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正しい栄養シリーズ(最終回)
タンパク質豊富な海の幸
魚介類

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月刊ボディビルディング1979年1月号
掲載日:2018.09.13
国立競技場トレーニングセンター
木村リミ
水産動物には、魚類、軟体類、甲殻類、貝類、鯨類など、種類も多く、四面、海に囲まれている我が国にとって古くから欠かすことのできない食糧資源であり、とくに、日本人の動物性タンパク消費量の約半分をこの水産動物が占めている。今月は、正しい栄養シリーズの最終回として、この魚介類をとりあげてみた。

☆魚の一般的栄養について☆

魚は栄養的には重要なタンパク源であり、鳥獣の肉とほとんど同じような成分を持っている。タンパク質の含量も同程度で、質もだいたい似ている。種類により多少違うが、一般に消化もよい。とくに脂肪の少ない白身の魚は消化がよいようである。例えば、カレイは、昔から病人の魚といわれ、脂肪が少なく高タンパクで、ひじょうにやわらかく、栄養をつけ、体力を回復するのに最適な魚といえよう。
魚類の脂肪は不飽和脂肪酸が多く、獣肉の脂肪とちがって、高血圧や動脈硬化を招くことが少なく、むしろ、血中コレステロールを低下させる働きがある。この点が獣肉類との大きなちがいで、魚肉の長所であるが、欠点は、この脂肪が変質しやすいこと、つまりくさりやすいことである。
魚油には、他の動植物油に比べて、高度の不飽和脂肪酸が多く含まれていて、これが酸化して悪臭を放ち、有毒になり、下痢やジンマシンの原因になったりする。獣肉の場合は、「腐れかかった肉がおいしい」などという人もいるが、魚の場合は、とにかく衛生上はもちろん、栄養的にも味覚の点からも、新鮮なことがまず第一である。
魚類にはビタミン類も多く含まれていて、とくに内臓や皮に多く、また普通肉よりも血合いの部分に多い。ビタミンのうちでもA、B2、D等をたくさん含む魚が多く、ウナギ、ヤツメウナギ、ドジョウなどのように、ウロコのないヌルヌルしたものや、ウロコの小さい魚に多いようである。眼病や精力減退に効果があると昔から珍重されているのもこのためであろう。サケ、カツオ、ブリ、ニシン、コイ、フナ等にもビタミンが多い。
概して肝臓や卵にはビタミンが豊富で、目玉のまわりの肉にもたくさん含まれている。
カルシウムは小骨や軟骨と食べることによって、たっぷりと摂取できる。つまり、栄養的には、丸ごと食べられる小魚が一番理想的なわけである。
頭ごと食べられない魚でも、皮や小骨、内蔵、頭のまわりのゼラチン質の肉までていねいに食べれば、いろいろな成分が吸収できる。昔の殿様のようにやわらかい肉だけチョコッとむしって、上品に食べている人とは、かなりの差がつくはずである。とくに、これらの部分には、骨や靱帯をつくる成分も多いので、脊椎や関節の弱い人におすすめしたい食べ方である。ただし、消化があまり良くないので、カラ揚げにしたり、酢につけたり、あるいは、スープに煮出したりといったように、好みによって工夫するとよい。
ところで、日本人の好きな刺身の場合は、ビタミン、ミネラルの含量は少ないが、タンパク質の摂取のためにはとてもよい食べ方である。消化がよく脂肪も良質なので、肉や卵に代わるタンパク源として考えてよいだろう。
次に、魚の命ともいえる鮮度の簡単な見分け方を紹介しよう。
鮮度のとくに悪いものは、ニオイが悪くなるのでだいたいわかるが、目玉をみるとよくわかる。張り出して澄んでいるものが新しく、古くなると、へこんで濁ってくる。皮の色も変わってくるが、我々には見わけにくいので、皮の粘液が多いものは、おおむね鮮度が悪いと思えばよい。
内臓はまっ先にくさりはじめるところで、腹を押して、ブヨブヨしたものはいけない。エラは鮮紅色のものが新しく古くなると暗緑色になる。
赤身の魚にはヒスチジンが多く、くさるとヒスタミンに変わり、中毒を起こす。とくに、サバやアジは、変質しても、見かけは新鮮そうに見えるので注意しなければいけない。
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☆貝類(シジミとカキ)☆

貝類は魚に比べて、一般にタンパク質、カロリーともに少し低めであるがカルシウムが多く、その他のミネラルも多いので、滋養強壮のためにはとても有効な食物である。
貝類は種類は多いが、ふだん我々が食べるものは、アカガイ、アサリ、ハマグリ、シジミ、ホタテガイ、カキ、サザエ等で、いずれも栄養的にはだいたい似ている。
中でもシジミは、安価で、庶民的な貝としておなじみである。古くから病人や虚弱体質者に食べさせるとよいとされ、とくに、肝臓病や貧血、とり目等に卓効があるといわれている。貝の中でもシジミはきわだってカルシウムが多く、他のミネラルやビタミンも多く含まれている。
シジミは味噌汁にするのが一番おいしく、栄養的にもバランスがとれ、消化もよいようである。貝の身を食べなくても、エキスが味噌汁の中に出るので、胃腸の弱い人や老人子供の栄養補給にはうってつけである。
貝の中でも比較的高級なものの1つにカキがある。おいしくて、栄養的にも優秀で、タンパク質は少ないが、グリコーゲンが多く、カルシウム、鉄、マンガン、ヨード等のミネラルも豊富である。とくに鉄は、ほうれん草の2倍くらいある。ビタミン類は各種まんべんなく多く、貝類の中で一番といえる。カロリーは100gで96カロリーと低いが、栄養的にはレバーに匹敵するものである。
カキは消化がよく、加熱してもやわらかいのが、他の貝とちがうところである。新鮮な生のカキに、レモンをしぼって食べるのが最高だが、カキ鍋、カキフライ、カキめし等、いろいろな料理にして楽しめる。ただ、くさりやすいので、生で食べる場合はよほど気をつけなければいけない。とくに、夏場は毒素が発生するといわれ、くさるのも早く、味も落ちるのであまり食べられない。毒のない新鮮なものでも、食べすぎると、消化しきれず腸の中で毒素が発生して中毒するので、腹八分目にすること。
また、カキはシジミとともに、貧血や肝臓、結核等に効果がある強精食品といわれている。カキの殻の粉末は精力増進剤として市販されており、漢方でも牡蠣(ボレイ)といって、神経の疲れやヒステリー、ひきつけ等の薬として処方される。その他、骨を強くするのにも効果がある。

☆エビ・カニ、タコ・イカ他☆

エビとカニは、味覚の点では珍重されているが、栄養的にはとくにすぐれたものはない。魚のようにふだんよく食べるものではないが、味のよさにつられて食べすぎない方がよい。消化もあまり良い方ではない。
栄養的に価値があるのは、身よりも殻の方で、イセエビやマツバガニのように立派なものよりも、殻ごと食べられるサクラエビやサワガニ等の小さいものの方が栄養的にはまさっている。小さなエビを干したものや、小ガニのツクダ煮やカラ揚げ等はカルシウム源として好適の食品である。
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イカとタコは頭足類の軟体動物で、姿のグロテスクなことから海外では嫌われているが、我が国では、いろいろな食べ方がされている。
特有な味を持っているだけでなく、一般の魚とちがったタウリンという成分があり、精力増進、疲労回復に効果がある。タウリンはカキやアサリにも含まれているが、カルシウムの吸収をよくする働きもあり、骨格をよくし、丈夫なからだをつくるのに役立つ。スルメの表面の白い粉はタウリンなので、はたき落とさない方がよい。
タンパク質の含量は、イカ17%、タコ14.6%でそれほど多くなく、カロリーも低い。組織がかたいので消化が悪く、吸収率も良いとはいえないので、胃腸の弱い人にはあまりすすめられない。また、煮すぎるとゴムのように硬くなり、味も悪くなる。
イカもタコも乾燥させると、さらに旨味が増すが、消化が悪いのが欠点でよほどよくかまないと、消化不良になる。
魚介類の卵巣は非常に栄養豊富で、タンパク質は脂肪に富み、ビタミン類もたっぷりある。とくにウニは、独特の風味と舌ざわりで美食家の垂涎の的であるばかりでなく、生ウニは精力減退、スタミナ低下を防ぐ特効薬のようにいわれており、身体をあたため、疲労回復の効果は著しい。ただ、とても高価なために、庶民の日常の食卓ではあまりお目にかかれない。
魚の卵は栄養が豊富で、スジコ(サケ)、タラコ(タラ)、カズノコ(ニシン)、カラスミ(ボラ)等も高タンパク、高カロリーの栄養食品である。
カマボコやチクワ、ハンペン等の練り製品は、白身の魚をすりつぶしたものに、食塩、ミリン、砂糖、卵白、デンプン等を加えて蒸したものであるが安いものはデンプン等の添加物の方が多く、魚肉のタンパク質を摂ったつもりが、実は小麦粉やデンプンを食べただけということにもなりかねない。

以上、海産動物について述べたが、四面を生みに囲まれている日本人にとって、魚介類は大切な食糧資源であり、タンパク源である。酸性度の少ないこれらの魚介類を、大いに食卓にのせたいものである。
月刊ボディビルディング1979年1月号

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