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★内外一流選手の食事作戦③★
シュワルツェネガーの食事法

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月刊ボディビルディング1979年4月号
掲載日:2018.10.22
健康体力研究所・野沢秀雄

1.MR.オリンピアを6回も!

なんと20歳の若さで1967年度NABBAミスター・ユニバース・コンテストのアマの部で総合優勝して世界をアッと驚かせたアーノルド・シュワルツェネガー。「オーストリアの樫の木」と呼ばれる巨大な体格は、その後10年以上になるが、ますます磨きがかかり、迫力を増している。

最高峰のミスター・オリンピアのタイトルをとること6回。並いる強豪が歯ぎしりしてくやしがり、オリバーはとうとうIFBBから脱退してしまったくらいだから、影響力は大きい。

「ニューヨークのヘラクレス」「パンピングアイアン」など数本の映画に主演級で出演したり、TVショウに招かれたり、あるいは世界各国のコンテストにゲスト・ポーザーを依頼され、またあるときは研究会(セミナー)の講師に呼ばれたり、ベストセラーの本を出版したりで、はなやかな人生を歩いている。

彼のトレーニング法や食事法をぬきにして今日のボディビルは語れないといっても決して過言ではあるまい。

2.アメリカでまず知ったこと

シュワルツェネガーが20歳でチャンピオンになった直後に撮影した記念すべき8ミリフィルムが手元にある。

ムキムキマンよろしく大胸筋をピクピクとコントロールさせたり、ゴムまりのような大きな上腕二頭筋をクローズアップで写した迫力あるフィルムである。「さすが大選手になる素質はある」と、見た人は感銘を受けるが、アメリカの水準からみれば「でっかいだけで荒けずり。未完成の大器」と評価されたにすぎない。

「なにくそ負けるものか」と発奮してアメリカ西海岸にわたり、ボディビル修業をすることを決意。故郷オーストリアを後にした。

アメリカでまず教わったことは「食事法」だ。ジョー・ワイダー氏との会話は次のようなものだったという。

「キミはたいへん良い体だが、食事内容を話してくれないか?」

「ええと、牛肉・マトン・卵・魚・牛乳――要するにたんぱく質の多いものをたっぷり食べることにしています」

「うむ。君の体重が120gとすると体重あたり2gとして、240gのたんぱく質が必要だね。この条件を満たしているかどうか計算してみよう」

ワイダー氏はサラサラと紙に計算。

「君はまだ足りないね。やっと180 gくらいにすぎないよ。もっともっとたんぱく質を食べないと筋肉はすごくはならないよ」

「うえー。これ以上ムリですよ。今でも牛肉や卵を胃袋いっぱいまで食べてるんです。腹がふくれてどうにもなりません」

「なになに心配はいらんよ。これを毎日補助的に使用しなさい」

――といってワイダー氏がすすめたのがプロティン・パウダーやプロティン・タブレットだ。以前から発売はされていたが、ボディビルダーの一部にしか知られず消費量もわずかなため、アーノルドが手にしたのはこのときが初めてであった。

「これなら少量で高たんぱく質がとれる。たんぱく質が80~90%も入っているんだから・・・・・・」と説明され、彼はプロティンの大ファンになった。

彼がさかんにプロティンを愛用して以来、アメリカにおける市場が飛躍的にふえて、現在では300億円をこす売上げになっているという。

渡米してまずシュワルツェネガーが知ったのが「プロティン」というのがおもしろい。

3.食事法に対する基本方針

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ワイダー氏のもとで、もっとも先端をゆく激しい練習を行ない、食事法を改善した結果、予想していたようにアーノルドの筋肉はますますサイズをふやし、余分な脂肪は極限までカットされて、「とても信じられん」と周囲の人が驚嘆するまでに完成されてきた。

最盛期の体のサイズは下記のとおりである。一流選手の身体測定値は外国雑誌をみてもあまり発表されていないが、これは彼の自伝「ボディビルダー養成」に彼自身が述べている数字だ。
身長187cm・体重106kg・胸囲145cm・上腕囲55.9cm・腹囲86cm・大腿囲72.4cm・下腿囲50.8cm
――胸囲145cm、上腕囲55.9cmとはまったくすごい。2人分近い数字だ。大きさだけでなく、デフィニションにすぐれ、筋肉のボリュウムだけでこのサイズがあるのだから、前人未踏の記録といってもいいだろう。

この身体をつくり、維持するための食事法はどんな内容だろうか?具体的で詳細な部分まで検討してみよう。

まず食事に対する彼の基本的な考えを明らかにしよう。彼の説明はきわめて科学的で誰でも納得できるものである。

①ボディビルディングを行なう者にとって、運動だけでは充分でない。筋肉発達の原料になる栄養素についてよく理解し、毎日しっかりと食べないと成功しない。

②トレーニング・プログラムに初級者・中級者・上級者と段階があるように食事法にも、現在の自分の状況に応じて、それぞれの「段階」がある。

③まずボディビルを始める人は、精製された食品、すなわち白砂糖や漂白小麦粉、ケーキ・パイ・フライドポテト・キャンデー・スナック菓子を避けることである。

④減量したい人は砂糖や甘い物は口にしないこと。

⑤体重をふやしたい人は高たんぱく・高カロリーの食事法にする。一度に胃腸が消化吸収できるたんぱく質の量は30~50gである。したがって1日3食で、一度に大量をまとめて食べるよりも、少量ずつに分けて一日6食にして生活するのがよい。そのほうがたんぱく質はよく利用される。

⑥たんぱく質はビルダーにとって最重要の栄養素である。たんぱく質は筋肉組織の発達・維持・修復の役割を果す。

⑦炭水化物(糖質やでんぷん質)は血液中のぶどう糖量を増加させ、筋肉運動するときのエネルギーとなる。したがって、一定量は必ず必要である。たんぱく質が有効に利用されるための役割も果す。

⑧脂肪も重要である。エネルギーであると同時に、ビタミンA・D・Eをとかして各部分に運ぶベースの役割をする。

⑨ビタミンAは視力や肌のツヤ、鼻やのどの粘膜強化に役立つ。ビタミンB系統は神経作用や体内の消化吸収などの役割をする。

ビタミンCは病気に対する抵抗力を高め、結合組織をつくり、骨・血管などの組織を強める作用をする。

ビタミンDは骨や歯をじょうぶにし、ビタミンEは心肺機能を高め持久力(スタミナ)を強化し、また組織の回復力にもよい効果をもたらす。

⑩カルシウム・マグネシウム・リン・鉄・ヨード・カリウム・ナトリウム・銅・亜鉛・マンガンなどの微量なミネラルも不足しないようにバランスよい食生活をするのが好ましい。

4.彼がすすめる食事法

以上のようにシュワルツェネガーは自分自身、栄養についてよく理解しており、同時に若い人たちに「しっかり食事法を把握しなさい」とアドバイスしている。(「ボディビルダー養成」および「3 MORE REPS」より)

彼は「体重をがっちり早くふやしたい」という人に別表のようなモデル・メニューを示している。1日総カロリー5000、たんぱく質300gがとれるように計算してある。
◇シュワルツェネガーのすすめるモデル・メニュー◇

◇シュワルツェネガーのすすめるモデル・メニュー◇

彼の解説によると、たんぱく質必要量はふつうの人なら体重1ポンド当り0.5g、ボディビルダーなら1g、筋量増加のプログラムを組んでトレーニングする人は最低限1.5gとるのがよいという。体重1kg当りになおすと約3.3gになる。

日本人の体格からすると「1日300gのたんぱく質」は過剰なので、少し減らしてよいだろう。

なおシュワルツェネガーは補足的に次のような点をアドバイスしている。

①昼食を重視しなさい。昼食に牛肉・ハム・ツナ・レバー・とり肉・卵・チーズ・プロティン製品などをしっかり食べておくと、トレーニングするときに役立つ。(昼食にラーメンやソバでは失格)

②なるべく100%全粒粉(胚芽つきの小麦粉)やライ麦を用いた製品がよい。(日本でいえば玄米食や麦入りごはんに相当する)

③食事と食事の間隔は2時間半~3時間おくのが適切である。もしこの間に空腹でたまらないなら、ナッツ類やタブレットになった製品を少量食べるとよい。

④トレーニングを懸命におこなった日は「プロティン・ドリンク」を多く飲むようにするのがよい。

⑤マヨネーズや植物油・ドレッシングなど脂肪の多い食品をなるべく食べよう。カロリーアップによい。

⑥スケジュールをきっちり立てて、決めた食事法を守りなさい。習慣化された食事をきちんと食べる場合に、体は大きく発達します。食事を抜かしたり、一度に2食分たべることは決してよくない。

5.彼自身の得意料理は“マッスル・バーガー”

では自分自身、どんな食事をとってあの巨大な筋肉質の体を維持しているのだろうか?

原則としては別表の「1日6回の食事で5000カロリー・たんぱく質300g」のモデルメニューに基づいているが、変化を与えるために、自分で結構手づくりの自慢料理を食べている。

まず紹介しているのは“マッスル・バーガー”と名付けたジャンボ食だ。

<材料>(一人前)
①1ポンド(453g)の牛肉・ひき肉
②生たまご 3個
③全粒粉のクラッカー 8枚
④細かく刻んだタマネギ

<料理法>
①大きなボウルに、ひき肉と卵を入れて、フォークでよくまぜる。
②クラッカーを細かく砕き、きざんだタマネギとよくまぜる。
③両方を合わせて、ネバリが出てくるまでよく混合する。
④フライパンでハンバーグを作るときの要領で焼きあげる。焦げすぎないように注意すること。

――なんとこれだけで日本人が食べるハンバーグ10個分に相当する。カロリー約1400・たんぱく質約120gというすごい数字になる・・・・・・。

マッスル・バーガーのほかに、カテージチーズを用いた軽食や生野菜サラダをよく作って食べている。

トレーニング中におこる「のどのかわき」に備えて、あたたかい湯にレモン1~2個をしぼり、はちみつを加えた飲料をつくっておく。トレーニングの間に少しずつ飲んではまた元気をとり戻して、モーレツ練習をおこなっている。

食欲のないときは赤ワインに卵黄をまぜて、食事の30分前に飲む。そうすれば食欲が湧いてくると、彼は述べている。

最後に「栄養のキーポイント」と彼自身が信じているレバーについて述べよう。

読者のみなさんもよくご存知のように、レバーは「たんぱく質・ビタミン・鉄」などの栄養素を総合的に含んでおり、食品成分表の中でも抜群の栄養価を誇っている。

彼はこう語っている。
――古い栄養学者はレバーの既知の栄養成分のみをとりあげているにすぎない。だがレバーにはまだ未解明の成分がいくつもあり、そのために筋肉増強に奇跡的ともいえる効果を与えている。筋肉が激しく収縮するときに、血液成分そのものを作るのがレバーだ。強精ホルモン作用をする物質も発見されている」と。

シュワルツェネガーは毎日18~30粒のレバー・タブレットを常食しており、コンテストが近づくと毎日100粒まで増すという。

「アメリカのレバー剤は型が大きくて、決してうまいとはいえないが、効果があるとわかれば、きちんと忠実に食べる態度に感心させられる。

――以上がシュワルツェネガーの食事法の概略だ。そして彼は、これをきちんと守りきょうもはげしいトレーニングに励んでいる。
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月刊ボディビルディング1979年4月号

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