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なんでもお答えします Q&A 1979年4月号

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月刊ボディビルディング1979年4月号
掲載日:2018.11.08

初心者のスランプ脱出法

Q ボディビルを始めて4ヶ月ほどになります。初めは4種目の運動を2セットずつ行なっていましたが、その後、徐々にトレーニング量をふやし、1ヶ月ほど前から下記のスケジュールでトレーニングしています。

<トレーニング・スケジュール>
①スクワット 35kg 10回×5セット
②スタンディング・プレス 15kg 10回×5セット
③ベンチ・プレス 35kg 10回×5セット
④ベント・オーバー・ローイング 20kg 10回×5セット
⑤バーベル・カール 25kg 10回×5セット
⑥シット・アップ 10回×5セット
*以上の6種目を週6日実施。トレーニング後の疲労感はかなり強。

ところで、上記のスケジュールを採用して10日ほど経つと、それまで順調に発達していた筋肉がぜんぜん伸びなくなり最近ではむしろ減退していくような感じさえするようになりました。そして、体重も少し減り、からだ全体の筋肉もいくぶん落ちたようにも見えます。まじめに一生懸命トレーニングしているのに、これはいったいどうしたわけでしょうか。人一倍努力しているつもりですが、まだ努力が足りないのでしょうか。
しかし、現段階では、今のトレーニング量が体力的に限度です。どうしたらこのスランプから抜け出すことができ、また、効果が得られるようになるでしょうか。
なお、開始時と3ヶ月後、および現在の体位は次のとおりです。
(北九州市 外川欣治 工員 22歳)
記事画像1
A スランプの原因は、なんといってもトレーニング過多によるオーバー・ワークにあると思います。あなた自身は逆にトレーニング量が少ないのではないかと懸念しておられるようですが、少ないどころか現段階では多すぎます。
あなたの体位と筋力から推測して、いま実施しているスケジュールは無謀といわれてもしかたがないくらいボディビルの理論に反したものです。そのことを具体的に指摘すれば、1つは1日に行なうトレーニング量、そしてもう1つは週間頻度の2つの点で誤りを犯しているといえます。では、この2つの問題点についてくわしく説明をしましょう。

①トレーニング量について
まず、1日に行うトレーニングの量が多すぎます。トレーニングの効果というものは、トレーニングの量を増しさえすれば多く得られるといったものではありません。
トレーニングの効果は、トレーニングによって消耗した筋が、トレーニング前の状態に戻った後に、超回復というかたちで得られます。したがって、そのような効果を得られる経過、つまり、消耗→回復→超回復という過程に支障を来たすようなトレーニングの方法では効果が得にくくなります。
詳しい説明は省略しますが、結論的にいって、トレーニングの過多は筋と体力の消耗を必要以上に強度なものにするので、回復→超回復の過程に支障をきたし、せっかく行なったトレーニングの効果を半減、もしくは無にすることになります。そればかりか、はなはだしいときは、あなたの場合のように、それ以前に得た効果をも減少させることにもなります。
したがって、トレーニングの効果を得るためには、回復→超回復の経過が順調になされる範囲にトレーニングの量(および強度)を押えて、実施することが肝要です。
そのような意味で、あなたの場合現段階では、6種目の運動をそれぞれ5セットずつ行うのは多すぎると思います。今後は2~3セットずつにしてトレーニングするのがよいでしょう。

②週間頻度について
前項で説明したように、1日に行うトレーニング量が多すぎると思われるのに、それを週6日も行うのは無謀としかいいようがありません。
健康管理といった意味で、ごく軽度のトレーニングの場合には、連日行うこともありますが、積極的な筋力の強化、または筋肥大を目的としてボディビルを行う場合は、1~2日置きにトレーニングを行うようにするのがよいといえます。
つまり、トレーニング後の疲労が回復→超回復するのに2~3日くらいかかると判断されるからです。
したがって、あなたも速やかにトレーニングの週間頻度を改める必要があると思います。

× × ×

あなたのご質問に関連した記述が、3月号のQ&A、ならびに今月号の最後に出てくるH・O君への回答欄にもあるので、それを参考にして検討してください。
なお、バーベル・カールの使用重量が重すぎると思われますので、それも再検討してみてください。反動を使って運動を行なっているものと考えられるので、もしそうであれば、12~12.5kgくらいにして、正確なフォームで行うようにするのがよいと思います。

プッシュ・アップとベンチ・プレスでは、どちらが胸部に有効か?

Q 私は現在、胸部を鍛錬するのにベンチ・プレスを行わずにプッシュ・アップを行なっています。
雑誌などで見ても、おおかたのボディビルダーは、ベンチ・プレスによって胸部を鍛錬しており、プッシュ・アップによる方法はあまり採用されていないようです。このことは、プッシュ・アップがベンチ・プレスに比べ、胸部の運動種目として劣るということになのでしょうか。果たして、多くのボディビルダーが軽視するほどにプッシュ・アップは運動としての効果がなく、価値のないものなのでしょうか。
例えば、胸部を鍛錬するのに、ベンチ・プレスを行う者と、プッシュ・アップを行う者がいたとして、それぞれ同時にトレーニングを始めた場合、1年後には、効果の面でかなりの違いが生じてくるでしょうか。以上のことについてお答えください。
(奈良市 西尾弘吉 22歳)
A ベンチ・プレスもプッシュ・アップも、胸部の鍛錬に有効な運動種目であることには違いありません。しかし、効果の面で全く同じというわけにはいきません。
両者の運動としての効果を大胸筋に限定して比較すれば、ベンチ・プレスの方がプッシュ・アップよりも優れているというのは確なことです。したがって、あなたの質問の趣旨を大胸筋の発達ということに限定してお答えすれば、1年後には、ベンチ・プレスを行なった人の方が、プッシュ・アップを行なった人よりも大きな効果が得られるであろうということがいえます。ただし、このことは、可能性の問題として常識的にいえることであり、両者の身体的な素質が等しく、また、双方がそれぞれ誤りのない方法でトレーニングを行なった場合についていえることです。
それでは、ベンチ・プレスとプッシュ・アップの運動種目としての有効性と価値について考えてみることにしましょう。
前途したように、ベンチ・プレスとプッシュ・アップの有効性を大胸筋に限定して比較した場合には、前者が後者に勝っているであろうことは否定できません。しかし、だからといって、ベンチ・プレスの方がプッシュ・アップよりも運動種目として優れており、また、価値があるとは単純にはいいきれません。それぞれの運動種目の有効性と価値といったものは、それぞれの運動種目の、運動としての特性を考慮した上で評価されなければならないからです。
したがって、そのような観点からベンチ・プレスとプッシュ・アップを比較すれば、双方ともそれぞれ運動としての特性を有しているといえるので、いずれか一方が他方よりも優れており、また、価値があるとはいちがいにはいえません。
運動の効果を大胸筋に限定すれば、ベンチ・プレスの方がプッシュ・アップよりも確かに優れているとはいえます。しかし、プッシュ・アップにはプッシュ・アップなりに、ベンチ・プレスにない運動としての特性があります。
つまり、前鋸筋や肋間筋等に与える効果についていえば、プッシュ・アップの方がベンチ・プレスよりも有効度が高いといえます。また、運動の効果を胸部に限定しなければ、プッシュ・アップは、腹直筋や腸腰筋、および腰背部の筋の強化にも効力があるといえます。
したがって、トレーニング上の目的によっては、ベンチ・プレスと同様に、あるいは、それ以上の運動種目として必要かつ重要になる場合もあり得ます。たまたまボディビルの場合には、からだの筋をごく部分的に限定して鍛える方法が多く採られるので、胸部に限定していうならばベンチ・プレスの方がプッシュ・アップよりも重要視されているといえます。
しかし、他のスポーツの補助および補強運動としてウェイト・トレーニングを行う場合には、全身的な協応性が高める方向で筋力を強化する必要もあるので、より全身的な運動であるプッシュ・アップが、ベンチ・プレス以上に重視される場合もあります。
以上に述べたことによって、運動種目の有効性と価値については、トレーニング上の目的によって評価されるべきものであることがお解りいただけたかと思います。

空手選手として均整のとれた体をつくり、パワーをつけたい

Q 僕は以前ボクシングをやっていましたが、最近、空手に転向しました。ボクシングを行なっていたときは、ライト・ウエルタ一級で、このクラスでは身長が高く、細身の方で、アウト・ボクサー・タイプでした。
ご存じとは思いますが、アウト・ボクサー・タイプというのは、どちらかというとパンチ力よりも足を使い、フット・ワークを主体にして攻撃するタイプのボクサーのことをいいます。
そこで、今度、空手に転向すると同時に、からだ(とくに腕と脚)にパワーをつけるためにウェイト・トレーニングをはじめました。そして、現在は下記のスケジュールでトレーニングを行なっています。

<トレーニング・スケジュール>
トレーニング頻度は週5日。使用重量は50kgのバーベル、および12.5kgのダンベルでシット・アップを除いて各種目とも7回×1~2セット。

①ベンチ・プレス
②フル・スクワット
③シーテッド・ダンベル・カール
④シーテッド・ダンベル・プレス
⑤シット・アップ(傾斜は約30度。2kgくらいの負荷をかけて、20回×1~2セット)

<現在の体位>
身長 177cm
体重 64kg
胸囲(拡張時) 92cm
胸囲(縮少時) 70cm
上腕囲(コールド) 28cm
前腕囲(コールド) 25cm
大腿囲(コールド) 51cm
下腿囲(コールド) 35cm

何よりも体が細いので、まず均整のとれた体にしたいと思います。おおよその目標体位と、腕・脚の筋力を強くする方法をご指導ください。
(静岡県 H・O 17歳)
A はじめに目標体位についてお答えします。しかし、実際のところ、ただ「目標体位」といわれても、何を基準にしてお答えすればよいのか全くわかりません。
例えば、一流のボディビルダーになるにはどのくらいのサイズが必要か、といったような具体的な目標を呈示した質問でしたら、その条件を満たすためのある程度のサイズを指示することはできます。ところが、あなたの質問には、「トレーニング上の目的」が具体的に呈示されていないので、「目標体位」を算定する基準が設けられません。
そこで、その辺のところをこちらで適当に解釈し、現段階において無難、かつ、一応のスポーツマン志向を満足させることのできそうなサイズを参考までに記しておくことにします。
しかしサイズの数字に関しては、はっきりとした根拠があるわけではないので、その点誤解のないように。体形的なイメージによる期待値であると考えてください。

身長 177cm
体重 67~69kg
胸囲(拡張時) 105~108cm
腹囲(縮少時) 72~76cm
上腕囲(コールド) 32~33cm
前腕囲(コールド) 27~28cm
大腿囲(コールド) 54~56cm
下腿囲(コールド) 37~38cm
(但し、体重と各部位のサイズの関係は体脂肪の多少によって違ってくるので、その点に注意)

では、次いで、トレーニング法についての意見を述べさせていただきます。

<週間頻度について>
あなたは現在、週に5日の頻度でトレーニングを行なっておられますが、率直にいってこれは多すぎると思います。
トレーニングの頻度を決めるにはトレーニングの内容(量と強度)を考慮する必要がありますが、それだけでは十分とはいえません。トレーニングの頻度を決定するいまひとつの大切なことは、トレーニングを行うことの目的を明らかにし、その上で、その目的に則して検討するようにするということです。
つまり、ウェイトを使用するトレーニングを行うにしても、単なる健康法として行う場合と、積極的な体力強化(あるいは体位向上)の手段として行う場合とでは、トレーニングの内容(量と強度)が異なってくるだけではなく、適切とされるトレーニングの頻度も違ってきます。
単なる健康法として行うのであればトレーニングの内容をごく軽度にして、頻繁に行うようにするのもよいでしょう。しかし、積極的な意味での体力強化(体位向上)の手段としてボディビルを行うのでしたら、トレーニングの内容を行うのでしたら、トレーニングの内容をある程度強くして、トレーニングの頻度はむしろ少なく(週2~3日に)するほうがよいといえます。
あなたの場合、体力の強化、および、体位の向上がトレーニングの主目的と見受けられるので、もう少しトレーニングの内容を充実させ、週間頻度を2~3日にしてトレーニングを行うようにするほうがよいのではないかと思います。
例えば、週2日の場合は、月曜・木曜とトレーニングし、他の5日を休日とする。また、週3日の場合なら、月曜・水曜・金曜とトレーニングし、残りの4日を休養日とする。

<トレーニング・コース例>
①シット・アップ 2セット
②ベンチ・プレス 2~3セット
③ベント・オーバー・ローイング 2セット
④シーテッド・ダンベル・プレス 2セット
⑤シーテッド・ダンベル・カール 2セット
⑥スクワット 2~3セット

<反復回数>
反復回数は今までどおり7回を基準にして行なっても別にさしつかえありません。但し、スクワットだけは、現段階で10~12回の反復回数で行うのがよいと思います。
<運動の動作>
使用筋に負荷が的確にかかる動作で行うことです。また、反動をできるだけ使わないようにして、中間動作をていねいに行なってください。
<使用重量>
各種目の使用重量は、正しい動作で所定の反復回数を多少(2回くらい)余裕を持って行えるくらいのものを使用する。余裕のない重量を用いると、運動が不正確になるおそれがあるので注意してください。

× × ×

なお、腕と脚の特別なトレーニングに関しては、今のところその必要がないと思いますので省略させていただきます。現段階では、基本的なトレーニングを実行することで十分その目的が達せられると思います。
[回答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内威先生]
月刊ボディビルディング1979年4月号

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