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“ボディビルのすすめ” 1981年2月号

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月刊ボディビルディング1981年2月号
掲載日:2020.04.02
―沢田ニ郎―
 ある雑誌で、セックスを売り物にする男が、その方面の体力をつけるには腕立て伏せがたいへん役に立つ、と述べているのが目にとまり「ああ、やっぱりそうか」と同感の意を強くした。
 腕立て伏せは何もセックスばかりでなく、体力全体を養成する重要なトレーニング法なのだが、この男はたまたま商売(?)の道で、この効用を発見したのだろう。
 なぜ、腕立て伏せが、それほど体力向上にききめがあるのか。その理由はかんたんだ。腕立て伏せをすることによって、全身の血行が高まる。つまり体内のすみずみまで栄養が行き渡り、内臓の機能が活発になってくるのだ。
 その結果、顔色がよくなり、全身の色つやが冴えてくる。筋肉は、前腕筋をはじめ、上腕二頭筋、三頭筋、大胸筋など、すべての筋肉が動員され、腹筋までが発達してくる。これで体力がつかなければおかしい。
 ベンチ・プレス、アップ・ライト・ロー、プレス、カールなどの運動が、この腕立て伏せと同様の効果をあげる。しかし腕の運動だけで体力をつけるだけでは物足りない。腕をやったら、ついでに脚の方もやったらいい。
 日本古来の相撲が、おそらく代表的な脚のスポーツだろう。あの出足というヤツ、1日や2日でつくものではない。毎日、毎日、朝稽古にはげんで、シコをふみ、ぶつかり稽古を重ね、関取衆の胸を借りてはじめて身についてくる。
 ボディビルでは、スクワットがこの相撲のシコに当たる。スクワットをくり返すと脚・腰の発達はもちろん、胸の厚みもグンと加わり、体力がつき、スタミナも増大する。ついでに、このトレーニングに加え、両足を左右に開いて交互に頭をつける柔軟体操をすると、もっと素晴らしい発達を示す。
 あの大きな体の相撲取りが、両脚を左右にのばして楽々と頭をつける様子をみると、いかに体が柔軟に鍛えられているのかがわかる。ビルダーは、その点ちょっと体つきがかたそうだ。もっと柔軟体操を加える必要はないだろうか。
 すでに知られているように、人間の老化は脚・腰の衰えからはじまる。上体は少々ヤセていても、下半身が頑丈な人は若々しくて強い。退化は、つぎに目、歯におよんでくる。そうした老化を防ぐにも脚は大事だ。
 ボディビルの基本は、この脚・腰・腕の発達を促すことである。もちろんこれに伴って他の部分が発達することはいうまでもない。ベンチ・プレス、スクワット、アップ・ライト・ロー、カール、バック・プレスなどがだいたい基礎的なトレーニング法である。
 いずれも、10回程度持ち上げ得る重量で3セット、これを数ヵ月続ければ体調がよくなったことを自覚するだろう。50キロの体重の人は60キロ、そして70キロになる。背広が小さくなって着られなくなるという悲劇が生まれるかも知れないが、それには代えられない、うれしい“発育ぶり”ということになる。
 一般社会人は、仕事の関係もあってそう長い時間、トレーニングをするわけにはいかないだろうが、そんなときはせめて脚・腰・腕を鍛えるだけでもいい。バーベルを持つヒマのないときは、腕立て伏せ、椅子を使ってのバー・ディップスなどをやれば、充分現在の体力を保つことができる。
 つまり、ボディビルは、なにもバーベルにとらわれる必要はないということだ。工夫さえすれば器具なしでも体を鍛えることができるのだ。山歩き、散歩、腕相撲、鉄棒、なんでもござれである。とにかく、その気さえあれば脚・腰・腕を鍛えることによって、我々は素晴らしい健康と体格、体力を手に入れることができるのだ。明日といわず、ぜひ今日からはじめよう。
月刊ボディビルディング1981年2月号

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