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食事と栄養の最新トピックス⑦
肝臓とアルコールの関係

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月刊ボディビルディング1981年1月号
掲載日:2020.03.24
健康体力研究所 野沢秀雄

1.酷使されている肝臓

 心臓のようにドキドキしたり、胃のようにシクシク痛んだりしないので、われわれは肝蔵の存在を忘れがちである。ところが肝臓は内臓の中で最も重量が大きく(男性で約1.3kg)、役割はわかっているだけで150以上の化学作用をおこなっている。
 たとえば有害な物質が体内へ入ってきたとき、無害で安全な物質に分解する作用や、食事に含まれるタンパク質を人体に必要なそれぞれのタンパク質に合成したり、過剰にとった糖質を脂肪に変える作用など、もっぱら肝臓内でおこなわれている。
 おりから年末年始で、酒を飲む機会が増えるときである。飲んだアルコールを分解して、炭酸ガスと水に変え、酔をさまそうとするのも肝臓である。
 われわれは知らず知らずのうちに肝臓をいためつけていることが多い。今月は肝臓の話題について述べよう。

2.肝臓が悪くなると……

 「なんとなく全身がだるい」「まわりが黄色くみえる」「顔や手が黄色くなる」――こんな症状は肝臓悪化の第一歩と考えられる。
 私が知っているあるビルダーは、仕事が多忙すぎて土曜も日曜もなく働いたために(特に神経を使う仕事)「顔に黄だんが現われているよ」とまわりの人から指摘された。オーバーワークによる過労や強度のストレスは、肝臓の機能を大きく低下させるので、無理をさけ、思いきって休養をとるのがよい。
 ただし「柑皮症」といって、冬の季節に豊富に出回るミカンを1日に5個も6個も食べると、顔や手が黄色くなることが多いがこの場合は心配ない。
 肝臓病が進行すると、全身に黄だんが現われ、同時に体の右上腹部にある肝臓が固く腫れてくる。手でさすってわかるほど盛りあがっている人は要注である。
 また、「夏に焼いた肌にシミやソバカスができてとれにくい」「シミやソバカスが濃くなった」「イボやホクロがふえた」という人も肝臓機能の低下が考えられる。せっかくきれいに手入れしている肌もこれではまったく台無しだ。
 「肝硬変」「肝臓ガン」となると事態はさらに深刻である。肝硬変とは,肝臓を構成する細胞が脂肪で占拠され、本来の機能が果せなくなる状態をいうが、酒飲みに多いことで有名だ。(もちろん酒以外にも次項で述べるような原因で肝硬変にまでなる人がふえている。コレステロールの増加も一因である)
 肝硬変が進行して肝臓ガンになり、ついには死亡するケースも多い。重症になると「腹水」といって、下腹部に異常に水がたまり苦しくて床から起きられなくなる。

3.危険物質は身近にいっぱい

 この大切な肝臓をいためつける物は何であろうか?
 ストレスのような外的要因のほかに飲食物や薬品類・タバコや排気ガスなどが深い影響を与える。
 たとえばシンナーやトルエンなどの蒸気が体内に入ると、神経をマヒさせるだけでなく、肝臓細胞にたいへんな負担をかける。
 また「胃の調子が悪いから」「便秘だから」「風邪だから」と医薬品を習慣のように飲み続けている人がいる。医薬品の多くは合成化学物質であり、肝臓に入っても分解することができず、蓄積して慢性肝炎の原因になりやすい。医薬品は必要なときにのみ、最少限ずつ正しく飲む心構えを持っていただきたい。
 ボディビル界で話題になっているアナボリック・ステロイド剤も、種類によるが肝臓に大きな負担をかける薬剤である。かってミスター・アメリカに選ばれたトム・サンソンは、40才の若さで死亡したが、その原因はステロイド剤を使用し肝臓ガンになったと言われている。
 身近にある食品に含まれる合成添加物も危険である。色あざやかな紅しょうが・たくあん・福神漬や,漂白剤・保存料・香料を加えた食品はなるべく避けるほうがよい。これらは厚生省で許可されているものの、いつ危険なデータが公表されて使用禁止になるかわからない。過去に禁止された添加物は数多い。その時点までは知らずにどんどん食べていたものが、急にストップというのでは不安である。
 添加物を使用してもレーベル表示しない業者があり困ったものである。含まれている原材料は全部明確に書かれていないと、どんな危険があるかも知れず恐ろしい。
 なるべく添加物を使わない製品を愛用してゆこう。

4.アルコールの影響

 アルコールも人体にとって一種の有毒物質であり(大学のコンパで新人生が酒を飲みすぎて急性アルコール中毒をおこし死亡するケースが時々ある)無害化処理のため肝臓に大きなノルマがかかってくる。
 アルコールは胃壁や小腸から早いスピードで吸収され、血液にとけて肝臓まで運ばれてくる。(他の栄養素は胃からは吸収されず、小腸で吸収され、静脈にとけて同じく肝臓に運ばれる。肝臓でそれぞれの化学変化を受けて全身へ運ばれる)
 肝臓でアルコールはアセトアルデヒドに変り、さらにアセチルに変化、最終的には炭酸ガスと水に変る。このとき生じた炭酸ガスは肺から空気中へ、水は尿となって体外へ排出されるわけである。
 酔っぱらうと酒臭いのはアルコールの分解物のためであり、また頻繁に小用に立つのは生じた水分を排出するためである。肝臓のじょうぶな人ほど、小便によくゆく傾向がある。
 肝臓の処理能力以上に酒を飲むと、アセトアルデヒドが肝臓や血液中に残留して、ひどく悪酔したり、二日酔の原因になる。
 またアルデヒドが変化して生ずるアセチルはアセトン体となり、血液を酸性化する。血液が酸性になると、全身がだるく、疲労がますます進行して、ひどい場合には骨のカルシウムを溶かしてしまうことが知られている。酒におぼれやすい人はホドホドにしていただきたい。

5.肝臓を強くする食事法

 「肝臓を構成する細胞はわずか10日間でその半分が入れ替わる」といわれるくらい消耗が激しい臓器である。その材料となるのは食事からとるタンパク質であることはいうまでもない。肝臓をタフにするには良質のタンパク質を充分にとることが基本である。
 タンパク質はアセトアルデヒドの分解を促進し、アルコールを早く無害にする作用をおこなう。さらに肝細胞にたまった脂肪を除去して、肝細胞の機能を健全にする。
 「酒のツマミにチーズ・さきいか・枝豆・ハム・肉・魚・卵など、タンパク質を多く含む食品をとるとよい」と一般にいわれるのはこのためである。たんぱく質を多くとって酒を飲めば悪酔いはかなり防止できる。
 タンパク質に次いで肝臓の働きを助け、有害物質を破壊するのに役立つ栄養素はビタミンやミネラルである。とくにビタミンA・B₁・B₂・B₆・C・Eなどが重要である。
 人間をはじめ動物の肝臓にはビタミンが一定量はストックされていて、大切な役割を果しているのだが、食事内容が悪い人や、コーラ、ソーダ、アルコールを飲みすぎる人、タバコを吸いすぎる人、添加物を気にせず食べ続ける人などは、ビタミンやミネラルが不足しがちである。意識して高ビタミン・高ミネラルになるように配慮することである。
 二日酔をさます方法として、牛乳・みそ汁の効用が有名である。もちろんプロテインパウダーを飲むのも良い方法だ。梅干しを食べることやビタミンCを多くとる方法も有効である。
 最近発売されているスポーツドリンク(ゲータレード・XLI・リガッツなど)が二日酔に良いともいわれる。体内への水分吸収が早く、アルコールなどを処理しやすいためであろう。
 不幸にも「あなたは肝臓病だ」と医者から言われたら、どんな食事法がいいだろうか?
 いままでは「高タンパク・高カロリー」というのが肝臓病を予防する方法として主流であったが、高カロリーだと脂肪化が促進され、かえって肝臓に負担をかけることが判明した。
 現在では「高タンパク・高ビタミン・普通カロリー」という指導が一般的である。1日にタンパク質として80~120gをとり、カロリーは2000~2400までとする。そしてビタミンやカルシウムをなるべくたくさん摂取するのが良いというわけである。
 最後に読者の一人である石森政輝さんが送ってくれた新聞記事を紹介しよう。
 これはアルコールの飲みすぎで肝硬変になった患者が、どのようにすれば肝臓ガンに進行しないで、生命を保てるか、という鵜沼・三井記念病院内科部長の実験報告をまとめたものである。(55年7月2日付北海道新聞)
 それによると「アルコールは禁止」ときっぱり止めさすと、かえって肝臓にあるガン細胞の繁殖を促がし、ガンが進行して死期を早めてしまうとのことである。アルコールの毒性のために、ガン細胞の発育増殖が抑えられていたのが、アルコールが無くなり、高栄養を与えられて、よけいに繁殖することは皮肉なことである。
 いずれにしろ、肝硬変になるほど酒びたりにならないことがポイントであろう。健康管理にはくれぐれも気を付けて,元気に新年を迎えよう。
月刊ボディビルディング1981年1月号

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