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☆突然、日本にやってきたアメリカの女性ビルダー☆
ミス・カリフォルニア
バフィ・セントジョン

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月刊ボディビルディング1981年1月号
掲載日:2020.04.08
ハッチ&ウイルソン体育センター・トレイナー 位田達穂

いま話題の女性ビルダー

 昨年11月の始めのある日、私の働いているジムの田村さんという会員から『アメリカから女性ビルダーが日本にやってきたんですが、トレーニングするところが見つからずに困っているんです』という話を持ち込まれた。
 その話を聞いたときの私の驚きようといったらなかった。というのは、仕事柄、女性のボディビルダーには以前から深い興味を持っていた私だったからだ。『えっ!! ほんとですか?』といったきり、次の言葉が出てこなかった。
 それにしても最近、女性ビルダーがしばしばテレビや新聞、雑誌にとりあげられて大いに世間の話題になっている。
 これまで長年にわたって開催されてきた男性のボディビル・コンテストには、まったく見向きもしなかった人たちが、こと女性となれば、大いに関心を示すのはどうしてであろうか。きっと、これまでボディビルに偏見をもっていた人たちが、こともあろうに、これを女性が実施しているというとで、「世の中、とうとうここまできたか」とびっくり仰天したからに違いない。
 それにしても、この現象は決して悪いことではないと思う。ボディビルを普及発展させるのに良いチャンスとなるかも知れないのだ。
 長い間、ボディビルディングというものは、男のやるもの、男のスポーツと、勝手に決めてしまっていた。ところが、これが女性のシェイプ・アップに大いに効果があることがわかるに及んで、女性が積極的にジムの門をたたき、ついにはミス・ボディコンテストまで開催されるようになった。
 私は今までにウェイト・トレーニングのトレイナーとして、女性の指導をしていた時期もあり、そのために必要な勉強もしてきたつもりだったが、それでも、まだ女性に対してヘビー・ウェイトでのトレーニング指導には少なからず迷いがあった。
 過日、アメリカで行われた女性のUSボディビル・チャンピオンシップスの模様がテレビで放映された。このときまず目についたのがローラ・コームス嬢で、体全体がよく発達し、とくに腕が太く、シルエットだけを見れば、おそらく誰でも男性としかうつらなかったに違いない。
 私もひと目見て「すごい!!」とびっくりしたが、同時に、かなりの脂肪が体全体についていたのが気になった。彼女がもう少し体脂肪をとってデフィニッションを出していたら、おそらく優勝していたのではないだろうか。
 このように、男性だけでなく、女性のボディビル・コンテストにおいてもやはり重要なのは鍛え込まれた筋肉のバランスであり、いくら大きくても脂肪が多い体では上位入賞から遠ざかってしまう。
 話を元に戻そう。『えっ!!ほんとですか?』と言ってから、ほんの一瞬いま述べたようなことが私の頭の中をよぎった。
 つづいて田村さんは『女性ビルダーといっても、外見はごくふつうの女性と同じですが、腕や背中の筋肉はさすがです。腕を曲げたポーズを見せてくれたんですが、やっぱりビシーッと筋肉の線が出てくるんです』という。
 そして『彼女はどうやってトレーニング・ジムを探せばいいか全く判らず困っているんです。できたら位田さんの働いているそのセンターがいいんですが。というのは、彼女は“男性の中でトレーニングする方が気合いが入ってやりやすい”と云っていますから』
 さらに田村さんの話を聞いているうちに、彼女についてのだいたいのことがわかってきた。
 彼女はアメリカ国籍で、名前はバフィ・セントジョン。白人と黒人のハーフらしい。職業はジャズ歌手で、日本のクラブに出演するために今度はじめて来日したものである。
ミス・カリフォルニア・ボディコンテストで優勝したときのポージングを再現してみせるパフィ〕

ミス・カリフォルニア・ボディコンテストで優勝したときのポージングを再現してみせるパフィ〕

ステロイドとスライド

 そして3日後、田村さんが彼女と一緒にジムに来た。いかにもスポーツ・ウーマンらしいスカッとした明るい感じ、というのが私の第一印象だった。
 カジュアルなスウェーターとジーンズのうまくフィットしたスタイルで、肌は、カリフォルニアの太陽で日焼けしてきたような褐色、髪の色は日本人と同じ黒だった。
 あいさつもそこそこに彼女は、『ステロイドを見たいですか?』と言うのだ。これには私も全くあわててしまい『とんでもない!! 私はこれまで一度もステロイド・ホルモンを使ったこともないし、これからも使わない』と手をふって答えた。
 するとバフィは、『どうして見たくないのですか?』と、けげんな顔をして私を見つめる。そこで、私は、ステロイドの恐ろしい副作用などについて話したのだが、どうも私の話がわからないらしく、ますます変な顔をする。
 そのうちに、何やら茶色の封筒から取り出して私の前に差し出した。見ればそれは、彼女がアメリカで撮影したポージングのカラー・スライドではないか。私のつたない英語力が、スライドとステロイドを間違って、とんちんかんなことを口走ってしまったと気がついたが、あとの祭り、とんだ恥をかいてしまっった。
 ようやく彼女も私の間違いを納得してくれ、大きなゼスチュアで笑っていた。これを機会にグッとリラックス・ムードになり、そのあとは自然に楽しいボディビル談義となった。
 スライドは彼女がカリフォルニアのビバリーヒルで行われたコンテストで優勝したときのものや、ふだん練習しているゴールド・ジムで撮影したもので、なかなか見事な体をしている。それにポージングもすばらしい。
 バフィは現在ホテル住いで、仕事はほとんど夜だから、トレーニングは昼間やりたいという。
 そこで、彼女の宿泊しているホテルから最も近い健康体力研究所のジムにお願いすることにした。
〔バフィのダンベル・フライとポージング〕

〔バフィのダンベル・フライとポージング〕

トレーニング第1日目

 バフィの仕事の都合で,それから数日後にやっとトレーニング第1日目がやってきた。
 約束の午前9時に、彼女は大きなバックをもってやってきた。彼女は『しばらくトレーニングが出来なかったので、本当に今日は楽しみにしていました。うれしくて、昨夜あまり寝ていません』と目を輝やかせていた。
 それにしても私は、彼女の持ってきた大きなスポーツ・バックが気になったので、中に何が入っているのか、と尋ねてみた。
 すると彼女は、『全部トレーニングに必要なものです』といって、1つ1つバックからとり出した。
 先ず最初に出てきたのがリフティング・ベルト、つづいてトレーニング・ウェアー、練習用ヘア・バンド、トマト・ジュース缶、プロティン大缶、その他7~8種類の栄養補助食品、それに前にも書いたスライド写真など、すべてトレーニングに関するものばかりがつまっていた。
 早速、石村勝己さんにトレーニング・パートナーをお願いして、胸の運動からスタートした。
 まず、ベンチ・プレス。20kg×20回×3セット、25kg×15回×3セット、30kg×10回×3セット、35kg×5回×3セット、40kg×5回×3セット、45kg×3回×3セット、そしてこれら運動の間にスーパー・セットとしてダンベル・フライが必ず入っている。これだけで約40分かかった。
 つづいてインクライン・プレス、インクライン・ダンベル・フライ、プーリー・クロス・オーバー等々が延々とつづき、胸の運動だけでなんと1時30分かかった。この分では、全部終了するまでにはあと2〜3時間はたっぷりかかりそうだ。
 私も勤めの関係で、最後まで彼女のトレーニングにつき合っているわけにはいかないので先に帰るというと、自分1人では帰り道もわからないのでもっといて欲しいと、さかんにせがまれて困ったが、勤務をすっぽかすわけにもいかないので、何とか彼女を説き伏せて、この日は胸のトレーニングだけで止めてもらって帰ることにした。
 こうして第1日目は無事に終了したが、バフィのトレーニングは週6日制のスプリット・システムなので、時間的にも内容的にも、ほとんど連日、一流の男性ビルダーと同じようなトレーニングをしていることになる。
 せっかく健康体力研究所の野沢所長さん以下、多くの人たちのお世話でスタートしたバフィのトレーニングだったが、数日後、彼女は仕事の都合で、しばらく熱海に行かねばならなくなった。
 あんなに楽しそうにトレーニングしていたのに、これもしばらく中止かと思っていたところ、なんと、彼女は、毎日熱海から新幹線で東京に通ってトレーニングをしたいから、どこか近いところのジムを探してほしいというのだ。その熱意のほどに私は頭が下がる思いだった。
 聞けば、夜のショウに8時間出演して、ちょっと仮眠をとったら、朝6時半に起きて新幹線に乗り、3~4時間トレーニングして、またすぐ熱海に戻りたいという。そのファイトとスタミナにはあきれかえってしまう。
 そこで、東京駅にも近く、女性会員もたくさんいて、その指導ぶりが高く評価されているサンプレイ・トレーニング・センターの宮畑会長にお願いしてみることにした。 (つづく)
〔バフィのバック・プレス〕

〔バフィのバック・プレス〕

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月刊ボディビルディング1981年1月号

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