを保つことに重点を置き1回1回の試技に全神経を集中して行なうように注意している。
〔1981年度全日本パワーリフティング選手権大会にて。このときの記録は日本新の295kg〕

〔1981年度全日本パワーリフティング選手権大会にて。このときの記録は日本新の295kg〕

〈1〉オフ・シーズンの練習方法
全日本パワー選手権等の大きな公式競技会が終ったあとの6~9月がこのオフ・シーズンであるが,私の場合,この夏場には体重が減るので,あまり重い重量を使川しないようにし,さらに,その日の体訓や気分によってセット数や反復回数も変えるようにしている。また,この時期はスーパー・スーツは一切着用しないで,ニー・バンテージも,よほど体調の悪いとき以外は使用しない。

 オフ・シーズンの標準的な使用重量と反復回数は次のとおり。
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 そして,このスクワットの練習後に股関節やひざのすじや靭帯の柔軟強化運動を15分間くらい実施したあと,
正しいフォームを想定しての無負荷のスクワットのフォーム・トレーニングを30~50回実施する。

 その他の補助種目としてはレッグ・カール,レッグ・エクステンション,レッグ・プレスを5セットずつ,相撲の四股を100~150回実施する。ただし,体調の悪いときは,いずれか1~2種目カットする。

〈2〉シーズン中の練習方法

 これは,世界選手権代表選考会,それにつづく世界選手権,ならびに全日本選手権大会に向けての本格的な練習期間で,具体的には10月から翌年5月頃までの時期の練習方法である。ただし,大会直前(大会直前の約2週問)の練習方法は大幅に変えるので,その時期の練習方法については次項〈3〉に書くことにする。

 このシーズンでは,日標とするそれぞれの大会の3週間くらいまでは,スーパー・スーツは週1回ぐらいの割で使川し,ニー・バンテージは200kg以上の重量をかつぐ時だけ使用する。この時則の標準的な使用重量と反復回数は次のとおり。
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 この練習のすぐあとで,股関節の屈伸強化運動とハイパー・バック・エクステンションを変化させた,当クラブ独自の上体そらし器を使った上体そらしと,時々,レッグ・カールとレッグ・エクステンション,レッグ・プレスなどを少し実施する。

 この時期も,スクワットは週3回と週2回を交互にくり返す。そして,目標とする大会の1ヵ月前くらいから,試合を想定してパートナーにレフェリーの代行をしてもらいながら,フォームやバランスのチェックを厳しく行う。体調の良い日には,自分のベスト記録に挑戦する。

〈3〉大会直前の練習法

 大会直前の2週間くらい前から大会の3日前までは,毎日,パワーリフティングの競技3種日を実施するので,当然のことながらスクワットも毎日練習する。そして,大会直前の3日間は完全休養をする。この時期は服装も器具も大会と同じにする。つまり,スーパー・スーツとニー・バンテージを着用し,スクワット・スタンドも大会と同じもの(2本棒だけで,安全装置のないもの)を使う。

 そして,試合そのものの心がまえで行い,必ずスタート重量は楽に成功できるように気を配って練習する。ただしセット数と反復回数は減らす。具体的に数字で示すと次のとおり。
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 なぜ大会直前に毎日3種目を実施するのかというと,1日に1種目だけの練習の時は,確かにスタミナもあり,重い重量も扱えるが,実際の大会では当然1日に3種目を尖施し,しかも,検量から最後のデッド・リフトが終了するまにはだいたい8時間くらいかかる。その間,自分の試技がきたらいつでも100%の集中力を発揮しなければならない。この大会と同じ雰囲気と状態をつくるために,大会直前は,毎日3種目を実施して,自分の気持を大会そのものの気持に追い込んでいくのである。もちろん,毎日,レフェリーの代行もそばについてもらって,フォームのチェックや呼吸のタイミング,さらには成功,不成功の判定も正確にやってもらう。

 大会直前の2週間前から,1週間前までの7日間,ほぼベスト記録に近い重量で3種目を連日実施すると,いくら回数やセット数が少ないとはいえ,疲労困ぱいする。しかしあえて私がこうするのは,どんな悪い環境や状態の中にあってもそれにくじけない精神力を養なうためである。

 海外遠征の経験のある選手なら分かると思うが,長い乗り物の疲れや,急激な環境の変化による興奮からくる睡眠不足,体重の減少等が重なった,どんな極限状態のヘトヘトの時でも,記録への執念を忘れることなく,必ず自分の目標とする重量はやれるんだ,という自信を自分自身の心の中に植えつけるためにも,あえてこの方法を採用している。

 それに,この時には,必ず試合の時間に合わせ,朝も早く起きて,まず第1種目のスクワットは午前中に練習して体調を慣らしておく。

 試合に臨むとき,極端に神経質になる必要は全くなく,むしろ平常心で臨むのが正しいとは思うが,まだまだ修業不足の私などは,平常心で試合に臨めたことなんて,これまでに1回もない。「大会は参加することに意義がある」とわりきって,最初から勝敗を度外視して出場するのなら,あるいは平常心で臨めるだろうが,それは一種のあきらめともいえるもので,私は,大会に出るからには,どんなときでも全力を投入して自己の最高記録を狙うのが,スポーツマンの本当の姿であると思う。

 大きな目標と,より高い記録をねらって大会に臨む場合,いろんな意味でプレッシャーがのしかかってくるものである。この精神的重圧をはらいのけることが試合に勝ち,好記録を生むカギとなる。

 すなわち,自分自身の気持の揺れ動き,迷う心に打ち勝つ方法は,やはり平素からの厳しい自己管理と,科学的で,かつ自分に合った合理的なトレーニングを,納得できるまで行ない,自分自身に自信を植えつけるしかないと私は断言できる。

 こうして,私の場合は,試合の3~4日前まで練習し,そのあとは完全休養する。

 最後に,スクワットに対する私の目標は,体重の4倍を一応の目安としている。すなわち,大会時の私の体重は78~79kgであるから310~315kgということになる。ここまでパワーリフティング競技を熱愛し,人生を打ち込んできた以上は,自分の精神と肉体の可能性がどこまであるか,これからも意地と執念をかけて記録に挑戦しつづけていきたい,というのが現在の私の心境である。

 (次回はベンチ・プレスについて述べてみたいと思う)
月刊ボディビルディング1981年9月号

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