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食事と栄養の最新トピックス4
日本人平均寿命は世界一?

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月刊ボディビルディング1980年9月号
掲載日:2019.10.31
健康体力研究所 野沢秀雄

1 スポーツマンと寿命

 健康体力研究所によく電話や手紙をくれる一人に、北海道の岡田君という高三の青年がいる。身長180cm・体重80gで、すもうや重量挙競技では学校一。「おまえはすごい体と力を持っているなあ」と周囲の人たちが驚いているという。

 彼がいちばん興味を持っていることは「トレーニングを過酷なまでおこなう生活を連日つづけていると、長生きできないのではないか?」という点である。

 つまり彼は毎日約3時間余り、すもうやバーベル運動、階段の昇降トレーニングなどで、クタクタになるまで筋肉を鍛えている。「そんなに無茶なほど練習するとかえって体をこわすぞ」といわれることがあり、心配になっており、「自分としては50才、60才、70才になってもトレーニングをおこないたい」「プロレスラーで60才でもマットに上り、若者を負かしているカールゴッチを尊敬する」と望んでいるが、果して可能かどうか、――このような内容の質問である場合が多い。

 ちょうど厚生省から、54年度簡易生命表<表1>が発売されたので、今月は長寿と日本人、スポーツとの関連について述べることにしよう。

<表1>主な平均余命とその延び
(厚生省調べ=単位は年)
記事画像1

2 女性79歳・男性73歳

 簡易生命表は、その年の死亡状況が今後もそのまま続くと仮定した時に、ある年生れの集団が平均してあと何年生きられるか(平均余命)、人口構造はどうなるかを示したものである。このうち0歳の平均余命のことを(平均寿命)と呼び、保健や福祉の水準を示すバロメーターとして広く一般に使われている。

 今回発売された数値をみると、男の平均寿命は前年より0.49年のびて73.46年に、女性は0.56年のびて78.89年となっている。男女の寿命の差は約6年で、ますます差がひらき「女は強い」と感心させられる。

 今から30年前は「人生50年」といわれたように、50歳をすぎて生きることがまれであったのに、今では70歳~80歳まで生きられるのである。

 その理由は、①戦前は乳幼児死亡率が高く、全体の足をひっぱっていた ②不治の病気といわれたように、結核に対して治療法が開発されていなかった ③戦争で多くの青年が死亡した、等のためとされている。

 なお、平均余命は各年令層ともによく伸びているが、昭和ヒトケタ生れが該当する45歳前後の男性は、それをはさむ40歳および50歳の層と比較すると伸びが小さい。これは昨年1年間の統計で45歳から49歳の男性の死亡が急増していた結果である。

 昔は戦争で死亡したが、現代はストレスによって寿命をちちめているのではないかという説があり、男性と女性の寿命差は、日常生活で受けるストレスの差ではないか、といわれている。

3 長命になったもう一つの理由

 厚生省では、特定の死因が取り除かれた場合、平均余命が何年延びるか、という計算を同時に発表した。これによると0歳の男では、「がん」がもっと大きな影響を与える死因で、これがなくなったとすると、男の寿命はあと3.05年のびる。ついで脳卒中(2.69)、心臓病(1.92年)の順となり、これら3大死因が全部克服され、この世からなくなったとすると、平均寿命は男で11.3年、女で10.9年それぞれ延びるという。

 ところで何が原因で、日本人の平均寿命がこんなにのび、世界のトップレベルに達したのだろうか。専門家の意見は次のとおりである。

①食生活の改善がもっとも大きく影響している。たんぱく質や脂肪のとり方が適量で、日本人は良い食生活をしている。

②重労働がヘり、仕事が楽になった。

③医療水準が向上して、重病でも死なずに生きている病人がふえている。

④とりわけ脳卒中で死ぬ人が10年前に比べると20%以上もヘっている。

⑤乳幼児死亡率が年々ヘっている。

――どの専門家も指摘しているように、食生活がもっとも大きな影響を与えている。

 昔はたんぱく質摂取量が少なく、血管がもろいために、ちょっとした脳出血で死亡していたのが、経済力の向上と共に、世界各国から肉や魚、大豆などを輸入し、それぞれの家庭で栄養豊富なおいしい料理をとるようになっている。

 アメリカやヨーロッパのように、肉食がゆきすぎると、脳卒中は減っても心臓病が増加するという事態になりやすいが、幸いなことに、現在の日本は、米、大豆、野菜、海藻、しいたけといったような、植物性健康食品を食卓によくのせる国民である。このバランスの良さが世界各国から注目を集めている。

 実際に各国の平均寿命を調べると、<表2>のようになり、日本の男性は世界一、女性は世界で二番目という成績になっていることがわかる。

<表2>平均寿命の国際比較
記事画像2

4 日本もひけをとらなくなった

 ひと昔までは、「日本は外国に対してどんな点でも劣っている」という根強い固定観念があったものだ。「外国コンプレックス」ともいわれ、外人を見るとみんな立派な偉い人に思われたり、外国製品というと、それだけで質が良いと誤解する人が多かった。

 ところがどうだろう。あの超先進国のアメリカでさえ、トヨタ、ニッサン、ホンダといった日本の乗用車が「性能・価格・デザイン・・・・・・あらゆる点でアメリカの車をしのいでいる」と認められ、シェアはのびる一方。またカラーテレビを始めとする電機製品も「日本製品の方が安くて性能がよい」とアメリカ国民の間でひっぱりだこである。これらが日米経済摩擦をおこしていることはご承知のとおりだ。

 食品の分野でも同様に、日本から輸出しているインスタント・カップメン、牛どん、しょうゆ、とうふなどが、アメリカでたいへんな人気を集めている。「アメリカのステーキの味がよくなったのは、キッコーマンしょうゆで下味をつけるようになって以来だ」というのが定説である。

 今まではハンバーガーやソフトクリームのようにアメリカから輸入されて日本でもてはやされたのに対して、逆に現代は日本の風味や配合技術がアメリカに伝わり、健康志向のブームに乗って市場を拡大しているのが実状である。決して国産品を卑下する必要はなく、むしろ胸を張って誇っていい時代になっている。

 体格や体力の点では、まだまだ差があるが、ウェイト・トレーニングで基礎体力をつける習慣が中学生や高校生の間に一般化するにつれ、もっと筋力差はちぢまるにちがいない。実際に身長の点では、たんぱく質摂取量に比例してどんどん伸びており、平均身長が170cmになるのは時間の問題だといわれている。

 ボディビルの分野でも、ミスターユニバースの檜舞台で、末光選手・杉田選手・須藤選手というように、世界的選手が輩出しているのだ。

 今年度はNABBAの大会に、長宗五十夫選手・奥田孝美選手の2名が出場することに決定しているが、筋肉のカット、セパレーション、ポージングといった面ではまちがいなく世界の一流水準に達していると確信している。

5 運動が寿命に与える影響

 若いときから肉体鍛練を続けているスポーツ選手が、年をとってからどうなるか、誰しも関心が深いだろう。冒頭の岡田君の疑問はもっともなことである。

 スポーツ選手の寿命に関するデータがときどき新聞のスポーツ面にトピックスとしてのせられる。海外の例では、「アメリカの元野球選手は平均4~5年長生きしている」といったものや「ボート選手だった人はふつうの人に比べてやはり3~4年長命であった」という記事がのっていた。

 日本では順天堂大学の北村和夫博士の、大学の運動部に所属した人たちと国民平均生存率を比較したデータが有名である。それによると、各年齢で運動選手のほうが生存率が高く、運動によって心臓血管系が強化されることを示している。

 「スポーツが健康にいい」と一般にいわれているが、楽しむスポーツの段階なら正しいが、日本記録・世界記録を目標とする一流スポーツ選手となると話は別である。陸上競技・体操・水泳・レスリング・重量挙――どの種目でも肉体限界ぎりぎりに挑戦し、ときには減量のため絶食しながら何kmも走ったり、苦しいトレーニングをしなければならない。ウルトラCを生みだすために、体操やバレーボールの選手たちは血のにじむ苦労をしている。ボディビルでも脂肪を除きつつ、筋肉量(バルク)を大きく維持するために、どんなに苦しいトレーニングに耐えているか、その意志力に感服するばかりだ。

 このような激しい肉体酷使をするときほど、正しい栄養管理や医学チェックが必要である。最近はどの種目にも専任のトレーニング・ドクターやマッサージ治療師がつけられて、選手たちの健康管理をおこなっている。好ましいことである。

 一般人が適度のスポーツやトレーニングをおこなうことは、コレステロールや血圧の点で好ましいことは当然である。成人病の引き金になる肥満を解消する利点も大きい。「トレーニングをしないよりしたほうがいい」というのは誰にも明らかである。ある文化人はこう語っている。

 「1日に5分間、筋肉を充分に使うトレーニングをすると、残りの23時間55分は何をしなくても健康が維持できるように体の機能はできている」――逆にいうなら、1日中何も運動らしいことをしないと、体はなまって、成人病のカゲが一刻一刻とおしよせることになる。

 結論を急ごう。

①スポーツは寿命を長くする有用な手段である。健康管理として、一般の人が何か運動やトレーニングを継続することはたいへん好ましいことである。

②一流選手の過酷と思われる鍛練でもそれが寿命の短縮に結びつくことはない。ただし正しい栄養管理・健康チェックは必要である。

③寿命に影響を与える大きな要因は食事法である。不規則でアンバランスな食事では将来が不安である。たんぱく質・脂肪をはじめ各栄養素をバランスよく食べることだ。

④ストレスも寿命を縮める原因の1つである。イライラ、クヨクヨを避け、仕事一途でなく、適当な運動で気分をリフレッシュさせよう。
月刊ボディビルディング1980年9月号

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