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食事と栄養の最新トピックス⑩
胃腸を強くする食事法〈3〉

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月刊ボディビルディング1981年4月号
掲載日:2020.05.14
健康体力研究所 野沢秀雄

12.十二指腸について

 前号まで胃の構造やメカニズムについて述べ、胃を強くする方法を紹介してきた。今日は先へ進んで、十二指腸について研究することにしよう。
く胃と十二指腸の図>

く胃と十二指腸の図>

 図のように胃の出口からすぐ先が十二指腸と呼ばれる部分である。長さは15~20cmで、ちょうど指を12本横に並べたくらいの大きさなので、こう呼ばれているわけだ。ローマ字のCの字型をしており、中央部に胆汁とすい臓からのすい液が流れこむようになっている。
 胃でかなりの程度まで消化されてドロドロになった食物が十二指腸でさらに強力な消化液と混合されて、ほぼ完全に分解されてゆく。
 十二指腸を通過すれば、あとは小腸のみ。小腸において栄養素が血液中に吸収されて体内へと運ばれてゆく。十二指腸は胃と小腸の中間にあるキーステーションといえる。そして十二指腸が悪ければ、さまざまなトラブルをおこすので、十二指腸について知識を得ることも大切なことである。

13. 酸とアルカリを中和する

 胃液には強い塩酸が含まれており、PH(ペーハー)1~2という酸性を示している。こんな強い酸に逢うと、紙や木、手指などがおかされて、火傷状態になるくらいだ。「よくこんな強い酸で胃壁が破壊されないな」と思うちがいない。実際に「胃かいよう」というのは塩酸などのために自己消化を受けて胃壁に穴があく状態をいう。
 ふつうの場合は、同時に分泌されるムチンのような粘液が胃壁をカバーしくれるので、穴があくということはないのだが、精神的なトラブルのときなどは胃に変化がおこり、穴があいてしまう。
「胃の中の栄養物も塩酸と混ざればすぐに酸性になって、酢っぱい状態で胃から腸へゆくのでは?」と疑問に思う読者がいるにちがいない。
 その通りである。胃の内容物は食物の緩衝作用(バファーアクション)により、ある程度は中和されるが、本質的には相当に強い酸性を示しており、胃の出口の幽門から十二指腸へと送られてゆく。
 実は十二指腸で分泌されるすい液はアルカリ性が強いのである。すい液と混合してはじめて、酸とアルカリが中和されて、ちょうどバランスが良くなり、人間の体液のPHである7ぐらいになるわけである。
 さて、すい液に含まれる消化酵素は次の通りである。
記事画像2
 この表のように、十二指腸では消化作業のほぼ70%くらいまで完了することがわかる。麦芽糖のような二糖類がぶどう糖や果糖などの単糖類になったり、ペプタイドからアミノ酸にまで変化するのは小腸に入ってからである。
 なお胆汁の役割は、胆汁酸といわれるように酸性であり、脂肪を細かい粒状に分散して、油と水を混合しやすい乳液状にすることである。この乳化作用があってはじめて、リパーゼが作用し、脂肪が分解されるわけである。
 最新の研究では、脂肪やたんぱく質は必ずしも最小の単位(脂肪酸やアミノ酸)になってから吸収されるのではなく、脂肪なら乳化された状態で、アミノ酸ならペプタイドの型でも腸から吸収されることが判明している。つまり相当に粗大な分子状態でも体に吸収されるわけである。

14. 十二指腸かいようとは?

 胃と同じように、十二指腸の部分にもトラブルがおこりやすい。C字型に曲っていて、不消化物が刺激を与えたとり、炎症をおこしたりする。また強い胃酸の影響を受けて、十二指腸の壁に穴があくこともある。これが十二指腸かいようと呼ばれる病気で、20代前半の若い青年たちに多く現われる症状である。
「キリキリと胃の奥が痛い」「空腹時や夜寝ているときに痛む」という場合、十二指腸かいようの可能性が強い。私が知っているビルダーは徹夜の仕事につき、しかも職場で上役とうまくゆかず、悩みに悩んで「会社をやめよう」とさえ思っていた。そんな時家庭で妹が結婚する話がおこり、彼は連日はげしいストレスに陥ってしまい、ある夜仕事中に胃痛に襲われて倒れ、救急病院に運ばれた。診断の結果、十二指腸かいようになっていることがわかり、手当を受けたが、手おくれであり、なおるまでに相当年月を要してしにまった。
 ふつう、十二指腸かいようの場合、疲れやすく、食欲がない、胸やけがする。貧血状態になる、便が黒い(出血してまざるため)、などの症状が現わてれる。出血したり、吐血したりすることもあるが、これは症状がかなり進行してからのことである。
 なお「胃かいようや十二指腸が悪化すれば、胃ガンに結びつく」とよく言われるが、最新の学説では必ずしも関連するものではないことが判明している。あまり神経質になりすぎる必要ない。
 また以前は、かいようを手術して除く方法がおこなわれていたが、現在は手術よりも、切らないで治す方法がとられる。
 いずれにしても不規則な生活や暴飲暴食・タバコの吸いすぎ、精神的な強度のストレスなどは、胃や十二指腸にとって負担をかけるもとである。

15. 胃腸に関するQ and A

 胃腸に関する質問のうち、その月の記事に関係が深いものをとりあげて、本誌上にてお答えしてゆく。読者の方で「ここが疑問」「ここが知りたい」「自分はこういう状態なので心配だ」といった質問があれば、本誌編集部または直接健康体力研究所へ手紙やハガキを寄せてください。
Q 胃腸には玄米が良いと言われて実行していますが、それほど変化がありません。なぜでしょうか?
A 玄米が適しているのは、現在および過去に、肉食をとりすぎて体が酸性化していたり、肥満ぎみの人や成人病の徴候がある人たちです。このような場合、玄米食に切りかえて、食事量を減らして生活すると、体調はたしかに良くなります。便秘などもなくなり快調にすごせるでしょう。
 その一方、若い人で体重が少なく便も軟らかいタイプの人が、玄米食にこだわりすぎるのは好ましくありません。
 スポーツやトレーニングを懸命におこない、新陳代謝が活発なときは、それなりに高栄養の食事を心がけるほうがよいのです。
 玄米はせんいが多く、白米に比べると消化吸収がやや悪いのです。この点がプラスでもあり、マイナスにもなるところで、食べる側の状況とも深く関係するわけです。
 一般論でいえば、現代人の食事が、消化しやすいインスタント食品主体で(ラーメン、白米、パン等)、不消化性の食品が少ないので、この点玄米や海藻・野菜がすすめられるわけです。
Q トレーニングと同時に食事法に気を付けて、高栄養の内容にしないと体の発達具合がちがってくることは良くわかります。ところがいくら多く食べようと思っても、とうてい一流ビルダーのように多く食べられません。こんな人も多いと思いますが、どうしたら良いのでしょうか?
A トレーニング法に初級者・中級者・上級者とランクがあるように、食事のとり方にも段階的な進歩があると考えられます。バーベルを握っていきなり100kgや120があがらないのと同じで、いきなり一流選手と同じ食事をとろうとしても無理があります。
 本来ふつうの生活をしていると、胃腸はそれほど多くの食物を要求しません。むしろ小食ぎみにした方が健康にいいというのが事実です。
 ところがトレーニングをおこない。体を大きくしてゆこうとする場合は、必ず栄養のほうも伴って多く要求されます。これは青少年の発育と栄養所要量の関係に明確に現われております。
 バーベルの重さを2.5~5kgずつ漸増させて
ゆくのと同様に、食事内容を徐々に高度化してゆけばいいのです。
 プロティンでいえば最初はスプーン1~2杯からスタートし、次第にふやしてゆきます。アメリカのトップビルダーになると、もうほとんどこれら栄養剤で生活しているような人も多く見うけられます。この場合、食事が偏ったりする心配もあるわけで、ケースバイケースで、自分の状況に応じた食品を適宜とってゆくのが良い方法といえます。
月刊ボディビルディング1981年4月号

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