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やさしい栄養知識

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月刊ボディビルディング1974年11月号
掲載日:2018.09.04

体重をふやす食事法

<意外に多いガラ>

「夏はヤダなあー。だってガラのようなこの体がイヤでも目につくからなあ」――こういって嘆く人が意外に多い。
ルックスだけでなく、スポーツをやるときに体重のあるほうが比例して体力も強く有利なケースが多い。
体重制がなければボクシング・レスリング・ウェイトリフティング・柔道など日本がメダルをとってきた種目がたちまちさびれるという話もあるくらいだ。
 読者の中にも「あと5kgぐらい体重があるといいなあ」と願っている人があるのでは? 前にやせる方法を述べたので、こんどは太る方法について検討してみよう。

<ある少年の苦戦>

 私自身の話で恐縮だが、多分小学5年生ぐらいのころだったろうか、やせっぽちなのが気になってたまらず、こんな実験をしたことがある。
――食べて排便しなければ体重がふえるのでは、と腹いっぱい食べてトイレをがまんした。2日目ぐらいまではよいが、3日目、4日目になると食欲がなくなり、
5日目になって不思議なことに体中あちこちに腫れ物が出来だした。かんじんの体重は0.5キロぐらいふえているだけでそれほど変らない。お腹ばかりふくらんだ変な状態で、
とうとう6日目に熱をだしてダウンしてしまった。
 結局その夏は体調がすぐれず、いつまでたってもモヤシのままだった。

<がっちりと太るには>

 やせっぽちは遺伝だからとあきらめている人、年をとると太るさとのんびりかまえている人、細い方がファッションがよく似合うからと逆に自慢する人、さまざまであるが、
自分の努力で体重を自由に変えられるとしたら愉快なことではなかろうか?
 私があれこれ工夫して見つけたのがボディビルだ。太りたいといっても、すもうとりのように腹がつき出したり、ビールだるのようにプヨプヨ肥えることは誰も好まない。
固くしまった筋肉をつけることがいちばん合理的である。筋肉の太さに比例してパワーが出ることが明らかになっているので、スポーツマンで太りたい人があればぜひ実行していただきたい。
 とりわけ足と背は筋肉のボリュームが大きく、トレーニングにより確実に体重もパワーもふえてゆく。人によっては最初の1ヵ月は逆に体重の減る場合があるが、これは脂肪がとれるためで、
そのまま続けると、2ヵ月で2キロ、3ヵ月で4キロふえることも決してめずらしくない。

<食事の配慮をすること>

 といっても、単にトレーニングをするだけでは筋肉は太くならない。タンパク質を中心に、食事量を今までより2割多くとる。
ステーキやトンカツ・ハム・チーズ・さしみなどの高価なものでなくてもだいじょうぶ。さばの缶詰・スキムミルク・納豆・とうふ・卵などは安価に良質のタンパク質がとれる良い食品だ。
とくにさばの水煮缶詰は100円あたり約80gもの純タンパク質をとることができるのでおすすめしたい。
 やせる場合と反対に、ごはんやパンなどの炭水化物を多くとる。ただしやせている人は胃腸が弱い場合が多いので、ゆっくり時間をかけて、よくかんで食べることだ。
食後に果物のほか、甘い和菓子やケーキを余分に食べることもよい。また間食を必ず食べ、チョコレートやゼリー・キャンデー等甘いものを好きになることだ。
 油っこい料理はカロリーはあるが、胃にもたれるので食欲を減退させる。だからとくに食べなくてもよい。
 以上のほか、気持を大らかに持ち、睡眠もよくとったほうが効果が高い。では健闘を祈ろう。

ミネラルの話

<ミネラルとは何だろう>

「ミネラルウォーター」などというシャレタ名前の「水」が発売されるようになって、ミネラルという言葉に慣れてきたが、本来は鉱物という意味で、カルシウムやナトリウムなどの無機物をいう。
地球上には104の元素があり、これらが種々様々に組み合わさってわれわれの目にみえるような物質をつくりあげている。その中でミネラルは単独で、独立して存在することが多く、人体にいろいろな作用を与えている。
たとえば鉄は赤血球のヘモグロビンを構成して、肺から酸素を受けとっては体内のあちこちに配達するルートセールスマンの役割をしている。だから鉄が不足すると貧血をおこすのだ。
 またカルシウムやリンは骨の構成員であり、もし新陳代謝がうまくゆかずカルシウムが不足すると、チタニー症をおこし、筋肉がケイレンすることになる。

<わるいミネラルもある>

 五大栄養素の中に入っているので、ミネラルといえば正義の味方で、何でも良いものと考えがちだが、ミネラルにも良いミネラルと悪いミネラルとがある。よいミネラルは前にあげた鉄、カルシウム、ナトリウムのほか、
カリウム、マグネシウム、コバルト、ゲルマニウム等である。逆に、悪作用をするミネラルは、ひ素、鉛、亜鉛、カドミウム、水銀などで、ヒ素ミルク事件や水俣病(水銀)、イタイイタイ病(カドミウム)などはまだ耳新しい。
 また良いミネラルといわれるものでも、とりすぎると排泄しきれずに体内に残留し悪影響を及ぼすことがある。さらにイオウ、塩素、リン酸などは、体内でマイナスイオンとなり、血液や体液を酸性にする原因となり、疲れやすくすぐバテやすくなる。
肉や魚、卵ばかりでなく、野菜や小魚を適度に食べることが重要になる。

<スポーツマンとミネラル>

 ビタミン同様に、好き嫌いなく食事をする限り、重大なミネラル不足病になることはないが、スポーツマンは体のエネルギーをはげしく消耗するため、栄養素、とくに食塩などのミネラル成分を多く摂取するよう一般にいわれている。
 だが、昔の食塩は塩田で自然の海水からつくられており、塩素やナトリウム、カルシウム等が含まれていたが、近年は化学工場で純粋に製造されるので、これらの微量ミネラルはほとんどゼロである。したがって、食塩をなめることはあまりはやらず、
むしろレモンや牛乳を飲むことを私はすすめている。またコーラやドリンクは砂糖を溶かしたものと大差ないことが多く、一考を要するところである。
 これとは別に、汗と共にわるいミネラル、たとえばヒ素、亜鉛、カドミウム等が体外へ排泄されることが判明した。
 したがって体をきれいに保つために汗を大いにかくことがすすめられている。そして汗のあとに良いドリンクということで、2.3のメーカーからスポーツ飲料が発売されているが、このほかにビールや黒ビールもミネラルを多く含む点でよい飲料といえよう。

<自然食がよいわけ>

 なお、近年、食品公害が騒がれ、安全食品が要求されている。とくに無漂白のパン・ビスケット・うどん等の人気が高いが、これは精製した小麦粉・砂糖・食塩などにミネラルが失なわれ、栄養価として低下しているので、同じ食べるならこれらのものという欲求であろう。
 同様に砂糖は黒糖や三温糖、酢やしょうゆも合成原料でなく天然醸造で製造されたもの、タラコやタクワンも色のついてないもの等、自然のものが好まれている。体力づくり、健康づくりを目標にするなら、このような商品をつかってみるのも一つの良い方法であろう。

タンパク質の話

<タンパク質とアミノ酸>

 私たちの体は頭のてっぺんから足のつま先までタンパク質でできており、筋肉を強大にしようと思えばタンパク質を無視することができない。人間の体をつくっているタンパク質と、牛肉やタマゴ・納豆・牛乳など食品中のタンパク質とは
共通したアミノ酸という分子が鎖状につながってできたものである。アミノ酸の種類は現在わかっているものだけで、わずか22しかない。
ちょうどアルファベットのAからZまでの二十六字の組み合わせで、複雑な英単語ができるように、22種のアミノ酸がさまざまに結合して、もっともふさわしいタンパク質をつくりあげる。
その数は卵などのグロブリンが数万個、人間の赤血球が数十万個というように高分子をなしている。
 牛の肉ばかり食べても、人間の体が牛にならないのは、私たちの体内で消化されるときに、タンパク質がアミノ酸までバラバラに分解され、血液に乗って体の必要な場所にゆき、
そこでもっともふさわしいアミノ酸配列に組みなおされるためである。

<タンパク質の良否の決め方>

 このようにタンパク質であれば、本来肉でも魚でも納豆でもあまり差がないはずである。ところが世間一般には牛肉や豚肉が良質で、さばやイワシなどの魚は栄養価が落ちると考えられやすい。
値段が単に高いだけで、ビーフステーキやヒレカツと比べて魚のタンパク質含有量やアミノ酸構成には何ら遜色はない。
 また納豆・とうふ・ゴマ・落花生など植物性のタンパク質はどちらかというと重要視されていないようだ。なぜこんな偏見が生れたのだろうか?
 原因の一つは「タンパク価」という評価方法にあると思われる。ある食品のタンパク質を分析してどんなアミノ酸から構成されているか調べる。
そして理想的な配合に比較して一番少ないアミノ酸を「制限アミノ酸」と名付け、この「制限アミノ酸」が理想のときを100として計算して、いくつになるか算出する。
こうして計算してみると、卵100、豚肉90、アジ89、牛肉80、牛乳74、大豆56、ジャガイモ48という数字になる。100に近いものほどよいバランスを持つと考えるわけだ。
 もうーつの原因は22種のうち、次の8種のアミノ酸は、人体で合成することができない。したがってこれらを「必須アミノ酸」と呼ぶが、動物性食品ほど「必須アミノ酸」が多いので良質だと考えられていることによる。
(リジン・バリン・ロイシン・イソロイシン・スレニオン・メチオニン・フェニルアラニン・トリプトファン)

<上手なタンパク質のとり方>

 これらの考え方を否定するつもりはまったくないが、われわれの食事は献立や調理によって食品の組合せがおこなわれている。この場合「制限アミノ酸」はトータルして考えればいいので、
米やパンを主食にしたときはチーズ・納豆等を組み合わすと不足しがちなリジンを強化することができる。またレバーや卵はどんな料理にもふさわしい食品といえよう。
 アミノ酸の質にこだわるよりも先ず第一にタンパク質の量をたっぷりとることをおすすめしたい。そのためには比較的安価でおいしい食品を探さねばならない。
私の調査では、さば缶詰・小魚類・納豆・とうふなどが第一ランク、次いで卵・チーズ・鳥のモツ・にしん缶詰・さんま缶詰などが第二ランク、そして牛乳・牛豚肉・コンビーフなどはかなり順位が落ちるのである。

(筆者は明治製菓健康食品事業本部・栄養士 野沢秀雄)
月刊ボディビルディング1974年11月号

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