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食事と栄養の最新トピックス⑨
胃腸を強くする食事法<2>

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月刊ボディビルディング1981年3月号
掲載日:2020.04.17
健康体力研究所 野沢秀雄

6 胃が強い人、弱い人

 前号では、胃の容量がやかん一杯分くらいあり、運動選手や年代の若い人は消化が早く、すぐに胃が空になるが中高年の人や胃病の人は、消化に時間がかかり、いつまでも食べた物が胃に滞留しがちなことを述べた。
 引きつづき今月は胃を強化する方法について、知識と経験をまとめておきたい。
 胃が強い人とは、何でも食事をおいしく食べられ、胃にもたれず、少しくらい食べすぎてもケロリと平気な人をいう。新陳代謝が盛んで元気な人に多い。
 逆に胃が弱い人とは、食事に対する適応性が少なく、食べすぎたらすぐに胃をこわしやすい人である。とくに油っこい食事や糖分の多い食事に弱く、「すぐに胸やけをおこす」と訴えたり、食べなれない食品をとると、腹痛や下痢をおこしてしまう人である。一般に神経質で、体は細く、顔色が青白い人に多い。
「食べることが体づくりの基本だから、もっと食べなくてはいけにい」と頭ではわかっていても、胃が受け付けない人は本当に残念である。だが鍛えれば必ず胃も強くなる。「ビールやウイスキーをかなり飲み、食事をたらふく食べても平気」という体質になるので、胃の弱い人は以下の記事をよく研究していただきたい。

 7 胃も筋肉でできている

 胃袋といわれるように、袋状になっている胃だが、まわりは壁のような筋肉からできている。ご存知の人もあると思うが、腕や胸などの筋肉は「横紋筋」といって、筋肉細胞の収縮度が大きい。一方、胃などの内臓の筋肉は、「平滑筋」と呼ばれ、顕微鏡でみると横紋の模様は見られない。
 しかしながら、筋肉が働いて「螺動運動」を常におこなって、食物を下へ下へと押しやる作用をおこなっており胃の筋肉が強い人はこの作用も強く処理時間が早い。
 筋肉には神経がゆきわたっており、神経により収縮が支配されていることは紋横筋も平滑筋も共通である。ただし、体の表面にある骨格筋が「運動神経」により支配されるのに対し、内臓とくに胃の筋肉は副交感神経と呼ばれる自律神経に支配されていることが特徴である。つまり、腕や脚の筋肉は頭から発した命令(意志)に従って動かせるが、胃腸の筋肉は意志によって動かすことは不可能である。
 ではどのようなメカニズムで胃の筋肉-が働くかというと、感情により調子よく働くときと、あまり働かないときの差が出るわけだ。
 有名なマーチンの話を紹介しよう。1822年6月のある日、猟銃で脇腹を射たれたマーチンが外科病院に運びこまれた。みると胃の部分に直径10cmくらいの大穴があいて、命が危ない状態である。医師のウイリアム・ボーモントは「やるだけやってみよう」と手術をしたところ、うまい具合に胃壁の上から胃粘膜のひだが覆い、穴のあいた窓にカーテンをかけるような状態で、一命をとりとめることができた。
 胃の上のひだを指でのけると、胃の窓から内部が手にとるように見える。食物が何時間くらいで、おかゆの状態になってゆくか、肉眼でもありありと観察できるようになったのだ。以来6年間、マーチンと医師のボーモントは互いに協力して、後生に残る人体実験をおこなうことになった。
 記録によると238回も観察実験を行なったが、食事の時、腹を立てると消化はいちじるしく遅くなったり、激怒した後は、ふだん食べる焼肉が2倍も時間をかけないと胃から出てゆかなかったり、心配時に、消化液がほとんど分泌されなかったり、興味深いデータが数多く残っている。
 胃壁の筋肉をよく働かせるには、気分よく、おいしく食事をとることが先ず大切なのである。筋肉が働くのと同時に、消化液の分泌量が大へん増加するので、いっそう胃には良い効果を与えるわけだ。
(楽しい雰囲気で食べると消化によい)

(楽しい雰囲気で食べると消化によい)

8 胃を休ませてやるには

「シーズン中は肉・魚・卵・プロティンなど高タンパク質の食事ばかり食べるので、ときには胃を休めて空にしてやらねばならない」と考えているビルダーがよくいる。
 たしかに高タンパク・高脂肪の食事が多いと、胃の消化能力に負担をかけがちである。なぜなら胃の消化作用のハイライトはタンパク質であり、糖質などは負担が少ないからである。
 普通の食事をする人なら、糖質(炭水化物)とタンパク質・脂肪の割合は4:1:1くらいで、バランスがとれているが、ビルダーなら1:4:2くらいになっている人も珍らしくないようだ。
「1日間~3日間何も食べないで健康茶だけを飲んですごす」というビルダーを知っている。脂肪がよくとれるだけでなく、バキュウムのポージングで威力を発揮するわけである。3ヵ月に一度くらいの割合でこれをおこなうならいいが、あまり長期間にわたって、頻繁におこなうことはよくない。
 また、脂肪がある程度残存している人なら安全だが、つまんで5㎜以下なのに、絶食を強行することは危険である。また適度のタンパク質やビタミンは毎日一定量は必ずとっていただきたい。

9 食事直後のトレーニングは?

 胃の消化力からいって、一度に大量のタンパク質をとるより、何度にも分けて、間食をふやした食事法が望ましい。とくに体重を筋肉でがっちりふやしたい場合は、トレーニングの前後に高タンパクの食事法が大きな効果をあげる。
 ここで問題になるのは、何時間くらい間隔をあけてから食事をとるかという点だ。「あまり多量に、トレーニング前に食べると、胃袋に食事が詰まりすぎて、胃が重く、ときには嘔吐しそうになる」という経験をしている人も多いにちがいない。胃が消化作用をしているときは、全身の血液のうち相当量が胃のほうに集っている。この状態で、急激なトレーニングをおこなうと筋肉のほうでも血液を要求するので、胃の消化面ではマイナスとなる。
 前号で述べたように、30分たつと、かなり消化が進行するので、最低30分は置いてトレーニングするとよい。もちろん量によっても異なるので、少量の間食なら15~20分間くらいでもかまわない。
 トレーニング後は、筋肉のホテリがさめるのを待って、水分の補給(牛乳・ビール・ジュース・水・お茶)をまずおこない、その後に相当に多い栄養食をとって差しつかえない。つまり、練習後は10~15分後に、本格的な食事をとっていいことになる。
 なお、やせたい人や、体についている脂肪をとりたい人は、空腹時に懸命にトレーニングをするとよい。脂肪が燃焼してエネルギーに変って、除去されるためである。やせたい人は、たとえ少量とはいえ、甘いものを食べないほうが賢明である。

10 胃がシクシク痛む時は?

 胸やけや消化不良は次のような場合におこりやすい。
①食べすぎ(量のオーバー)
②油っこい食事の食べすぎ。とくに油が変質して悪くなっている場合はテキメンである。
③アルコールの飲みすぎ
④糖分や塩分のとりすぎ
⑤添加物の多い食事をとった時
⑥心配や不安の気持で食べた時、また仕事が忙しすぎて、ストレスが多い場合や、休む余裕の無い場合にもおこりやすい
⑦食べてすぐ運動した後
⑧胃病があるとき

 ――以上のうち、問題があるのは、⑧胃病である。胃病にも種類が多く単純な胃炎から、重病の胃ガンまで程度はさまざまである。
 消化器系統が弱い人は、ちょっと風邪をひいただけで、腹痛や下痢など、胃腸のトラブルをおこしやすい。これはカゼの原因であるウイルスやばい菌が、胃の強い酸度に打ちかって胃の中で繁殖し、その結果、熱を出したり、胃痛をおこすことが知られている。
 そのほか問題になるのは、医薬品や合成添加物をとりすぎた場合のトラブルである。熱さましに使われるアスピリンや精神安定剤、抗生物質などは、胃壁に悪い影響を与え、ときには潰瘍をおこすことがある。またステロイドは肝臓に悪いだけでなく、胃にも悪く胃炎からさらに急性潰瘍をおこして、ときには死ぬ例さえあるという。くれぐれも乱用はつつしみたい。
「舌がザラザラして白っぽい」「食事の味がわからなくなる」「何を食べてもおいしくない」という場合は要注意である。
 急性胃炎とは、胃の表面の粘膜の炎症で、食べすぎ・飲みすぎ・風邪や熱のあとおこりやすい。症状は軽い胃痛にはじまり、吐き気や胃の重苦しい感じ、胃もたれ感がおこる。ついで胃液の分泌が高まって、すっぱいゲップがたり、胸やけが起こったりする。
 痛みがひどい時は医師にかかって、適当な処置(投薬)をあおがなくてはならない。けれどたいていは丸一日間絶食し、翌日暖かい牛乳やおかゆから開始して、徐々に食事内容を高めてゆくと治ることが多い。

11 精神的な影響が大きい

 胃が不調になるかどうかは、神経的な要素が多大である。「この食事を食べてもだいじょうぶだろうか?」と疑心暗鬼になって食べると、案の定、胃もたれや腹痛・下痢をおこすことが少なくない。同じ食事をとっても食中毒にあたる人と当らない人が出てくるがその人の感度によるところが大きいわけだ。(もちろん体調の良否も関係いる)
 逆に、おいしいと感じながら食べると、唾液や胃液の分泌がスムーズにゆき、食べた栄養物がよく消化・吸収されて、血や肉に変化する。同じ食べるなら気分よく食べることが第一に大切である。
 第二はよくかんで食べること。「体重が増えにくい」「やせの大食い」という人を調べてみると、歯が悪くてあまりかまずに食べたり、忙しい性格で食事も短時間にすませる人が多い。かむことは機械的な消化を促進するので、栄養の吸収に好結果を与えることはいうまでもない。
 第三は、糖分の多い菓子・コーラ・ジュースは最少限に制限することだ。運動で疲れたとき、甘い味が要求されるが、空腹でたまらないときに、甘い菓子を食べると、胃壁に糖分がゆきわたり、消化液の分泌や胃の運動が不活発になると言われている。つまり満腹感がおこり、本当に必要な栄養素が体に不足することにつながる。甘さにまどわされてはならない。
 第四はコーヒー、コーラ、日本茶、に紅茶などを飲みすぎないことだ。
 私の知っているある研究者は、1年近くコーヒー製品の開発にあたっており、毎日3~4杯のコーヒーを飲み続けていたが、とうとう胃をこわして、長期入院を余儀なくされてしまった。
 別の日本茶販売業の某氏も、商売上お茶を飲むことが多く、70㌔もの体重が50kgにまで低下し、「原因不明の病気てで生命も危ない」と言われてしまった。ところが、お茶をやめただけで、胃腸の調子がたいへん良くなり、体調が元に戻ってきている。
 これに関連して、タバコや強いアルコールの飲みすぎも禁物「太りたくない」とタバコをすうビルダ一がいるが、医学界では「タバコに含まれるタールが胃を刺激して、慢性の胃病の原因になる」と言われており、胃炎や胃潰瘍の患者にはタバコを禁止している。「自分は胃が弱い」と自覚しながらなおもタバコを吸っている人は救いようがない。
 最後に「胃がいつも満腹しており、食欲があまり湧かない」という人にアドバイスしよう。このタイプの人は、まず食事内容を点検し、糖分が多すぎないか、油っこい食事をとりすぎていないか確めていただきたい。
 食事量は多くないのに、腹が減らないのは「運動不足」によるところも大きい。体をよく使う運動、とくに息がハーハーはずみ、汗が出るくらいの練習を日課としておこなっているだろうか? トレーニング量が足りないのに食事内容が高度すぎても、胃腸に負担となる。練習量が多ければ食事も多くとり、逆に少ないときや休んだ日は、食事量も当然ながら減らして食べるのがよいわけだ。
月刊ボディビルディング1981年3月号

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