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食事と栄養の最新トピックス⑧
胃腸を強くする食事法<1>

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月刊ボディビルディング1981年2月号
掲載日:2020.04.02
健康体力研究所 野沢秀雄

1.胃腸の悩みが多い

 サラリーマンの調査によると、「胃腸の調子がよくない」という人が3人に1人の割合でいるという。
 実際に優康体力研究所に寄せられる相談をみても「胃が重苦しい」「胃や胸やけの痛みで食欲がわかない」「すぐに便秘や下痢をする」――といった例が多い。胃腸の調子が悪いと、いくら高栄養の食品を食べても、目的とする血や肉に変らず、トレーニング効果もあがりにくい。
 今までは主として外からとる栄養のことについて述べてきたが、今月号から体の内部構造や役割について連載してゆく。意外なほど知られていないことが多く、また間違った迷信も多い。知識の整理にお役に立てば何よりである。

2.胃の位置と構造

 食物の消化は口に入れた瞬間からスタートしている。すなわち歯でかみくだく機械的消化と同時に、唾液が食物と混ざりあい、でんぷん類を糖類に分解しているのである。ごはんをよくかんでいると甘味が増すのはこのためである。
 喉から食道を通り、胃袋へと栄養物が入ってゆく。食道の長さは20~30cmであるが、食事をする時の状態により栄養物の通過時間が変化する。
「食事がのどを通らない」という言葉があるように、心配ごとや緊張しすぎた時は、唾液が充分に分泌されず、パサパサした状態で胃にゆく。逆に心身とも健康で、空腹感があり、「おいしい」と感じて食べれば、わずか3秒で胃袋に入ってゆく。気分よく食事をすることがどれだけ大切か理解されよう。
 胃は胸の中央部、みぞおちの部分からヘソのあたりまで、上腹部の容積の大部分を占めている。といっても肝臓や心臓のような臓器ではなく、文字どおり袋であり、口から肛門へつながっている管が一部分だけ膨らんだところと考えてよい。そして大きさや形態は人によって異なるしまた当然ながら食事内容や時間によって胃の大きさが膨らんだり、小さくなったりすることはいうまでもない。
 胃の容量は平均1500~2000mlであり、液体に換算すると、やかん一杯分くらい入ることになる。相撲とりやプロレスラーは一度にごはんを一升食べるといわれるし、ボディビルダーの須藤選手や末光選手はビフテキを何十枚と食べても平気だというからすごい。
 反対に胃の容量が小さくて、すぐに満腹になり、それ以上食べられない人も多い。一般に、成長期(小・中・高校生)や運動選手はどんどん食べても平気だが、25歳をこすと消化能力が衰えはじめるので、食べた食事が胃に貯って上腹部が張ってきやすい。
記事画像1

3.栄養素は胃では吸収されない

 胃腸が強い人とは、単に胃袋が大きいだけでなく、胃での消化時間が早くて、つぎつぎと栄養素を分解しては腸に送りこみ、体内へ吸収させる能力が大きい人である。プロレスラーやビルダーが大食しても、それほど上腹部が膨らまず、元気モリモリなのはこのためである。
「胃が弱いので、いくら食べても栄養が吸収されない」と思いこんでいる人がいるが、胃の役割は栄養物を貯蔵すること、および貯蔵中に消化液を分泌して栄養素が吸収されやすい形にもってゆくことの2点である。
 胃から吸収されるのは、アルコールの一部と炭酸の一部のみである。のどが乾いたらビールやコーラがうまいしすぐに酔いがまわるのは、胃壁から吸収がおこなわれているためである。
 胃では食べた食物が均一に混合されると思いがちだが、これも間違いであり、実際は食べた順序により、層状に重なって貯蔵されている。胃袋の上部(入口)から下の方へゆくにつれて、食物はドロドロに溶けた状態になっている。これは胃壁から分泌される消化液(ペプシンなど)や胃液そのものの強い酸性により、食物が分解して吸収されやすい小分子に変化してゆくためである。
 胃の出口にある幽門を通って、液状になった栄養素は十二指腸へ移る。そこには膵臓からくる膵管と肝臓からくる輸胆管が通じており、強力な消化酵素を含む膵液と胆汁が流れこむ。
 体内へ栄養素が吸収されるのは、その後に小腸へ移ってからであるが、これについては次号以下に述べよう。

4.各栄養素の消化プロセス

 でんぷん類は口腔内ですでに消化がスタートしていることを最初に述べたが、胃液の強い酸のためにさらに分解して小分子に変化する。だが何といっても胃のハイライトは、タンパク質を分解することである。胃液の成分のペプシンは主成分がタンパク質分解酵素であり、PH1~2の強い酸性状態で活度が最も高い。肉や魚・卵などタンパク質食品はペプシンにより、ペプトンというアミノ酸の集合体になる。もちろんタンパク質自体がアミノ酸が数万個連結したものであるが、胃の強い酸性液と消化酵素が作用して、連結している鎖が各所で切断されて、分子量の小さいポリペプチドに変化するわけである。ただし個々のアミノ酸までは分解されない。それは十二指腸や小腸でさらに細分されるのである。
 「胸やけに消化剤を飲むとなおる」のは、消化剤中にタンパク質を分解する酵素が含まれていたり、強すぎる酸度を柔らげるために、重そうなどの中和剤が入っているからである。
 なお指肪は胃の中ではあまり消化を受けないが、胃酸のために一部分解して、油と水が均一に混合されやすい状態にはなっている。つまり腸でおこなわれる本格的な消化・吸収に先だって予備段階の役割を胃がおこなうことになる。
 ビタミンやミネラルなどの微量栄養素はあまり変化を受けないが、胃酸により部分的に化学変化を受けることもある。医薬品やローヤルゼリー剤などの場合、せっかくの成分が胃内の強い酸のために分解して、効力を失なう心配がある。メーカーでは粒を層状にしたり、アルカリ成分を配合して、耐酸性を賦与し、腸ではじめて吸収できるように配慮している。
「〇〇酵素」と名付けた酵素製品が発売されているが、せっかくの酵素も胃で大半は破壊されてしまう。また、ホルモン剤を口から飲んでも胃で分解され、効果が少ない。このために直接静脈などに注射して与えることが一般の病院でおこなわれている。(素人が注射することは法律で禁止されている。念のため)
 反対に胃の酸度が強いお陰で、コレラ菌・チフス菌などの有毒菌や微生物が体内に入ってきても殺菌されて死んでしまう。胃酸は悪者を殺すガードマンの役割も果しているわけだ。

5.胃における消化の良否

「この食品は消化がよい」という場合含まれる栄養素の消化率と、胃内滞留時間の2点から判定されている。
 各栄養素の消化率は、食品に含まれている成分がどれだけ無駄なく消化吸収されるか実験で求めることであり、尿や便の分析まで実施される。[表1参照]
 いっぽう胃内滞留時間は食後何時間経過すると、胃で分解されて腸へ移るか、その時間を解剖実験で求めたものである。[表2参照]
 一般に油の多い食品は時間がかかりでんぷん類は早く消化される。
 ところで注意しなくてはならないのは、受けいれる体の状態により差が大きいことである。ふつう胃が満たされてから腸に送り出されて空っぽになるまでの時間は3~5時間かかるが、若い人では1~3時間できれいに胃が空っぽになる。したがって、中学生・高校生の育ち盛りにはいくら食べても腹が減るのは当然のことである。それだけ新陳体謝のエネルギーが活発なためである。
 成人した大人が子供の食欲に合わせて食事をすると、たちまち胃をこわすか、肥満化が促進するかのどちらかである。またろくに運動しないのに美味追及することもナンセンスである。要は体の状態を見ながら栄養をとらないと胃腸に負担をかけて、かえって不健康になる。あくまでも高栄養は運動をすることと両輪で考えねばならない。
 次号では胃病とその対策について詳しく述べることにしよう。
[表1]主な食品の消化吸収率 (アトウォーター測定資料)

[表1]主な食品の消化吸収率 (アトウォーター測定資料)

[表2]主な食物の胃滞留時間(児玉桂三監修「医化学」より。米飯は50g増すごとに約30分時間が増す)

[表2]主な食物の胃滞留時間(児玉桂三監修「医化学」より。米飯は50g増すごとに約30分時間が増す)

月刊ボディビルディング1981年2月号

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