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1980IFBB世界選手権フラッシュ・レポート
1980、11、26~12、1 於★フィリピン国立コンベンション・センター・フレナリー・ホール

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月刊ボディビルディング1981年2月号
掲載日:2020.04.06
松山令子★IFBB・JAPAN副会長 ★IFBB・JAPAN国際総局 ★1980世界選手権審査員
ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。エジプト・ティーム。4人の選手が全く同じといっていい体型に出来あがっている。この写真では見えないが、腹筋が凄かった。

ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。エジプト・ティーム。4人の選手が全く同じといっていい体型に出来あがっている。この写真では見えないが、腹筋が凄かった。

ファイナル・コンテスト。客席の最後部から通路をおりて舞台へすすむ日本ティーム。前から崎浜、谷口、臼井

ファイナル・コンテスト。客席の最後部から通路をおりて舞台へすすむ日本ティーム。前から崎浜、谷口、臼井

ファイナル・コンテストのステージで、マルコス大統領とベン・ウイダーIFBB世界会長

ファイナル・コンテストのステージで、マルコス大統領とベン・ウイダーIFBB世界会長

ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。カナダ・ティーム。81名の選手が、ひとりずつポージングする時間がないので、アルファベット順に各国ティームが舞台に出て、ティーム全員が同時にポージングをする。

ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。カナダ・ティーム。81名の選手が、ひとりずつポージングする時間がないので、アルファベット順に各国ティームが舞台に出て、ティーム全員が同時にポージングをする。

 毎年1回、世界ボディビル界の最大の関心と注目をあつめて、毎年異なる国で開かれる世界選手権(アマチュア)は、今年はフィリピンの首都マニラ市で、フィリピン・ボディビルディング連盟の手によって、この誇りであるフィリピン国立コンベンション・センターの中の壮麗極まるプレナリー・ホールにおいて5000人の熱狂した観衆の見守る中で開催された。
 参加国は、主催国フィリピンをはじめ、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリヤ、スエーデン、スイス、ベルギー、チェコスロバキヤ、エジプト、ギリシャ、フィンランド、イスラエル、ルクセンブルグ、オーストラリア、ニュージランド、メキシコ、ブラジル、シンガポール、マレーシア、ホンコン、タイ、パキスタン、日本、その他世界32カ国から参加した81名の選手たちによって、アマチュアとして世界最高レベル、最大規模のコンテストの壮烈で華麗な戦いがくりひろげられ、観衆はボディビルディングの醍醐味に酔った。
 この大会を実行したフィリピン連盟の力量と努力は素晴らしく、われわれ世界各地からはるばる参加した各国ティームの役員と選手たちは、同連盟の心温まる待遇に感謝した。また、大会の舞台の演出は実に素晴らしく、私たちを感嘆させた。それから、日本とは比べものにならぬほど物価の安いフィリピンでの200ペソ(約6000円)という、日本人にでも高く、ましてフィリピンの人々には眼をみはるほど高い入場料で5000人を客れるこの会場を満員にしたフィリピン連盟の力とヴァイタリティーに頭が下った。
ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。日本ティーム。左から崎浜(ライト)、谷口(ミドル)、臼井(ライトヘビー)

ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。日本ティーム。左から崎浜(ライト)、谷口(ミドル)、臼井(ライトヘビー)

ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。アメリカ・ティーム。4人がそれぞれ異なるタイプの体型であったが、このティレームの表現力は抜群であった

ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。アメリカ・ティーム。4人がそれぞれ異なるタイプの体型であったが、このティレームの表現力は抜群であった

ライト・グラス上位3名。左から2位・ケネス・パッサリエロ、1位・ハインツ・ソルマイヤー、3位・レイモンド・ビューリュー

ライト・グラス上位3名。左から2位・ケネス・パッサリエロ、1位・ハインツ・ソルマイヤー、3位・レイモンド・ビューリュー

ミドル・クラス上位3名。左から2位・リチャード・ボールドウィン、1位・ヨルマ・ラッティ、3位・リチャード・ヨンカー

ミドル・クラス上位3名。左から2位・リチャード・ボールドウィン、1位・ヨルマ・ラッティ、3位・リチャード・ヨンカー

 この大会を盛り上げ、意義あらしめた要素の最大のものは、マルコスフィリピン大統領のボディビルディングへの理解と庇護である。大会が始まり、観客席が全部埋ったころ、大統領閣下は大勢の随員を従えて、会場の中央にしつらえた貴賓席へ着席せられたが、そのとき、全員は立ち上って拍手をもってお迎えしながら、それぞれの心は感激に満たされた。一国の元首が臨席せられる世界選手権に参加したことは、すべての人にとって記念すべき終生の思い出になるだろう。
 ベン・ウイダー世界会長は、挨拶のスピーチの中で、マルコス大統領のボディビルディングへの理解と庇護に感謝したあとで、貴賓席におられる大統領に呼びかけた。
 〝マルコス大統領閣下、あなたはボディビルディングであられます。日頃ボディビルディングのトレーニングによって健康と体力を保ちフィリピン国民の幸福と安寧に貢献せられる大統領閣下こそ、真のボディビルダーであられます。われわれは大統領閣下をボディビルダーとして持つことを心から誇りに思うものであります″
 思いなしかウイダー会長の眼はうるんでいるように見え、その声は感激でふるえていた。私たちもウイダ一会長と同じ心で、マルコス大統領をたたえ、マルコス大統領に感謝した。
 どこのコンテストに参加しても、それぞれ何かのよさを感じ感激するが、今回のマニラでの感激は、ボディビルディングが深く社会とつながっているということを実感し得たよろこびであった。
ライト・ヘビー・クラス上位3名。左から2位・ブロンストン・オースティン、1位・ジョニー・フラー、3位・ケイヨー・レイマン

ライト・ヘビー・クラス上位3名。左から2位・ブロンストン・オースティン、1位・ジョニー・フラー、3位・ケイヨー・レイマン

ヘビー・クラス上位3名。左から2位・レイド・シンダー、1位・ヒューバート・メッツ、3位・クリスチャン・ヤナッシュ

ヘビー・クラス上位3名。左から2位・レイド・シンダー、1位・ヒューバート・メッツ、3位・クリスチャン・ヤナッシュ

 さて、世界最高レベルの戦いであるこのコンテストは、その壮烈で、かつ華麗な戦いで、すべての観衆の心を魅了した。優勝者の表彰のとき63才とはとうてい思えない若々しい大統領は、ステージにのぼって、選手たちにメダルを手ずから援与せられた。それを見守る私たちの心も、よろこびで満された。
 このようにして、1980世界選手権は最大の成功をおさめた。正味9時間にわたり、一分のたるみもない緊張したプレ・ジャッジングのことは項を改めて述べることとし、ここでは先ず最終結果のみを列記する。
ライト・クラス優勝●ハインツ・ソルマイヤー

ライト・クラス優勝●ハインツ・ソルマイヤー

ミドル・クラス優勝●ヨルマ・ラッティ

ミドル・クラス優勝●ヨルマ・ラッティ

順位

順位

ライト・ヘビー・クラス優勝●ジョニー・フラー

ライト・ヘビー・クラス優勝●ジョニー・フラー

ヘビー・クラス優勝●ヒューバート・メッツ

ヘビー・クラス優勝●ヒューバート・メッツ

 ライト・クラス1位・ソルマイヤー(左)と2位・パッサリエロのダブル・バイセップス・ポーズでの比較。

 ライト・クラス1位・ソルマイヤー(左)と2位・パッサリエロのダブル・バイセップス・ポーズでの比較。

 この写真で見る限りでは、パッサリエロの方がすぐれている。先ず、胸廓が上下、左右、前後に充分発達していて胸が非常に立体的である。大腿のカットもよい。ソルマイヤーのすぐれている点は、全身にこまやかにカットとデフィニッションが分布していることである。パッサリエロが大腿に比べて小さい腕をもっと大きくし、腹筋を鋭く出したら、あるいは逆転したかも知れない。ソルマイヤーは抜群のポージングで1位をとったと思われる。彼の何よりの欠点はラットが小さいことである。
 ライト・クラス3位・ビューリュー(左)と4位・サデクのサイド・ポーズでの比較。

 ライト・クラス3位・ビューリュー(左)と4位・サデクのサイド・ポーズでの比較。

 ビューリューは背が低く、筋肉が充実していて、プロポーションもよかった。欠点は、ミッド・セクションが、脂肪がとりきれず、腹筋が鋭くなかったことである。サデクは、この写真ではカットとデフィニッションではビューリューにまさっている。しかし彼は、体が薄く、首も細いので、力強い感じを出すことが出来なかったのに対し、ピューリーは首が太く、胸も肩も部厚かったので非常にカ強い印象を与えた。ここに勝敗の鍵があったと思われる。

審査席からのレポート

 1970年以来、私はほとんど毎年IFBB世界選手権に参加して、いつもステージに近い見やすい役員席を与えられて、まじかにプレ・ジャジングとファイナル・コンテストを見てきたが、1979年(コロンバス・オハイオ)と1980年(マニラ)と2回つづけてジャッジにえらばれて、ジャッジングをした結果、私が発見したことは、どんなに近くて見やすいところで見ようとも、観客として見るのと、ジャッジとして見るのとはまるでちがうということである。
 観客として見ていたときは、すべてに余裕があった。選手の体や動きだけでなく、まわりのいろいろのことがよくわかった。喚声や観衆の叫ぶ言葉もみな聞こえた。場内のざわめきもわかった。
 ところが、ジャッジとして坐っているときは、眼と心にはいってくるのは選手の体と動きだけである。自分の背後のことは一切が無になる。観客として見ているときは、まわりのみんなの中にとけこんで見ている。しかし、ジャッジとして見ているときは、世界は自分ひとりである。観客として見ているときは答を出す必要はないが、ジャッジとしては、即座に、100%責任の持てる答を出さねばならぬ。答はひとつとしていい加減なものであってはならない。
 ジャッジとしての私は、選手のカットひとつ、デフィニッションひとつ見落すわけにはいかなかった。カットの浅い深いも見わけぬわけにはいかなかった。すべてにおいて、私の見ること、感じること、決定することは、直ちに選手の運命に関与するから。IFBBのコンテストの権威に関与するから。
 こう考えれば、私が9時間という長いプレ・ジャッジングに自分のことは何ひとつ考えないで、選手の体と動きのみに心が集中できたのは不思議でも何でもない。
 ここに、今回の世界選手権の写真を何枚かお見せするにあたって、審査席から見ていた私の解説を加えたい。もちろん、私はこれらの写真だけを見て解説しているのではないことをわかっていただきたい。ジャッジとして私の眼が見たとおりが何枚かの写真で残されている。
 最後に、今回のコンテストで最大の収護は、ミドル・クラスでリチャード・ヨンカー、ヘビー・クラスでクリスチャン・ヤナッシュ、ライト・ヘビー・クラスで6位になったジョン・テリリが出てきたことである。この3人はそれぞれちがった個性を持ち、それぞれちがったよさを持っている。これら3人については、稿をを改めて紹介したいと思っている。
 ミドル・クラス1位・ラッティ(左)と3位・ヨンカーの比較審査。

 ミドル・クラス1位・ラッティ(左)と3位・ヨンカーの比較審査。

 ラッティは世界一大きいラットの持主である。そして他の筋肉も凄い。カットもデフィニッションも凄い。ヨンカーはまだ年も若く、キャリヤも短く、それでも今回初参加で3位をとった俊秀である。筋肉の発達ではラッティに及ばないが、そのプロポーション、若々しさ、清新な美しさは、ボディビルを筋肉オンリーのものと考えない場合は、はるかに人間の体としてラッティよりすぐれている。シュワルツネガーを若くしたような感じで、彼が、このまま順調に伸びれば、ここ1~2年で世界を征するだろう。この写真ではあまりわからないが、ラッティはあまりにも発達したラットに比べて僧帽筋がおくれていた。
 ミドル・クラス2位・ボールドウィン(左)と4位・ロスの比較審査。

 ミドル・クラス2位・ボールドウィン(左)と4位・ロスの比較審査。

 ボールドウィンは、誰が見ても美しい体型で、ひところのゼーンをほうふつとさせるところがある。しかし、ゼーンの若いときよりはゆたかである。申し分のないプロポーションと、研究しつくされたポージングは、筋肉の発達をゴールとするボディビルディングとはちがう別のゴールを目指してすすんでいる。私にはこれが正しい行き方だと思われる。体のどの部分をとって見ても、お互いに均整と調和を保っている。しかし、在来のボディビルディングのチャンピオンという概念からはいささか繊細すぎる感じがあるかも知れない。
 4位のダグ・ロスもまたバランスのとれた発達をしている人である。この写真ではよくわからないが、欠点は首が細いのと、三角筋がいまひとつ力強くないことで、そのためにひと目で審査員の目を惹きつけるだけのものが少ない。よくじっくりと見れば、どこもよく出来ているという体である。
 ライト・ヘビー・クラス1位・フラー(右)と2位・オースチンの比較審査。

 ライト・ヘビー・クラス1位・フラー(右)と2位・オースチンの比較審査。

 この2人の体はまったく甲乙つけがたかった。フラーは線が太くて、あくまでも力強く、オースチンはあくまでも複雑で、全身これカットとデフィニッションで埋まっているという感じで、どこにも平担な箇所がなかった。
 この2人の勝敗を分けたのは、ジャッジの好みの問題であると思う。要は、フラーのような筋肉モリモリの体をボディビルディングでは優れていると思うジャッジの方が多かったということである。オースチンがフラーに勝つためには、もっと胸郭と大胸筋を発達させねばならない。筋肉の面から見れば、フラーは81人の選手中、随一であった。しかし、一見セルジオ・オリバに似ているように見えながら、プロポーションの美しさでは、オリバにははるかに及ばない。オリバの体は限りない力強さと同時に優美さを持っていた。
 ライト・ヘビー・クラス1位・フラー(右)と2位・オースチンの背中の比較。

 ライト・ヘビー・クラス1位・フラー(右)と2位・オースチンの背中の比較。

 やはりフラーの方がすぐれている。しかし両者とも、もっとラットの下部を発達させるべきだと思う。フラーは、とくにそのようにして上半身を逆三角形にしないと美しさが出せない。
 ライト・ヘビー・クラス3位・レイマン(右)と4位・ベッグッソンのサイド・ポーズの比較。

 ライト・ヘビー・クラス3位・レイマン(右)と4位・ベッグッソンのサイド・ポーズの比較。

 3位・レイマンの方が、筋肉のマスキュラリティーやデンシティーにおいては勝れているが、この人の体は大まかで、細やかな味がない。必要な箇所に必要なだけの筋肉をくつりました、といって、すみずみまで気を配っていないような体である。4位・ベングッソンは、非常にポージングに努力しており、かなりいい体である。去年(コロンバス・オハイオ)の選手権では5位であった。力強さに欠けるのが惜しい。
 ヘビー・クラス3位・ヤナッシュ(右)と4位・カインラス。

 ヘビー・クラス3位・ヤナッシュ(右)と4位・カインラス。

 これは、さきのメッツとシンダーのタイプとは全く別なタイプ同志の比較である。この2人は鍛えれば腹筋がよくなるタイプである。カインラスは10年前の1970世界選手権(ユーゴスラビア)でトールマン・クラスで優勝している。このキャリヤの古いカインラスと新人のヤナッシュは同じオーストラリヤ・ティームである。ヤナッシュはまだまだ努力してあちらこちらの隙間をつめていかねばならないが、ボディビルダーとして大きく伸びていく可能性は150%くらいある人である。この線の強さ、ほどばしる精気は、まだ未完成な上体を越えて、大きな未来を思わせる。雲を吹き払う一陣の風のような強さと、さわやかさがある。きっとこの人も世界を征するだろう。
 ヘビー・クラス1位・メッツ(左)と2位・シンダーの比較審査。

 ヘビー・クラス1位・メッツ(左)と2位・シンダーの比較審査。

 力強さのシンボルのような2人である。この写真1枚だけではわからないが、メッツの方が鍛え込みが上であった。堂々として男性的で、威厳のあるボディビルダーとして、メッツは最高の人である。但し、ウェイストが太く、腹筋が鋭く出ていないのが唯一の欠点である。この点はシンダーも同じ。このように、うらやましいほど筋肉の大きくなる人は、概して腹筋がよくないことが、今度の選手権でよくわかった。シンダーは肩の大きさでは、81人中、第一である。しかし、プロポーション的には肩の幅が広すぎるといえなくもない。
月刊ボディビルディング1981年2月号

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