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食事と栄養の最新トピックス③
善玉と悪玉があるコレステロール

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月刊ボディビルディング1980年8月号
掲載日:2019.10.28
健康体力研究所 野沢 秀雄
新井弘道さん(トレーニング1年後)

新井弘道さん(トレーニング1年後)

1 カラスの勝手でしょう

”カラスなぜ鳴くの、カラスの勝手でしょう”というとぼけた歌がはやっており、今や”〇〇の勝手でしょう”は流行語にさえなっている。「そんな無責任な答えがあるものか」と考えるのはナウでない証拠で、こんな調子でスイスイはぐらかすのが現代若者の特質である。

 けれども「なぜこうなるの?」というメカニズムを真剣に考えることも重要である。ことに大切な体の生理学を理解すると、健康づくりにおおいに役立つことはいうまでもない。

 前号に成人病がなぜおこるかについてのメカニズムにふれたが、今月はコレステロールについてくわしく述べてみたい。

 きっかけになったのは、熱心なビルダー、新井弘道さんからの次のような手紙である。

 「ボディビルに真剣に取組んでいらっしゃる諸兄ヘ一言。中級以上になると、食事内容も高度になり、レバーや卵などのコレステロール値の高い食品を多く摂取されると思います。現在はコレステロールは4種類に分類されており、すべて悪い作用を及ぼすというのではなく、善玉コレステロール、悪玉コレステロール、その他のコレステロールというように分けられています。そこで自分のコレステロールの量やバランスを知るために、コレステロールの分析を行い、それに基づいた食事法を行うことをお推めします。コレステロールの分析は大きな病院ならどこでもできます。経費は1300円位です(保険はききません)」という内容だ。

 なかなか研究されており、しかも自分自身、昨年のミスター新潟コンテストの際に、プロティンパウダーを有効に活用して写真のようにデフィニションのよい筋肉をつくり、新人戦で優勝した21才の若いビルダーである。

2 コレステロールの本質

 「コレステロール恐怖症」といっていいほど神経質になっている人たちがいる。とくに先進国アメリカでは、特殊な方法でコレステロールを除いた卵が発売されたり、肉や乳製品にまでコレステロール量が表示してあり、消費者は少しでもコレステロールを避けようと懸命である。

 米国人は11日平均450mgのコレステロールをとっており、政府でも「300mg以下に減らしなさい」と警告している。

 ところが、新井さんの手紙のように「良いコレステロール・悪いコレステロール」の区別が明白になり、事態は良い方向にすすみはじめた。

 図は東京女子医大の渋谷実教授の研究として、55年4月9日の日経新聞に発表されたものである。

 概要を説明すると、血液中のコレステロールには善玉のαと悪玉βがある。αは体の中の各組織から余ったコレステロールを肝臓に持ち帰って分解する掃除人、βは肝臓から各組織にコレステロールを供給する運び屋だ。

 βは多過ぎると血管の壁に浸み込んで動脈硬化を起こし、さらに血液そのものをおかゆのようなドロドロした液体に変えて血管を詰まらせる。

 αはこうした悪いβの動きを抑え、血管や血液中のβを肝臓に連れ戻して組織をきれいにする。コレステロール全体に占めるαの比率が高いほど、動脈硬化や心臓病の危険は少なくなるというわけだ。

 たとえば総コレステロールが正常人の上限である200mgを超えていても、αコレステロールの量が90mgというように多いなら、動脈硬化の心配はないことになる。

 渋谷教授の研究では、β / αの比率が3.2以内ならば安心してよいという。実際に新井弘道さんから送られた分析値では、総コレステロールが191mgで、このうちαコレステロール(HLD)が51mgとなっておリ、その比率は2.7である。したがって、肉・魚・卵などをひきつづき食べても安全であることが理解されよう。

 なお参考のために、上限値を紹介すると、総コレステロールは220mg以下で、αコレステロールは50mg以上が一応の目安とされている。
血管壁にへばりついて動脈硬化を起こそうとするβ-コレステロールを引きはがして肝臓に連れ去るα―コレステロール

血管壁にへばりついて動脈硬化を起こそうとするβ-コレステロールを引きはがして肝臓に連れ去るα―コレステロール

3 無実の罪?・・・・・・卵黄

 ついでながら、コレステロールがもっとも多いといわれている卵黄について弁護するデータが発表されている。

 「毎日卵を5個ずつ、10日間食べつづけると、血液中のコレステロールはどうふえるか?」という実験を、国立栄養研究所の鈴木慎次郎健康増進部長がおこなった。1日に卵5個分、1335mgものコレステロールを食べ続けたことになる。ところが、10日後に血液を検査すると、数人のメンバーの誰もが最高10%以内の増加にとどまったという。

 「どうやら血液中のコレステロールの増減は、コレステロールそのものの摂取量とは直接結びつかないらしい。コレステロールをいくら食べても、体内へ吸収され、肝臓でリポたんぱくに合成されなければ血液中の濃度は増えない。健康人の場合は、腸での吸収や肝臓での合成に際し、体内のコレステロール量を一定に保つ調節機能があるのではないか?」と結論づけされている。

 これを裏づけるように、55年5月28日に、米国科学アカデミーが「普通の人ならコレステロールや脂肪の摂取を制限する必要はない」と発表し、論議をわきおこしている。

 アルフレッドハーパー・ウィスコンシン大学教授を委員長とする15人の専門家によると、人体実験でも動物実験でも、食事に含まれるコレステロールや脂肪の量と、心臓病の発生の間には相関関係がなく、とくに死亡率とはまったく関係がない、という結論に達した。これは栄養学にとって重大な内容である。「うのみにするのは早急」と日本の研究者たちは疑問視しているのだが・・・・・・。(朝日新聞5月29日)

 一つの仮説としては、卵黄や肉などに含まれるαコレステロールは、善玉のコレステロールとなりやすく、それほど恐れなくてもよいとも考えられるが本当のところはまだ定かでない。

 なお、新井さんが「コレステロールには4種類ある・・・・・・」と書いているのは、食品分析上の分類のことである。

 以前は「比色法」という大ざっぱな検査法だったので、たとえば、「カキ100g中に120mgもコレステロールが含まれる」と発表されていた。ところが、酵素法やガスクロマトグラフィー法という精度の高い測定法が開発されると、カキには真のコレステロールは36mgしかなく、その代り2.4メチシンコレステロール、ブラシカステロール、βシトステロールなどという名前の違ったステロール類が多く含まれていることが判明した。

 つまり、従来はカキやしじみなどの二枚貝類は、「コレステロールを多く含むので成人は食べすぎていけない」といわれてきたが、汚名が晴らされてきたわけである。

4 広い視野を持とう

 コレステロールに関しては書くべき話題がまだまだ多い。同時に含まれ脂肪による影響や、ステロイド・ホルモンとの関係、しいたけやせんいの効果、ビタミンEやビタミンのB2と関連、植物たんぱくの効果、トレーニングやタバコ等への影響などである。

 コレステロール値が上昇するかどうかは、単に食品成分中にコレステロールが多いか少ないかよりも、付帯的な条件が大きいわけである。

 代表的な要因をまとめると次の通りである。

イ 脂肪の種類による影響

 ご存知のように、脂肪には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。その比率によって、血液中のコレステロール量が大きく上昇したり、それほど上昇しなかったりする。食品の種類ごとに分類すると、バター、チョコレート、シュークリームなどがコレステロール値をもっともあげやすい。次いでチーズ、クリーム、牛乳、ブタあぶら身、卵黄とんかつ、ビーフ、ショートケーキを食べるとコレステロールがたまりやすい」ということがわかるだろう。

ロ 植物油、植物たんぱくを積極的に

 同じ油を使用するなら、コメ油や小麦胚芽油、サフラワーオイル、コーンオイルなどを用いると、コレステローテロール値が低下する。動物性のラード、バターは上昇させる。

 インスタントラーメンは揚げるときラードやヤシ油を使用しており、これらはコレステロールを上昇させる働きをする。したがって、ラーメンが好きな子供たちはコレステロールが高くなることが判明した。食べすぎにはくれぐれもご注意いただきたい。

 なお、植物たんぱくにはコレステロールが含まれないので、安心して食べられる。

ハ ウェイト・コントロールを守る

 前項で、人間には血液中のコレステロール値を正常範囲に調節する能力があると述べた。ところが20代の青年ならいいが、中年をすぎるにつれ、調節力が衰えてくる。とくに肥満症や糖尿病になると、調節力がなくなり、どんどん高コレステロールになりやすい。

 筋肉質で体重が増えるのならいいが脂肪が付着して体重が増えるのは危険信号である。腹囲や皮下脂肪を測定してときどき安全を確かめるのがよい。

ニ トレーニング効果

 最後に運動を継続して実行すれば、善玉コレステロールが増加することを紹介して結びとしよう。

 下表はある中学で、運動部に入っている者とふつうの者について、αコレステロール値を測定した結果を示している。
記事画像3
 これは「誤解だらけのコレステロール」(中村治雄著・マキノ出版)にのせられているデータの一部である。運動をすることにより、体内や血液内の脂肪が焼えてエネルギーに変り、その結果、善玉コレステロールをふやすと考えられている。

 運動といっても、気まぐれにたまにちょっとやる程度では効果は少なく、実際にスキーにいく前と、いった後を測定すると、1~2日ではコレステロール値があまり改善されないと発表されている。

 「脈拍が1分間120にをこえる位の運動を5分間以上、最低1日おきにやりなさい」と中村氏は述べている。

 逆にマラソンのような強すぎる運動を連日おこなうと、かえって脂肪分解酵素リパーゼの活性が低下するので、あくまでも、適度なトレーニングが良いことが強調されている。

 以上のように、コレステロールに関して概略を述べたが、医学界の研究は日進月歩で進んでいる。機会があればさらに詳しく解説したい。
月刊ボディビルディング1980年8月号

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