フィジーク・オンライン

☆パワーリフティングのすべて☆
筋力を強くするためのトレーニング法

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1981年1月号
掲載日:2020.04.09
(名城大学助教授) 鈴木正之
 前号では、最後に二―・バンテージの一般的な巻き方について説明したが昨年11月、アメリカ・テキサス州で行われた世界パワーリフティング選手権大行に参加し、外国選手たちのバンデージの巻き方を見たりして勉強してきたのでそれらを2つほど紹介したい。

◎ゲートル巻き(麦穂包帯法)

 バンデージの強度、威力の特徴は、タテ方向にあるため、タテ方向に近い巻き方を考えてみた。
 まず、バンデージのおもて側を膝下にあてるように裏返しに持ち〔写真1の1〕環行包帯法の横巻き2回行なったあと〔写真1の2〕、45度斜め上方に引きあげ膝頭を押えるようにしてうしろ側に回す。次いで、大腿下部の体置から45度斜め下方に巻きおろす〔写真1の3〕。つまり、その位置でバンデージは膝頭でX字型に交又する。2回目からの交又巻きは、バンデージを3分の2ずつ重ねながら、3~4回上方巻き、下方巻きをくり返し交又させて巻き〔写真1の5〕、残りのバンデージで全体を押えて、最後に巻いたバンデージにはさんで終る〔写真1の6〕。
 巻きかげんの強さは、どの巻き方でも指1本が入る程度の強さがよい。

◎クロス巻き

 先にも述べたように、バンデージの特徴はタテ方向にあるため、巻き方が上手になれば、このクロス巻きが最も強力な巻き方になると思う。
 まず最初は、他の巻き方と同様に、環行包帯法の横巻きから入り、2回巻いたら膝頭を押えながら、一挙に大腿部まで引きあげてくる〔写真2の2〕。次いで,大腿部の位置で1回横巻きにし[写真2の3]、今度は一挙に膝下の最初の位置まで引きおろす〔写真2の4〕。あとは3分の2ずつ重ねながら、クロスしたバンデージを横巻き(蛇行包帯法)で押えながら上行し〔写真2の5〕、最後の横巻きバンデージにはさんで終る。
〔写真1〕ゲートル巻き

〔写真1〕ゲートル巻き

〔写真2〕クロス巻き

〔写真2〕クロス巻き

<3>リフティング・ベルト

 リフティング・ベルトは、ウェイトリフティングの歴中と共に、いろいろと変遷を見ているが、現在、パワーリフティング競技で使用が認められているベルトは、幅10cm、厚さ13mmのもので〔写真3~5〕がそれである(註:ただし国際ルールは、同一厚のものとなっている)。
 スクワット、デッド・リフトにおいて、リフティング・ベルトは絶対不可欠なもので、その効力、威力は顕著に認められるところである。また、ベルトは記録向上の面ばかりでなく、腹圧力の助けをつくり、背筋を保護する役目もする。とくに最近では腹側も10cm幅の“まわし型ベルト”〔写真3,4〕が多く使用されている。
 その理由は、スエーデンのモーリスらによって研究されている負荷と腹腔圧の関係からきている。つまり、脊柱を支えているものは内的な安定性、すなわち、強固な椎骨と弾性軟骨が靭帯によって連結された構造と、外的な安定性、すなわち、脊柱その他の体幹筋によって生まれる。しかし、これらの骨や靭帯や体幹筋も、胸部、腹部から成る体幹の圧力がなければ、自分の体重さえ支えることができない。
 この点について、モーリスらは〔図1〕のように説明している。脊柱は胸腔と腹腔という2つの側壁にそって通っているので、体幹筋はこれらの室の中に空気や流体物を含んで円筒にし、脊柱にかかる負荷を軽減させている。だから、リフティングにおける呼吸の重要性はここにある。空気を吸い込むことによって、胸腔内圧が高まり胸部と脊柱は単一構造となって大きな力を発揮できるようになる。しかも、吸気によって横隔膜や腹横筋が収縮するので、腹腔内圧も高まってくる。
 つまり、脊柱にかかる負荷は、腹腔内圧を高めることによって助けられ、大きな力を発揮できるのであるが、これは腹筋などの体幹筋を発達させておけば、背筋力を有効に発揮させて脊柱の損傷も予防できるのである。
 そこで、この腹腔圧を他動的に高めるために、腹筋のみに頼ることなく、幅広いリフティング・ベルトが必要となってくる。従来のリフティング・ベルトは〔写真3〕の型が多かったが、モーリスらの理論からして、脊柱の損傷を予防し、腹腔圧を高め、脊柱の支持力を助けるよう腹側も幅広くしたベルト〔写真4~8〕の方が有効であることになる。
[写真7]米国の初級・中級パワーリフティング・ベルト

[写真7]米国の初級・中級パワーリフティング・ベルト

[写真8]二重型パワーリフティンクベルト(フィンランド製)

[写真8]二重型パワーリフティンクベルト(フィンランド製)

[写真3]一般用リフティング・ベルト(国産、6,000円前後)

[写真3]一般用リフティング・ベルト(国産、6,000円前後)

[写真4]初級・中級用パワーリフティング・ベルト(国産7,500円前後)

[写真4]初級・中級用パワーリフティング・ベルト(国産7,500円前後)

[写真5]上級パワーリフティング専用ベルト(国産10,000円前後)

[写真5]上級パワーリフティング専用ベルト(国産10,000円前後)

[写真6]二重型パワーリフティングベルト(国産)

[写真6]二重型パワーリフティングベルト(国産)

[図1]

[図1]

<4>リスト・ストラップ

①ストラップの選択

 リスト・ストラップは、公式試合には当然使用できないものであるが、デッド・リフトの練習時やチンニングなどで使用すると、トレーニング効果を上げるのに便利である。形にはいろいろ種類があるが、要は重量が手首にしっかりと巻きついて、手掌の皮の保護や握力の補助として作用することが大切である。
 ストラップに不馴れの選手や初心者は、皮で作った専用ストラップを使用するのが便利である。馴れれば柔道の帯などを適当な長さに切ったもので充分に間に合う。

②ストラップの使用方法

 デッド・リフトの反復トレーニングの場合など、大きな背筋力よりも、小さな前腕の筋肉や手掌の皮の方が先にまいってしまい、充分な背筋のトレー二ングができないので、このストラップを使用する練習方法を確立しておくとよい。そして、手首や握力の強化トレーニングは別な補助種目で補なえばよい。〔写真9〕参照
 またストラップは、デッド・リフト以外にも、チンニングや、バーベル、ダンベルをぶら下げての反復動作などにも使用できる。

<5>リスト(手首)バンデージ

 リスト・バンデージは、パワーリフティングの競技規定では、幅8cm以内長さ1mまでのものを巻くことができる。伸縮性のある専用バンデージがあるが、これは、手首を締めつけて血液の流れを悪くするので、筆者らは伸縮性のない日本手拭を使っている。日本手拭はベンチ・プレスのときに、適度に手首を保護し、休み中でも強く締めつけられることもなく、長時間使用することが出来る。
 この日本手拭バンデージは、ルールに合わせた大きさに切ったものであれば、国際大会でも問題なく通過している。なお、リスト・バンデージは手首が強ければ、あえて使用しなくてもよい。

<6>リフティング・シューズ

 パワーリフティングは、ウェイトリフティングと違い、バーベル重量が低い体置あにり、重量のバランスがとりやすいので、靴底が固く、踵の高い、いわゆるリフティング専用シューズを特に使用する必要はない。むしろ、種目によってその挙上方法に特色があるので、それぞれの種目に応じた特色のあるシューズをはくとよい。

①スフワットの場合

 スクワットの場合は、足裏が安定し重量を支えやすいリフティング専用シューズをはく選手が多いが、リフティング専用シューズは、もともとウェイトリフティングのロークリーン(低い姿勢でバーベルを胸にとる)の時や、ロー・スナッチの時、重量に対して姿勢を垂直に立てやすくする目的で生まれたもので、そのために踵を高くする必要があった。そして、踵は高い方が有利となるので、踵の高さ3cm以内というルールが生まれたのである。〔写真10〕〔図2〕参照。
 こうしてできたシューズを、そのままパワーリフティングのスクワットで使用すれば、基本的なスクワットをするのに正しい姿勢がとりやすいということから広く使用されてきた。
 しかし、踵が高くなるということは足首が曲りやすく、下腿部の前傾角度が強くなるので、膝関節により強く負担をかけるフォームになりやすい。そのため、膝関節が丈夫で、しかも大腿二頭筋が短く、強力な収縮力をもつ選手が重い重量を競う競技的スクワットをするのには有利といえる。
 もちろん、練習時や足首の固い人、あるいは初心者は、リフティング専用シューズをはくか、または踏み板(ウエッジ)を利用したほうがいいが、パワーリフティング用スクワットを完成するためには、踵の高いシューズはやめて、踵の低いシューズを考えるべきである。その場合、底が平らなものか普通のアップ・シューズで靴底のしっかりしているものを選ぶのがよい。
 踵を低くすることにより、ルール上最大の問題点、ヒッピ・ジョイント、つまり股関節屈曲点を有利に下げることができ、膝の負担を軽くして、股関節で重量をとらえることができる。ただし、筋力強化のトレーニングとしてのスクワットと、競技スクワットの性質を考えて、踵の高さや、踏板の使い分けをしなければ、筋力強化の基本を怠ることになるので充分注意したい。
〔写真9〕リスト・ストラップの 使用方法

〔写真9〕リスト・ストラップの 使用方法

[図2]スクワット・フォームの比較

[図2]スクワット・フォームの比較

〔写真10〕リフティング専用シューズ

〔写真10〕リフティング専用シューズ

〔写真11〕体操用シューズ

〔写真11〕体操用シューズ

②ベンチ・プレスの場合

 ベンチ・プレスにおけるシューズの役割は、その挙上方法から見ても重要な意味をもたない。つまり、競技規定で許されているシューズならば、どれを履いても記録に影響はない。強いていうならば、肩と殿部を支点にして胸部をグッと盛り上げてブリッジをつくるのには、踵の高いリフティング・シューズの方が有利である。
 また、ベンチ・プレスの反則行為の1つに、足を動かすことが禁止されているので、いずれのシューズを使用するにしても、プラット・ホームにしっかりと足の裏が安定して乗ることが大切である。しかしこれは、日頃から、足や殿部をしっかりと固定した練習をしておけば、この問題は解消されるので、あまり心配はない。

③デッド・リフトの場合

 デッド・リフトにおいては、プラット・ホームに足をしっかりと安定させることが先ず第1の動作であり、最も重要な動作の1つである。したがってこの条件を満たすには、どんなシューズが有利かを考えなければならない。それと同時に、デッド・リフトの持つ種目の性質から考えて、挙上距離を少なくするためには底の低いシューズの方が有利である。たとえそれが1cmで2cmでも。
 競技規定では、必ずシューズを履かなければならないが、底の高低についての規定がないので、一流選手の中には〔写真11〕のような、底の薄い体操用シューズをはいている人も多い。
 56kg級のデッド・リフト日本記録保持者、槐春治(旧性・渡部)選手によってその効用が実証されたものに、とび職用の地下タビがある。デッド・リフトばかりでなく、スクワットをも含めて、足首を適度に固定し、親指の力をうまく使えるこの地下タビは、パワーリフティングにぴったりのシューズになるのではないかと思う。今後、日本特有の地下タビ・シューズの研究が楽しみとなってきた。
(次号は体重調節(減量方法)について記す。)
月刊ボディビルディング1981年1月号

Recommend