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正しい栄養シリーズ
牛乳とその加工品の栄養価 乳製品

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月刊ボディビルディング1978年10月号
掲載日:2018.08.27
国立競技場トレーニングセンター 木村利美
 牛乳は,人間の歴史上,かなり古い時代から飲用されている栄養食品の1つである。インドでは6千年も前に飲んでいたという記録があり,お釈迦さまも口にしたことがあるといわれている。

 日本では,孝徳天皇の時代(7世紀中期)に,宮中で滋養強精のために,薬のような用い方で飲まれたことがあるが,その後,仏教の影響などもあって中断された。一般には明治時代に入ってから徐々に普及しはじめ,昭和に入ってからようやく本格的に飲用され出した。

 このため,日本人の食生活の上での牛乳の歴史は浅く,欧米人と比べて,消化吸収の点で,体質的に適応度が低いといわれている。しかし,現在では牛乳のほか様々な加工品もつくられ,栄養豊富なアルカリ性食品として,重要な価値をもっている。

★牛乳の栄養価と消化吸収★

 牛乳は,水分88%,蛋白質3%,脂質3%以上,乳糖(炭水化物)4.5%,灰分0.7%の成分よりなる。

 主な栄養素としては,蛋白質,カルシウム,ビタミンB₂,Aがあげられ,消化率がきわめてよい。カロリーは,100g当り約60カロリーで,牛乳1本で120カロリーくらいである。普通の牛乳は市乳と呼ばれ,成分を増量したり,ビタミンを強化したものは濃厚牛乳・加工乳として売られている。

 牛乳には,カゼインという乳類独特の蛋白質がたくさん含まれている。カゼインの他に,アルブミン,グロブリンも含まれるが,これらは少量で,牛乳蛋白の約85%をカゼインが占めている。このため,牛乳の性質はカゼインの化学作用によるところが大きい。

 たとえば,牛乳が白く見えるのはカゼインがカルシウムと結合して分散しているためであり,酸を加えると凝固するのもカゼインが沈殿するためである。ヨーグルトはこの性質を利用してつくられている。

 カゼインはまた,他の蛋白質とちがい,加熱しても凝固することがなく,しかも消化率が多少よくなるので,冷たい牛乳を飲むと下痢をしたりする人は,腸に与える刺激を少なくする意味でも,温めて,ゆっくり飲むようにすれば,消化吸収がぐっとよくなる。ただし,沸騰するとすぐふきこぼれ,最後の1滴までナベの外に出てしまうので,温めるときは,フタをせず,つきっきりでいなければならない。

 牛乳の消化を良くするもう1つの方法として,他の食べ物,たとえばパンなどと一緒に飲むと消化が早いことが実験で認められている。

 なお,牛乳に含まれる蛋白質は,全体として必須アミノ酸8種をバランスよく含んでいて,卵とともに,栄養的に完全な蛋白質といえる。

 牛乳に含まれる脂肪は約3%であるが,人間の体温より低い温度でとける低級脂肪酸が多く,乳化されているため,消化吸収が非常によく,そのうえ吸収されたものは体内で利用されやすい。また,脂溶性ビタミンA,D,E等も含んでいる。

 牛乳の脂肪球は微細であり,市販乳の場合は,さらにホモゲナイザーで脂肪球を小さく均一化して均一乳(ホモ牛乳)としているので,さらに消化がよくなっている。

 牛乳に含まれる脂肪は,季節や飼料によって多少異なる。新鮮な青草を食べる夏のバターは,やわらかく,ビタミンに富み,色も濃い。これに対し冬できるものは,比較的かたく,色もうすい。

 牛乳中の糖質は,乳糖として約4.5%含まれている。乳糖は,カゼインとともに乳中にだけあるもので,ブドウ糖とガラクトースに分解される。このガラクトースは,脳,神経,各内臓の成分となるもので,幼児の成長発育に不可欠のものである。また,乳糖は,腸内で乳酸菌の繁殖を助けて整腸作用があるとともに,カルシウム,リン,各種ビタミンの吸収をよくする働きがある。

 牛乳を飲むと下痢する人は,食事習慣による体質からこの乳糖の分解酵素ラクターゼが欠乏している場合が多い。このような人は,毎日少しずつ牛乳を飲んで,だんだん慣らしていけばたいていなおるが,蛋白質,カルシウム等は他の食品からも充分に補給できるのだから,無理して牛乳を飲まなければならないということはない。

 この他,牛乳の大切な栄養素としてカルシウムがあげられるが,小魚などに含まれているカルシウムに比べて,消化吸収率がかなりよく,量も負けないくらいあって,骨の形成に最もよい形で含まれている。

 ビタミンは,A,B,C,D等を含んでいるが,とくに,B2,Aが多い。一方,鉄分は不足しているので,牛乳だけで幼児を育てると貧血をまねくという欠点がある。

★乳製品のいろいろ★

<練乳>
牛乳を1/3~1/4に煮つめて濃縮したもので,加糖練乳(コンデンス・ミルク)と無糖練乳(エバ・ミルク,またはクリーム)がある。

 加糖練乳は40%以上の砂糖を含むので甘味が強く,高カロリー(100g当り325カロリー)である。イチゴやかき氷などにかけて使うが,防腐力が強く,開缶後1週間くらいはもつ。コーヒーや紅茶によく使われるクリームは無糖なので,変質が速数日しかもたない。


<粉乳>
 牛乳をそのまま粉末乾燥したもので,保存がきくので便利である。変質を防ぐために脱脂したものが多いが,脂肪以外の成分は牛乳とほとんどかわらない。

 一般家庭では,水にとけやすいインスタント・スキム・ミルクがよく使われるが,工業的には,乳製品のほとんどが,この粉乳を使ってつくられる。


<バター>
 消化速度は食用油脂中最も速く,消化率も97%と最高によい。乳脂肪80%以上と少しの水分からなり,高カロリーで,ビタミンAを多く含んでいる。少量の食塩を加え,人工着色したものが売られている。

 直射日光に当てたり,高温で放置すると,脂肪が酸化して臭くなり,ビタミンAが急減,水分が分離する等,はなはだしく品質が低下するので,密封して冷蔵庫で10℃以下に保存することが大切である。

 乳脂肪の性質として,必須脂肪酸が少ないことと,血中コレステリンを増すという欠点から,最近では植物油脂で作られたマーガリンが広く愛用されているが,脂肪の質がちがうだけで,他の栄養価,風味などはほとんど同じである。若い人が普通に用いる場合は,さほど心配するほどのものではない。


<チーズ>
 牛乳に乳酸菌,レンネット等を加えて凝固,発酵させたもので,独特の風味をもっている。牛乳中のほとんどの蛋白質,脂肪,ミネラル,ビタミンを濃縮したかたちで含んでいる濃厚な栄養食品である。蛋白質は良質で,酵素によって消化しやすくなっている。作り方によって,硬いもの,やわらかいもの,あるいは,ブルーチーズのように特殊な風味をもたせたもの等,種類が多いが,わが国では硬いチーズを調合して作るプロセスチーズが多い。

 チーズは乳固型分40%以上と定められており,100g当り360カロリー,1切れ70~90カロリーと高カロリーなので,体重が気になる人には要注意。


<ヨーグルト>
 脱脂乳,粉乳,甘味料に,ゼラチン,でんぷん等の硬化剤を原料とし,それを乳酸菌によって醗酵,凝固させたもので,消化器内の腐敗・醗酵を防ぎ,整腸作用があるといわれる。

 牛乳より脂肪が少なく,蛋白質は多い。カロリーは100g当り91カロリーで,牛乳よりやや高い。最近は甘味の少ないプレーン・ヨーグルトが出まわっているが,砂糖やフルーツの味を加えたものは,かなり高カロリーとなるが,乳酸菌の作用はいくらか低い。

 家庭でヨーグルトが簡単に作れる。ホーム・ヨーグルターが市販されているが,これを使って自分で作れば添加物のない新鮮なものが食べられる。ヨーグルターはデパート等の自然食品の売場で扱っているところが多い。


<アイスクリーム>
 生クリーム,牛乳,粉乳を主体として,砂糖,でんぷん,卵,香料などを加えて作られる。これらを凍結して,よくかきまわし,空気を混入して,なめらかな口あたりにする。市販されているものには,ニカワ,寒天などの安定剤の他に,さまざまな添加物が混入されているので,良質のものを選んで食べることが望ましい。

 現在,アイスクリームと呼ばれるのは,乳脂肪8%以上,乳固形分15%以上のもので,乳脂肪3%以上,乳固形分10%以上のものをアイス・ミルク,乳固形分3%以上のものをラクト・アイスとして食品衛生法区別されている。

 乳脂肪の高いものほどおいしく,添加物も少なく,カロリーも高くなる。冷たいが高カロリーで,100g当り約160カロリー,小さいカップ1個分で100カロリー以上ある。

 アイスクリームに似たものに,シャーベットがあるが,これは水と砂糖と果汁,香料などを混ぜて凍らせたもので,乳成分,脂肪分はほんのわずかで,100g当り約100カロリーとカロリーも少ない。

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 この他,牛乳は,菓子,ケーキ類,料理の焼き物,煮物,いため物などに広範囲に使われている。料理に使うとなめらかな感触と,コクのある味が楽しめ,ホワイトソース,クリームスープ,シチュー,グラタン,コロッケ等と,西洋料理ではとくに重要な役割りをもっている。

 また,生臭みを吸着するという性質があるので,臭みの強い魚,肉,レバー等の内臓を牛乳にひたしておいてから調理すると,臭みが気にならなくなり,とても食べやすくなる。

 数多い乳製品の中から,自分の体質嗜好に合わせて,食生活にとり入れていくとよい。
月刊ボディビルディング1978年10月号

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