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食事と栄養の最新トピックス⑭
栄養の吸収と個人差について(上)
――第9回健康体力研究会講演より――

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月刊ボディビルディング1981年8月号
掲載日:2020.06.12
健康体力研究所 野沢秀雄
 去る6月28日,東京千駄ヶ谷の日本青年館国際会議室にて開催された健康体力研究会の中から,栄養と食事法に関する講演を再録して紹介しよう。講演で話ができなかったことも補足して上下2回に分けて述べてゆく。

1.本日の講演の目的

 健康体力研究所は仕事の約80%が指導面(食事分析など)になっていますが,私たちが指導・研究して感じることは,「なぜ,ある人は目を見張るような成果をあげて,どんどん進歩するのに,片や同じようにトレーニングしたり,食事法を変えて努力しているのに,あまり効果があがらない人がいるか?」ということです。

 私たちの使命の1つは,効果をあげている人(あるいは成功した一流選手の人たち)には,なぜ,どこが良かったか,を解明し,そのポイントを把握し,逆に成果の上っていない人には,現在のトレーニング法や食事法を聞き出して,なぜ,どこに問題があるのか,悪いところや欠点を見つけて対策を立て,どうすれば良いかをアドバイスしてあげることです。

 これまで私たちは,ともすれば「平均」ないしは「平均的な数字」を重視しすぎています。たとえば初心者の人に「3ヵ月トレーニングすれば体重3.5キロ,胸囲5cm伸びます」と説明することが多いと思います。けれども現実には幅が大きいわけで,これ以上の成果をあげる人もいれば,逆にトレーニングしても体重がふえずに減る人だって中にはいるわけです。

 今回,研究会のテーマとしてとりあげたのは,この個人差について,栄養の吸収面から考えようという目的のためです。

2.典型的な2~3の例

 先日ある人から次のようなお礼の言葉をいわれて,私自身とまどったことがあります。この人は中年で少し太りすぎの人でした。「お宅で発売しているジャームオイルを使用して1週間にもならないんだが,高かった血圧がひじょうに安定して,かかりつけの医者が『高血圧の薬はもういらないから』と省いてくれました。それから1ヵ月たつと,『心臓のほうもよくなっているから心臓薬もカットしよう』といってくれたのです。

 私はジャームオイルを飲んでいることを医者には言ってないので,検査で出てきた結果を正直に判断して医者がそう言ってくれたのだと思います。それまで私は5種類もの薬を毎日飲むように言われて,『こんなに飲むのはイヤだ』と常々思っていました。薬でなく,自然の食品や食事法の改善でこんなに良くなるのなら,これほどうれしいことはありません」という内容である。

 ところがこんなお礼の人ばかりならいいが,中には「ジャームオイルを飲んでいるが,良いのか悪いのか,まだサッパリ分らない」という人たちも結構いるわけで,同じ食品をとっていても,受入れる人の体の状況によって効果の現れ方が相当にちがうことが予測されます。

 次はアルコール適性の例です。新聞にのった記事なので知っている人が多いと思いますが,酒やビールを飲んですぐ顔がまっ赤になる人と,いくら飲んでもあまり顔色に出ず平気な人がいます。みなさん方いかがでしょうか?恐縮ですが挙手をしていただきましょうか? 「まず顔が赤くなりやすい人は?」(会場のうち約80名の人が手をあげる)「顔に出ず平気だ? という人は手をあげてください」(約50名の人が挙手)――どうもありがとうございます。半々か,ちょっと赤くなる人の比率が多いように思います。

 日本人の国民性として,顔が赤くなる人が圧倒的に多いといわれます。この原因を調べたところ,アルコールが分解してできるアルデヒド(これが悪酔の原因物質で,最終的には炭酸ガスと水になって体外に出される),これを分解するのに,2種類の酵素が必要なことがわかりました。ところがこの2種類の酵素のうち,日本人には片方または両方の酵素が欠落している人が多いことが判明したのです。

 その結果,血液中にアルデヒドが滞留して顔を赤くしたり,すぐに酔っぱらって人にからんだり,泥酔してトラになったりしやすいわけです。

 いっぽう,外国人は2種類の酵素を持っている人が多く,酒を飲んでもすぐに次々と処理してゆくので,顔がそれほど赤くならず,またいくら飲んでも平気なので,つい飲みすぎて「アルコール中毒」になりやすいわけです。アル中が日本には少なく,外国に多いのはこのような理由によります。

 本例も同じビールや酒を飲んでも,受入れる側(体)の状況により,まるでちがって効果が現われる好例です。

 もう一つ例をあげます。有名なマッスルフィットネスの編集長のビル・レイノルズさんが「今までに書いた記事の中で最も重要なものだ」と本年5月号同誌に書いているもので,それは次のような内容です。

 ある女性ビルダーが,編集長としばらく生活することになり,それまで食べていた牛肉,七面鳥肉,ハム,ソーセージ,アイスクリームなどをいっさいやめて,彼女の作る玄米食,卵,牛乳,チキン,アーモンドなど,「健康にいい」という食事内容に変えました。すると頭痛・神経痛・関節炎・不眠症・筋力低下など悪い症状がドッと出てきました。

 食事法に原因があるとは全く思わなかったのですが,アレルギーの専門医を紹介されて相談しました。そして150種の食品ごとに,血液のアレルギー性反応テストをおこなったところ,40種の食品に典型的な拒否反応をおこすことが判明したのです。

 この専門医の話によると,人間は誰でも食品の約20%に対してアレルギー反応を示し,これを除去することが大切だそうです。とくに,穀物(米・麦類)および乳製品に問題の多いことがわかっています。

 これらの原因食品を除くと,体はきわめて健全で,快調な日々をすごすこができます。そして次号(マッスルフィットネス6月号)ではマイク・メンツァーがこの成果を発表することになっています。つまり,ある人はよくても別の人にはよくない,ということがあるわけで,個人の体質,個人差が重要なことがおわかりいただけたと思います。

3.食物が消化・吸収される経路

 「食物が消化吸収される経路」が図に示してあります。

 これは,食物が口に入ってから糞便となって出るまでの経過を示しています。この中で特に注意してもらいたいのは,数字が幅をもって書かれていることです。

 たとえば唾液の量です。ツバが多く出る人と出ない人はどれだけの差があるかというと,ここには1L~2Lと書かれていますが,実はツバの少ない人や病人となると,0.5Lくらいしか出ない人もあります。そうかと思うとたっぷり2L以上も出る人がおり,実に4倍以上も差が出るわけです。

 なぜ唾液を問題にするかというと,消化吸収力とひじょうに関係が深いからです。ツバには食物を分解する酵素が含まれています。また体をじょうぶにするパロチンというホルモンも含まれています。一般に元気のいい人,体力のある人ほど唾液量も多いのです。

 たとえば,赤ん坊を思い浮べてください。しょっちゅうヨダレをたらしていますね。元気のいい子供もツバが多く,すぐにペロリと食事をたいらげます。

 体重当りの唾液量をグラフに描いてみると,年齢の若い人ほど多く,中高年になるにつれ,だんだん減ってきます。病人はツバが少なく,死ぬ前はほとんどツバが出ません。

 犬や猫,牛や馬だって同じです。元気な動物はタラタラ唾液を流します。

 プロ野球の選手たちや,さっきの映画「パンピングアイアン」に主演していたシュワルツェネガー,彼らはチューインガムをよくかんでいましたね。これが実はいいわけです。若い人でよくガムをかんでいる人を見かけますが本当に元気そうですね。逆に病人がベッドでクチャクチャとガムをかんでいる風景なんて,絵になりませんね。

 同じようなことが胃液や胆汁などについてもいえるわけです。

 テキストの第三項に「胃酸分泌細胞数」と書いていますが,胃壁には腺があり,井戸水がジワジワ湧き出るように,胃液と混合して胃酸が出てくるわけです。

 ところが胃酸を出す細胞数にも,年齢ごとに消長があって,若い人ほど旺盛でペーハーが強いのです。ところが中高年,老人となるにつれて,胃酸分泌細胞が活動しなくなり,ついには「無酸症」という状態になりがちです。「年よりがあっさりした消化のよい食物を好む」というのはこのためです。また「年よりが梅干しや酢の物を食べると体調がいい」といわれるのは,不足している酸をこれらで補ってやり,消化吸収を容易にしてやるからです。

 逆に,赤ちゃんや子供たちに梅干しを食べさせると「うえー,すっぱい!」と嫌がりますが,胃酸がすでに十分あり,体が酸っぱい食物を全く要求していないからです。

 同じ人でもあるときは胃酸の分泌が充分なのに,あるときは分泌が悪い,ということもおこります。当然のことながら,胃酸量の多少により,あとの消化・吸収力に影響するわけです。少ない人はいつまでも食べた栄養素が胃にたまって,思うように体に利用されないわけです。

 (次号では消化吸収率・精神の影響・同化力とホルモン・体質の関係、どうすれば栄養吸収量を高めることができるかについて述べます)
食物が消化・吸収される経路

食物が消化・吸収される経路

月刊ボディビルディング1981年8月号

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