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パワーリフティング競技における器具の規格化についての提言<2>
スクワット・ラック

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月刊ボディビルディング1979年1月号
掲載日:2018.09.15
日本ボディビル協会技術委員会委員長
名城大学助教授
鈴木正之

全日本ミドル・ヘビー級 記録保持者
名城大学教員
前田都喜春

Ⅲ スクワット・ラックについて

JBBAパワーリフティング規定第40条その①で、高さ110~135cm、長さ120~180cm、幅90cm、標準寸法として高さ120cm、長さ120cm、幅90cmとすると規定され、その④では、競技者が試技に失敗したとき、万一の事故を防止するため高さ50cm程度のところの両側に、バーベルの落下を防ぐ補助棒付ラックを必ず使用することと規定されている。
ここ10年来、上記のようなラックで競技が行われてきたが、不合理な面があったので、昭和52年2月10日に規定が改正され、現在使用されているようなラックになった。
IPF(世界パワーリフティング連盟)及びJPAでは、スクワット・ラックについてB-4で「とくに規定はないが、リフターが試技する重量を完全に支持し、かつ競技をしやすく設計されたものでなければならない」となっており明確な規定はない。同じく学生連盟も規定はないが、申し合せ事項として、危険防止の意味から「補助棒付スクワット・ラックを用い、必ずラック内で試技をする」(52年7月)ということになっているので、JBBAの規格器具と同様であると理解できる。

スクワット・ラックの改良点

1.スクワット・ラックの高さ

今までの公式試合に用いていた規格器具は、身長が考慮されていないため、最も低い一段目の高さは110cmで、実際には全く使用されていないのが実情であった。しかも、二段目、三段目になると、全くあいまいな高さとなっていた。時には二段式のものを使用したこともあった。
また、ストッパー(バーベル・シャフトが受け台から落ちないようにしてある突起)が3~5cmもあったものが見られたが、これも非常に使用しにくいものである。
以上のように、全くといってよいほど規格されたものがなく、行き当りバッタリであったというのが実状で、このため、選手も役員もしばしばとまどったものである。そこで、競技が安全でかつ良好な状態で行なわれるよう、研究してつくった統一規格を提案すると次のようになる。
[改良スクワット・ラックの標準寸法]

[改良スクワット・ラックの標準寸法]

一般に競技者は自分の身長より35cmくらい低いところでかつぐのが普通である。この点から、一段目120cm、二段目130cm、三段目140cmの三段階が適当と思われる。つまり一段目は120cm+35cm=155cm前後の身長の人、二段目は130cm+35cm=165cm前後の身長の人、三段目は140cm+35cm=175cm前後の身長の人というように分けられる。ここでの前後という許容範囲の解釈は5cmまでをみている。したがって、最小身長150cmから最大身長180cmまでが、いまあげた規格の範囲に入ることになる。
現在の日本人の身長からみればこれで充分であるが、国際試合が行なわれるような場合には不足するかもしれない。そこで、最小の120cmを最低値として12.5cm間隔で最高の高さを145cmにするとか、また、非常に高値なものになると思うが、競技用の専門器具としてスタンド型式で、油圧式やジャッキ式などの装置で、高低を自由に調節できるものがあればさらに望ましい。ただこの場合、危険防止のための補助ラックが別個に必要となる。
スタンド型式で補助ラックのない場合の事故については、例えば、オーストラリアで行われた第7回世界パワーリフティング選手権大会の時のジョーダン選手のように、挙上重量が重くなると補助員では支えきれないことや、危険な状態は一瞬のうちにやってくるため、補助員もとっさには対処できないなどのため、大きな事故につながってしまったケースもある。
また、過日の世界パワーリフティング選手権大会日本代表選考会の時、前田都喜春選手が、280kgのスクワットに成功のあと、スタンド式ラックにシャフトをのせたつもりが、のってなく危ぶなく280kgのバーベルを落とすところだった。このように、スタンド式ラックの場合は、とくにシャフトの受け台を無理なく安全に競技できるよう改良する必要がある。
そこで、一般に普及するための器具としては、使い易さ、安価、安全性等の総合的見地から、現在の日本で使用されているスクワット・ラックに勝るものはないといえよう。そのためには図に示したような規格で統一されたものができるように望みたい。

2.スクワット・ラックの幅

ラック幅の規格は、昭和52年2月まで、JBBAに90cmという規定があっただけで、その他には規格らしいものは全くなかったので、この90cmが一応の目安となり、各器具メーカーから売り出されているラックはほとんどこの寸法になっている。
この90cmのラック幅については、過去にも何回となく問題点が指摘されてきた。たとえば、重量級の選手では、膝や肘がラックにつかえるために、ラックの外まで出て試技をしなければならないという場合も起きる。また、学連のようにスクワットの試合規定に足幅の申し合せがなかった時など、1m以上の足幅で試技する選手もおり、当然、ラックの外に出て試技を行なうという危険な例も見られた。
以上の問題点より、ラックの幅は、バーベルのカラー幅135cmと、シャフトを握る手幅110cm以内を考慮し、かつ、ラックと左右のプレートとの間に10cm以上の余裕をもたせるため、110cmとすることが望ましい。

3.スクワット・ラックの補助棒

スクワット・ラックの補助棒についての明確な規定は、JBBAの競技規定第40条に示されているだけであるがこの規定も昭和52年2月10日に次のように改正された。
すなわち、従来50cmであった補助棒の高さを、身長、スクワットのフォーム等を考慮して、60~90cmまでの高低調整式補助棒付ラックを使用することと改正され、固定式の場合は、補助棒の高さを最低60cmと規定している。
国際ルール(IPF)や学生連盟では明確に規定していないが、危険度の一番高いスクワットについては、補助棒付ラックを使用することが望ましいのは確かである。
また、選手側よりみれば、しっかりした補助棒があれば思いきって試技を行なうことができる。選手あっての競技であり、選手に余計な負担をかけることなく、安心して全能力を発揮できるよう、補助棒付ラックの統一規格をもうけるべきである。

4.ベンチ・プレス練習時の補助棒

スクワット・ラックの補助棒は、同時に、ベンチ・プレスの練習時においても補助棒の役目を果す。
つまり、プレスに失敗したとき、頭や胸などを守ってくれ、かつ安全に逃げることができる。これもラック幅110cmと補助棒が有効に生きていることを示すものであり、器具の経済性と多様性が示された。

Ⅳ 改良器具に対するアンケート

☆調査年月日
昭和51年6月13日

☆調査対象者
第11回全日本パワーリフティング選手権大会出場者
アンケート配布72名、有効回収30名

☆調査対象年令
平均29.6才、SD4、9才、最高48才、最低19才

<A>総合評価
①今大会の器具が改良されていることに気がつきましたか
a 気がついた 70%
b 気がつかなかった 30%

②全体的に器具を使用した感じはどうでしたか
a 使い易い 86.7%
b 使いにくい 6.7%
c どちらとも言えない 6.7%

<B>ベンチ・プレス台の改良点
①ラック幅を39cmを48cmに改良
a ちょうど良い 66.7%
b 広い 33.3%
c 狭い 0%

②ベンチ幅25cmを27.5cmに改良
a ちょうど良い 83.3%
b 広い 16.7%
c 狭い 0%

③ベンチ台の高さは従来どおり40cm
a ちょうど良い 83.3%
b 高い 0%
c 低い 16.7%

<C>スクワット・ラックの改良点
①ラック幅90cmを110cmに改良
a ちょうど良い 96.7%
b 広い 3.3%
c 狭い 0%

②ラックの高さ110~135cmを120~140cmの3段階に改良
a ちょうど良い 93.3%
b 高い 6.7%
c 低い 0%

③補助棒は固定式50cmを高低調整式60~90cmに改良
a 調整式が良い 73.3%
b 固定式が良い 26.7%

Ⅴ まとめ

改良器具の規格化の中で、とくに重点をおいたのは、使用しやすいことと危険防止の2点である。その結果、次のような標準規格をつくった。

①ベンチ・プレス台の標準規格
a ベンチ幅 27.5cm
b ラック幅 48.0cm
c ベンチの高さ 40.0cm

その他、バーベル・シャフトの受け台と、ラックの高低調整がスムーズにできること。

②スクワット・ラックの標準規格
a ラック幅 110.0cm
b ラックの高さ 120.0~140.0cm
c 補助棒 60.0~90.0cmの高低調整式

その他、バーベル・シャフトの受け台を使用しやすくすること。

この規格に基づいて作成した器具を日本ボディビル協会の了解のもとに、第11回全日本パワーリフティング選手権大会に使用したところ、たいへん好評を得た。これは先に示したアンケートの回答からもよくわかるが、細部についてもう少し説明を加えてみよう。
A項の総合評価において、器具の改良に気がつい選手が70%もおり、しかも使い易いと答えた選手が86.7%と大多数の選手より好評を得ている。
B項の具体的なベンチ・プレス台の改良点についての設問に対する回答は①のラック幅の48cmについて「ちょうど良い」と答えた選手が66.7%と最も多かったが、「広い」と答えた選手も33.3%とかなり多かった。しかし、「広い」と答えた選手に日本新記録や好記録がみられたという結果からみても、これは、ふだん練習しているラック幅の狭い器具に慣れていて、急に改良器具を使用したためなんとなく広く感じたのではないかと思う。逆に「狭い」と答えた選手が1人もいなかったところからもう少し狭くしても良いように思えるが、これ以上狭くするとナロー・グリップ・ベンチ・プレスが非常にやりずらくなるので、この規格が良いと思う。
②ベンチ幅は「ちょうど良い」と答えた選手が83.3%と多く、この規格が良いと思うが、「狭い」という回答がなく、「広い」という回答者が16.7%いたことから、あと0.5cm程度狭くして27cmにしても良いと思う。
③のベンチの高さ、「ちょうど良い」が83.3%と多いので、従来どおりで良いが、これも「高い」という回答者がなく、「低い」が16.7%いるところから、1cmくらい高くしても良いと思う。
C項のスクワット・ラック改良点について設問では、①のラックの幅と、②のラックの高さについては、それぞれ96.7%、93.3%が「ちょうど良い」と答えており、圧倒的に改良器具が好評を得たことを示している。
③の補助棒については、「固定式が良い」と答えた選手が26.7%と、予想外に多かったが、これは、試合では両サイドに補助員がつくので、補助棒の意味を、大会専用の器具に対するアンケートと勘違いした選手が多かったので、この数値となったと思われるが、実際に必要性を感じている人が多かったので、これも改良器具の標準寸法は妥当と思われる。
また、このスクワット・ラックの補助棒を高低調整式に改良すれば、スクワットの障害防止に役立つのみならず他の運動にも、そのまま利用することができる。
たとえば、ベンチ・プレス台を新規格のスクワット台の間に置いてベンチ・プレスをすれば、補助員なしで安全に練習ができる。
[改良スクワット・ラックを使ってのベンチ・プレス]

[改良スクワット・ラックを使ってのベンチ・プレス]

また、スクワットやデッド・リフトの補強運動として、高さを調節してハーフ・スクワットやハーフ・デッド・リフトができるし、あるいはアイソメトリック・トレーニングもできる。
今後、これを機会に日本ボディビル協会、日本パワーリフティング協会、および、器具メーカーなどに働きかけて、ぜひ一般に普及させたいと考えている。関係各位のご協力をお願いする次第です。
月刊ボディビルディング1979年1月号

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