食事と栄養の最新トピックス(16)
どこまでが有効で、どこからは無効か?〈その1〉
月刊ボディビルディング1981年12月号
掲載日:2020.08.14
健康体力研究所 野沢 秀雄
1.ビルダーの疑問
「筋肉を大きくするにはトレーニングと同時に食事法について研究し、栄養素をじゅうぶんにとらなくてはならない」と一般によく言われる。
栄養素に関する知識は次第に高まりつつあるが、一流選手ともなると「日本で手に入る製品だけでは足りないのではないか?」と心配し、海外から高い費用を投じて「高ビタミン・高ミネラル」の製品を買ったり、液体のアミノ酸製品を使ったりする人もしばしば見受けられる。
ボディビルを実行する上で、どの位食べるのが適当なのか、基準が明確になっていないので、不足してうまくゆかない人がいる一方で、過剰にとりすぎて無理や無駄を積み重ねているビルダーも多い。
今月から2~3回にわたって、私自身の経験をふまえて、総集的にアドバイスを贈りたいと思う。お役に立てば何よりである。
栄養素に関する知識は次第に高まりつつあるが、一流選手ともなると「日本で手に入る製品だけでは足りないのではないか?」と心配し、海外から高い費用を投じて「高ビタミン・高ミネラル」の製品を買ったり、液体のアミノ酸製品を使ったりする人もしばしば見受けられる。
ボディビルを実行する上で、どの位食べるのが適当なのか、基準が明確になっていないので、不足してうまくゆかない人がいる一方で、過剰にとりすぎて無理や無駄を積み重ねているビルダーも多い。
今月から2~3回にわたって、私自身の経験をふまえて、総集的にアドバイスを贈りたいと思う。お役に立てば何よりである。
2.たんぱく質必要量
たんぱく質はプロティンと呼ばれているが、語源は「第一番に重要な物」というギリシャ語からきている。つまり身体を造りあげる上で、もっとも重要な栄養素である。
筋肉細胞をはじめ、骨・皮ふ・神経・内蔵・心臓・血液などなど、身体をつくっている材料はほとんどたんぱく質である。身体の細胞は時々刻々と変化しており、古い細胞が壊れては新しい細胞に生まれ変っている。
特にウェイト・トレーニングでは筋肉の限界ぎりぎりの負荷を与え、筋肉細胞に損傷を与えるところまで鍛えてゆく。その結果「より強い筋肉組織をつくらなくては……」と栄養素が動員されて、強くて容積の大きい筋肉が養成されてゆく。
トレーニングした翌日、筋肉がジーンと痛むのは、それだけ刺激を与えた結果であり、逆にいえば、筋肉の心地よい痛みが感じられなければ筋肉は発達していないといっても過言ではない。毎日のトレーニングが同一レベルのままで、負荷を増してゆかないと、筋肉は大きくならない。
運動生理学では「超回復」という言葉を使うが、消耗した筋肉線維が栄養と休養により、いっそう強くなることを指し、これがボディビルの原理であることはいうまでもない。
ところで、食事からとったたんぱく質のみが全身の細胞組織に変るわけでない。炭水化物や脂肪も体内でたんぱく質に変りうる。草ばかりしか食べない牛や馬が立派な筋肉をつくることでわかるように、菜食主義でも身体は維持できる。
ただし、人間の体内でどうしても合成できない要素がある。たんぱく質は20種類のアミノ酸が複合してできているが、このうち8種類のアミノ酸は体外から補給しないとたんぱく質が形成されない。「必須アミノ酸」と呼ばれるリジンやメチオニンがこれである。
したがって、ある一定量だけはどうしても食事からたんぱく質をとる必要がある。菜食の人たちでも大豆や小麦や木の実などに含まれている「たんぱく質」を供給源として用いているわけだ。
厚生省では平均的日本人の1日あたり必要量を70gとしている。(体重1kg当り1.5g)。これはごく普通の生活をしている20歳~60歳の成人男子の場合であり、成長期の青年や激しいスポーツやトレーニングをする人は必要量が増すことは当然である。
〔表1〕たんぱく質摂取量と効果
筋肉細胞をはじめ、骨・皮ふ・神経・内蔵・心臓・血液などなど、身体をつくっている材料はほとんどたんぱく質である。身体の細胞は時々刻々と変化しており、古い細胞が壊れては新しい細胞に生まれ変っている。
特にウェイト・トレーニングでは筋肉の限界ぎりぎりの負荷を与え、筋肉細胞に損傷を与えるところまで鍛えてゆく。その結果「より強い筋肉組織をつくらなくては……」と栄養素が動員されて、強くて容積の大きい筋肉が養成されてゆく。
トレーニングした翌日、筋肉がジーンと痛むのは、それだけ刺激を与えた結果であり、逆にいえば、筋肉の心地よい痛みが感じられなければ筋肉は発達していないといっても過言ではない。毎日のトレーニングが同一レベルのままで、負荷を増してゆかないと、筋肉は大きくならない。
運動生理学では「超回復」という言葉を使うが、消耗した筋肉線維が栄養と休養により、いっそう強くなることを指し、これがボディビルの原理であることはいうまでもない。
ところで、食事からとったたんぱく質のみが全身の細胞組織に変るわけでない。炭水化物や脂肪も体内でたんぱく質に変りうる。草ばかりしか食べない牛や馬が立派な筋肉をつくることでわかるように、菜食主義でも身体は維持できる。
ただし、人間の体内でどうしても合成できない要素がある。たんぱく質は20種類のアミノ酸が複合してできているが、このうち8種類のアミノ酸は体外から補給しないとたんぱく質が形成されない。「必須アミノ酸」と呼ばれるリジンやメチオニンがこれである。
したがって、ある一定量だけはどうしても食事からたんぱく質をとる必要がある。菜食の人たちでも大豆や小麦や木の実などに含まれている「たんぱく質」を供給源として用いているわけだ。
厚生省では平均的日本人の1日あたり必要量を70gとしている。(体重1kg当り1.5g)。これはごく普通の生活をしている20歳~60歳の成人男子の場合であり、成長期の青年や激しいスポーツやトレーニングをする人は必要量が増すことは当然である。
〔表1〕たんぱく質摂取量と効果
3.運動強度とたんぱく質
成長期(10~11歳)で筋肉や骨が大きくなりつつある人の場合は、体重1kg当り2gのたんぱく質が必要とされている。
体重の数字でいえば、32kgから36kgと、1年で4㎏増加しているが、この1年間に毎日70~75gのたんぱく質をとるように基準が作られており、体重1kg当り2gとなっている。
成長スピードが早い0~1歳では体重1kg当り3.0~3.3gも要求される。20歳に近づくにつれ、体重1kg当りの所要量は少なくなり、成人後は1.1gでよいことになるが、これは年間にふえる体重がほとんどなくなるためである。(脂肪太りで体重がふえる場合があるが、このときはたんぱく質はほとんど関係しない)
スポーツで体を鍛えたり、意識的にウェイト・トレーニングで体を大きくしようとする場合、たんぱく質をしっかりとっていれば実質的に筋肉量が増し体重が増加する。
食事中に含まれるたんぱく質量と、尿や便に排出されるたんぱく質量のバランスを調べると、ふつうはバランスがとれているが、鍛錬期では体内に入る量が多く、出てゆく量は少ない。その差が体内に蓄積されて、筋肉・骨・血液などになっているわけだ。
運動、または労働の強度と、たんぱく質必要量の間に関係があるかどうかについては、世界の最新学説でも意見が分かれている。
「体重がふえなければ、いくら激しくトレーニングしてもたんぱく質の必要量はあまり変らない」という意見が主流のようであるが、これに対して、「筋肉細胞が破壊と再生をくりかえすのだから、たとえ体重が増えなくても、その消耗を回復させるのに体重1kg当り2g程度のたんぱく質は必要だ」とする意見が根強い。
最近、世界的に有名なビルダーのセミナーを2回聞く機会があった。ハワイでおこなわれたクリス・ディカーソンの講演と、過日来日したマイク・メンツァーの講演である。くわしい内容はしかるべき方々が報告されると思うが、栄養のとり方、とくに、たんぱく質やビタミンのとり方について、彼らの考えにはひじょうに興味深いものがある。
ディカーソンの場合、「自分の体重はほとんど90~100kgで変らないのでたんぱく質も90~100g程度であり、それほど多くしていない」という意見である。メンツァーのセミナーでも、「たんぱく質のとりすぎはムダで、神経をイラ立たせる。たんぱく質は普通程度でかまわない。むしろビルダーは多くとりすぎるミスをしている」と語っていた。
体重の数字でいえば、32kgから36kgと、1年で4㎏増加しているが、この1年間に毎日70~75gのたんぱく質をとるように基準が作られており、体重1kg当り2gとなっている。
成長スピードが早い0~1歳では体重1kg当り3.0~3.3gも要求される。20歳に近づくにつれ、体重1kg当りの所要量は少なくなり、成人後は1.1gでよいことになるが、これは年間にふえる体重がほとんどなくなるためである。(脂肪太りで体重がふえる場合があるが、このときはたんぱく質はほとんど関係しない)
スポーツで体を鍛えたり、意識的にウェイト・トレーニングで体を大きくしようとする場合、たんぱく質をしっかりとっていれば実質的に筋肉量が増し体重が増加する。
食事中に含まれるたんぱく質量と、尿や便に排出されるたんぱく質量のバランスを調べると、ふつうはバランスがとれているが、鍛錬期では体内に入る量が多く、出てゆく量は少ない。その差が体内に蓄積されて、筋肉・骨・血液などになっているわけだ。
運動、または労働の強度と、たんぱく質必要量の間に関係があるかどうかについては、世界の最新学説でも意見が分かれている。
「体重がふえなければ、いくら激しくトレーニングしてもたんぱく質の必要量はあまり変らない」という意見が主流のようであるが、これに対して、「筋肉細胞が破壊と再生をくりかえすのだから、たとえ体重が増えなくても、その消耗を回復させるのに体重1kg当り2g程度のたんぱく質は必要だ」とする意見が根強い。
最近、世界的に有名なビルダーのセミナーを2回聞く機会があった。ハワイでおこなわれたクリス・ディカーソンの講演と、過日来日したマイク・メンツァーの講演である。くわしい内容はしかるべき方々が報告されると思うが、栄養のとり方、とくに、たんぱく質やビタミンのとり方について、彼らの考えにはひじょうに興味深いものがある。
ディカーソンの場合、「自分の体重はほとんど90~100kgで変らないのでたんぱく質も90~100g程度であり、それほど多くしていない」という意見である。メンツァーのセミナーでも、「たんぱく質のとりすぎはムダで、神経をイラ立たせる。たんぱく質は普通程度でかまわない。むしろビルダーは多くとりすぎるミスをしている」と語っていた。
4.キャリアにより異なる必要量
体協スポーツ科学委員会では過去の文献を調べあげて、「たんぱく質が体重1kg当り1g以下では、スポーツ鍛錬時の際に、血液中のたんぱく質まで消耗されて、スポーツ性貧血をおこしてしまう。望ましいのは体重1kg当り2g程度だ」という判断を示している。この量をとれるように食事のメニューをつくるよう指示している。
ボディビルの専門誌「マッスル&フィットネス」には、体重1kg当り2.7gまでは有効で、それ以上は無駄という記事がのせられたことがある。
私ども健康体力研究所では食事分析をおこなって、体重1㎏当り1.8~2.2g範囲にある場合をベストとし、それ以上多いときはかえってマイナス点をつけるようになっている。
メンツァーが示した「望ましい食事内容」では全体の食事のうち、炭水化物が60%、たんぱく質25%、脂肪15%となっていたが、私ども健康体力研究所の基準とよく一致しているので驚いたくらいだ。当社では重量比で、炭水化物60~70%、脂肪10~15%の場合に最高ランクの評価が与えられるようになっている。
このような点を考慮して、たんぱく質の体重1kg当りの必要量のグラフは〔表1〕のようになる。
このグラフから、トレーニングする人は体重1kg当り2gを目標にするのが妥当ということになり、体重60kgの人なら1日120g、70kgの人なら140g、80㎏の人なら160gのたんぱく質をとればよいことになる。
だが「体重がほぼ一定になって変化しない」というビルダーの場合、これほどとらなくても維持できるものも事実である。ディカーソンらのように1日90~100gもとれば心配ないともいえる。これをどう解釈すればいいだろうか?
メンツァーのセミナーを聞きながら感じたことは、ボディビルのキャリアによって、たんぱく質必要量も変わってくる、という点である。
日本人の平均体重は15歳男子で約56kg、20歳で60kgである。ほぼこの程度の体重の時にボディビルを始めると、最初の3ヵ月で4~5㎏ふえ、1年で8~10kg、2年で15㎏、3年で20kg、4~5年で25~30kgふえるというパターンが多い。つまりキャリアとして5年以上、体重で80㎏くらいが筋肉で大きくなる限界と考えられる。だから、90~100kgあるビルダーは余分な脂肪をかかえこんでいると考えてよい。
もちろん個人差もあるが、トレーニング歴約5年で体重が80kg前後に達しているビルダーは、いくら体重1㎏当り2gのたんぱく質をとっても、それ以上筋肉で大きく増えることはむずかしいので、とりすぎたたんぱく質はムダということになる。
〔表2〕トレーニング期間と体重(筋肉)増加曲線(モデル・パターン)
ボディビルの専門誌「マッスル&フィットネス」には、体重1kg当り2.7gまでは有効で、それ以上は無駄という記事がのせられたことがある。
私ども健康体力研究所では食事分析をおこなって、体重1㎏当り1.8~2.2g範囲にある場合をベストとし、それ以上多いときはかえってマイナス点をつけるようになっている。
メンツァーが示した「望ましい食事内容」では全体の食事のうち、炭水化物が60%、たんぱく質25%、脂肪15%となっていたが、私ども健康体力研究所の基準とよく一致しているので驚いたくらいだ。当社では重量比で、炭水化物60~70%、脂肪10~15%の場合に最高ランクの評価が与えられるようになっている。
このような点を考慮して、たんぱく質の体重1kg当りの必要量のグラフは〔表1〕のようになる。
このグラフから、トレーニングする人は体重1kg当り2gを目標にするのが妥当ということになり、体重60kgの人なら1日120g、70kgの人なら140g、80㎏の人なら160gのたんぱく質をとればよいことになる。
だが「体重がほぼ一定になって変化しない」というビルダーの場合、これほどとらなくても維持できるものも事実である。ディカーソンらのように1日90~100gもとれば心配ないともいえる。これをどう解釈すればいいだろうか?
メンツァーのセミナーを聞きながら感じたことは、ボディビルのキャリアによって、たんぱく質必要量も変わってくる、という点である。
日本人の平均体重は15歳男子で約56kg、20歳で60kgである。ほぼこの程度の体重の時にボディビルを始めると、最初の3ヵ月で4~5㎏ふえ、1年で8~10kg、2年で15㎏、3年で20kg、4~5年で25~30kgふえるというパターンが多い。つまりキャリアとして5年以上、体重で80㎏くらいが筋肉で大きくなる限界と考えられる。だから、90~100kgあるビルダーは余分な脂肪をかかえこんでいると考えてよい。
もちろん個人差もあるが、トレーニング歴約5年で体重が80kg前後に達しているビルダーは、いくら体重1㎏当り2gのたんぱく質をとっても、それ以上筋肉で大きく増えることはむずかしいので、とりすぎたたんぱく質はムダということになる。
〔表2〕トレーニング期間と体重(筋肉)増加曲線(モデル・パターン)
逆にいえば初心者の段階ほど良質のたんぱく質が重要ということになる。始めてから2~3年までは飛躍的に体重がふえてゆく。1年に5kg体重が増えることもまれでない。この時期にこそ体重1kg当り2gのたんぱく質をとることが成功のポイントだということになる。
キャリアをつんでコンテストにたびたび出場するトップ選手の場合は、もう急に1年間に5kgも正味の筋肉で体重がふえることがないので、体重1kg当り1.1g程度、もしくは普通人よりやや多い程度で充分と考えられる。
「ボディビル界でプロティンパウダーが売られているが、売る側の人ほどにはビルダーには必要ない物だ」とメンツァーはセミナーで笑わせていたが、確かにコンテスト前の調整期を別にすれば、完成されたビルダーにはそれほど必要ではなく、本当に効果をあげるのは初心者から中~上級者に至るまでの過程にある人の場合である。
市販されているプロティン製品は、たんぱく質補給の目的以外に、ビタミンやミネラルを補給する役割をしているので、単に否定することはできないが、メンツァーのいうように「とればとるほど良い」という物ではない。しばしばプロティンばかりに偏ってしまう食事法をしているビルダーがいるがこれは決してすすめられる方法ではない。
「バランスよく食べる」という常識的なことが何より大切である。
なお、キャリアと体重増加の関係を〔表2〕に示したので参考にしていただきたい。
キャリアをつんでコンテストにたびたび出場するトップ選手の場合は、もう急に1年間に5kgも正味の筋肉で体重がふえることがないので、体重1kg当り1.1g程度、もしくは普通人よりやや多い程度で充分と考えられる。
「ボディビル界でプロティンパウダーが売られているが、売る側の人ほどにはビルダーには必要ない物だ」とメンツァーはセミナーで笑わせていたが、確かにコンテスト前の調整期を別にすれば、完成されたビルダーにはそれほど必要ではなく、本当に効果をあげるのは初心者から中~上級者に至るまでの過程にある人の場合である。
市販されているプロティン製品は、たんぱく質補給の目的以外に、ビタミンやミネラルを補給する役割をしているので、単に否定することはできないが、メンツァーのいうように「とればとるほど良い」という物ではない。しばしばプロティンばかりに偏ってしまう食事法をしているビルダーがいるがこれは決してすすめられる方法ではない。
「バランスよく食べる」という常識的なことが何より大切である。
なお、キャリアと体重増加の関係を〔表2〕に示したので参考にしていただきたい。
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