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新★ボディビル講座
ボディビルディングの理論と実際〈1〉
第1章ウェイト・トレーニング

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月刊ボディビルディング1981年3月号
掲載日:2020.04.16
名城大学助教授 鈴木正之

1. 基礎体力の重要性とウェイト・トレーニング

 国民の体力づくりが叫ばれて久しくまた、各種スポーツ競技の基礎体力の必要性が叫ばれて二十年が経過しようとしている。今日ほど健康や体力について論じられている時代は、過去にはなかったと思う。
 また、各種スポーツ選手は、精神主義で勝利を得るよりも、より高度な技術を得るためには、筋力、筋持久力、スピード、パワー等の基礎体力が必要であるということに気づくのが遅かったと思われる。
 東京オリンピック以後、ようやく体力不足論が芽生えてきたが、過去においては、例えば、野球の選手は、バーベル・トレーニングをすれば、肩の筋肉が硬くなってバットが振り切れなくなる、陸上競技の選手が水泳をすればスピードがなくなる、といった話を何度となく聞かされてきた。ましてや、バーベルやタンベルで作りあげた。いわゆるボディビルによる筋肉は、見せかけの筋肉で、スピードや柔軟性、持久力がないなどと体育学の専門家ですら平気で言っていたのが実状であった。
 一方、国民の健康増進といった面についても、成人病の多発に伴ない、今日ほど関心が高まって来たこともなかったであろう。
 そのため、各地に公共団体の運営するサーキット・トレーニング・ルームや民間のアスレティック・クラブやトレーニング・センターが誕生し、各種スポーツ選手の間ではバーベル等を利用した基礎体力の養成が頻繁に行なわれるようになった。
≪図1≫医療費と賃金と物価の指数比較※昭和36年(国民皆保険実施)を100として比較|較したもの。国民所得を上まわる医療費の上昇率は、今後さらに増加の傾向にある。

≪図1≫医療費と賃金と物価の指数比較※昭和36年(国民皆保険実施)を100として比較|較したもの。国民所得を上まわる医療費の上昇率は、今後さらに増加の傾向にある。

 中でもウェイト・トレーニングはその主流となり、一般社会人の健康と体力の維持・増進や、スポーツ選手の基礎体力養成のために行なわれている。この合理的に、組織的に組立てられたウェイト・トレーニングこそ、上記の目的にかなった最良の肉体鍛練法であるといえよう。
 重量を挙上することによって、筋に抵抗を与えて、筋を強化する方法は長い歴史を持っており、古くは古代エジプトやギリシャ時代にすでに行なわれていた。そして現代では、バーベルやダンベル等の重量器具を用いてのトレーニングから、さらに人体の構造、機構等を考慮して、合理的に筋に抵抗を与える各種トレーニング・マシン、すなわち、ノーチラス・マシンやユニバーサル・マシン、ミニジム等のマシンが開発されてきた。
 これらの機械器具を利用して、ウェイト・トレーニングを実施した者たちが、筋肉の発達による肉体の変化や筋力の増加を確認しようとして、ボディビル・コンテストやパワーリフティングが生まれてきたのは、ごく自然のなりゆきであろう。これは、他のスポーツ実践者が、勝敗を競って競技会に参加するのとまったく同様である。
 ボディビル・コンテストやパワーリフティングの競技は、筋肉と筋力そのものの発達と強さを競うもので、その原点はウェイト・トレーニングの基本的なものであり、それをそれぞれの目的に合うようにして、一般社会人やスポーツ選手の基礎体力の養成や健康の維持・増進に貢献することができるのである。
 トレーニングを実施する上で重要なことは、記録や勝敗のないトレーニングは、とかく継続性がないということである。スポーツ競技の能力を向上させたいという選手は、そこに目的があるから継続できるが、一般人が体力づくりとして行なう場合、いわゆる3日坊主で終わる可能性が強い。
 その点、筋肉の発達を競い、挙上記録を競うことによって、ボディビルダーやパワーリフターのトレーニングは、マンネリ化を防ぐ重要な役割を演じているといえよう。
 それと同時に、ウェイト・トレーニングの基本的な運動、すなわち、挙げる押す、引く、立つ、起きる、といった素朴で原始的な運動こそ、弱体化し、虚弱化した人体に刺激を与え、重力に打ち勝ち、筋を緊張させ、より人間らしい姿勢を与え、内臓諸器官を保護し、明日への新しいエネルギーを生み出す源となるといえよう。

 2. ボディビルディングとパワーリフティング

 ボディビルディングとは、逞しい健康な身体をつくりあげることであり、現代的にいうならば、これこそまさに体力づくり、健康づくりであり、現代人が求めている健康と体力の源であるといえる。
 そして、人間誰もが持つ心の奥底に秘めた願望の1つが、あのギリシャ時代のヘラクレスやアポロの彫刻、あるいは、ミロのヴィーナスなどに代表される肉体美へのあこがれであろう。つまり、これらの芸術に見られるような健康的な肉体や、逞しい人間の躍動美をつくりあげていくのが、すなわち、ボディビルディングと呼ばれるところの、組織的に組立てられた一連のウェイト・トレーニングである。
 ボディビル運動の必要性・重要性は筋肉美やパワーを追求する選手のみが行なう特別な運動ではなく、柔道、サッカー、野球、レスリング、ボクシングなどの基礎トレーニングのほか、肉体的に劣等感を持つ人、頭脳労動者、片寄った労動をする人等々、健康な生活を営むために必要なものである。
 したがって、逆にいえば、ボディビル・コンテストやパワーリフティングは、健康や基礎体力を養成するためにボディビルを行なっていた過程で生まれた2つの副産物だといえるかもしれない。
≪図2≫国民医療費の伸び

≪図2≫国民医療費の伸び

≪図3≫主要傷病別にみた受療率 (人口10万人に対して)※運動不足による心臓血管系の疾病と糖尿病の増加が認められる

≪図3≫主要傷病別にみた受療率 (人口10万人に対して)※運動不足による心臓血管系の疾病と糖尿病の増加が認められる

3. ウェイトリフティングとパワーリフティングの違い

 ここでちょっとウェイトリフティングとパワーリフティングの違いについてふれておきたい。
 ウェイト・トレーニングを続けていくうちに、逞しい肉体になると同時に非常に体力がつき、怪力を発揮するようになってくる。そして、この怪力くらべとして生まれたのが、ウェイト・トレーニングの基本種目であるスクワット、ベンチ・プレス、デッド・リフトの挙上記録を競うパワーリフティンである。
 パワーリパワーリフティングは最初アメリカでウェイトリフティング(重量挙げ=プレス、スナッチ、ジャーク)に対抗して生まれた競技でオッド・コンテスト(変則重量挙げ)と呼ばれて始められた。
 そして、西ヨーロッパ、北ヨーロッパを中心として普及・発展し、その後パワーリフティングと正式に名称が決まり、IPF(世界パワーリフティング連盟)が発足し、世界の公式競技として、世界選手権大会が10年前より行なわれるようになった。日本でもJPA(日本パワーリフティング協会)が設立されて7年前にIPFに加盟し、毎年世界選手権大会に選手団を派遣している。いまや、このパワーリフティングは、体力づくりの成果を発表する競技として、ウェイトリフティングをしのぐ勢いで全国に広まっている。
 このパワーリフティングがスポーツとして発達する要因を考えてみると、現代人が健康・体力を維持・増進したいという動機があり、そこにパワーリフティングという、人間の基礎的運動(立つ、押す、引くが競技化され、しかも、競技をするためにそれほど長期間の訓練を必要とせず、老若、男女を問わずにできるところにあると考えられる。そして、忙しい現代人にとっては、手軽に、合理的に体力をつけられる手段であることも発達の要因の1つであろう。
 では次に、ウェイトリフティングとパワーリフティングは、ともにバーベルを使用すること、精神集中といっ点でよく似た面はあるが、技術的な面、使用筋、練習方法などではかなり違った面を持っているので、それれらの違いについて具体的に述べてみよう。

a 競技の目的と対象者

 ウェイトリフティングは、出来るだけ重い重量を挙上することのみを目的として行うので、虚弱者や高令者、若年者には不向きである。その点、パワーリフティングは、健康と体力を求めて、虚弱な人や体力が弱くなった中高年令者も、基礎トレーニングとして始められるので、全ての人が対象者となる。

b 挙上方法の特徴と年齢

 ウェイトリフティングは、強い瞬発力と高度なテクニック、および骨格の柔軟性等、競技年合以15~30歳が限度であろう。これに対してパワーリフティングはウェイト・トレーニングの基本運動であり、しかも人間の最も素朴な立つ、押す、引く、という基本動作から成っているため、本能的な筋力競技だといえよう。したがって、長期間の訓練等もいらず、個々の最大筋力が発揮できる。そのため、男女を骨格筋問わず誰にでもでき、基本訓練ができていれば50歳、60歳を過ぎても充分に可能である。現に40歳で世界チャンピオンになった選手が、数名いる。

c 取扱う重量

 ウェイトリフティングで扱われる最大量は200kg前後であるのに対して、パリーリフティングは、人間の身体が直接出し得る筋力競技としては最高と思われる400kg前後まで可能である。つまり、両者で扱う重量には、ほぼ2倍近い違いがあり、それだけ、大きな重量を扱う楽しみ(苦しみ)と、見る側に立ってみれば迫力があって面白いと言える。

d 筋肉の発達

 ウェイトリフティングは、一見、全身の筋肉を使っているように見えるが、胸の筋肉などはほとんど使われていないなどの点があるが、パワーリフティングは、全身の筋肉を使いながら訓練として行うので、トレーニング中の反復回数も多く、全身の筋肉がよく発達する。しかも、人間が活動するための最も大切な主働の筋をつくるのに役立っているので、人間の運動動作の原点に立に競技といえる。

 次回はトレーニングの解剖生理について記す。(つづく)
鈴木一恵画

鈴木一恵画

月刊ボディビルディング1981年3月号

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