1980IFBB世界選手権フラッシュ・レポート
1980、11、26~12、1 於★フィリピン国立コンベンション・センター・フレナリー・ホール
ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。エジプト・ティーム。4人の選手が全く同じといっていい体型に出来あがっている。この写真では見えないが、腹筋が凄かった。
ファイナル・コンテスト。客席の最後部から通路をおりて舞台へすすむ日本ティーム。前から崎浜、谷口、臼井
ファイナル・コンテストのステージで、マルコス大統領とベン・ウイダーIFBB世界会長
ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。カナダ・ティーム。81名の選手が、ひとりずつポージングする時間がないので、アルファベット順に各国ティームが舞台に出て、ティーム全員が同時にポージングをする。
参加国は、主催国フィリピンをはじめ、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリヤ、スエーデン、スイス、ベルギー、チェコスロバキヤ、エジプト、ギリシャ、フィンランド、イスラエル、ルクセンブルグ、オーストラリア、ニュージランド、メキシコ、ブラジル、シンガポール、マレーシア、ホンコン、タイ、パキスタン、日本、その他世界32カ国から参加した81名の選手たちによって、アマチュアとして世界最高レベル、最大規模のコンテストの壮烈で華麗な戦いがくりひろげられ、観衆はボディビルディングの醍醐味に酔った。
この大会を実行したフィリピン連盟の力量と努力は素晴らしく、われわれ世界各地からはるばる参加した各国ティームの役員と選手たちは、同連盟の心温まる待遇に感謝した。また、大会の舞台の演出は実に素晴らしく、私たちを感嘆させた。それから、日本とは比べものにならぬほど物価の安いフィリピンでの200ペソ(約6000円)という、日本人にでも高く、ましてフィリピンの人々には眼をみはるほど高い入場料で5000人を客れるこの会場を満員にしたフィリピン連盟の力とヴァイタリティーに頭が下った。
ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。日本ティーム。左から崎浜(ライト)、谷口(ミドル)、臼井(ライトヘビー)
ファイナル・コンテスト(プレゼンテーション)。アメリカ・ティーム。4人がそれぞれ異なるタイプの体型であったが、このティレームの表現力は抜群であった
ライト・グラス上位3名。左から2位・ケネス・パッサリエロ、1位・ハインツ・ソルマイヤー、3位・レイモンド・ビューリュー
ミドル・クラス上位3名。左から2位・リチャード・ボールドウィン、1位・ヨルマ・ラッティ、3位・リチャード・ヨンカー
ベン・ウイダー世界会長は、挨拶のスピーチの中で、マルコス大統領のボディビルディングへの理解と庇護に感謝したあとで、貴賓席におられる大統領に呼びかけた。
〝マルコス大統領閣下、あなたはボディビルディングであられます。日頃ボディビルディングのトレーニングによって健康と体力を保ちフィリピン国民の幸福と安寧に貢献せられる大統領閣下こそ、真のボディビルダーであられます。われわれは大統領閣下をボディビルダーとして持つことを心から誇りに思うものであります″
思いなしかウイダー会長の眼はうるんでいるように見え、その声は感激でふるえていた。私たちもウイダ一会長と同じ心で、マルコス大統領をたたえ、マルコス大統領に感謝した。
どこのコンテストに参加しても、それぞれ何かのよさを感じ感激するが、今回のマニラでの感激は、ボディビルディングが深く社会とつながっているということを実感し得たよろこびであった。
ライト・ヘビー・クラス上位3名。左から2位・ブロンストン・オースティン、1位・ジョニー・フラー、3位・ケイヨー・レイマン
ヘビー・クラス上位3名。左から2位・レイド・シンダー、1位・ヒューバート・メッツ、3位・クリスチャン・ヤナッシュ
このようにして、1980世界選手権は最大の成功をおさめた。正味9時間にわたり、一分のたるみもない緊張したプレ・ジャッジングのことは項を改めて述べることとし、ここでは先ず最終結果のみを列記する。
ライト・クラス優勝●ハインツ・ソルマイヤー
ミドル・クラス優勝●ヨルマ・ラッティ
順位
ライト・ヘビー・クラス優勝●ジョニー・フラー
ヘビー・クラス優勝●ヒューバート・メッツ
ライト・クラス1位・ソルマイヤー(左)と2位・パッサリエロのダブル・バイセップス・ポーズでの比較。
ライト・クラス3位・ビューリュー(左)と4位・サデクのサイド・ポーズでの比較。
審査席からのレポート
観客として見ていたときは、すべてに余裕があった。選手の体や動きだけでなく、まわりのいろいろのことがよくわかった。喚声や観衆の叫ぶ言葉もみな聞こえた。場内のざわめきもわかった。
ところが、ジャッジとして坐っているときは、眼と心にはいってくるのは選手の体と動きだけである。自分の背後のことは一切が無になる。観客として見ているときは、まわりのみんなの中にとけこんで見ている。しかし、ジャッジとして見ているときは、世界は自分ひとりである。観客として見ているときは答を出す必要はないが、ジャッジとしては、即座に、100%責任の持てる答を出さねばならぬ。答はひとつとしていい加減なものであってはならない。
ジャッジとしての私は、選手のカットひとつ、デフィニッションひとつ見落すわけにはいかなかった。カットの浅い深いも見わけぬわけにはいかなかった。すべてにおいて、私の見ること、感じること、決定することは、直ちに選手の運命に関与するから。IFBBのコンテストの権威に関与するから。
こう考えれば、私が9時間という長いプレ・ジャッジングに自分のことは何ひとつ考えないで、選手の体と動きのみに心が集中できたのは不思議でも何でもない。
ここに、今回の世界選手権の写真を何枚かお見せするにあたって、審査席から見ていた私の解説を加えたい。もちろん、私はこれらの写真だけを見て解説しているのではないことをわかっていただきたい。ジャッジとして私の眼が見たとおりが何枚かの写真で残されている。
最後に、今回のコンテストで最大の収護は、ミドル・クラスでリチャード・ヨンカー、ヘビー・クラスでクリスチャン・ヤナッシュ、ライト・ヘビー・クラスで6位になったジョン・テリリが出てきたことである。この3人はそれぞれちがった個性を持ち、それぞれちがったよさを持っている。これら3人については、稿をを改めて紹介したいと思っている。
ミドル・クラス1位・ラッティ(左)と3位・ヨンカーの比較審査。
ミドル・クラス2位・ボールドウィン(左)と4位・ロスの比較審査。
4位のダグ・ロスもまたバランスのとれた発達をしている人である。この写真ではよくわからないが、欠点は首が細いのと、三角筋がいまひとつ力強くないことで、そのためにひと目で審査員の目を惹きつけるだけのものが少ない。よくじっくりと見れば、どこもよく出来ているという体である。
ライト・ヘビー・クラス1位・フラー(右)と2位・オースチンの比較審査。
この2人の勝敗を分けたのは、ジャッジの好みの問題であると思う。要は、フラーのような筋肉モリモリの体をボディビルディングでは優れていると思うジャッジの方が多かったということである。オースチンがフラーに勝つためには、もっと胸郭と大胸筋を発達させねばならない。筋肉の面から見れば、フラーは81人の選手中、随一であった。しかし、一見セルジオ・オリバに似ているように見えながら、プロポーションの美しさでは、オリバにははるかに及ばない。オリバの体は限りない力強さと同時に優美さを持っていた。
ライト・ヘビー・クラス1位・フラー(右)と2位・オースチンの背中の比較。
ライト・ヘビー・クラス3位・レイマン(右)と4位・ベッグッソンのサイド・ポーズの比較。
ヘビー・クラス3位・ヤナッシュ(右)と4位・カインラス。
ヘビー・クラス1位・メッツ(左)と2位・シンダーの比較審査。
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