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★内外一流選手の食事作戦②★
ラリー・スコットの食事法

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月刊ボディビルディング1979年3月号
掲載日:2018.10.20
健康体力研究所・野沢秀雄

1.スーパーマンがやってくる

「アッ空を見ろ! スーパーマンだ!」「タマよりも速く、機関車よりも強く、高いビルもひとっ飛び……」でおなじみのスーパーマン。マンガやテレビ映画で超人的な活躍ぶりで有名だが、6月末に70億円をかけた超大作映画が日本でも封切られることが決定した。
あの「ジョーズ」や「スターウォーズ」をしのぐヒット確実といわれ、私がハリウッドにいったとき、この作品が公開直前で、ロードショウ劇場に前売切符を求める人がすでに何人もならんでおり、人気は上々であった。
主演スターに選ばれたクリストファー・リーブは、強いヒーローのイメージづくりのため、役が決定してから撮影中まで約3ヶ月、みっちりとボディビル・トレーニングを実行し、おかげで腕や肩・胸にほどよく筋肉がついてきたという。もちろん、ビルダーに比べればまだまだ弱々しいが、一般の人よりずっと逞しくなったことは当然である。この映画をきっかけに、日本でも強くなりたい人が、どんどんボディビルを始めれば何よりである。

2.昔と現在はちがう

さてこの映画、昔のテレビ映画のような幼稚な特撮とちがって、超高層ビルから本当に飛ぶシーンや、列車を支えて通過させるシーンなど、本物に近い状況を再現し、アメリカの最新の技術を駆使した超大作である。従来の作品に不満だった人でもきっと満足するにちがいない。
食事法やトレーニング法についても選手のずっと以前の体験談や記事をもとに論じたのでは、日進月歩の今日、感覚がずれて間違ってしまう。
ミスター・ユニバース・末光健一選手は、健康体力研究会で次のように語っていた。
「私がボディビルを始めて筋肉がつきだしたころ、もっと早く効果をあげようとして、なまの牛肉を食べたり、大豆をふかしてそのまま食べたり、ずいぶん無茶な食事法をしていました。当時は正しい知識がなく、たんに食べればいいと考えていたからです。自分が間違っていたと感じたのは、ずっと後になってからです」
このように、トレーニング法や食事法は勉強や研究によって進歩・成長するものだし、また周囲の社会的環境も変化し、昔は入手できなかった製品が楽に得られるようになったりする。
この食事作戦シリーズも、なるべく最新の内容で、かつ科学的に正しい情報をお伝えしたいと思う。「タタミと女房は新しいほうが……」などという諺もあるが、情報も新しくてイキのいいものほど価値があるわけだ。

3.親切な心のNo.1はスコット

私がアメリカ滞在中に、有名なビルダーたちに食事法のアドバイスを依頼したなかで、もっとも早く、かつ親切に、くわしく返事を書いてくれたのはラリー・スコットである。
ミスター・アメリカ、ミスター・ユニバース、ミスター・オリンピアの三冠王で、「キング」と呼ばれる彼、少年時代は骨が細くてなで肩で、虚弱だった体を懸命なトレーニングで世界一の肉体の持主にまで変身させたスコットは、40才近い現在も、アメリカ全土で開かれるコンテストにゲストとして招かれ、トレーニング法や食事法についても親切に教えてくれるため、人望が厚く、人間性も第一級である。本誌上を借りて、気持よくアドバイスしてくれたことを感謝したい。
まず彼の身体のサイズは、身長5フィート8インチ(173cm)、体重195ポンド(88kg)、胸囲48インチ(122cm)、上腕囲20インチ(50.8cm)と彼自身記入している。一般にアメリカンのビルダーはサイズをあまり公表したがらないが、スコットは堂々と発表してはばからない。彼はアメリカ人としてはやや小柄だが、やはり体重は重く、標準体重(65.7kg)に対して約30%上廻っていることになる。つまり、この差22.3kgは、いうまでもなく脂肪ではなく筋肉(たんぱく質)である。
さて、彼の毎日の食事はだいたい次表のとおりで、コンテスト前も、シーズン・オフもあまり変わらない。
ラリー・スコットの食事内容

ラリー・スコットの食事内容

4.スコットの食事分析

彼の方針は「炭水化物は極力減らしたんぱく質と脂肪を主体にすることであり、その点、前回のフランク・ゼーンはじめ、世界のトップ・ビルダーに共通である。
とはいえ、栄養分析をすると、1日当り約5,200カロリー、たんぱく質440g(46%)、脂肪284g(30%)、炭水化物220g(24%)となり、たんぱく質は体重1kg当り5gにも達している。これは相当にオーバーで、無駄になっている部分が多いのではないかと思われる。
たんぱく質摂取量を半分くらいに減らしても、現在の体は維持される計算である。そのうえ、お気づきのように調理した食品が少なく、単一の食品が並んでいる。この場合、どうしても微量栄養素のビタミン類、ミネラルがアンバランスになるので、補強のために各種の錠剤を食べることが必要で、スコットも間食に摂取している。
「トレーニングをおこなう人にとって食事法はもっとも大切な要素です」とスコットは手紙に書いてくれたが、まったく同感で、トレーニングのプログラムやコースがあるのと同様に、食事法にもプログラムやコースがあっていいはずだと筆者はかねてから考えている。一連のこの研究も食事法プログラムの完成を目標にしているといっても過言ではない。
ラリー・スコットの食事内容をどう判断するか? これを見習うか、それとも批判して否定するか。もちろん、世界超一流選手を批判することは私にはできない。ではどう考えるか?
「彼の食事内容は、長い経験を積み数々のビッグ・タイトルをとった選手が、ハード・トレーニングをする場合の特別専門級の食事法だ」と解釈したい。つまり、ボディビルをする人に、初級者、中級者、上級者という段階があり、それぞれに応じた練習法やコースがあるのと同様に、食事法についても普通に近い内容から、スコットやゼーンのようなプロ級に至るまで、段階があっていいはずである。
「スコットと同じ練習法をしよう」と意気ごんで開始しても、全種目を同じ重量でこなせる人はほとんどいないのと同様に、食事法をたんに真似しても不可能だったり、効果がなかったりあるいは逆に体調をくずしたりしてしまう。あくまでも参考にして「自分は自分」というペースを把握することが大切である。

5.スコットからのアドバイス

もちろん彼自身、誰にでもこの内容を一律にすすめているわけではない。求めに応じて率直に彼自身の食事内容を公開してくれたのである。
日本のビルダーに彼がすすめてくれたポイントを紹介しよう。

①朝・昼・夜の3回の食事で栄養をとろうとするのではなく、1日6食するつもりで、毎食少量ずつでいいから分けて食べる。

②たんぱく質が大切なので、肉・魚・チーズ・卵・乳製品・プロテイン製品を重視した食事内容にする。

③パン・ケーキ・菓子パン・ホットケーキ・たこ焼・お好み焼(もちろん米飯や麺類も含めて)などは炭水化物なので、なるべく最小限にひかえるようにする。

④食品は精製したものより、自然のものを尊重して食べる。

⑤プロテイン製品を有効に使うこと。1日に1カップか2カップのパウダーを使うつもりでよい。(というと1日に100~200gになり、ちょっと多すぎる感じがするが)

⑥牛乳は1日に2クォーツだから1ガロン飲むとよい。(2~5lになり、これも日本人の体格からみて大量すぎるようだが……)

⑦ビタミンCは1日に1gをとるつもりがよい。(日本人の平均は0.6g、ビルダーの場合は、普通1gとっている人が多い)

⑧ビタミンEは1日に500国際単位とると、バテずに練習できる。(ジャームオイルの採用が望ましいわけだが、ピーナッツやサバの缶詰、あるいは一般の植物油にも多く含まれる)

⑨ビタミンB複合剤やミネラル剤(カルシウムなど)も積極的にとりなさい。

⑩卵は1日に6~8個、ときには12個くらい食べることをすすめます。炭水化物がほとんどなくて良質のたんぱく質です。(彼の食事法では1日に15個ずつ食べています。コレステロールの心配があるので、30才をすぎた人は1日4個以内にしたほうが無難。10代や20代前半の人なら6~8個食べてもOKといえる)

⑪レバーはぜひ使いなさい。たんぱく質を分解する酵素の作用をおこない消化を助けて有効である。

× × ×

というわけで、ラリー・スコットの食事法のうち、量的な問題はともかくとして、彼の基本的な考えやアドバイスは貴重で役に立つにちがいない。自分のトレーニング量に応じて、採用できる部分はどの程度までかをよく検討して、これからの練習に役立てていただければ幸いである。
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月刊ボディビルディング1979年3月号

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